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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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66 午餐報告 その2

幾つものブックマークとご評価をいただき、誠にありがとうございます!(*´▽`*)

あまり進展のない話にも感想をいただき、ほんと嬉しいです♪


1話ごとの文字数を少なくすることで、更新頻度を上げれないか画策中のため、今回も比較的短い方の話になります(笑)

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

「それで……わたしが眠っている間に何があったのでしょうか?」


 六等分にされたトマトとレタスをフォークで刺し、口に運んで咀嚼しながら、わたしはタクロウにそう尋ねた。レタスだけだと、シャキシャキ感と水気しか舌から伝わってこないけど、わたしの菜園で育てたトマトと一緒に食べると中々悪くない組み合わせに思える。


 しかし……さすがのわたしのトマトも、1日経ったことで熟しすぎてしまい、かなり柔らかくなってしまっている。放っておけば腐ってしまうのは間違いないので、今日中に残った分を調理加工してしまうのが良いかもしれない。


 冷蔵庫とかあればいいんだけど……魔法で氷を作り出せても、その温度を維持するための箱を作る技術がないと難しい。何かいい方法とかないもんかね、と思っていると、すぐにタクロウが言葉を返してくれたので、わたしはそちらへと意識を傾けた。


「そうですね、でもその話をする前に……まずはセラフィエル様の方で何があったのか、そのお話を共有いただきたいと思います。我々もセラフィエル様とその近くで伏していた『アレ』の間で何が起こったのか、存じ上げぬものですので。貴女が眠っている間のことを話すと言った手前、申し訳ないのですが……そちらを先に聞いたうえでご報告する方が効率が良いと愚考いたします」


「あ、確かに……すみません、わたしばっかり気になることばかり聞いてしまって……」


「いえ、構いません。目を覚まされたばかりなのですから、状況を把握することに思考が偏っても、何の不思議もない話です」


「ありがとうございます」


 タクロウの言う通り、話の導線をきちんと敷くならば、眠っていたわたしよりも多くの情報を持つタクロウに、先にわたし側の情報を共有するのがベストだろう。あとはその情報も加味して、タクロウから総括した話を聞けば良い。


 タクロウの気遣いに御礼を言って、わたしは「アレ」こと群青法衣との戦闘について彼らに話した。操血そうけつにかかる部分は、魔法に置き換えて上手くぼかしつつ説明をしていく。


 最初こそ昼食に舌鼓を打っていた彼らだが、徐々に話が進むにつれて、フォークやスプーンを皿の縁に置いて、わたしの話に耳を傾けていた。


 ――要らぬ心配をかけたくないので、わたしの左手については伏せておいた。


 今も左手を食器の縁に重ね、あたかも皿を手で持っているように見せかけているが、その実……指先からは何の感触も返ってこないし、皿を掴むことすらできていない。さり気なく肘先を動かして、普段通りの様子をカモフラージュしているが、内心どこかでツッコまれないかとドキドキもしている。


 わたしの今の使命は――ケトとエルヴィのお母さんを助けるために、薬の原材料を持って帰ること。そして、クルルの故郷の森での異変を調査することだ。


 こんな王都から少し離れたばかりの東の街で「怪我したので帰ります」なんて情けない姿は見せたくない。クラウンとしても……そして、わたしの矜持に懸けても、それだけは嫌だ。


 わたし自身はこのまま突き進むつもりでも、左手の怪我が明るみになったらタクロウあたりが「一度王都に戻って、怪我を治してから出直しましょう」と提案、もとい強制送還をしようとすることは目に見えている。


 自分で言うのもなんだけど……この世界において、わたしの魔法は特異であり貴重な存在だ。それはレジストンも理解しているだろうし、彼の命令を受けて同行しているタクロウも重々承知していることだろう。だからこそ、指先の感覚がないレベルの怪我なんてバレたら、絶対にわたしの安全最優先で動くに決まっている。ゆえに……この旅路を歩く足を止めないために、黙っていたいのだ。


「つーか、セラ。アンタ、よくそんなバケモンに勝ったわね……」


 ちょうど群青法衣の能力について、わたしが理解した範囲で話すと、ヒヨちゃんが呆れたように頬杖をつきながら、そう言った。


「当たり前です! セラフィエル様はセラフィエル様なのですよっ!」


 謎の定義を胸を逸らして自慢するクルル。ドンと胸を細い右手で叩く彼女だが、その際に豊満な彼女の胸が揺れるのが見えた。なんだ? わたしのことを自慢すると見せかけて、そっちの自慢なのか? ――なんて邪推が浮かぶほどの胸囲の格差に、少しだけ気持ちが落ち込む。


 ――ふん、いいの。わたしだって伸びしろがあることは、過去の人生で経験済なんだから。


 過去二度の転生後の身体は、大きすぎず小さすぎずの丁度良さを誇るバストを持っていた。一番最初の世良せら愛畝あいせだった頃も似たような体格だったので、自然と元の身体の形に近づくものだと思っている。だから決して現時点の平坦さは敗北ではないのだ。身体は10歳なのだから仕方がないのだ。


 そんなことを考えていると、ポンポンと頭を軽く叩かれる。


 何事かと見上げれば、左隣のマクラーズがうんうんと頷きながら、とんでもないことを言い出した。


「ま、嬢ちゃんは発展途上だからな。心配すんな、人生経験豊富な俺の見立てでは、それなりに大きくなると踏んでいるぞ!」


「んなっ!」


 まさかわたしの視線から何を考えているのか無駄に察したのか、正確に言い当ててきたマクラーズは満足そうにスープを口に流し込む。


 ――セクハラっていう概念をこの世界に作ってやろうかしら。


 唖然と口を開いたわたしだが、こんな些細なことで話の腰を折りたくはない。なので下手に言葉で返すのではなく、わたしは左足を伸ばして、マクラーズのつま先を踏んづけてやろうとした。


「……」


 しかし、少しだけ脚の高い椅子に座っているわたしの短い左足は、成人男性であるマクラーズのつま先までは遠く及ばず、なんか一人で「っ、っ……!」と足を何度も伸ばしている姿が滑稽に見えそうだったので、そのまま何事も無かったかのように、食事に戻ることにした。


 その際にプッと小さくマクラーズが堪えきれずに笑っているのを逃さないわたしは、後できっちりと復讐を果たすことを心に決めた。


「鏡を使い、そこに映りだされた物を破壊する能力……俄かに信じられない馬鹿げた能力ですが、実際に戦った貴女が言うのだから、真実なのでしょう」


「私たちのところに来ていたのがソイツだったら、あっさり死んでいたかもしれませんね」


「……あえて考えないようにしていたことを、なんてことないように言うなよ。食事中だってのに、ったく」


 タクロウは思案気にそう呟き、メリアが静かにスープを啜りながら最悪の想定を口にした。マクラーズはそんな仕事真面目人間+鉄面皮のやり取りに「はぁーあ」とため息をついてパンを齧る。


 しかし、メリアが口にした最悪の結末は戦闘時、わたしの脳裏にも走ったことだ。


 対抗手段、もしくは場を切り抜けられる多様性の高い能力。これらを持ち合わせているのは、おそらくわたしだけ。だから群青法衣が初っ端からわたしに狙いをつけて襲ってきたのは、不幸中の幸いだったのだ。そんな中で無事、群青法衣を倒せたのはまさに僥倖と言えよう。


「そういえばタクロウさんたちは、どうやってわたしの居場所を突き止めたんですか? 確か……わたし、法衣と戦った場所で倒れちゃった記憶があるんですけど」


 群青法衣との戦闘は、それなりに場所を移動してのものだったはずだ。もしかして破壊の痕跡を辿って、あの路地裏まで来てくれたのだろうか。


「それはハクア様のおかげですよ、セラフィエル様」


「ハクアの? あ、そういえばさっき、ハクアがクルルさんを呼びに来たって……」


 寝起きからのハグ連発で忘れそうになっていたが、そういえばハクアがわたしに飛び掛かってきた際に、彼女がそんなことを口にしていたのを思い出した。


「はい、私がセラフィエル様のもとへたどり着いた後、ハクア様はタクロウたちも呼びに飛んで行かれたのです。私はその間、貴女様に不埒な者が近づかないか警戒に当たっておりました」


「そっか……改めて、ありがとね、ハクア」


「グァ~」


 どうやらクルルだけでなく、タクロウたちも呼びに奔放していてくれたハクアにわたしは改めて礼を言った。床でマイペースにトマトを食べていたハクアは、きちんとわたしの言葉が届いているようで、少しだけ嬉しそうな声を上げて応えてくれた。


「セラフィエル様の記憶はそこで途絶えていると思いますので、次は我々側のお話をさせていただきますね」


「はい、よろしくお願いいたします」


 群青法衣との戦闘については、左手の怪我を上手くぼかしながら、話せる部分は全てを話した。


 さて、次はいよいよ本題。わたしの知らない場所で何があったかだ――。


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