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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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48 グラベルンの死闘 その6

ブックマーク・ご評価いただき、ありがとうございますっ!(*''▽'')

とても嬉しいです( *´艸`)


いつもお読みくださる皆様に感謝しております♪


※この回より、痛々しい描写が出る予定です。苦手な方……本当にすみませんっ(ノД`)・゜・。


 鏡に映っている対象に能力を発揮するのであれば、映らなくしてしまえばいいのでは。


 わたしはそう考え、まるでジワジワと獲物を追い詰めるかのように余裕を見せる群青法衣をキッと睨みつけ、屈んで街道の地面に右掌を触れさせた。


 ――これで終ってくれれば、万々歳なんだけど……!


 正直、通用するかどうかは半々だ。


 けれど最小の力で奴の能力に対応できるなら、それが最善だ。おそらくこの戦い――長引けば長引くほど、わたしが不利になっていく。


 強化されたわたしの耳に、倒壊した建物を見に、多くの住民たちが夢から覚め、家から出てきている喧騒が届いてくる。この場はその倒壊場所のちょうど中心であるため、続く崩落の危険性を考慮して首を突っ込んでくる住民はいないものの、好奇心に駆られた誰かが足を踏み入れてくる可能性もある。


 もしここに第三者が混ざってくるようなことになれば、わたしの戦う手段は徐々に削られていく。誰かを護りながら、被害が出ないように考えながら……この法衣と戦うことは、正直難しいだろう。


「……」


 わたしは魔力を掌から地面に流し込み、元々の地盤を操作する。


 先ほどわたしが作った土壁と同じ原理だ。けれども今度は――壁ではなく、箱を作る。


「ムッ」


 わたしの魔力によって形状変化させられ、指向性を与えられた街道の地面は、群青法衣を取り囲むように正方形に壁がせり上がっていき、最後に法衣が逃げ出す前に天井部を造り上げる。


 あっという間に群青法衣を閉じ込める土の箱が完成した。


 これで箱の中には一切に光はなく、姿見に映し出されるのは暗闇だけのはずだ。


 もし、奴の絶対的な盾であり武器である鏡が、映っているものだけに干渉することができるのであれば……暗闇に対していかに攻撃をしかけようと、無駄に終わるはず……たぶん。


 しかし懸念もある。


 先ほどは鏡に反射したものか、映ったものかで判断したが、今度は別の二択が浮き上がることになる。


 鏡に映し出された「光景」が対象なのか、鏡に映し出された「物」が対象なのか、だ。


 対象が「光景」であれば、暗闇にさえしてしまえば、奴の鏡はその機能を止めることになる可能性が高い。しかしもし……あくまでも鏡に映し出される「物」が対象ならば、そこに土の壁があるという事実は変わらないのだから、いくら暗かろうと奴の攻撃は壁に対して行われるのではないかと予測する。


 わたしは引き続き魔力を消費し、構築した土箱の範囲を徐々に縮小させていく。ズズズ……と勢いよく四方の壁の幅が狭まり、土箱の面積は見る見るうちに小さくなっていった。


 仮に鏡が使えなかったとしても群青法衣そのものの身体能力を考慮し、自力で土箱を破壊される前に、箱を圧縮させ、その力で鏡を破壊しようという狙いだ。


 ――これで鏡を破壊できれば、いいんだけどね!


 そんなわたしの希望は、破砕音と共に土箱の一画が粉砕された様子によって打ち砕かれた。


「…………っ!」


 堅い1メートル近い壁は豆腐のように吹き飛んでいき、空いた穴から群青法衣が何事も無かったかのように瓦礫を跨いで姿を現した。


 ――……あぁもう! どうしてこう最悪の方向へ向かっていくかなぁ!


 心中で毒づきながら、わたしは相手の死角に移動しようとするが、既に捕捉されていたようで群青法衣もその動きに合わせて鏡面をこちらに向けてきた。


 ――鏡がトラウマになりそうだよ、まったく……!


 もう一生分は鏡を見た気分になり、次の一手を考える。考える……が、どうしたらいいのか、有効な手立てが底をつきかけてきた。


 ……もう一度、整理しよう。


 わたしの攻撃は、あの鏡面に触れると同時に反射されて返ってくる、と結論付けていいと思う。わたしが鏡面外からいくら攻撃しても、群青法衣はそれを鏡面に触れさえさせてしまえば、鏡面先の場所へと攻撃を逸らせるというわけだ。必ず鏡面部で防御するという条件があるとはいえ、絶対的な盾と言えるだろう。


 これのせいで、わたしはさっきから積極的に攻勢に出れないでいる。こんなにフラストレーションの溜まる攻防は久しぶりかも……。


 次に群青法衣の攻撃はイマイチ原理が不明瞭だ。しかし攻撃の導線はいつも鏡面の延長線上――というのは、ほぼ間違いないと思う。そしてその攻撃は予兆も気配すらも感じさせない、不可視の一撃となって襲ってくる。


 これを防ぐ手段は今のところ、回避だけだ。


 奴が念じただけで鏡を通して攻撃が来る――という無茶苦茶な話ではないと思う。今の所、奴からの攻撃を視覚で捉えた際に、何かしらの予備動作が見られたからだ。その全ては鏡の陰に隠れた奴の右手から右肩にかけて、確認することができた。動作そのものは軽く手を伸ばす程度のゆったりとした動作だけど、不可視の攻撃がくる際は必ずそういった何かしらの動作が行われているのだ。


 だからこそ回避が可能だ。


 群青法衣の右肩が僅かに揺らめくのを確認し、わたしは即座にその場を横跳びで逃れる。1秒切るかどうかぐらいの時差で、わたしがいた位置……の後方にある建物に鋭利な傷が出来上がるのを横目で確認した。まるで巨大で鉄すらも切り裂く大剣で刺突したかのような、なだらかなあとだった。


「チッ、チョコマカト……」


 何度も回避されたせいか、群青法衣は舌打ちと共に鏡を持ち上げ、一歩こちらへと進み出る――のではなく、一歩二歩と引いていった。


「――――」


 普通に考えれば、相手に攻撃を与える確度を上げるならば、接近することが定石だ。近距離・遠距離に限らず、命中率というものは近ければ近いほど、高くなるものが多い。……物理法則に則った話に限っては。



 …………遠近法?



 ふと、わたしは鏡面に映った自分の姿を見て、その言葉が思い浮かんだ。


 わたしが放った氷塊は、鏡面反射した際、その大きさよりも数倍も範囲の広い衝撃となって返ってきた。


 それってつまり「鏡に映ったわたし」と「鏡面に触れた氷塊」の関係性がそのまま来ているってこと……? ちょっと待って……もしその法則が反射だけじゃなくて、アイツの攻撃にも適用されるんだとしたら……っ!


 ――遠ければ遠いほど、的は小さく鏡面に映る世界は広くなる。すなわち奴の攻撃はより広範囲となり、わたしの逃げ道は狭くなっていく!


 的が小さくなれば逃げ場所が多くなると錯覚しがちだが、このケースは違う。


 そもそもあの鏡面に映し出されている範囲全てが危険区域なのだ。その区域が拡大するだけでも危険だというのに、相手は攻撃範囲を大きくするわ、わたしは相手の攻撃の初動が読みづらくなると、悪いことばかりだ。


 でも裏を返せばっ……接近戦に勝機があるってことね!


「ふっ!」


「!」


 わたしは頭を低くして、地を這うようにボロボロの街道を駆け抜ける。


 何で今まで気づかなかったのか、自分の頭を叩きたくなる。相手が鏡を後生大事に抱えながら、その鏡面に映った相手を襲うというのならば、小回りの利く接近戦こそ、最も有利に立ち回れる間合いだ。特にわたしには<身体強化テイラー>がある。並みの人間ならば、あの常人ならぬ法衣の動きに勝てないかもしれないが、わたしなら別の話だ。


 再び法衣の右半身に初動が見られる。


 同時にわたしは横にずれ、後方で抉れる地面を置き去りにし、一瞬にして間合いを詰めていった。


 あと2秒で目と鼻がくっつく間合いまで近づける。


 そう思って、軸足で大きく地面を蹴ろうとして――わたしの視界が急に切替わった。


「えっ!?」


 身体のバランスが大きく崩れた。それは間違いない。けれど何故……?


 気付けばわたしの足元の地面が大きく隆起し、まるで生き物のようにうねりながら、上にいたわたしを上空へと放り出していたのだ。平衡感覚が狂い、重力に逆らう浮遊感と共にわたしは眼下に佇む群青法衣に対して、思わず目を剥いた。


「愚カ」


 そう切り捨てた群青法衣は、ほくそ笑んだような口調を滲ませながら、わたしを仰ぎ見る。


「ソコラノ小娘トハ別格ノ、知能ト戦闘経験ヲ持ッテイルコトハ認メヨウ。ダガ、ソノ上デ、俺ハ愚カト断ジヨウ」


 宙に浮いたわたしを取り囲むようにして、土壁が左右上下後ろに展開される。月の光を遮る影に、汗が頬を流れ落ちる。まるで……わたしが使った魔法のように、法衣の命令を聞いた街道の土は、わたしの逃げ道を塞ぐように聳え立つ。


 唯一の道は前方のみ。


 群青法衣が鏡を向けて待ち構える、前方のみだ。


「俺ノ能力ガ、コノ鏡ダケダト思ッタカ? ケケケケ、浅イ浅イ。俺ハ、最上ノ御方ノちからヲ基準ニ生ミ出サレタ、合成人キメラダ。故ニ『土棲どせい』ノ名ヲ冠シテイル。分カルカ? 俺ニトッテ、土ヲ操ル程度ノコト、造作モ無イノダ。…………壱号ホド精密デハナイガナ」


「…………っ!」


 まずい、まずい、まずい、まずい、まずいっ!


 すぐにこの場を脱出しないと、拙すぎる!


「風ヲ使ッテ脱出スルカ? 良カロウ……ソノママ向カッテクルガイイ。ソレトモ、周囲ノ壁ヲ壊シテ、ソコカラ抜ケ出スカ? 構ワナイガ……ソノ際ハ、手足ノ一本ト別レヲ済マシテカラ、行ウガイイ。モットモ――ドノ選択肢ヲ選ボウト、結末ハソウ変ワリナイガナ」


 前方に向かっていくのは論外だ。かといって、土壁を破壊している隙に、わたしは奴の攻撃を真っ向から受けることになるだろう。まさに飛んで火にいる夏の虫。わたしは自ら死地へと飛び込んでいったという事実を今更ながら、実感した。


「マズハ足ヲ削グカ。ケケケ、順番ダ。順番ニ部位ヲ切リ離シ、絶望ノ渕デ、泣キ喚ク姿ヲ俺ニ見セテクレ……!」


 か、壁をっ……魔法で即席の壁を作って――――――――――駄目、間に合わないっ!?


 わたしは無駄だと分かっていながら、両手を眼前で交差させ、来たるべき死神の鎌を覚悟した。


 その瞬間、


「グァーーーッ!」


 猛りを帯びた、聞きなれた鳴き声が夜空に響き渡る。


「ナニッ!?」


「えっ!?」


 わたしと群青法衣は同時に顔を上げ、法衣の斜め後方の上空から滑走してくる白い存在に目を見張る。


「ハ、ハクアっ!?」


 何故か四枚の純白の羽を生やしたハクアは、わたしが見たことのない激情を宿した瞳で口を開き、そこから蒼い炎を吐き出した。


「ヌッ!?」


 群青法衣はその炎を飛んで避け、鏡面をわたしからハクアへと向ける。その右手には月光を反射するナイフが握られていた。最悪なことに群青法衣はさらに距離を後方に取り、わたしの側面にある土壁の裏側へと姿を消していった。


 その光景にゾッと背筋が凍る感覚が走った。


 ドクン、と前世までの冷静なわたしが言う。


 ――今、敵の鏡面はハクアを向いている。側面を叩けば、あの鏡を破壊することが可能だ。


 ドクン、と今生で温かな「家族」に近い空気を3年間過ごしたわたしが叫ぶ。


 ――駄目! それではハクアが死んでしまう! それは駄目……あのフルーダ亭で培った温もりを――誰一人、欠けさせたくないっ!


 群青法衣が飛びのいたため、距離はわたしから見て、滑空してきたハクアの方が近くなってしまった。土壁が邪魔をして群青法衣へ魔法による牽制を放つこともできない。つまり、ハクアへの攻撃が行われる前に奴の鏡を叩き割ることは事実上、不可能に近い。


 土壁を破壊して瓦礫による妨害をするか、それとも土壁そのものを操って群青法衣の目の前に壁を再建するか――駄目、死角に入ってしまった法衣の正確な位置がつかめない。気配も乱れた心では冷静に探知することもできない。


 わたしは迷わず魔法で風を制御し、ハクアの元へと飛んだ。


 ハクアは向かってくるわたしの姿を捉え、僅かに喜色を示すも、敵とみなした群青法衣との徹底抗戦を止めるつもりはないようだ。グルル、と唸り声をあげながら、その口腔から青白い炎を漏らし始める。


 わたしの脳裏に、四肢を断たれるハクアの幻覚が見えた。


 駄目、駄目だよ……それはさせない。……前世までのわたしが、今のわたしを見たら鼻で笑うかな。心が幼くなって、温かい環境で長年住み着いただけで、こんなにもわたしは弱くなった。今から行う行為がどれほどの悪手か……頭では理解しているというのに、わたしの心がその選択を取ろうとしている。


 本当に弱い。


 でも、その弱さを否定するつもりも、捨てるつもりもない。この弱さは――この世界で生きるセラフィエル=バーゲンを構築する、大事な歯車なのだから。


 たとえ苦境に立たされようとも、最後にはその弱さも抱えて、乗り越えてやるわよ!


「ハクア!」


 わたしは左手を伸ばす。


 そして状況を掴めないものの、群青法衣へと追撃をしようとするハクアを、強引に「その場」から押しのけた。



「――馬鹿メ」



 地獄の底から響き渡るような、死を運ぶ聖職者の嘲笑染みた声と同時に――わたしの左手首に、一筋の線が走った。


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