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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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43 グラベルンの死闘 その1

ブックマーク、ありがとうございます(*´▽`*)


いつもお読みくださり、ありがとうございます~( *´艸`)

「っ――!」


 刃同士がせめぎ合いをし、嫌な金属音と共に火花が散る。


 テ、<身体強化テイラー>で強化しているはずなのに、押し敗ける……!?


 月下の中天に、月光を反射する凶刃と、それを受けるわたしの短剣。


 相手は謎の力で放り投げだされたわたしを追って加速していたため、重心は前のめり。進行方向のまま振り下ろされた一撃は、群青法衣の体重・腕力に加え、慣性による運動エネルギーも追加された重たい一撃となる。しかし並みの一撃ならば、わたしの<身体強化テイラー>を最大まで上げれば、たとえ宙で身を翻すのがやっとの体勢であっても、腕力だけで拮抗することは可能なはずだった。


 しかし、今は完全に力負け。


 徐々にわたしの肘は曲がり、腕が胸元に押し付けられる。ギリギリ、とわたしの短剣の刀身が顔付近まで押し込まれてくる。できればいなしたいところだけど、下手に力を抜けば相手の刃が喉元を貫く危険性が高い。今はこの間際を維持し、戦局を仕切り直せる地上に落ちるまで耐えきるのが正解だと判断する。


「ソノちから……ヤハリ、<身体強化テイラー>ノ能力者カ。ソノ柔腕やさうでデハ到底考エラレヌ膂力りょりょくダ」


 月光を背に、間近まで迫った群青法衣の零れ落ちそうな眼球が、わたしを見定める。わたしのことを柔腕やさうでなんて言うけど、そっちだって言うなれば幾千の樹齢を重ねたような枯れ枝のような腕をしているのに、その力強さは見た目に反して段違いなものだ。


「ぐっ!」


 わたしの短剣の上を相手のナイフが滑り、柄を握るわたしの指を切り飛ばそうと迫ってくる。わたしは刃の向きを肩と手首の動きだけで変え、滑り斬ろうとするナイフの刃と再び鍔迫り合いの格好へと戻した。


 群青法衣が背負う、巨大な長方形型の額縁に納まった鏡が肩越しに見える。何を考えてそんなものを背負っているのか意味が分からないが、その鏡像の先に見える景色から、あと数秒で地上に激突してしまうことが読み取れた。


「てやぁ!」


「!」


 わたしは<身体強化テイラー>の強化による筋力だけで右足を振り上げ、分厚い法衣を蹴り上げる。


 全身の力が分散してしまう体勢のため、従来の10分の1程度の力しか出せないが、それは相手も同じ。初撃こそ勢いに乗ったものだが、今は同じく宙を舞った状態のため、蹴りを受けた群青法衣は、その衝撃の向きへと体が傾き、わたしとの距離が僅かに離れた。


 その隙に身軽な利点を生かし、わたしはコートの裾を大きく広げた。多少の風の抵抗を得た上で、家屋の屋根の上に着地し、何度か屋根上を転がって勢いを殺した後、すぐさまその場から駆け出す。


 1秒後、近い場所に群青法衣が轟音を立てながら屋根に着地――いや、わたしと違って体重が重かったのか、そのまま屋根を突き抜けて階下へと落下していった。


「……」


 傍から見れば間抜けな光景だが、それを笑って見下ろす余裕は残念ながら――無い。


 家屋の住人に何かあってはマズイ。わたしはすぐに離脱姿勢から追撃姿勢へと切り替え、短剣を構えながら、群青法衣が開けた穴へと飛び込む。


 同時にわたしの視界に映ったのは――月を背に穴から降りたとうとしている、己の姿。


「鏡っ……、――――――――うぐっ!?」


 再び。


 例の不可視の力がわたしの脇腹を弾くように襲い掛かり、その衝撃に耐える手段はなく、わたしは階下の部屋にあったタンスに背中を派手に打ち付けた。タンスの扉が歪み、衝撃に耐えきれずに木片を散らす。


「が、はっ……!」


「フム、追ッテクルカ、ソノママ逃ゲルカ。ドチラヲ選ブカ、見物ダッタガ、ヤハリ追ッテキタカ。ケケケ、ジワジワト追イ詰メルノモ悪クナイガ、コウシテ、真正面カラ潰スノモ、嫌イデハナイ」


 鏡の淵に手をかけ、くるっとわたしの方へと鏡面を向ける。鏡には天井の穴から差し込む月光に照らされた、わたしの姿が映っている。どうやら鏡の後ろにいたらしいが、一体何をしたというのか。ググっと手に力を入れて、わたしは背中にジンワリと広がる痛みに耐えながら、群青法衣と対峙する。


 一つ、分かったことは。


 間違いなくあの不可視の力は、コイツが原因だということ。そしてそのヒントは――戦いという場に不釣り合いなあの鏡。あれに潜んでいるように思えた。


「ダガ、本来デアレバ、ユックリト……一人一人消シテイキ、絶望ニ染マリ、憎悪ト憤怒ニ駆ラレタ、オ前ヲ痛メツケ、泣キ喚カセ、最期ニ後悔ト懇願ヲ、滲マセテカラ、殺ス予定ダッタンダガ……ドゥゾーラメ。奴ノ小心ガ俺ノ、楽シミヲ奪ッタ。コンナ終ワリハ、望ンデイナカッタノニナ」


 ……何を言ってるの? 一人一人消す? 絶望? 憎悪? こいつ……まさかとは思ったけど、計画的にわたしたちを襲いにきたってこと? ということは――、


「……あの盗賊たちを嗾けたのは、貴方ですか」


「ン? アァ、歯応エガ皆無ノ相手デ、スマナカッタナ。アノ程度デハ、オ前ガ<身体強化テイラー>ノ能力ヲ、持チ合ワセテイル可能性ガ分カッタ程度ニシカ、役ニ立タナカッタ。マサニごみダッタナ」


 どうでもいいことのように、すんなりと群青法衣は吐いた。彼にとって盗賊たちのことは既に関心すら残っておらず、むしろ現状――わたしをこの夜に襲い掛からざるを得なかったことに対して、苛立ちを見せていた。ドゥゾーラ……と言っていたけど、どうやらこの街に潜んでいる敵はコイツ一人だけではないようだ。


「なぜ、わたしたちを襲ったのですか……」


「ン、殺スノニ理由ガ、必要ナノカ?」


「あ、当たり前でしょう。理由なくいきなり殺されて文句のない人なんていませんよ……」


「ホゥ、理由ガアレバ、殺シテモ良イノカ?」


「納得できない不条理な理由なら、全力でお断りです。納得できた場合は、まあ……話し合いから始めましょってことで」


「ケケケケッ、無駄ナコトニ気ヲ割クノハ、人間ナラデハノ発想ダナ。死ネバ、考エルコトモ、後悔スルコトモ、無イト言ウノニ」


「えぇ……だから人は必死に抗うんですよ。終わる時は――後悔無くして終わりたいものですから」


「…………マァ、オ前ノ言イタイコトハ、理解デキルゾ。モットモ――俺ノ解釈ハ、少シ異ナルガナ」


「異なる?」


 わたしは床に散らばった木片を踏みしめ、少し痛みが引いた背中を伸ばし、ゆったりと身体を完全に起こした。


「必死ニ抗ウ、デハナク――必死ニ抗ワセラレテイル、ノダ。弱者ハ強者ニ、組ミ敷カレルガ定メ。弱者ハ自分ノ意思デ抗ッテイルト、思ッテイルノダロウガ、ソレスラモ強者ノ手中ノ出来事ニ過ギン」


 群青法衣は見る者を怯ませる二つの眼球をギョロリと動かし、わたしを静かに見据えた。


「死ハ大抵ノ人間ニトッテノ――恐怖ダ。ダカラ反発スル。理解デキルゾ。理解デキルカラコソ、俺ハスグニハ殺シタク無イノダ。分カルカ? 必死ニ、全テヲなげうッテ、己ノ持ツ全精力ヲ、注ギ込ンデデモ、生キヨウトスル……」


「……」


「ドンナニ澄マシタ人間モ、ドンナニ精悍ナ人間モ、ドンナニ老獪ナ人間モ、ドンナニ美シイ人間モ、ドンナニ権力ヲ手ニシタ人間モ――――死ハ平等ダ。等シク降リカカルノダ。故ニ、ソノ者ノ本性ガ、本質ガ、死ノ間際ニ浮カビ上ガル。ケケケ、俺ハソレガ見タイノヨォ! 取リ繕ッタ人間ガ、無様ニ命ヲ懇願スル姿ナド、滑稽以外ノ何者デモナイノダカラナァ!」


「オッケー……わたしも理解したわ。真逆にね。だったらわたしは『わたしという本質』を貫き通して、貴方を倒す。倒した上で、ドヤ顔で笑ってやるわよ。覚悟することね」


「クケケケケッ! イイゾ。取リ繕エ。強ク、気高ク、誇リ高ク! ソノ姿ガ雄々シク、勇マシイホド! 俺ノ欲求ハ、満タサレルノダ! 精々、痛快ニ踊ルガ良イ――。ソレダケガ、俺ノ鬱憤ヲ晴ラス、薬ニナルノダ」


「馬鹿につける薬は、無いですね!」


 わたしがそう叫んだ瞬間、部屋の扉が開いて「誰だ! 誰かいるのか!」と、おそらくこの家の主であろう住人が入ってきた。


 怯えを見せつつも、震えた手で古びた長剣を持っている。大きな音と揺れを聞いて、警戒しながらこの部屋へ突入してきた背景が良く分かった。気持ちは分かるし、当然の行為なんだけど、できればこのタイミングは避けて欲しかった。せめてわたしがこの危険物(群青法衣)をこの家から遠ざけるまでは。


 スッと、群青法衣が鏡の向きを家主のオジサンへと向ける。


 ――マズイ!


 どうマズイか説明しろと言われると困るが、とにかくあの鏡は嫌な予感がしてならない。


 そう思ったわたしは、群青法衣の意識が家主に向いたと同時に、咄嗟に魔法を放った。風の魔法だ。


 天井に穴を開けた上で申し訳ないんだけど、壁にも穴を開けさせていただきますっ! あぁ、こういう場合、後の弁償とかって誰がどう補償すんだろ! わたし!? やっぱり、わたしが支払う感じになっちゃう……? あーもう、後後! 今は何も考えず、とりあえずコイツを遠ざける! それだけに集中しよう。


「はっ!」


「ナニィ!?」


 風圧の壁を叩きつけ、室内の調度品もろとも群青法衣を吹き飛ばす。群青法衣は腕を動かして鏡面を再度、こちらに向けようとしたが、わたしがさらに風速を強めると、何を思ったのか、今度は鏡を守るようにして懐に抱え込んだ。


「そのまま、吹っ飛んで!」


 ミシミシと壁の継ぎ目が剥がれていき、わたしがもう一押しの風圧を加えたあたりで、壁の一画が沈み、群青法衣ごと外へと押し出していった。


「あ、あぁ……私の、家が……」


 膝から崩れ落ちた家主のオジサンの、絶望に満ちた言葉に耳を塞ぎたい気持ちが強くなる。


「オジサン、ごめんなさいっ! 後でお詫びに来ますからっ!」


 短い謝罪を残し、わたしは見事にポッカリ空いた一画の縁に足をかけ、そのまま法衣が吹っ飛んだ場所へと飛び降りた。


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