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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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47 グラベルンの死闘 その5

ブックマーク、ありがとうございますっ(*^-^*)


いつもお読み下さり、感謝しております♪(*´▽`*)

 ドォン、と低く重い音が大気を震わせたのは、わたしが土壁を展開後に場を離脱して5秒と経たない時だった。


 今日一番の破壊音に、思わず音源の方へと視線を向けた。


「なっ……!」


 わたしの造りだした土壁を壊すにしては、やけに音の方角が上の方だと思えば、なんと――さっきわたしが壁をぶち抜いた家とは別の建物の上層階から土煙が上がっており、強い衝撃を受けた跡を残して瓦解していた。


 原因は言わずもがな、あの群青法衣だろう。


「なにがっ……目的!?」


 倒壊した家屋にわたしの影でも見たのか。


 それとも他にその家屋を攻撃する理由がこの数秒間の中にあったのか。


 いや――わたしの見立てでは、アレは快楽殺人者に近い性質を持っているように感じた。言動からして間違いないと思う。ああいった連中は過去の経験から鑑みて、常軌を逸した行動に出やすいものだ。自分の行動理念に従い、目的を果たすために手段は選ばない――そういう側面を持つ奴が、姿を眩ませたわたしという目的を探すためにすることと言えば何か――。


 瓦解した建物から叫び声などが聞こえ、わたしは背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。


 さっきわたしと群青法衣が突っ込んだ家屋、その主人が姿を現した時、わたしは彼を庇うような行動に出たことは、当然目の前にいた奴も知っている事実だ。


 であれば、奴の中の「わたし」の像には「関係のない住民を巻き込みたくない」という項目が書き加わっている可能性が高い。


 わたしは改めて、群青法衣が破壊したと思われる家屋を見上げる。そんなわたしの心を逆撫でするように、今度はまた別の家屋の屋上部分が、不可視の力に粉砕されていく。


「……あ、あいつっ……!」


 確信が走る。


 屋上部に近い場所ばかりを破壊するのは、わたしがどこに隠れていても、その様子を見ることができる効果を狙ってのことだろう。


 ――これは意味のない破壊だ。


 悪意と卑劣、その要素が絡み合った反吐の出る――炙り出し行為だ。


 言葉にせずともしっかりと聞こえてくる。


 隠れてないで出てこい。さもなくば、無駄な死人だけが増えていくぞ――と。


「こういう手合いはっ――、大嫌いよっ!」


 わたしは踵を返し、次の破壊活動が行われる前に群青法衣のいた場所へと駆ける。


 願わくば、先ほど崩落した場所に人がいないことを祈るばかりだが、安全を確認している暇はない。奴の凶行を止められるのは、わたししかいないのだから。


 わたしが作った小型の塀のような土壁は一部だけ崩れているだけのようで、わたしは抉れた個所に手をつき、軽く飛んで向こう側へと着地する。


 そして顔を上げた先――ほぼさっき見た位置から動いてない群青色の法衣をまとった敵の姿を睨みつけた。


 群青法衣は崩落した家屋から、わたしへと体の向きを変え、相変わらず巨大な鏡を地面に突き立て、ゆったりとした動作でこちらを見据えてくる。


 同時に何かしらの衝撃を受けた家屋の天井部が、大きな音を立てて隣の家屋との間になだれ落ちていった。


 轟音と土煙が舞う中、何食わぬ様子で群青法衣は口を開く。


「随分ト早イ、オ戻リジャナイカ」


「……っ、アンタがそうさせたんでしょう!」


「ハテ、俺ハ逃ゲタ、オ前ヲ探スタメニ、闇雲ニ攻撃ヲシテイタダケナンダガ? アァ……ソウイエバ、サッキ倒壊シタ家。アソコノ最上階ニハ、人ハ……イナカッタヨウダナ。ケッケッケ……残念ダ。イヤ、急イデ戻ッテキタ、オ前ニハ嬉シイ報セ、ダッタカナ? ケケケケ……」


 あぁ、何度も言うけど、本っっっっ当にこういう奴は大嫌い! 文字通り、反吐が出るわ。これでわたしがコイツから一時でも逃げるという選択肢は潰されてしまった。


 一番の最善策は場所を変えることだ。


 相手の能力の全容が掴めていない今、さっきの氷塊みたく下手に攻撃をしかけるわけにはいかない。でも、最初に突っ込んだ家の最上階から風で押し出すことができたのも事実。


 なにか……なにか、あるはずだ。


 相手が反撃ないし攻撃・防御ができない――そのタイミングが。


「……」


 沸騰する頭に冷や水をかけるイメージをし、わたしは苛立ちに荒ぶる思考を何とか落ち着かせようとする。前世までならこんな状況に陥っても感情が昂ぶるだなんてことにはならなかったけど、やはり幼いわたしの精神は揺れ幅が大きいようだ。


 まず第一に、わたしの魔法――風圧をもろに喰らった時を思い返す。あれが今のところ、唯一相手に攻撃が通った瞬間だからだ。


 あの時、群青法衣が屋根に穴の開いた部屋に入ってきた主人に向かって鏡を向けた直後だった。わたしは主人への攻撃を止めさせるために咄嗟に魔法を使ったわけだけど、それは目論見通り叶ったわけだ。なぜ叶ったか?


 思い返せば、群青法衣は一度、こちらに鏡面を向けようとした動作をした気がする。けれど途中でその行為を止め、逆に鏡をかばうようにして身を丸めた。風圧を全て受ける覚悟を決めたかのように。同時にその衝撃で鏡が壊れないよう、守るかのように。


 ――確か、わたしの魔法の方が一歩早く横を向いた群青法衣に届いていた。あの時、アイツはわたしが<身体強化テイラー>の使い手だと思っていたからこそ、遠距離攻撃に対する警戒が薄くて、隙も大きかった。だからわたしの魔法への反応が遅く、鏡面をこちらに向ける前に風圧が届いたのだ。


 やっぱり……あの鏡面がアイツの能力を解く鍵になるのは、間違いない。


 わたしの氷塊を反射した時も、鏡面をこちらに向けていたし、氷塊が鏡面に吸い込まれたと同時に、わたしに「不可視」の衝撃が返ってきた。「不可視」だ。その前も……見えない何かに掴まれたり、吹き飛ばされたり。でもその際は鏡面に何かが触れた様子はなかった。ただ鏡を盾のように配置した群青法衣がいただけだ。


 鏡がヤバい存在だということは確定だけど……まだ、何かあるような気がする。


「ドウシタ」


「!」


「鼻息荒クシテ、帰ッテキタ割ニハ、向カッテ来ナイノダナ」


「…………貴方を倒す手段を講じていた、だけですよ」


「ケケ、ソウカ。ダガナ……戦場トイウモノハ、ソンナ悠長ニ物思イニ耽ラレル程――甘クナイゾ」


 鏡の陰に隠れるように佇む群青法衣の肩が僅かに揺れる。何かしらの予備動作にわたしは反応し、すぐにその場――鏡の反射世界から逃げるように横へと飛びのいた。


 瞬間――わたしがいた空間がねじ曲がり、なにかに握られたかのような不可視の力が街の道を抉った。


 まただ。


 アイツはこちらに向けている鏡面に何かをしたわけではない。だというのに、地面が抉れた。例の謎の見えない力によって。


 わたしはすぐに群青法衣のいかなる行為も見逃さないよう、観察に意識を集約させる。


「フン、逃ゲ足ダケハ褒メテオイテヤル」


「そりゃどーも」


 再び鏡面がこちらに向かれ、同時にわたしは今度は魔法を行使する。


 わたしの眼前に、わたし自身を覆い隠すほどの土の壁を展開する。


「ムッ」


 壁の向こうから群青法衣の反応する声がしたが、それは一切無視。


 わたしは次いで魔法の重ね掛け――融合魔法を施行。右手に持っていた短剣を瞬時に高熱で溶解し、風を操作して土壁の前面に液状化した金属を塗りたくり、瞬時に冷やして固定する。そして左手で小さな光球を作り、それをわたしと群青法衣の中間地点の上空に浮遊させる。


「……!? 何ノ、ツモリダ!」


 次々と起こる現象の数々に、僅かに群青法衣の声が上ずる。その様子にふん、と鼻で息を出しながら、わたしは相手の出方を待つ姿勢をとる。


 わたしが作ったのは簡易的な金属製の鏡だ。融解して液状化した金属を土壁に塗り、それを疑似的な鏡としたのだ。従来の精度の高い鏡は、このような時代遅れの金属鏡ではなく、特殊な加工技術があったような気がしたけど、わたしは別に職人なわけではないので、この程度が限界だ。……昔、魔法に凝っていたときは、表面の鉄分を微調整し、光の反射角度を絶妙に変えては映り具合を確認するという反復作業をして、本物の鏡のような逸物を作った時もあるけど、今はそんな時間はないから、即席で十分だ。


 あとは上空の光球で、反射が弱いわたしの即席鏡でも、正面を映せるように光量を高めたわけだ。


「…………ム、オ前、鏡ヲ……!」


 光球などに驚くも、すぐに冷静に分析を始めるあたり、この法衣も戦闘というものを良く分かっている。わたしが何を作ったのか正確に理解したのだろう。わたしの即席鏡を見て、口を噤む気配を感じ取った。



 ――さて、どう出る?



 合わせ鏡。


 今、わたしの目の前に佇む土壁の前面には、姿見ほどの鏡を構える群青法衣の姿が映っているはずだ。つまり、奴の鏡面に映っているのはわたしではなく、即席鏡に映る群青法衣と鏡というわけだ。


 もし奴がわたしの即席鏡を避け、別の場所に移動し、合わせ鏡にならない位置から攻撃をしかけようとするならば――この手段は有効だという裏付けになる。奴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という事実を自白をさせたことになる。


 けれど――もし、奴が合わせ鏡に何の動揺も躊躇もなく、攻撃をしかけてくるならば…………奴の鏡の攻撃とはいったい何なのか、再考をする必要性が出てくるわけだ。


「――ケケッ」


 僅かな笑い声をわたしは聞き逃さなかった。


「くっ!」


 足の指に力を入れて、全力でその場から離れる。と同時に、背後で即席鏡がまたしても不可視の力によって粉砕される様子を肩越しに確認することができた。


 これで一つ、奴の能力の証明が行われた。



 アレは鏡に反射しているものを攻撃するのではなく、奴が持っている姿見に映りだされているものを攻撃している――――のだと。



 これは類似した話のようで、実際のところ、かなり内容が違う。反射しているものと、映っているもの。その表現の違いは似て非なるものだ。


 もし鏡の世界、可視光線で構成された世界があると仮定して、そこを辿って攻撃しているのであれば、奴は合わせ鏡に脅威を感じたはず。光の反射は合わせ鏡によって自分自身を映す結果となり、もしそれが攻撃経路なのであれば、攻撃は即ち自身への攻撃になるからだ。


 でも奴は関係なく、わたしの即席鏡を破壊した。


 攻撃手段を変えたわけでもなく、同様の不可視の攻撃によって、だ。


「…………本当に厄介な相手ねっ」


 舌打ち交じりに態勢を整え、顔を上げる頃には再び奴も鏡面をこちらに向けていた。


 またしても睨めっこ。


 わたしだけが圧倒的な不利という前提の、睨めっこだ。


 魔力も……おそらく半分を切っている。あまり悪戯に戦いを伸ばすことは己の首を絞めることと同義だ。



 ――考えろ、あの群青法衣の攻撃手段を。そして対処法を……!



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