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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
181/228

80 交渉を持ち掛ける理由

ブックマーク、感想ありがとうございます!(*´▽`*)


今回はちょっと分かりづらい回かもしれません……表現力が欲しい!(>_<)

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

「やれやれ、そう身構えるでない。何もこの場で取って食おうなぞ思っておらぬ」


 充満した怒気は幻のように霧散し、ドグライオンは呆れたように肩を竦めた。


「……?」


 彼の意図が読み切れず、わたしは思わず眉を顰めた。


 先の言動から察するに、近隣の人間種が彼らの領土内で不徳を行っているのは、少なくともここ数年間だけの話じゃないように思えた。であれば、先ほどのガラジャリオスが暴れた一件よりも人間種側に罪が重い可能性がある。


 てっきりそれをチラつかせて、問題解決の手助けを要求してくるのではないかと思っていたのだが、想像は外れて、ドグライオンはいとも簡単にその矛を収めてしまった。


 いや――正確には、矛を横に置いた、という意味の方が強いかもしれない。


「――交渉をしようではないか」


「……」


 交渉。やはりその流れに持ってきたかと顎を引く。


「小娘。なぜワシが突然、交渉を持ちかけたか、理由はわかるかのぅ?」


「え?」


 琥珀色の瞳がわたしを推し量るかのように見つめてくる。


 確かに話の脈絡的に、ドグライオンが唐突にそっち方面に舵を切ったような印象が強かった。つまり彼がそうするに値する何かが、この場の中であったというわけだ。


「…………」


 わたしは顎に指を当て、少し前の出来事をリプレイするかのように思い返す。彼が話の流れを強引に変えたのは、何が切っ掛けだった? …………そうだ、わたしが放った言葉だ。クルルと重ねて、彼らも何かに追い詰められているような印象を受け、わたしはそれをそのまま口にしてしまった。


 それからだ。ドグライオンが急に先ほどの話をし始めたのは。


 ――その意図はなに?


 駄目だ、上手く繋がらない。反射的にタクロウたちの表情を伺いたくなったが、それはドグライオンが望む行為ではない気がして、寸前のところで思いとどまった。


 彼は交渉を持ちかけた。


 この場で交渉に使える材料は何だろう。わたしたちからすれば、ガラジャリオスの騒動、そしてその被害を最小限に防いだという功績だろうか。そしてドグライオン側は、人間種が古くからの盟約を破って行っていた不徳の数々。


 これを盤上に並べ、わたしたちは一体どんな結果を望んで交渉をするのだろうか。交渉をするということは、それに見合う対価があるはずだ。


 ガラジャリオスの一件と、密猟などの一件。これを相殺するための交渉? いや違う……ドグライオンはもっと深く広い場所を見ている気がする。であれば、彼の領土で起こっている謎の存在の対処だろうか? それは話の流れ的にも自然な要求ではあるが、わざわざ種同士の問題を匂わせ、空気を悪くしてまで交渉に持ち込むものだろうか。普通にわたしたちに相談し、決裂した際に交渉事にシフトしていく方が無難な気がする。……そう判断できないほど焦っているということ? でも、目の前のドグライオンは焦りというより、わたしを試している節すらある。


「…………」


 まだ彼は、何か話していないことがある。そしてその何かも含めて、彼はこの場で交渉しようとしているんじゃないだろうか。何故そう思ったのか。何故そう判断したのか。


 交渉とは対等のテーブルの上で、利害を一致させることだ。


 交渉という言葉を用いた時点で、ドグライオンはわたしたちと対等の場で話そうとしている。決して領土を不法に荒らされたことを盾に、脅そうとする気配はない。それはどうしてか。この場に等価と思える互いの利害が存在していると考えているからだ。もしくは……そうであると予想している、か。


 利害……そういえば、わたしたちは弱みは増えたものの、要望そのものについては何も話していない。わたしたちがドグライオンと出会い、彼から話を聞いてから脳裏に過ったことは――樹状組織ビリンガルに関する新しい情報がないかどうかという点と、月光草採取の件。そしてこれはおまけだけど、個人的には友好的な関係を築いて、ゲェード以外の食肉などの相談も出来たらいいなぁ~なんて思ってた。


 でもそれは現時点で口にはしていない。


 しかしドグライオンは明らかにわたしたちも八王獣側に対して、欲するものがあるという確信の元で交渉を提案しているわけで――そこでわたしは、思わず自分の頬を触れて、顔をしかめてしまった。


「…………わたし、そんなに分かりやすく、物欲しそうな顔をしてましたか?」


 不服を表に出したままそう尋ねると、ドグライオンは数度瞬きをしてから、カッカッカと大笑いしだした。


「気づかなんだか? 元よりワシがこちらの事情を話そうという中で、あれだけ前のめりに踏み込んでくれば、自ずとお主らの目的も東にあると知れることよのぅ。あぁ、因みに密猟の話を出した時は、より一層、お主らの顔色が変わったのぅ。アレは同種族としての責任のほかに……別の何かが絡んだ焦りのようなものを感じた。ゆえに交渉をしようと言ったのじゃ。お主らはお主らで欲すものが東にある。ワシらはワシらで解決したい問題事がある。その折衷案を話さんか、というわけじゃよ」


「うぐ……」


 ちょっと恥ずかしい。確かに前世までも交渉事なんてあんまり参加することはなかったけど、それでもポーカーフェイスをできる程度には人生経験を積んでいるつもりだったのに……。


「それとワシらの嗅覚はお主らとは比べものにならぬほど強い。人間種は感情が揺れるとすぐに汗として現れるからのぅ。その匂いを以って感情の機微を捉えることなど朝飯前じゃ」


「…………」


 ――あまり人の汗を嗅がないで欲しいんですけど……。


 ジト目で睨むも、ドグライオンはどこ吹く風だ。


 ……どうやら、ドグライオンが交渉を持ち掛けたのは、わたしの態度が一因のようだった。


 ドグライオンが八王獣だと分かり、彼から領土で起こっている問題を聞き、わたしの中で様々な要望が自身でも気づかないうちに膨れ上がっていた。


 だから当初はガラジャリオスが何故暴れてしまったのか、その辺りの事情を聴くだけのつもりが……自主的に言葉を投げかけるまでに至ってしまったのだ。


 話を聞くだけなら、一通り終わるまで黙っていればいい。でも、気づけばわたしは……わたしたちは彼に質問を投げかけていた。その時点でドグライオンからすれば、こちら側の興味が今回の一件以上に大きいことに気付かれていたというわけだ。


 で、トドメはわたしの「追い詰められているんじゃないですか?」発言だ。


 言い換えれば「貴方は助けを求めているんじゃないですか?」と聞いているも同然で、それは八王獣側の問題に首を深く突っ込もうとする姿勢としても受け取られる。ドグライオンからそう持ち掛けたのであればまだしも、彼から話を全て聞き出す前に食い気味に聞いてしまったのがいけなかった。


 だから口にせずとも、わたしの中にある八王獣への関心が見透かれてしまい、であるならば丁度いいと、ドグライオンは交渉と言う場に切り替えて、互いの要望を吐き出そうじゃないかと言っているのだ。


 ――これが彼の言う「交渉」であると、ようやく理解することができた。


 こうして一連の流れを振り返ると、実に上手いやり方だと思った。すっかりドグライオンのペースに雰囲気が移り変わり、交渉と言いつつも主導権は彼の方に傾いている状態だ。


 強い口調も、人間種側の不備を非難するような物言いも、話の流れを一気に変えるためにしたことなのであれば、その効果は実に効いていると言えよう。


 抱えてあげていた時は、賢いなんてイメージは全く持っていなかったけど、それは塗り替えないといけない認識のようだ。ヴァルファラン王国の史実では、八王獣は直情的なニュアンスが多かったけど、やっぱり自分の目できちんと確かめないと真実というものは分からないものだなと実感した。


「それでどうなのじゃ? 互いの要望と問題を並べ、交渉の場を立ち上げるのか否か――どっちなのじゃ?」


「……」


 わたしの中ではもう答えは決しているけど、ここでの判断はタクロウに任せるべきだろう。わたしが視線を向けると、彼もスッと頷いた。


「交渉の席に座らせていただきましょう」


「うむ」


 タクロウの肯定に対し、ドグライオンも腕を組みながら大仰に頷く。


 数分前までとは全く趣向と異とする話し合いの場が、こうして始まった。



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