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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第一章 操血女王の奴隷生活
16/228

15 上客

前回に引き続き、前半は「唾をシチューに入れる男――唾男つばお」がセラフィエルを不快にさせますので、苦手な人は前半は流してくださいm( _ _ )m

 転生後、初めての食事は屈辱的なもので、非常に腹の虫がおさまらないものとなった。


 それでも貧相な子供という点と、著しく体力が低下していることは考慮されたのか、わたしはここに入れられてから、おおよそ四日ほど経った今でも、食事と睡眠を繰り返すだけの時間を過ごしていた。


 外の光すらない牢部屋の中なのに、四日と判断できたのは、食事の回数から計算したからだ。

 曖昧な数え方ではあるものの、日単位であれば経過時間にそう誤差もないだろうと思う。


 食事体系は朝・昼・晩の三食というのも間違いないと思う。

 念のため、前の食事からどのくらい間を置いて次が運ばれるかを意識して次の食事を待っていたわけだが、結果としてわたしの体内時計は、三食分が一日の中で運ばれてきたと告げた。

 

 そして、最も食事時間の感覚が長かった時間帯が、夜なのだろう。


 ただでさえ体力がきついというのに、時間を確認するために一日徹夜したわけだが、おかげで確信が持てた三日目以降は、規則正しい食事と睡眠時間を過ごせていた。


 ちなみにわたしが心の中で「唾男つばお」と命名した男だが、業腹なことにわたしの担当のようだ。看守のようにここを監視し、食事を毎度持ってくるのは全て唾男だ。


 この男、唾以外にも色々とやってくれている。


 二日目こそ何事もなかったため、初日だけの嫌がらせかと少しだけほっとしたのだが、三日目は筆舌に尽くし難い卑猥な言葉を言い始め、それを復唱しろと言ってきた。


 もちろん分からないフリをして言わなかったわけだが、反抗的な態度をとると何をされるか分かったもんじゃないので、涙ながらに謝るという演技を苦し紛れにしたら、唾男は嗜虐心を満たしたのか、その日は何とか凌げた。


 しかしこういうタイプというのは、相手が下手に出ると調子に乗ってくるものだ。


 今も想像通り、唾男は扉の前に来るや否や、上窓を開いてこちらを覗きこんできたかと思うと、いきなり「服を脱げ」と言ってきた。


 思わず聞き間違いかと眉をひそめてしまったが、小窓からのぞかせる唾男の嫌悪感を抱くニヤニヤとした笑みが代わりに答えを語っている。


 わたしが着ている服は、最初に着ていたボロボロの一張羅ではなく、初日の例の食事後にこの上級奴隷館で支給された綿製の上下セットの服だ。単色のシンプルなデザインだが、通気性もよく、柔らかい材質なので、何気に着衣しやすいという点で気に入っている。


 だが着衣しやすいからと言って、この男の前で脱ぐ理由にはならない。


 ――ていうか、コイツは本当になんなの!?


 わたしに欲情するような変態かと思いきや、直接手を出そうとはしてこない。


 どちらかというと、扉越しに嫌がらせをして、それに反応するわたしを見て愉しんでいるような感じだ。もっとも「商品」であろうわたしに手を出さないのは当然かなとも思うので、もしかしたら、本当に幼女性的嗜好ロリコンなのかもしれないけど……。


 身の毛がよだつ。


 この世界での常識的な成人の適齢期は分からないが、性対象として見るにしてもプラムぐらいなら分かるけど、わたしの年代はさすがに……無い。


 だって女性らしい成長が全然起きていない、平坦な体形なのだから。


 子供を愛でる感情は美しいものと感じる心がわたしにもあるが、さすがに性の対象としては考えられなかった。そしてそれが今、まさに自分が対象となっていると思うと、鳥肌が止まらない。


 そんなわたしに発情もしくは何かしらの欲求を満たそうとする唾男は、間違いなく異質な性癖の持ち主と言えよう。


「どうした、さっさと脱げよ」


 唾男の声が、一瞬、現実逃避していたわたしの精神を現実に戻す。


 とっくに僅かながらも魔力は戻っているし、体力もそれなりだ。

 全身の痛みも、今では違和感が残る程度。

 この状態なら、唾男を鉄扉ごと圧砕する程度の魔法は打てるだろう。


 もっともその後は定番のゲロ地獄が待っているわけだけど……。


 しかしそれでは、わたしの気が済んでも、事態は好転しない。むしろ悪化するだろう。


 動けないまま捕まるであろう、わたしは厳重に監視されてしまうだろうし、下手したら危険人物として殺されるかもしれない。むしろ後者の可能性の方が高い。


 だからここは暴れそうになる本能を抑え、なんとかやり過ごすのが正解だ。

 だけど、ああ……ストレスがマッハで溜まっていくわ……!


「ゆ、許して……ください」


 内心とは裏腹に、わたしは涙目で体を庇うように手を回し、上目遣いで許しを乞うた。

 何故だろう……ここ数日でこういう演技が板についてきた気がする。

 誠に遺憾である。


 舐め回すような視線に晒されて、わたしは毛虫が全身に這いずり回るような悪寒に身震いをした。


 その様子が怯えにでも映ったのか、唾男は口の端を吊り上げ「まぁ許してやるか」と不遜な態度を投げつけて、扉の前から去っていった。


「……」


 過去二度の転生時、いずれも二十代前半で新しい人生を歩んでいた当時も、似たような視線を浴びることはあったが、今ほどの嫌悪感は抱かなかった。


 多分だけど、幼女性的嗜好ロリコンの気持ちが理解できないことが大きな要因なのだろう。


 理解できないから、不安になり、気味が悪い。

 加えて、幼女性的嗜好ロリコンという存在は今までの世界でも法的というか一般常識的にも異分子扱いを受けていたことも、わたしの中の心象に影響を与えているのかもしれない。


 一般的に受け入れられて、わたしだけが理解できないのなら、歩み寄る努力もしようものだが、これに関しては無理だ。


 あれほどの不快感を与えてくる人はそういないだろうな、と唾男のことを考えていたわたしだが、数日後、その考えを早速改めさせられるとは思っていなかったのだった。



*************************************



「出ろ」


 牢部屋に入れられて、一週間が経った。


 プラムの様子を確認したいものの、唾男に尋ねても要領を得ない回答で躱されてばかりで、わたしの中の焦燥感は日に日に蓄積していっていた。


 そんな時に、突然ここを出るように唾男から告げられた。


 一瞬――ついに手を出されるのか、と身構えたが、唾男の方も面白くなさそうな雰囲気を出していたため、違うと分かった。


 ギィと錆びた金属音と共に鉄扉が開かれ、そこで唾男の全身を見た。


 小窓からは良く分からなかったが、随分とひょろ長い男だな、というのが第一印象であった。

 そう思ったのは、手足が普通よりも長い様だったからかもしれない。


「館長がお呼びだ」


「……」


「警戒すんなよ、何もしねぇよ」


「わかり、ました」


 わたしは素直に動いてくれない足に鞭を打って、気の進まないまま、扉を潜り抜けた。


 背後で鉄扉が閉められる音を聞きながら、わたしは素早く周囲を見渡す。


 どうやら牢部屋はいくつも隣接しているようで、隣にも同じような扉が続いていた。

 中の様子はうかがえないが、今までの一週間で、食事を運ぶ際のやり取りや、生活音が自分のもの以外聞こえなかったあたり、このフロアにいたのはわたし一人だったのかもしれない。


 また牢部屋の外も窓がないことから、ここが地下だと分かった。

 まあ足音がやけに反響していたから、薄々思っていたことだけど、これで確信できたわけだ。


「本来ならお前は完調し次第、じっくりと奴隷としての教育が施されるはずだったんだがな」


「……」


 楽しみにしていた玩具を奪われたかのような、ぶっきらぼうな言いぐさにわたしは目を見開く。

 

 ……もしかして、その教育係って唾男コイツだったんだろうか。

 なんて恐ろしい事実……!


 わたしの操血や魔法に依存した生き方が宜しくなかったということもあるけど、今までの三度の人生でわたしは恋愛だの誰かと添い遂げるだのの経験がない。


 わたしだって一応女だからね。

 興味がないわけじゃない。


 でも恋慕だの何だのという感情がわたしには湧きにくいのか、結局は出会いすらないまま、四度目の人生へ突入中だ。


 今回は子供から、ということもあるし、どこか精神年齢も幼くなってしまった気がするので、丁度いい機会と、そっち方面でも何か進展があればいいな、とも思う。


 けど……こんな唾男にすべて台無しにされるのだけは勘弁してほしい!


 もちろん奴隷という立場は、そういう方面にも密接だということは理解している。

 だけど、どこかで「わたし、まだ子供だから」という安全圏があると油断していたのかもしれない。

 育つまでの期間中に隙を見て逃げればいいのだ、と。


 だからプラムの身の方がどちらかというと心配だったが、唾男との出会いで、わたしの身も危ういという事実を知り、急に落ち着かなくなってしまった。


「残念だったか? 俺は残念だ」


 残念なわけ、あるか!

 むしろ拍手喝采、スタンディングオベーションだわ!


 とは言えず、わたしは顔を俯かせて無言を貫いた。


 その様子が気に食わなかったのか、唾男はチッと舌打ちをこれみよがしに鳴らし、わたしを連れて館内の絨毯が敷かれた通路を歩いていく。


 唾男が口にした「館長」という単語が、もう嫌な予感しか臭わせない。


 役職名からして、この上級奴隷館の最高責任者だと思われるが、その人物に奴隷が呼ばれるということは、その答えはほぼ決まったも同然なのではないだろうか。


 ――つまり、売買が成立した、と。


 環境が変わる境目は、逃げるチャンスも起こりやすい。


 だから決して歓迎しないわけではないのだが、気がかりはプラムを置いたまま自分だけ遠方に移動する、ということだ。さすがにそうなっては、プラムに何かしらの手を打つことは不可能に近い。


 その点を何とか解決する方法は無いかと、思考を猛回転していると、唾男の足が止まったのを視界の端で捕らえてしまい、わたしも顔を見上げて立ち止まった。


 気付けば、目の前には豪奢な両開きの扉があり、両端に護衛と思われる屈強な兵士が二人、こちらを見下ろしていた。兵士の視線から受け取れる感情は、好奇というより憐憫に近いものであった。


 唾男が扉をノックし「ハンモックです」と告げると、中から「入れ」とすぐに返事がくる。


 始めて唾男の名前を知る機会だったが、わたしの中で唾男から改名されることは無かった。

 唾男は唾男だ。

 ハンモックという名前でなんか、呼んであげない。


 唾男は扉の右側を開き、わたしに入るよう視線で促してくる。

 逆らうことなくわたしは部屋に足を踏み入れ、広い部屋の中央窓際――執務室の奥の椅子にかける男を見た。


 見た目は40代後半……ぐらいだろうか。


 白髪はなく、綺麗にオールバックにした茶色の髪が印象的な男だ。

 おそらく彼が館長、なのだろう。


「こんにちわ」


「……こんにちわ」


 とても和やかに挨拶なんて交わす気分ではないけど、無言を貫くのもメリットが無かったので、わたしは少し悩んだ後に挨拶を返した。


 そしてふと気配を感じたので、わたしは右横に視線を向けると、壁際に沿うようにして置いてあるソファーの上に一人の人物が座っていることに気付いた。


 あ、いや、二人だ。

 あまりにも手前に座っている男の体が大きすぎて、奥に俯いて座る存在に気付くのがワンテンポ遅れてしまった。


 そして、もう一人はよく見知った顔だった。


「プラムお姉ちゃん!」


 安否を気にしていただけに、わたしは思わず声をあげてしまった。


 ――冷静になれ。


 その態度は相手につけいる隙を与えることになる。

 わたしの中の理性と経験がそう警告してくるというのに、その警告を飛び越えて心情が勝ってしまった。


 わたしがプラムを心配する様子を確認してから、執務室に肘を置いてこちらを見る館長が世間話でもするかのように口を開いた。


「ああ、そのお姉ちゃんはね、これから新しい職場へと移動することになったんだ」


「……!」


 ――職場!?


 奴隷の職場なんて、一つしかない。

 わたしは思わず、彼女の横に座る巨躯を睨んだ。


「でゅふっ、お姉ちゃん想いの子なんだな」


 大きく膨らんだ腹部を右手でさすりながら、嫌らしい笑いを零す巨体。

 巨体が笑うたびに小刻みに揺れ、ソファーが浮き沈みする。


「セ、セラちゃん……」


 こちらを見るプラムは悲痛な表情を浮かべていた。


 そりゃそうだ。

 隣に彼女を買い取ったであろう男が座っているというのに、平常でいられるわけがない。


「彼――デブタ男爵は当館のお得意様でね。定期的に資金援助をしてくれているんだよ。一年前までは品薄な状態が続いていて、彼も私も苦慮していたものなんだが、とある筋から西からの侵攻の情報を得てね。ここ一年はこうして彼に優先的に女性をお渡ししているところなのだよ」


 聞いてもいないのに、館長は機嫌よく情報を漏らしてくれる。


 おおかた、ただの子供だと侮って、どうせ聞いても分からないだろうぐらいの気持ちなのだろうが、しっかりとわたしの記憶には情報として刻まれていった。


 しかしデブタ、ねぇ。


 名はていを表す、ていうけど、まさにこのことね。


 風船のように飛び出た腹に、何重にも贅肉が層を作る首元。

 鼻が詰まっているのか、声も聞き取りづらいし、喋るたびに鼻息がうるさい。


 別に太っている人や豚に偏見を持っているわけじゃないし、遺伝体質の人だっているわけだからこういう悪口は好きじゃないけど、こいつに関してはハッキリと悪口として言えるわ。


 ――デブ+ブタの融合した名は伊達じゃないね、って!


「でゅふっ!」


 何でわたしと視線が合ったからって、嬉しそうに声を漏らしたのよ。


 いや、褒めてないから。見とれてもいないから。

 見て、わたしのこの顔を。

 見事に引き攣ってるでしょ?


「でゅふふふっ」


「……………………」


 い、いかん。


 これは唾男以上の難敵が登場してきたかもしれない。


 アレはやばい奴だ。

 本能が激しく警鐘を鳴らしている。


 そんなわたしの心情を無視して、にこやかに館長が話を続けた。


「でだ、そこに座っているプラム君だったかな? 彼女をデブタ男爵にお渡ししようとしていたのだがね……どうも彼の家は人手不足で、もう一人ぐらい欲しいとの要望をいただいたんだよ」


 そうですか。


 もう展開は読めたので、結論だけさっさと言って欲しい。

 そんなに嬉しそうに遠回しに語らなくていいから。


「しかし西との件でそれなりに実入りは多くなったんだが、どうも当館のお眼鏡にかなう子はすくなくてね。今は君とプラム君しかいない状態だったんだ」


 そういえば、確かに地下の牢部屋はわたしが出た部屋以外、誰も入っていなかった。


 どこか別の場所に連れていかれているのかも、と思ったが、どうやら本当に誰も入っていなかったようだ。


 そりゃ唾男も仕事がなくて、暇つぶしにわたしに嫌がらせをしてくるわな、と顔をしかめた。


「君はまだ幼い。記憶喪失と伺ってるから、正確な年齢は分からないだろうけど、見たところ8歳……いや、7歳ぐらいかな? まあどちらにせよ、幼すぎるんだ。だから、正直なところデブタ男爵にお譲りするには早いかな、と思っていたんだが――」


「でゅふふ、おでは幅広くイケるんだな!」


「と、有難いお言葉をいただいて、君もプラム君と同額での提供を承諾してくれたんだよ。子供は労働力も低いし、食費もかさむからね。本来だとプラム君の半額程度が妥当なんだけど、デブタ男爵のご厚意に甘んじて、契約をまとめさせていただいたんだ」


 いや、そんなに「ありがたいだろ?」みたいな顔で言われても、嬉しいのはアンタ側だけであって、売られるわたしたちは微塵も嬉しくない。


 あと幅広く、ってなんだ、デブタ! お願いだからそれ以上、不吉な言葉は吐かないでっ!


「ま、そういうわけだから、君たち二人はこれからデブタ男爵の屋敷で彼の世話をすることになる。本来であれば、充分な教育を施して主従というものを身に沁み込ませた後、お客様の元へと送り出すのが我々の務めなのだがね。デブタ男爵はその教育も自らが担うとおっしゃってくれたんだ。くれぐれも粗相のないように努めること、わかったね?」


 よし、ここにいる連中に全力の魔法をぶっ放そう。


 そう思い当たったが、そういえば部屋の外にも兵士がいるのだった。

 部屋を全壊させるほどの魔力もないし、仮にできたとしてもプラムを巻き込めない。


 わたしの頭ぐらいの巨大な手が肩に置かれ、わたしは反射的にビクッとした。


「でゅふっ、でゅふふぅ、よろしくね、セラちゃん」


 お前にセラちゃんだなんて呼んでほしくないわ!


 わたしは心の中でしか文句を言えない現状に、泣きそうになる感情を押さえつけて、大きく項垂れるのだった。



次回「16 デブタ男爵家」となります(^-^)ノ


2019/2/23 追記:文体と多少の表現を変更しました。

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