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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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44 グラベルンの死闘 その2

この度は素敵なレビューをありがとうございます!嬉し泣きっ!(ノД`)・゜・。

そしてブックマーク・ご評価、本当にありがとうございました(*´▽`*)


お読みいただき、いつもありがとうございます♪

 ぽっかり横穴が空いた家屋を飛び出し、わたしは僅かに足裏に空気圧を生じさせて、着地の衝撃を和らげる。


 もしかしたら、吹き飛んだ衝撃で気でも失ってくれてないかなぁ~、なんて淡い期待も抱いていたのだが、群青法衣は道脇に並ぶ篝火の光に照らされながら、ゆっくりと身体を起こしていた。


 完璧にノーダメージなご様子で。


 わたしたちが飛び降りた場所は一般家屋の三階に当たる高さだ。わたしのように魔法を使うか、そういった衝撃緩和に特化した恩恵能力アビリティでも持っていない限り、それなりに深刻なダメージを負ってもおかしくない高低差があるはずなのだが――この法衣の連中に関しては、人と同じ括りで考えない方が良いみたいだ。


「……妙ナ娘ダ。貴様、人ノ身デアリナガラ、二ツ以上ノ能力ヲ、持チ合ワセテイルトイウノカ……?」


「……」


 答える義理はないので、わたしは無視して短剣の柄をくるりと回して持ち直す。


「――ケケッ、ナルホドナァ。タダノ<身体強化テイラー>如キニ、水棲ガ敗北スルナド、アリ得ヌト思ッテイタガ、ヨウヤク腑ニ落チタゾ」


 すいせい?


 何を指しているのか分からないけど、今は目の前のコイツの動きに対応するのが何よりも優先事項だ。


 あの巨大な鏡が怪しいと踏んでいるも――二度、わたしを掴んだり吹き飛ばしたりした謎の不可視の攻撃にどう繋がるのか、未だに解明できていない。ただ……鏡という物の特性を考慮すれば、注意すべき点は一つ。()()()()()()()()()()、気を付けることだ。


 鏡に映ったものをどうにかする能力?


 そんな馬鹿げたものが……たとえ恩恵能力アビリティ絡みだったとして、あるのだろうか? いや……既にわたしは見てきたはずだ。レジストンの<模写解読システィダック>も、メリアの<連記剔出インヴァリオス>も、既にわたしの中の常識や法則を逸脱した――摩訶不思議な力だ。それこそが恩恵能力アビリティの真髄であり、固定観念を捨てて警戒するのが最善だろう。


「……」


 ジリ、と地面を爪先で擦ると、その動きに反応して群青法衣も鏡面をこちらに向けたまま、わたしを観察してくる。まるでわたしがどう動こうと対応できる、といった余裕が見られ、そのことに少しだけ不満を覚えてしまう。


 このまま<身体強化テイラー>を駆使して、高速機動による波状攻撃をしかけるべきか。上手く行けば、鏡にわたしが映し出されるよりも早く動き、相手に決定打を与えられるだろう。けれども先の一合で分かる通り、相手の基礎身体能力も人間離れしたものだ。万が一、わたしの<身体強化テイラー>を上回る動きをされた時……接近戦では回避する間合いが無く、手痛い反撃を喰らう危険性もある。


 ここは一つ、試してみようかな。


 ――仮に鏡が相手の攻撃手段だっていうなら、それを壊してしまえさえすれば戦局は大きくわたしに傾く。近距離戦に持ち込んで致命傷を貰う危険性を生むよりは、まず手探りの一手を放つ方が有効的だろう。


 わたしは右手に魔力を集中させ、宿の二階をぶち抜いたものと同じ小さな氷塊を二つ、生成する。その様子を見ていた群青法衣は僅かに肩を揺らし「……風、ダケジャナイノカ」と呟くのが聞こえた。多少の動揺は誘えたのかもと、わたしは少しだけ挑発的な笑みを浮かべ、直後に群青法衣の持つ鏡へと氷塊を撃ち込んだ。


 あの鏡がどんな役割を担っているのか、氷塊が防がれたとしても、その一端は垣間見れるはずだ。回避行動に出れば氷塊等による遠距離攻撃が有効であることが分かるし、迎撃に出るのであれば相手の攻撃手段を見極めるチャンスにもなる。氷塊がそのまま跳ね返ってきたとしても、この距離なら十分躱せる距離でもある。


 そう考えての一撃であったが、群青法衣は微動だにしない。


 闇夜の中、篝火による灯りしかない大通りの中心で、法衣を深くまで被った奴の表情を読み取ることはできない。しかし奴から滲み出る気配はまるで――「馬鹿め」と嘲笑を浮かべているように感じた。


「――――」


 わたしは目を凝らし、群青法衣の挙動を注視する。


 同時に氷塊はついに鏡面へと激突し――――――――鏡面を割るのではなく、まるで水の中に吸い込まれるようにして、音も無くその姿を鏡の中へと消していった。


 刹那。


 ミシ、と嫌な音と共に、わたしの右腕と左腹部がへこむ。


「っ…………ぁがっ!?」


 何も存在しない空間に押し潰される感覚。そしてまるで重たい塊を勢いよく投げつけられたような鈍痛が患部を襲い、思わず口元を歪めて呻きを上げてしまった。


 慌てて身体を捻って衝撃を逸らそうと判断するが、まるで「右腕と左腹部に衝撃を負った」という()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように――向きを変えてもそのダメージは同じ箇所に留まりつづける。


「っ…………!」


 わたしは衝撃に押されるように、後方に吹き飛び、路地脇の木箱に背中を強打する。身体の方向を変えたため、大通りに沿ってではなく、近くの建物の壁際の方へと飛ばされてしまった。はたから見れば、群青法衣とは関係のない何かに別方向から攻撃されて吹っ飛んだように見えるだろうが、紛うことなき明らかにこれは群青法衣による攻撃である。


 眩暈を堪えながら、操血そうけつを駆使して背部の内出血を止める。血を吐くことこそ無いが、筋肉に負ったダメージは操血そうけつではどうしようも無い。ズキズキと痛む背中に唇を結びながら、わたしは蹈鞴たたらを踏みながらも、未だ微動だにしない群青法衣を睨みつけた。


「はぁ……はぁっ…………!」


 立ち上がったことで分かったが、今の衝撃でダイレクトに受けた右腕と腹部もそれなりに傷を負ってしまったようだ。右足に体重を乗せると左腹部が突っ張ったように痛みが走り、右上腕二頭筋はじくじくと徐々に痛覚が刺激されていく感覚がある。


 ……今のは、ダ、ダメージの反射? まさか――鏡に触れた対象を反射させる能力なのっ? で、でも……わたしの放った氷塊は跳ね返るどころか、鏡の中へと消えていった。そして……まるで氷塊による衝撃だけが鏡面に映ったわたし自身へ跳ね返り、その衝撃は確定事項としてわたしの身体へと影響を及ぼした。そういう現象のように思えた。


「………………っ」


 しかしまだだ。まだ疑問が幾つか残っている。


 わたしの作った氷塊はさほど大きくない。手で握れば指の中に隠れてしまう程度の小粒のものだ。もしその攻撃そのものが反射されるというならば、同じ比率のものが返ってくるはずだ。だというのに、わたしの身体に撃ち込まれた鈍い衝撃は、明らかにわたしの頭部ぐらいの範囲があった。氷塊以上の巨大な鉄球でもぶつけられたかのような感覚。


 範囲も威力も倍返し、みたいな付与効果でもあるというのだろうか。


 不確定要素が疑問へと変じ、グルグルとわたしの脳内で混ざり合う。


 とにかく、ヤバい。


 あの鏡にわたしの姿が映ったままのこの状況はマズすぎるっ!


 反射、というだけならまだ対応のしようもある。しかし、もし……反射という性質ではなく、鏡に映った対象に対して「攻撃行為」を行った際に、そのダメージが対象に向かうと仮定したら? 奴が手に持っているナイフを鏡に突き立てるだけで――わたしの身体は両断される……!


 現にわたしから攻撃を仕掛けずとも、既に二度。謎の圧力をこの身で喰らっている。最悪の事態を想定して動かねば、気づいた時には死神がお迎えに上がってきている、なんてことになり兼ねない。


 わたしは関節を動かすだけで走る痛みを堪え、すぐに群青法衣――いや奴の持つ鏡の直線上から外れるよう、両足に力を入れて、その場から駆け出した。


「ム?」


 同時に、地面に足が接地すると同時に足裏から魔力を流し込み、土壁を展開する。わたしの姿を鏡面から隠すために。そして――わたしの逃走先を惑わすために。


 群青法衣、そしてわたしの両者の視界からそれぞれが消えた瞬間、わたしは姿勢を低くし、勢いよく方向転換をする。直後、わたしが身を隠す前の姿勢でそのまま走った状態を想定したかのような位置の土壁に、大きな直線に近い溝が突如出来上がる。


「こ、怖っ!?」


 あまりにも鋭利で滑らかな断層だ。


 亀裂すら入らないほどの衝撃だったようで、土壁は崩れることなくその状態を保ったままだった。あの断層の延長線上にいたら、わたしはどうなっていたのか。気になるところではあるが、無論、そんな死に直結しそうな検証を試す勇気はない。


 逆方向へと転換し、わたしは素早く近くの建物の影を伝い、群青法衣の死角から死角へと移動を繰り返した。


 数秒後、今度は鈍器で壁を砕いたときのような破砕音が鳴り響き、背後で土煙が上がるのが見えた。


 ――どうやら、わたしの作った土壁を破壊したらしい。


 振り返る余裕も無くなってしまったわたしは、とにかく少しでも身体を休められる場所を探すため、前だけを向いて細い路地裏へと身を隠していった。



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