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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
176/228

75 八王獣の一角

仕事&体調不良で間ばかり空いてしまい、すみませんm( _ _ )m

そしてブックマーク、ご評価ありがとうございましたっ!(*´▽`*)

感想もいつも感謝しております!!(≧◡≦)


お読みくださる皆さんに感謝を♪

 数分前と比べて大分荒れ果てた平野部。


 わたしは膝を折り、その地に掌を当てて、魔力を流し込んでいった。


 ――グラベルンで戻ってきた血。あれが無かったら取れなかった手段だったかも。


 大量の魔力を大地へ――魔力を得た大地はわたしの意を受けとり、まるで生き物のように脈動し始める。大地は波紋が広がるように波打ち、やがてそのエネルギーは地中へと侵入しようとする蛇龍へと向かっていく。


『――――』


 3分の2ほど地中へと潜っていた蛇龍は、地中から押し返す大地の波に押し返され、トランポリンに弾かれるようにして地上へと吹き飛ばされていった。


「なっ……!?」


 唖然とその光景を見ていたタクロウたちが、思わず声を漏らしていた。


 さて、この世界に転生して3年ちょっと。久しく魔獣は愚か、普通の獣すら目にすることが無かった生活が続いていたため、突如現れた巨大な蛇龍の姿に面を喰らいもした。けれども――過去、魔獣と呼ばれる魔力に侵された凶悪な獣たちの中には、この蛇龍レベルの巨体を持つ種族が幾つも実在していた。そしてそれらと戦い、勝利を収めてきたわたしにとっては、少なくともその姿を見て蹈鞴たたらを踏むことはないのだ。


 多少驚くことはあっても、戦い方を見失うほどの動揺はない。


 長い胴体をズゥンと音を立てて落下する蛇龍。小さな地震のように地を揺らすほどの衝撃が発生したが、固い鱗としなやかな筋肉に守られた蛇龍には、大したダメージにはなっていないようだ。


 シャラシャラと尻尾を鳴らし、蛇龍はすぐに蜷局とぐろを巻いて、威嚇する。


 鋭い三角錐のような頭部から、花が咲いたように花弁のような部位が幾つも広がっていき、その裏側からバチバチと放電のような現象が見られた。


 ――ここまで特徴的だと、さすがにもう疑いようがないわね。


 ヴァルファラン王国においては、伝説に近い存在と言えるかもしれない。人間種と異なり、悠久とも言える長寿を持つ獣。獣の身でありながら多くの叡智を抱え、人の言葉を理解して話すことができる――八体の獣の王の一角。


「――タクロウさん、もしかしなくとも、この巨大な蛇は……」


「……えぇ、八王獣が一体。…………天雷を纏いし大蛇、ガラジャリオスと思われます」


「ですよね……」


 王立図書館で見た八王獣に関する書物。過去、精霊種と八王獣の衝突の際に、仲裁に入った人間種の英雄たちが残した情報を整理した書物があり、そこには八王獣のトップとされる八体の獣――そのうち数体の外見と特徴、名前が記載されていた。


 そのうちの一体が、ガラジャリオス。


 性格は温厚だが、怒りを爆発させると――まさに目の前の状態のように、放電状態になるとのこと。そんな情報があるってことは、きっと英雄の誰かが彼を怒らせたんだろうなぁ、ということが察せられるが、今はそのことは置いておこう。


「……とても温厚そうには見えないんだけど」


 ガラジャリオスは癇癪を起したかのように、放電を繰り返し、周囲を焼き払っていく。最初こそわたしを標的にしたかと思ったんだけど、すぐに的を見失い、今は何故自分が怒っているのかも分からない様子で、ただただひたすらに暴れていた。


 黄金色の鱗が逆立ち、その隙間からも雷が奔り、次々と焦土を広げている。距離がある程度離れているため、馬車の位置まで荒れ狂う電撃が飛来することはないが、それでもガラジャリオスが放つ脅威は、十二分にこちらまで届いてくる。


 あれが人語を介し、知能を有す八王獣だというならば、完全に正気を失っているという表現が相応しいだろう。


 なぜ彼がこの場所にいて、なぜそんな状況に陥っているのか。


 それはこの騒ぎを治めてから、ゆっくり考えることにする。


「セラフィエル様、いかに貴女と言えど……八王獣と真っ向から戦うのは――」


「大丈夫ですよ。意外と何とかなるものです」


 タクロウの言葉を遮り、わたしは自信の程を見せるようにして笑った。


「ちょ、ちょっとセラ! あんなバケモンと戦うなんて無理だって!」


「そ、そうですわっ! さ、流石にアレは……相手が悪いと思います!」


 ヒヨちゃんとクルルが必死にわたしを説得してくれるが、別にわたしだって無理を押して戦おうってわけじゃない。


 あれだけの土を魔法で制御してなお――魔力は満ち足りている。戻ってきた血による影響で、魔力の貯蔵量が比較にならないほど広がっているのだ。いや……元の領域へとまた一歩近づいている、といった方が正解か。


「ブルルルゥ……」


「大丈夫だよ、ブラウン。大船に乗ったつもりで寛いでいて」


 顔を近づけるブラウンに出来るだけ優しい言葉をなげかけて、安心させてあげる。


 ――と、そんな時だった。


 ぼこ、とブラウンの足元の土が小さく盛り上がり、ピンク色の何かが地中から出てきた。


「…………んん?」


 なに? と思ってしゃがんでみると、その物体がひくひくと小刻みに動いているのが分かった。やがてもぞもぞと土を嗅ぎ分け、その物体が徐々にその姿を見せ始める。


 桃色の鼻に黒い体毛。特徴的な扁平の前足。実際に見るのは長い人生の中でも初めてだけど、間違いなくその姿は――土竜もぐらだ。


 巨大な蛇龍が地中から飛び出てきたかと思えば、今度は可愛らしい土竜が顔を出す。何とも奇妙な出来事ばかりが続くものだとピンクの鼻先を見つめていると、ふごふごと土竜が口元を動かし始めた。


『ぜぇぜぇ……まったく、地中はワシの領域だというのに、好き勝手に暴れまわりよってからに。ようやっと追いついたわぃ』


「え?」


『え?』


 土竜の鳴き声ってどんなんだっけ、なんてどうでもいいことを考えつつ見下ろしていただけに、流暢に人語が聞こえてきて、思わず呆気にとられた声を出してしまった。そして土竜もその声を聞いて、同じような声を漏らす。


 わたしたちの視線が交錯する。


『な……なな……ま、まさ、か……お主ら、人間、か?』


「そういう貴方は……ただの土竜、ではありませんよね……」


 亜人――ではない。亜人は確かに八王獣の血を引く人と獣の混血ではあるが、その姿は人に近いものとされている。


 当然ながら普通の獣が人語を介することもできない。


 つまり獣の姿で人語を介することができる存在は、このヴァルファランにおいて一種族しかいないのだ。


「貴方はもしかして――八王獣の」


『ま、待てっ! 待つのじゃ! これには深い訳があるのじゃ!』


 ただ種族を訪ねようと思ったわたしだけど、土竜は何を慌てたのか、地中から全身を這いずりだしてから、何かを弁明するかのように言葉を並べた。


『別にお主らとの盟約を破ろうなどとは思っておらぬ! これは事故なのじゃ!』


「え、えっと……」


 扁平型の前足をあたふたと振る土竜だけど、正直、何を誰に弁明しているのかサッパリ分からない。


 ――いや待って……思考をすぐに打ち切るんじゃなくて、良く考えてみよう。


 彼? はわたしを見て慌てだした。人間であるわたしを見て、である。つまり、彼にとって人間種に対し疚しい事態に陥っていると考えられる。


 それは何?


 彼は「盟約を破ろうなどと」と言った。盟約――人間種と八王獣の間である盟約はただ一つだ。


 三権相互扶助条約。


 そこで合点が行った。


 この場所はまだ人間領であり、あのガラジャリオスの行為はその領土を侵すものに他ならない。現に先ほどわたしたちだって魔法が無ければ瓦礫の下敷きになっていただろうし、ガラジャリオスが東の地から此処に至るまで、人間種に被害をもたらさなかった保証もない。


 現状を鑑みれば、どう考えても八王獣の領土侵犯と盟約違反としか見れない問題だ。


 土竜が慌てるのも頷けた。


 声色や姿勢からして、この土竜から人間種に対して牙を向けるような意図は感じられず、言葉通り予想外のことが起きて焦っている気配だけが受け取れた。嘘は言っていない……と思うけど、如何せん人間と異なって表情や顔色というものが分からないので、全身から滲み出る気配でしか判断できない。


 ここはタクロウやメリアにぶん投げるのが定石かな? なんて考えた矢先――ピリ、と殺気が肌を逆立たせる感覚が走った。


「――!」


 タクロウたちも殺気の出所を感じ取り、臨戦態勢を取る。


 シャラ……シャラ……と尻尾を鳴らしながら、ガラジャリオスの赤い瞳がこちらを捉えているのが、目を向けずとも察することができる。


『……お主たちはこの場から逃げよ。ガラの相手はワシがするでのぅ』


「……」


 全長1メートルも無い土竜が何を言っているのかとツッコミたくなったが、彼も八王獣の一角だとすれば、何かしらの特殊な力を持ち合わせているのかもしれない。


 詳しい話を聞きたいところだけど、今はガラジャリオスを鎮めるのが先だ。土竜という場違いな存在の登場に思いっきり思考が横道に逸れてしまっていた。


「手伝います」


 そう足元の存在に告げると、もそっと土竜は身じろぎして、ピンク色の鼻をひくひくとわたしの足元に向けてきた。たぶん……怪訝な顔をしているんじゃないかと思う。


『人の子が叶う相手ではない。アレは八王獣が一つ――ガラジャリオスじゃ。迂闊に近づけば、黒焦げにされて終わりじゃよ。悪いことは言わぬ。早く――』


「時間切れみたいですね」


『――むッ!?』


 ガラジャリオスの尾が左右に揺れたかと思うと、地面を勢いよく滑ってくるかのように移動を開始した。目標は言わずもがな――わたしたち一行に向かって、である。


「タクロウさんッ!」


「私は念のため、セラフィエル様の後衛に回ります。メリア! 馬車の手綱は任せたぞ! この場で力になれない者は全員馬車の中で待機しろ!」


「ええ、元よりそのつもりよ」


 タクロウの号令を待たずして、既に御者台に鎮座していたメリアは手綱を引いて、ブラウンに避難を命じる。


 マクラーズはササっと馬車の中へと乗り込んだが、クルルとヒヨちゃんは何か言いたげにその場に留まった。


「二人とも。無意味にセラフィエル様の足を引っ張りたいのなら、そこに居てもいいけれど」


 彼女たちに冷静な言葉を投げかけるメリアに対し、ヒヨちゃんはギリっと歯を軋ませた。おそらくガラジャリオス相手に戦力不足であることは理解しているけれど、その上で何かできないかを模索しているのだろう。それはつまり、わたしやタクロウを心配していることと同義で――わたしはふっと笑って二人に「大丈夫です」と背中を押した。


「っ……、わぁったよ! 少しでも怪我したら怒るからなっ!」


「セラフィエル様、私は信じておりますわ!」


「うん」


 一つ頷くと、彼女たちも後ろ髪を引かれつつも馬車の中へと乗り込んでいった。その様子を見送っていたメリアはやれやれとため息をつきつつ、馬車の軌道を変えて移動を開始する。


 ほぼ同時に、粉塵を巻き上げながら巨大な蛇龍が、わたしたちの頭上に影を落とす。


『いかんっ! 早ぅこの場から撤退せぃ!』


「セラフィエル様!」


 射程距離に入ったのか、ガラジャリオスの全身から放電が激しくなり、空気を焼き切っていった。



「――上等。久しぶりに魔法戦みたいな雰囲気になってきたじゃない」



 久しく感じていなかった、超常現象による攻撃を前に、わたしは懐かしさを感じて思わず口の端を上げて――笑った。


魔力が戻ってきて、気が大きくなるセラフィエル。

彼女自身気付いてませんが、これも心が幼くなっているからこその得意気な一面です( *´艸`)

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