65 午餐報告 その1
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※今回はちょっと短めです。あんまり深い内容も無いのでサラッと読んでいただいて大丈夫です(笑)
皆に促されるまま部屋を出て分かったことだが、どうやらわたしは結構な敷地を持った屋敷の中の一室で眠っていたらしい。
昼食を食べるために一階に降りる――という行動を起こすまでに、幾つもの窓や扉を通過して、ようやく階下に行くための螺旋階段が姿を現すぐらいだ。
間違いなく貴族レベルの屋敷だということが窺えた。
何人かの使用人や侍女とすれ違うたびに、彼らは恭しく頭を下げる。
つられてわたしも頭を下げて小さく笑う。……笑いながら、はて、と心中で首を傾げた。今までの転生後の世界ではこうして頭を下げ返すような文化はなく、わたし自身、もう150年はそういった行為をした記憶がない。前世は特に女王という地位についているのだから、こうして頭を下げるような行為は逆にタブーだったはずだ。
だというのに、今、この瞬間にわたしは無意識にそうしていた。
疑問に感じたので少し思考を巡らせれば、すぐにその答えが浮かんでくる。原因は間違いなく、知識保管庫から赤が持ち出してきた本――その科学文明の情報だろう。当時の情報を頭に入れれば入れるほど、無意識に回顧していたのかもしれない。
思い出というより情報を頭に入れていただけだというのに、こうして行動に変化が生じるのだから人間というのは面白いものだ。
思えば、わたしの性格が丸くなってきたのも、精神退化やフルーダ亭の暖かさ以外にも、こうした要素が絡んでいたのかもしれない。それがいいことかどうかはケースバイケースになるだろうが、元日本人という性質もあってか、悪くないと思える。
「あの、タクロウさん。この屋敷は……」
「これは失礼しました。説明がまだでしたね。この屋敷はグラベルンを統治していた領主――いえ、元領主の別荘となります」
「別荘? それに……『元』領主ということは、もしかして――」
――例の法衣連中に巻き込まれてしまったのだろうか。だとしたら、わたしがこの街に滞在しなければ、そんな不幸は起こらなかったのでは、という考えが過る。だって、奴らは……明らかにわたしを狙い撃ちしてきたのだから。
しかしタクロウは「いいえ」と首を横に振った。
「セラフィエル様がお気に病む必要は一切ございません。むしろ、貴女がこの街に来たことにより、我々の目を盗んで腐敗していた膿を抜くことができたのですから」
「え、それって……」
「ええ、この街の領主――キケラ子爵は樹状組織に内通していた反逆者でした。王室付調査室の仲間がその現場を確認しております。口惜しい点は、キケラ子爵を生きて捕らえることが叶わなかったことですが……深追いしてこの情報を消される危険性に比べれば、大収穫ともいえる情報でしょう」
グラベルン領主であるキケラ子爵の謀反。
しかも未だに全貌の欠片すら見せない樹状組織と繋がっていたとは驚きだ。
「その、キケラ子爵は……例の銀糸教の人と同じように末端で動いていた人なんですか?」
「銀糸教の――あぁ、トッティ=ブルガーゾンのことですね。いえ、どちらかといえばトッティの方が使い捨て要員だったのでしょうね。キケラ子爵は少なくとも幹部と顔見知りであった可能性が考えられます。……とはいえ、それはあくまでも我々から見た印象であり、樹状組織からすれば、トッティもキケラ子爵も同様の駒だった可能性は否めませんが……」
「そうですか……あのところで、なんですが」
「はい、なんでしょう」
「そのぉ……気のせいだったら恥ずかしいのですが、やけにこの屋敷で働く人たちの視線が熱いと言いますか……注目されてませんか?」
自意識過剰だと言われればそれまでだが、これでも気配には敏感な方だ。戦闘経験に長けた者ではない人間の視線や意識の向かう先程度を読み解くのは、わたしにとって朝飯程度である。
おずおずと聞いたわたしに対して、今度はクルルが口を開いた。
「ふふふ、セラフィエル様は英雄扱いされていますからね」
「へ?」
今度はヒヨちゃんが後頭部に手を組みながら言葉を繋いだ。
「あー、そういや『そういうこと』にしたんだったっけなぁー」
「そういうこと?」
そういうことってどういうこと? なんて考えていると、メリアが補足にならない補足を入れる。
「事態を早々に終息させるために、セラフィエル様の名前を使わせていただきました、ということですね」
「グアァー」
いや、だから皆、大事な言葉をわざと抜いて喋っているでしょう!?
ハクアも分かったかのようなタイミングで鳴かないでよ!
「なぁなぁ、こんないい天気の昼だってのに、糞真面目な話で空気重くしてねーでよ、さっさと飯食おうぜ~」
「マクラーズさんはマイペースですね! わたしだけ置いてけぼりな感が強すぎるんですけど……」
そうこうしているうちに、一階のエントランスに降りてしまい、すぐ近くの両開きの扉を2人の侍女が開き、わたしたちを歓迎してくれる。
マクラーズの言う通り、燦燦と照らす太陽の光が差し込む食堂は、癒し効果でもあるのか、非常に空気が良い。長机に敷かれた白いテーブルクロスの上には、パンの入ったバスケットや、スープ鍋、カットサラダなどが並べており、いい匂いがわたしたちの鼻孔をくすぐる。
匂いや盛り付けから分かったけど、どうやらわたしたちが持ち込んでいたトマトやジャガイモなどが使用されているっぽい。カットサラダなんて、トマトが大部分を占めており、レタスやキュウリはもはや備え付け程度の量しか盛り付けられていない。
「勝手ながら、少しだけ馬車の荷物から拝借しました」
わたしの視線から読んだのか、メリアがそう付け加えてくれたので、わたしも「ううん、全然問題ないですよ」とほほ笑んだ。
料理を前にすると、現金なもので、わたしのお腹が小さく音を鳴らした。どうやらこの小さなお腹はご飯をご所望のようだ。
「セラフィエル様が眠られていた時に生じた出来事に関しましては、食事をしながら報告をさせていただこうと思います。まずは席に座りましょう」
「はい」
報告、なんて言い方が相変わらず固いなぁ……なんてタクロウに対して思いつつ、わたしたちは各々好きな席に腰を下ろした。