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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
182/228

81 交渉はやっぱり脱線から始まる

ブックマーク、感想、ありがとうございますっ!(*´▽`*)

いつも執筆の糧にさせていただいてます~♪

おかげさまで1,800PTも超えることができました! ありがとうございます!


いつもお読みくださり、感謝です!(*'ω'*)

「あ、その前に一ついいですか?」


 わたしが手を挙げてそう言うと、皆が顔をこちらに向けてくる。


「外の……ガラジャリオス、さんはこのままでも大丈夫なんでしょうか?」


 話が交渉へと転じるならば、長くなることは必至。その間に休眠しているガラジャリオスが目を覚まし、再び暴れ回るなんて事態は本末転倒もいいところだ。


「問題ない。あの状態に陥ったガラは一晩過ぎても目を覚まさぬじゃろう。前回……と言っても年を百ほど数える前の出来事ではあるが、一度、ガラが体内の力を開放するほど激怒したことがあってな。思い出すだけで頭痛がするほど大変な出来事じゃったが……その際も休眠状態になり、目を覚ましたのは日を跨いだ後じゃったのぅ」


「そうですか……」


 同族であり、彼女? のことを良く知っているドグライオンの言葉なら安心だろう。わたしは肩の力を抜き、少し浮いた腰を落とした。


「――さて、では早速交渉と行きたいところじゃが、まず……誤解無きよう先に言っておくが、ワシが先ほど口にした話は紛れもない事実である」


 紛れもない事実――つまり、今も八王獣の領土に人が無断で侵入し、乱獲とまで行かずとも不当に動物を狩ったり採取をしたりしていることを指しているのだろう。嘘だとは思っていなかったけど、ドグライオンとしては交渉に話を持って行くための方便だと思われたくなかったのだろう。


 わたしたちが頷くと、彼も「うむ」と頷き、そのまま話を続ける。


「分かっておるならば宜しい。では早速、話を進めようではないか」


「交渉、となれば、互いにまず、要望を並べるべきでしょうね」


「そうじゃな」


 タクロウの言葉に全員が頷く。……あ、いや。こういう話が苦手そうなヒヨちゃんは早くも船を漕ぎ始めていた。頷くと見せかけて、実は半分意識が夢の世界に行こうとしているがために、首がカクンと項垂れていただけみたいだ。


 まあヒヨちゃんは実働派だもんね、と気づかないフリをしてあげようと思ったが、隣のタクロウから恐ろしく早いボディブローがヒヨちゃんの脇腹に突き刺さり、彼女は「ぼふぅ!?」と鼻水や涎を噴き出しながら、軽い悶絶を見せた。


 ――うっわ、痛そう……。


 仕事モードに切替わったタクロウは、身内に厳しい。加えて目の前にいるのは八王獣の、それも要人と思しき人物。同じ国内に住まう者とはいえ、国土を分断する3つの種族の要人を前にして、腑抜けた態度は許さんということなのだろう。


 涙目ながらに脇腹を抑えるヒヨちゃんだったが、タクロウが何を言わんとしているのかは理解しているようで、勢い任せに文句を言わず、不貞腐れたように頬を膨らませながら座り直す。


 因みにマクラーズも彼女と同じくして意識をフェードアウトするつもりだったのだろう。器用にも目を開けたままぼんやりしていたのだが、今のタクロウの一撃を見て目が覚め、あたかも最初から真面目に話を聞いているかのように、キリッと姿勢を正していた。


 そんなマイペース二人に小さくため息を吐きつつ、タクロウとドグライオンがそれぞれの要望を言葉で並べた。


 ドグライオン側の要望はこうだ。


 一つ、本日のガラジャリオスの一件は事故であり、不問にしてほしい。


 一つ、八王獣領に出没する外敵の討伐する手伝いをしてほしい。


 一つ、種族間協議の場を設けるので、そこに参加してほしい。


 一つ、セラフィエル=バーゲンを八王獣領に譲渡すべし。有能な者は有能な種族とつがいになるべきである。


 それを受けてのタクロウの要望はこうだ。


 一つ、ガラジャリオスの件含め、八王獣領で生じている問題にかかる情報を提供してほしい。


 一つ、八王獣領に自生している特定の植物の採取を許可してほしい。


 一つ、盟約を破り、狼藉を働く人間種の者については、我々の采配で捌かせてほしい。


 一つ、この交渉の場において、公私混同が見られる要望は不適当である。戯言は控えてもらいたい。


「…………」


 この話を途中まで大真面目に聞いていたわたしの心情を、誰か文字にして顕して欲しい。


 確かに前3つに関しては、詳細はこれから聞くことになるけど、要望としては適切な内容だと思われる。しかし……その後に続く4つ目はなに!? うんうん、と集中して頭の中で情報を並べていたわたしの思考が一気に凍結されてしまったじゃない……!


 しかもドグライオンはその事項を口にする際に、わたしにウインクなんてしてくる始末だし……居たたまれない。冗談にしろ本気にしろ、これからも長旅を共にする皆の前でこういう話題をされてしまうと、どういう顔をしたらいいのか分からなくなってくる。怒るとか照れるとかじゃなくて……この場から去りたい気分。分かるかなぁ……あぁ、今のこの気持ちを誰かと共有して吐き出したいッ!


「なるほどのぅ……早速、交渉は難航を示しそうじゃのう」


「一部の要望については話し合う必要性すら感じませんが」


「ふん、本能が渇き切ったような小僧と議論したところで平行線になりそうじゃのぅ」


「理性と道義無くして、話し合いなど成立しないでしょう。その制御の利かない本能をさっさと頭の隅にしまい込んでもらいたいものですね」


「カッカッカ……窮屈な生き方じゃのぅ! そんなことだから百年も生きられぬ脆弱な身体なのじゃ、お主らは」


「たとえ数百年生きようとも、その生き様を誇れなければ、無駄な人生と言えましょう。重要なのはいかに濃厚な時を過ごし、悔いなく生き抜くか――だと思いますが」


「小僧……ッ、貴様、ワシが怠惰の上に生きていると申すか……!?」


「本能を御し、理性で物事を語れぬのだとしたら、怠惰と称しても相違ないでしょう」


「…………」


「…………」


 徐々に交渉から言い合いに変わり、睨みあう二人の男。


 肩が凝りそうな剣呑な空気を吹き飛ばすかのように、わたしは魔力を消費し、両の掌間に炎を発生させる。


 左手から右手へと、ゴゥと音を立てて火柱が渦巻き、一気に馬車内の気温が上昇する。全員の視線がわたしの方へと集まるのをしっかりと感じながら、わたしはにこやかに笑顔を向けた。きっとわたしのこめかみには青筋が浮かび上がっているだろうけど。


「――とりあえず。4つ目は無しにして、残り3つのお話を進めてみてはいかがでしょうか?」


「うむ、そうじゃな! そうしよう!」


「ええ、私としたことが少し話がズレてしまいました。本筋に戻りましょう」


 慌てたように二人が軌道修正を開始したのを見て、わたしは手を払って炎をかき消す。同時に風を調整して、馬車内に籠った熱気を追い出していった。


「もう……」


 わたしは小さく息をついて、ほとほと呆れ果てる。


 どうもやっぱり、グラベルンを出てからのタクロウの調子がおかしい気がする。やっぱり疲れが溜まっているんだろうかと彼の横顔を見ていると、ちょうど延長線上に座っているメリアと視線が合う。


 すると、メリアは急にふふっと揶揄いを込めた笑みを浮かべながら、口元だけを動かし始めた。


 いきなりの読唇チャレンジに、わたしは思わず彼女の口の動きを凝視してしまう。


 ――ええっと……なになに? も・う・し・り・に・し・い・て・い・る・の・で・す・ね? ……もう尻に敷いているのですね? ……はい? はいいっ!?


 なにやら誤解を含んだ物言いに、わたしは慌てて同じく口パクで返す。


『な・に・を・へ・ん・な・ご・か・い・を・し・て・い・る・ん・で・す・か!(何を変な誤解をしているんですか!)』


 それに対してメリアは、眉を八の字にして、やれやれと首を振る。


『て・れ・な・く・て・も・い・い・ん・で・す・よ(照れなくてもいいんですよ)』


『ち・が・っ!(違っ!)』


『お・と・な・の・だ・ん・せ・い・に・ひ・か・れ・て・い・る・ん・で・す・ね。わ・か・り・ま・す(大人の男性に惹かれているんですね。分かります)』


「だ、だからっ、違いますって! …………ぁ」


 思わず口に出していた時には既に遅く――再び全員の目がこちらを向いていた。


 つい先ほど男性陣二人に対して、魔法を使ってまで怒った身だというのに、今度はそのわたし自身が交渉の腰を折ってしまった状況である。


 場違いな声を出してしまった羞恥心と、魔法まで使って注意した自分が今度は邪魔をするという遺憾の思いが一気に登ってきてしまい、無意識にカァッと頬を赤くなるのを実感した。


 その変化がまた気恥ずかしさを助長させ、わたしは反射的に両手で顔を覆い、震えてしまう声で何とか謝罪を口にした。


「ご、ごめん……なさぃ……」


『……………………』


 誰も言葉を発しない中、クルルだけが「セラフィエル様っ、可愛らしい仕草ですわ!」と意味の分からんことを力強く言っていたが、クルルの感性は当てにならないので、聞かなかったことにする。


 数秒の間を置いて、次に言葉を発したのはドグライオンだった。


「ふむ、なるほど……悪くないぞ。やはり欲しいのぅ」


「ドグライオン様、そのお話は今は控えてください。セラフィエル様の復活が長引きます。それと――メリア」


「バレてましたか」


「当然だ。セラフィエル様がこのタイミングで場を乱すような行為をするはずがないだろう。……お前の悪い癖だ。もう十分に判断する時間はあっただろう――まだ、信用に足りていないのか?」


「…………?」


 まだ熱の引かない状態だけど、タクロウとメリアの会話の意図が良く分からず、わたしは少しだけ手をずらして、二人の方へと視線を向けた。


「そうですねぇ」


 再びメリアと視線が交差する。けれども今度は……何かが違った。上手く表現できないけれど……見えない壁が一枚、取り除かれたような感覚。距離が少しだけ近くなったような雰囲気。それはきっと、彼女が一瞬だけ作り物ではない――――柔和な笑みを浮かべたから、感じたものなのかもしれない。



「えぇ、とても可愛らしい方ですね」



 そう言うや否や、メリアは「場を乱して申し訳ございませんでした。セラフィエル様、どうかお許しください」と深く頭を下げてきた。


 わたしはと言うと、メリアが刹那に浮かべた笑顔が頭から離れず、どもりながらも「え、あっ、はい……」と答える他なかった。


 意識がそちらに向いたために頬の熱は解けていったので、それはそれで助かったけれども……いまいちメリアの微妙な変化の真意がわからず、眉を顰めてしまう。


 周囲に視線を送ると、どうやらわたしだけじゃなく、他の皆も怪訝そうな表情をしていた。しかし事情を知っていそうなタクロウが咳払いすることで、今が交渉の場だという空気が強制的に戻り、わたしたちは悶々としつつも再び話し合いの席に座り直すこととなった。



<メリアの悪癖>

メリアは基本、他人を信用しません。鉄面皮と呼ばれるほど分厚いつらの皮を被る彼女は、他者が信用できる者かどうかを測る際、人の神経を揺らすような揶揄いを仕掛けてきます。要は揺さぶりをかけて、その人の本質を観察するわけですね。観察するためなら、時と場合は二の次になることもあります(笑)

タークはメリアのその悪癖を知ってますが、ヒヨヒヨやマクラーズは知らず、彼女たちはメリアを「息を吸うように人をおちょくってくる鉄面皮女」というイメージを持ってます。

今回もそういった一面が出てきた話、ということになります(*´▽`*)


後々、別の話に絡ませて本編に出す部分のお話ですが、現時点では分かりにくいところなので、ここで晒……補足させていただきました( *´艸`)

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