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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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45 グラベルンの死闘 その3【視点:ドゥゾーラ=パラディン】

たくさんのブックマーク&ご評価、大感謝です!(* '∀'人)

そして、誤字報告もありがとうございます!! なぜだぁ……誤字を撲滅することができない(ノД`)・゜・。

本当に報告してくださり、感謝しておりますm( _ _ )m


まだまだ戦闘パートが続きますが、お付き合いくださりますと幸いです(苦手な人はすみませんっ!)

 キィン――と耳鳴りがしたと思えば、張り詰めていた糸が緩むような感覚が指先を通る。


「…………ふぅん、やるなぁ」


 グラベルンで最も高い建造物――領主の館の一室。月の青白い光に照らされたバルコニーの一画で、僕は中指と親指を擦り合わせながら、人形を撃退した精霊上位種に賛辞を贈った。


 道中、誰かさんの所為で、盗賊だのなんだのと不測の展開はあったものの、彼女たちが王都最寄りの街、グラベルンに立ち寄ってくれたのは僥倖であった。


 あのまま外を旅し続けられていたら、間違いなく肆号はねちっこく後を付け回し、襲撃と監視を繰り返していたことだろう。あいつの性格だ。きっとコルド地方につくか、心が折れて王都に帰還しようとするまで、嗜虐心を満たすための行為に耽っていたに違いない。


 旅先で一人ずつ、ゆっくりと、百足の足を切り落とした時のように削り取っていく。その過程で対象を恐怖と混乱に陥れ、呆然自失となるか錯乱するまで追い詰めていくのだ。対象が正気を失うまでの移り変わりを愉しみ、壊れれば破棄する。そんな悪質な遊びに東の果てまで付き合うつもりは僕には毛頭ない。


 だから「最上の御方」の名を出して、無理やりこの都合の良い街で襲うよう、肆号に命令した。気軽に口に出して良い御名前ではないが、無駄に任務を間延びさせるよりは許されるはずだ。しかし流石というか、あの猪のように言うことを聞かず、やることは鬼姑のように粘着質な肆号ですら、その名を出せば従う他なかった。改めて「最上の御方」の偉大さに胸を打った想いである。


 さて、あの宿の店主を気絶させ、地下の食物庫に放り込んだ後、僕の人形に店主を擬態させるところまでは予定通りだったけど、まさかあの娘自身が単身でついてくるとは思わなかった。普通、子供一人に行かせるか、と思ったが、良く考えてみれば抹殺命令が出るような子供が普通なわけがなかった。


 予定は狂ったものの、機転を利かせて人形に彼女を外におびきさせ、後の処理は肆号に任せることにした。万が一にも奴が敗けるような事態はあり得ないだろう。


 残った精霊種――クルルとかいう上位種は自分へのご褒美にと、連れ帰って楽しもうかと思ったけど、予想外な反撃に僕の泥人形は修復不可能なレベルまで破壊されてしまった。精霊種の一部は不思議な力を操るって聞くけど、それは本当の話だったようだ。


「うーん……あの美しい姿。あぁー……欲しかったなぁ」


 外套の奥深くから覗かせたクルルの素顔は、どんな美女と比較しても、比類なき美しさと可憐さを誇っていた。いずれは全て「最上の御方」の物になるのだから、その際に御目こぼしを貰えればいいんだけど、やっぱり目の前に美味しいものがぶら下がっていたら、取らねば損だ。そう思って、店主に化けた泥人形を子供に転化させ、連れ帰ろうと思ったんだけど、見事に失敗してしまった。


 泥人形の再生成には、発動後待機時間リキャストタイムの4~5時間ほどの時間を要する。それまでは僕は何もできないってことだ。


 はぁ……諦めるしかないかぁ。


 精霊上位種を捕まえられる機会だなんて滅多にない絶好のものだけど、欲を出し過ぎて足元を掬われ、その失態が「最上の御方」の耳に届くなんて最悪の事態を考えれば、ここは素直に諦めるのが最善だろう。


「あ、あの……ドゥゾーラ様」


 不意に部屋の中から名前を呼ばれ、僕は思考を邪魔されたことに苛立ちを覚えながらも「なんだい?」と言葉を返した。


 今日は雲も少なく、月灯りが綺麗だったため、室内の燭台は全て火を消している。故に部屋の暗がりから徐々に輪郭を浮かび上がらせる――みすぼらしい初老の男の顔はどこか怪奇染みていて、不気味なものだった。


 僕の思考は、先ほどまで思いを馳せていたクルルの美しい容姿で埋め尽くされていたというのに、眼前の骨ばった貧相な男を見た瞬間、意識がそちらに集約してしまい、すっかりクルルのイメージが追いやられ、この初老の男のイメージばかりが頭に浮かんでしまう。そのことに僕は眉間に皺を寄せながら、盛大にため息をつく。


 月灯りがより一層、男の顔色を青く映し、その形相はもはや幽鬼そのものだ。気味が悪い。あぁもう……なんで僕の周りは、合成人キメラといい、こんな奴ばっかなんだよ! もっと華が欲しいよ、華がっ! 


 それに比べ……向こうは男二人に女四人。


 いいよなぁ……クルルは絶世の美少女だし、抹殺対象じゃなけりゃあの銀髪の少女だって相当な容姿だ。侍女風の子もあどけなさを残しつつも美人顔だし、亜人の子だって活発的な印象だけど顔立ちは整ってるし……くそっ、あの野郎二人は絶対に呪ってやる!


「ドゥ、ドゥゾーラ様?」


「うっさいなぁ……なにか用なのかよ」


「ひっ……あ、いえ……その」


 おどおどと言葉途切れ途切ぎれにする男――この街の領主であり、ヴァルファラン王国の正式な貴族の一員であるキケラ子爵は、僕の神経を逆なでする訓練でも受けているのか、これでもかっていうほど苛立たせる挙動……両手の指を忙しく動かしたり、視点をギョロギョロと動かしたりしながら、ようやく口を開いた。


「あの、大丈夫、なのでしょうか……?」


「なにが?」


「れ、例の……法衣を纏った方々の、ことです」


「あぁ、敗けることは無いから安心していいよ」


「で、ではなくですね……その、街の被害などは、大丈夫なのでしょうか……?」


 あー、そっちの心配か。


 僕はそこでようやくキケラ子爵の目を見て、顎に指を這わせて言葉を選ぶ。


「ま、大丈夫なんじゃない?」


「そ、そうですか」


 あからさまにホッとした表情を浮かべるキケラ子爵に、僕は無情な言葉を続けた。


「ほら、その辺の森に隠れ住んでいた盗賊たちが襲撃を仕掛けてきたとかさ、そういう話にすれば、多少の死人や被害が出ても大丈夫っしょ。国王への報告をどういう風にするかって部分は、ほら、アンタの腕の見せ所ってやつだよ」


 ポンポンと自分の二の腕を叩きながら、微笑んでやると、キケラ子爵は血相を変えて「そ、そんなっ!?」と声を荒げた。


「それは困ります! 上告制度があるのですぞ! 私がいかに誤魔化そうと、直に領民から王都へ上告をされてしまっては、それを防ぐ手立てはありませぬ!」


「はぁ?」


 バルコニーに足を踏み入れ、よろよろと近づくキケラ子爵に、思わず僕は肩を竦めた。


 ――と同時に、遠くで何かが崩落するような音が響いた。


 僕とキケラ子爵は同時にその場所へと視線を向け、遠くの建造物の屋上から僅かに土煙が舞っているのを確認することができた。


「なっ……なっ……!」


「一応、肆号も壱号も、派手な壊し合いじゃなく、どっちかというと暗殺に向いた能力なんだけどね。だから……お相手さんが無為な抵抗さえしなければ、被害は最小限に済むと思うんだよねぇー」


「じ、実際に被害が出てるじゃないですか!」


「知らないよ。文句は死という決定された未来に足掻こうとする、抹殺対象たちに言ってくれよ。それにさ――――」


 僕はバルコニーの手すりから体を離し、並んで崩落の光景を見ていたキケラ子爵の肩に腕を乗せる。そして嗤いを浮かべながら、耳元でささやいた。


「…………国王が死に、王国の全てがあの御方の手中に収まった時、アンタも新しい立場として甘い汁を啜りたいんだろ? だったらここが堪え時だと思わないかい? 時間だ。時間さえ稼げばいいんだよ。王都が陥落するまで、隠し通せばいいんだ。そこまで持ちこたえれば、アンタの勝ち。違わないかい? 今回、この街を貸してくれたことは僕からきちんと『最上の御方』にも伝えておくからさ」


「……ぁ……あぁ」


樹状組織うちとさ、手を組んでいる時点でアンタはもう、王国の人間じゃないんだよ。よぉく考えるんだ……未来を見据えて、ね? 何が重要で、何が不要か。その選択がアンタの輝かしい未来を引き寄せるんだ」


「は……はい……」


 キケラ子爵はようやく自身がもう抜け出せない網の中に、入り込んでいることを理解したのか、虚ろな目を浮かべながらも、ゆっくりと笑みを浮かべた。


「そう、あの『最上の御方』が消せと命じた人間がこの街にいる。だったらやることはただ一つだろ? 結果は確定しているんだ。それを覆すことはできない。アンタは結果をどうこう言うんじゃなく、その過程で生じた問題をどうするかに頭を割くべきなんだよ。わかる?」


「わ、分かります……」


「うんっ、いいね! なぁに、もし隠蔽に必要な人柱があるなら言ってよ。その辺の森から盗賊なり何なり、適当に拾ってきて、今回の騒動の犯人として仕立て上げてあげるからさ」


「そ、それは助かりますな……そうだ、私は、もう……悪魔に魂を売っていたんだ。ははは、な、なにを迷っていたんだ……」


 ドォン、とまた別の場所で振動が起こる。先の崩落場所とは少し離れた位置のようだ。


 どうやら……肆号だけでなく、壱号も敵と接触したようだ。と思っていたら、肆号が戦っているであろう場所から、連続した轟音が響き渡る。肆号の能力を考えると、あまりこういった破壊を繰り返すような事態は少ないはずなんだが……こりゃ、あの子、上手いこと逃げた感じかな? で、肆号は炙り出すために周囲を破壊し始めたって展開だろうか。


 んー、騒ぎが大きくなってくると、いくら代役とうぞくを並べたところで、隠蔽が難しくなってくるなぁ。どうしても肆号たちの目撃証言っていうものが増えてくるからね。


 寝静まる夜の時間だが、これだけ大きな音がたて続けに起これば、誰だって目を覚まして外に顔を出してくることだろう。その際に肆号たちの姿を見た領民が、果たして盗賊の起こした騒ぎと言って信じるだろうか。その可能性は低い気がするなぁ……うん。


 僕はスッと後方に身を引き、未だにバルコニーの柵に両手を置いて、遠くの土煙を眺めるキケラ子爵の煤けた背中を眺める。




 ――まっ、最悪、街そのものが無くなるような事件が起こっても仕方がないよね。



 気付けば僕は、三日月のように口元を歪めて、嗤っていた。


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