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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
178/228

77 謎の言い合い

ブックマーク、感想ありがとうございます~(*´▽`*)

20日でなんと操血女王も一周年♪

読者の皆様のおかげでここまで続けることができました!(*'ω'*)

20日の活動報告には、お礼も兼ねてセラフィエルのイラスト(大したものではありませんw)を一枚載せようかな~なんて思ってますので、宜しければ覗きに来てください~(≧∇≦*)

「……九死に一生を得ました。ありがとうございます、セラフィエル様……」


「い、いえ……」


 そう言って、タクロウはへたり込んでいるわたしの両脇に手を入れて、ヒョイと立ち上がらせてくれる。あんなことがあった後だというのに、彼は多少の強張りを浮かべるも、平静を保とうとしていた。とはいえ、眼前まで迫るレーザーの脅威は隠し切れず、その肌には汗が幾つもの筋を作っていた。


 もちろんわたしも汗だく。額に張り付いている前髪が物語るように、確かに九死に一生、という言葉に足る一幕であった。わたしは汗を拭いながら、コートに付着した泥化した土を払い、周囲を見渡す。


 灼熱の巨大な鞭でここら一帯を滅多打ちにしたような惨状が広がっており、ガラジャリオスの渾身の一撃がいかほどの力を秘めていたかを如実に現していた。


 まるで硝煙のような煙が立ちこもり、メリアたちの馬車が戻ろうとしてもここまで来れないほど、大地は荒れ果てていた。焦土と化した部分は未だに熱を持っており、近づくと火傷をしてしまいそうだ。


 肩で息をしていたことに今更ながら気づき、わたしは深呼吸を繰り返して呼吸を整えた。


『人の子よ……お主、いったい何者なんじゃ……』


 まだ放心気味だったわたしの耳に届いたのは、足元からの声。


 ドグライオンと名乗った土竜もぐらは、わなわなと体毛を震わせながら、つぶらな瞳でこちらを見上げていた。


「何者と問われましても……わたしはわたしとしか言いようがありません。とにかく、ふぅ……今は窮地を凌いだことを喜びましょう」


 まさか特殊な血を身に宿し、転生する前は魔法を極めた女王でした、なんて事実をこの場で暴露するわけにもいかないので、わたしは当たり障りのない程度の言葉を返してはぐらかした。


 しかしドグライオンは納得がいかないようで、言葉を連ねた。


『あり得ぬ……あり得ぬのじゃ! ガラの一撃はまごうことなく本気の一撃じゃった! アレを防ぐ手段は八王獣の中でも片手で数える程度じゃ! それを八王獣でも精霊種でもない、ただの人間種がやってのけるなど……! お主、まさか数百年前のあやつらの血を引き継いだ子じゃあるまいな?』


 血、というワードに少しだけ動揺が過ったけれど、なるべく顔に出さずに思考を巡らせる。しかし電磁場の展開と、エネルギーを受け流す力場の調整に疲弊したわたしの脳は上手く回らず、わたしは「んぅ」と目を細めて面倒事は後にしようと決めた。


「それより今は……ガラジャリオスを何とかした方がいいかと。また暴れだされては手の付けようが無くなってしまいます」


 正論で返すと、ドグライオンは『ぬぅ』と喉元で唸りつつも、引き下がる。


 そして眠ったように地べたに伏すガラジャリオスを遠目に見て、ため息をついた。


『そう、じゃな……ガラは体内のエネルギーを出し切って休眠状態に陥ったようじゃ。しばらくは目を覚ますことは無いじゃろ。その間に奴を正気に戻すか、我らの地まで連れ戻すかせねばならんな……』


 ガラジャリオスは死んだように動かなくなっていたが、どうやら先ほどの一撃で体内に蓄積するエネルギーを使い果たし、その反動で眠りについているらしい。


「……とりあえず、この場を離れませんか? ガラジャリオスが目を覚ますまでに時間があるのでしたら馬車の中で落ち着いて話を聞きたいです」


 話を聞くなら、メリアたちにも参加してもらった方がいいだろう。特にクルルは彼と対極を成す種族、精霊種の上位種だ。話を一緒に聞くことで、新たな発見が増えるかもしれない。


 念のためタクロウに確認を取るように目線を合わせると、彼も小さく頷いてくれた。


『ふむ、ではそうしよう。どれ、小娘よ。手数をかけるがワシを馬車まで運んでくれんかのぅ』


「へっ? どうしてです?」


『うむ……どうやらワシも年のようでの。先ほどのガラの攻撃の所為で腰が抜けてしもうた』


 この土竜もぐら、本当に八王獣の一角なんだろうか……なんて不安が過るが、まあ人間嫌いだのなんだのと攻撃的に噛みつかれるよりは、こうしてある程度の親しみやすさがある方が気も楽かもしれない。


 とりあえず言われるがまま、ドグライオンを抱っこしようと手を伸ばそうとしたわたしだが、その前にタクロウが腕を伸ばし、その行為を制してくる。


「セラフィエル様。それでしたら、私が――」


『これ、小僧。どこの世に筋肉質の男に抱きかかえられたいと願う者がおろうか。空気を読まぬか、空気を』


 想像以上に人間臭い物言いに、思わずわたしも固まってしまう。外見は完全な動物。その印象から、言葉を介することはできても、その価値観や好みは人と異なるものだと思っていたけれど……実のところは人間種とそう変わらない面もあるのかもしれない。


 よく考えれば、亜人は八王獣と人間種の間に生まれた種族である。そして人間種と子を成せる八王獣は、獣の姿から人の姿へと変化することもできると聞く。つまり彼らは獣の身でありながら、人間種に対して劣情を抱くこともあれば、種として交配し子孫を残すことも可能ということ。そう考えると、趣味趣向がそう遠くないものであるというのも当然かもしれない。


「…………」


 ――ま、まぁ喋り方からして大分歳を取っているっぽいし、大方、孫に甘えるお爺ちゃん的な感情なのかな?


 ドグライオンの良く分からない拘りをそう解釈することにし、わたしはおずおずと彼を抱えようと手を伸ばすが――またしてもタクロウがそれを止めた。


「セラフィエル様、彼は外の地で住まう者。あの剛毛の中にどんな害虫を抱えているか分かったものではありません。不用意に触れるのは危険かと」


『なっ、失敬な! ワシとて水浴びぐらいしとるわ!』


「そうですか、ですがその短い前足では痒いところにも届かないでしょう。セラフィエル様はヴァルファランの未来を背負う御方の一人。このような些事で手傷を負うようなことがあってはならない御方なのです」


『ほ、ほう……お主、さては喧嘩を売っておるな? この八王獣において土轟どごうの名を持つ――このワシに』


「ちょ、ちょっと二人とも?」


 まさかタクロウがここまでドグライオンに対して頑なになるとは思っていなかったので、想定外の出来事にわたしも上手く言葉を出せなくなってしまった。


 なんだか雲行きがおかしくなってきた。というか、わたしってばいつの間に、一国を背負う人間になっていたんだろう。個人的にはレジストンのお手伝い的な立ち位置のつもりだったのに……。


 ――ん、アレ? ドグライオン、人でいう首を鳴らすような仕草をしているけど、なんか普通に二足で立ち上がってない? 腰を抜かした云々の話はどこに行ったの?


「土を掘る程度で、土轟どごうとは片腹痛い。自身を強者と名乗るのならば、己が足で馬車まで進んではどうだ?」


『小僧……たかだか数十年程度を生きた分際で良くほざきおった。よかろう、このワシが直々に目にもおぅふ――――』


 放っておくと面倒事になりそうだったので、わたしはスッとドグライオンの背中に手を触れて、魔法による電撃を打ち込んで黙らせた。ドグライオンの体毛が静電気で逆立ち、その隙間からピョンピョンと無数のノミが飛んでいった。さっき抱っこした時は気づかなかったけど、タクロウの言う通り、結構ノミとかが潜んでいたみたい……。


「んー、確かにもう少し体は洗った方がいいかもしれませんね」


 ビクンビクンと痙攣しているドグライオンを、魔法で形成した水球の中に突っ込み、洗濯機のように水流を発生させて彼の汚れをそそぐ。完全に綺麗にはならないだろうけど、やらないよりはマシだろう。次いで水球を解除した後は、温風を発生させて体毛の中に潜む害虫たちごと水気を払っていった。


『げぽっ、……ちょ、もう少し、……優しくっ』


「はいはい、これで少しは綺麗になったでしょう。ほらっ」


 まだ痺れが抜けないのか、ぐてっと弛緩した状態のドグライオンを両手で抱えあげ、今度はタクロウの方を見上げた。


「タクロウさんも。こんなことで喧嘩しないでください」


「け、喧嘩……それがし、が?」


 いつもは冷静に物事を判断するタクロウが一体どうしたというのか。そう思いながら、諫めるように言葉を投げかけると、タクロウは酷く驚いた顔をしていた。


「タクロウさん?」


「あ、い、いえ……そうです、ね。確かに先ほどのそれが――私は冷静ではなかった、と思います」


「大丈夫ですか? 疲れているなら無理をせずに馬車で――」


「いえ、それには及びません。ありがとうございます。貴女の言葉で目が覚めましたので」


「そうですか?」


「ええ」


 なんだかまだ違和感がある彼だけど、ここでとやかく言い合っても仕方がない。わたしは訝しげに首を傾げるも、深くは追及せずに「それじゃ馬車へと向かいましょうか」と言った。


「あ、セラフィエル様。その土竜もぐらは私が……」


「もー、ある程度は綺麗にしましたので大丈夫ですって。早く行きますよっ」


 何をそんなに心配しているのか、また手を伸ばそうとするタクロウにピシャリと言いのけ、わたしはドグライオンを抱えたまま、焦土を避けて馬車のある方へと先に足を進めた。


 背後から「……私は、何を考えているんだ?」という自問の声が聞こえた。同時に彼にしては珍しく、気配を晒したまま後ろをついてきていることに驚く。


 ――よほど疲労が溜まっているのかも。うん、ガラジャリオスの件が片付きそうになったら、タクロウさんには十分な休息をとってもらった方がいいかもしれないわね。


「よっと」


 抉れた地面を飛び越えながら、わたしは思いがけないタクロウの一面を心配しつつ、今後のプランを頭の中で上書きしていった。




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