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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
170/228

69 タクロウの目を盗むのは至難の業のようです

ブックマーク+ご評価いただき、大感謝です♪( *´艸`)

また感想もいくつもいただき、作者冥利に尽きます~(*´▽`*)

誤字報告もありがとうございました♪


いつもお読みいただき、ありがとうございます(*'ω'*)

 昼食も食べ終え、その後はグラベルンを発つ日取りの話を行った。


 本当は今日すぐにでも出たいところだけど、ぐっすり眠っていたわたしと違って、タクロウたちは夜通し働いていた節がある。だからわたしは敢えて「まだ体力が回復していない」と言って、今日一日、休みをもらうことにした。


 話の流れからして、既にタクロウの代わりにグラベルンの騒動を治めるために動いてくれている人たちがいるみたいだし、それなら今日の残りの時間は、彼らにゆっくりとした休養を取ってもらおうと思ったのだ。


 王都を出て、まだ少しの道のりしか進んでいないのに、もう1日のロスをしてしまうのは想定外もいいところだったが、今回の強襲――その相手の戦力を考慮すれば、たった1日で済んだことを喜ぶべきかもしれない。


 一通り話がまとまったところで、タクロウが呼び鈴を鳴らすと、部屋の外で待機していた侍女たちが数名、お辞儀をしながら食堂へと入ってくる。


「…………」


 せっせと空になった食器などを片付ける彼女たちだが、チラホラとわたしに視線を送っているのが丸わかりだ。


 向こうは気づかれていないつもりなのかもしれないけど、素人の仕草や気配をわたしが感知できないはずがない。


 ちょうどわたしの前の皿を片付けるため、すぐ横から手を伸ばそうとした侍女と目があったので、わたしは愛想よくした方がいいかな? と考え、なるべく柔和な笑みを浮かべることを意識して「ありがとうございます」と礼を言った。


「えっ……、あっ!?」


 声を掛けられた侍女は驚いたように声を漏らし、同時に中途半端に持ち上げた皿を落としそうになる。


「あ――」


 当然、目の前の出来事なので、わたしは落ちそうになった皿を右手で支えようと手を伸ばし、侍女もまた慌てて皿を持ち直そうとした。


 互いに皿へと手を伸ばしたために、自然と侍女の手とわたしの手が触れ合う。


「ぁ」


「…………」


 何故か固まる侍女。その視線は皿ではなく、わたしの瞳に注がれていた。


 そして手を放せば、再び皿を落としそうな雰囲気なので、手を引っ込めるのを躊躇するわたし。


 掌から伝わってくる暖かな脈動。


 重なる手はしっとり汗ばみ、内に秘める緊張感を示していた。


 視線は交差し、侍女の瞳には、笑顔で固まったわたしの姿が映り込む。


 …………。


 ――いやいや、なに、このシチュエーション? 色々とおかしいでしょ。おかしいよね? 危うく変な空気に飲まれて、わたしまでジッと見つめ返しちゃったじゃない……。


「あのぅ……」


 いい加減、この態勢のままでいるのも困るので、わたしが声をかけると、侍女はハッと瞬きをし、その表情に理性が戻るのを感じた。


「も、申し訳ございませんっ! す、すぐにお片付けしますね! あ、ありがとうございましたっ」


 再起動を確認したので、皿と彼女から手を放すと、そそくさと食器類を台車に乗せ、侍女は何度も御礼を言いながら頭を下げていった。そしてそのまま少し離れた位置まで台車を移動させ、他の侍女たちと合流していく後姿を見送ると――。


「ちょ、ちょっと! まさかセラフィエル様と触れ合ったの!?」


「きゃ~、そうなのよ! 小っちゃなお手てで、ぷにぷにしてたわ~!」


「えぇ~、でも街にやってきた悪者をやっつけてくれたんでしょ? こう……剣とか握っていると、掌がゴツゴツしてくるもんじゃないの?」


「セラフィエル様は特別なのよっ! ぷにぷにだけど、お強いのよ、きっと!」


「ふへぇ~、御髪おぐしもサラサラで綺麗だし、ちょっとお転婆で強気なお姫様みたいで可愛いのに、その上強いなんて、やっぱり凄い子なんだね~」


「セラフィエル様は、ぷにサラ。至言だわ。しかも笑うととっても可愛いのよ!」


「むむ、笑顔まで貰うとは、贅沢な奴~! ちょっとー、私にもご利益頂戴よ~。セラフィエル様と触れた部分、触らせて~!」


「や~だ~よぉー、今日はもう、何も触らずに一日手を洗わないで過ごすんだから!」


「えー、ケチー!」


 ――という会話を、しっかりと<身体強化テイラー>で敏感になっている鼓膜が拾い上げていた。


「……………………………………………………………………」


 きゃっきゃと話を弾ませながら、食堂を後にしていく侍女たちを何とも言えない気持ちで見送る。


 ――いやいや……貴女たちはアイドルに黄色い声援を送るおっかけ女子か何かですか!? 何がどうなって、そんなに話題が盛り上がるのか、理解できないのだけどっ! しかもぷにサラって何!? ああぁ……まさか外は皆があんな感じに……い、いえ、さすがにそれはないか。ないと信じたい……!


 肩にかかる自分の髪や、右手を見つめたりしていると、ふと視線を感じて顔を上げた。


 侍女たちの会話ややり取りは、しっかりとわたし以外の面子も聞いていたようだ。


 マクラーズやヒヨちゃんはニマニマと揶揄い半分の笑みを口元に、メリアとタクロウは表情には出していないが、その気配から柔らかい雰囲気が伝わってくる。クルルに至っては腕を組んで自慢げに胸を張っており、その膝元にはいつの間にか食事を終えたハクアが身体を丸めて眠っていた。


 誰も言葉を発しないからこそ、その空気がむず痒い。


 わたしは誤魔化すように、ごほんと分かりやすく咳ばらいをし、椅子から降りて「わたし、部屋に戻ってますねっ」と言って食堂を後にしようとする。


「あ、それでは私もお供いたしますわ!」


「私もー」


 女子会でも開こうと言うのか、クルルとヒヨちゃんも立ち上がり、後に続こうとする。


 ――くぅ、一人になって心を落ち着かせたかったというのに……。


 このタイミングで「一人になりたい」と言っても変に邪推されそうだし、かといって一緒に部屋に戻れば、さっきの侍女たちの話をぶり返されそうな感じ。


 どうしたものかと思っていたら、助け舟はなんとタクロウから飛び出てきた。


「ヒヨヒヨもクルルも、そしてマクラーズも休養をしっかり取れ。セラフィエル様が何故、出立を明日に見送ったのか、その真意を無駄にするな」


 その釘刺しに「うっ」と言葉に詰まる二人。きっと徹夜明けのテンションみたいな感じで今も振る舞っているのだろうが、その疲労度合いは彼女たちの表情に現れている。食事を摂ったこともあり、きっとベッドに横になった途端、眠ってしまうに違いないだろう。


 その展開を察したタクロウが、わたしの部屋で眠らないよう、忠告を入れたのだろう。


「タクロウさんとメリアさんは……」


 しかしその条件で行くと、この二人も同じことなので、わたしはその疑問を口にした。


「私とメリアは交互に休憩を取らせていただきたいと思います。グラベルンのことは別の者に委任したとはいえ、街を出るまでは対応できる者を最低一人、動ける状態にしておいた方がいいでしょう」


「それじゃ、わたしが――」


 やりますよ、と言いかけたところで、タクロウが手で制してきたため、思わず口を噤んだ。


「セラフィエル様は遠慮せずにお休みになってください。まだ――()()ではないのでしょう?」


「え……いえ、もう体力の方は回復してますけど……」


 嘘は言っていない。一晩ぐっすり眠って、身体の芯に溜まっていた疲れはすっかり抜け落ちていた。


「そうですか? 私にはまだ左手が万全でないように見えましたが」


「っ」


 ギクリ、とする。


 思わず左手を後ろに隠してしまいそうになったが、そこはグッと堪え、何事も無かったかのようにわたしは首を傾げた。


「えと、どういうことですか?」


「貴女を運び入れた時は、慌ただしくしていて気づきませんでしたが、その後に衣類の着替えを任せたメリアが左手首の外傷を発見しました。出血は無く、傷口もほぼ塞がっていたので――ひとまずは経過観察と考えておりましたが……」


 そういえば……と、気を失う前、自身で行った措置を思い出す。


 出血は勿論、操血そうけつによる血流制御と、血管の代用が行われている。傷口については、わたしのなんちゃって治癒魔法では完全に傷痕を隠すことができず、気絶前に強引に操血そうけつで縫合し、傷口が内側になるようにしたのだ。


 操血そうけつについては気を失おうが、わたしが生きている限り、最後の命令を解除するまで延々と従い続けるため、気絶中に出血が始まる……なんてことはない。けれども、やっつけで縫合した傷痕は――外傷、と一言で片づけるには不格好すぎるものだったと……今更ながら気づいた。


 わたしは起きてからきちんと状態を確認してなかった左手を胸下まで持ち上げ、そっとその袖をめくる。


「――――え?」


「どうしましたか?」


「あ、い、いえっ……えーっと、この傷ですよね? もう痛みも無いので、大丈夫ですよ」


 痛みが無い、というのは嘘だ。


 ジッとしていればマシだが、こうして少しでも動かせば、眉を顰めたくなるほどの痛みが手首回りに走る。昨日より痛みの程度が治まっているのが、せめてもの幸いといったところか。


 ――しかし、この傷痕。もう少し……グチャグチャだった覚えがあるのだが、今は皮膚と皮膚の境目が埋まっており、多少の瘡蓋かさぶたのような痕跡が散見されるものの、全体的に蚯蚓みみず腫れの状態になっていた。ここまで綺麗になるような傷ではなかっただけに、先ほどは思わず声を上げてしまった。


 どういうこと? と動揺を抱きつつも、わたしは怪我の程度を悟られて、王都に逆戻りを提案されないよう、にこやかに対応を続ける。


「それならば良いのですが……もし無理をされているのであれば、一度出直しも――」


「だ、大丈夫ですよ! ほ、ほらっ……左手もこの通り、普通に動かせますしっ」


 わたしは咄嗟に操血そうけつを駆使し、血管内から幾重もの血の糸を筋繊維の隙間へ手繰り寄せ、左手骨に細かく巻き付ける。機能しない神経や筋肉の代わりに、操り人形のように操血そうけつで左手を強引に動かし、その指先をあたかもわたしの意思で折り曲げているように演じた。


 ――咄嗟にやったことだけど、神経が麻痺していて痛覚が手首より先に無くて良かったかも。たぶん、痛覚が残っていたら、脂汗どころじゃない激痛が襲ってきていたことだろう。


 わきわきと動かす指先を凝視していたタクロウは、やがて息をつくと、わたしの元まで歩いてきた。


「念のため、傷口を再確認しても宜しいですか?」


「……はい」


 タクロウが右手を差し出してきたので、そこに左手を乗せた。


 タクロウの大きな男性の手に置かれた、わたしの小さな手は何とも心許ない存在に見えてしまう。


 彼は袖をめくり、左手首の状態を指先でなぞって確認していく。そして一通り確認を終えた彼は「ありがとうございます」と言って左手を開放してくれた。


 良かった、誤魔化せたみたい――と思った矢先、近くにいるわたしにだけ聞こえる声で彼は囁いた。


「――治る見込みは、あるのですか?」


「ぇ」


 わたしは思わず瞠目して、彼の顔を見上げた。


「気づきませんでしたか? 私が今、貴女の手首を調べ上げている最中に、死角で指先を抓ったことに」


「――!」


 予想以上に抜け目のないタクロウに、喉を鳴らす。どうやら手首に視線を集中させている隙に、わたしの指先に刺激を与え、感覚があるかどうかを確認していたらしい。


「レジストン様より、可能な限り貴女の希望に便宜を図るよう申し付けられております。ですが……身の危険に及ぶような出来事があった場合は、その限りではありません。貴女もそれが分かっているからこそ、隠そうとされたのですね」


「…………」


「もし、左手がもう使えないのであれば……王都にいる治癒に長けた者に診てもらう必要があるでしょう。幸い、王都を出てからまだ2日。往復時間を考えれば4日程度の遅れで済みます」


「…………治療にはどの程度、時間がかかるんでしょうか?」


「申し訳ございません。レジストン様より治癒に特化した者の存在は聞いているのですが、その者の所在や技量に関しては秘匿されているのです。そのため治療に要する時間に関しては、お答え兼ねるところであります」


「そう、ですか……」


 たかが切り傷程度ならば、その日で治る可能性も十分あるだろうけど、神経が麻痺し、複雑骨折するほどの傷がすぐに治るとは思えない。一週間か……最悪数カ月かかる可能性もあるし、治らない未来だってあるかもしれない。


 わたしの判断を尊重してくれるのか、タクロウはジッとわたしの返事を待ってくれる。


 少し考えた後、わたしは彼に答えを口にした。


「このまま行かせてください」


「……」


 わたしの決意の程を見極めようとしているのか、彼の鋭い視線がわたしを覗きこむ。


 旅を続けるのは依頼を達成したいという外向きの理由もあるけど、その大部分はわたしの我儘だ。


 この世界に転生し、王都で暖かい家族が送るような生活を手にした。それは少なくとも百数十年はわたしの記憶にない温もりで――離したくないと思える宝物であった。そしてその温もりは「絆」で結ばれていることも理解している。


 絆。信頼と信用から成り立つその細い糸を断ちたくない。それはレジストンやクラッツェード、プラムを筆頭に、エルヴィやケトたちにも当てはまる。出会って間もない彼らだけど、彼らの母親に薬を届けると約束したのだ。そこから生まれた絆を、たかが自分の傷程度で終わらせたくはないのだ。


 だから、これはわたしの我儘。


 やがて――小さく息を吐くと、彼は「分かりました」と応えてくれた。


「貴女の言葉を信じましょう。ただし、今後の旅路において、その傷が大きな弊害を生むと判断した場合は……何を言おうと王都へ帰還します。いいですね?」


 念押しに頷き返すと、ようやくタクロウの双眸から険しさが薄れていった。


 微妙な空気が霧散したと感じたのか、ハクアを胸に抱いたクルルたちが近づいてきて「手首の調子が良くないのですか?」などと心配してくれたので、わたしは笑顔で「大丈夫ですよ」と言葉を返した。



 とはいえ――騙し騙しにも限界というものはある。


 タクロウも言った通り、この手首の状態が下手な窮地を生む前に……何かしら対策を練らないといけないのかもしれない。



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