40 王都東の街 グラベルン到着
たくさんのブックマーク、感想をありがとうございます!!(*´▽`*)
お読みくださる皆様のおかげで1000Ptを前回更新で突破することができました( *´艸`)
活動報告でも御礼の記事を上げさせていただきましたが、こちらでも御礼申し上げさせていただきます。ありがとうございました!!(^o^)/
今後とも何卒、拙作にお付き合いいただけますと嬉しいです(*'ω'*)
※今回、すみません。文字数が膨らんだ関係で切ってしまいましたが、ほぼ物語の進行が無いパートとなっております。ご了承いただけますと幸いです(>_<)
盗賊に襲撃された平野から4時間ほど、ブラウンには休みなしで走ってもらい、わたしたちはようやく王都から数えて東に一番近い街――グラベルンにたどり着くことができた。
王都ほどではないにしろ、多くの人々が住まう街だ。外周を囲む塀はそれなりに高く立派なもので、少なくとも恩恵能力を持たない不埒者が道具なしで飛び越えることは難しそうな高さだ。既に日が傾き、空では星の輪郭が浮かび始めたため、街内でも篝火に火がつけられ始めたようだ。ぼんやりと塀の向こう側からオレンジ色の明かりが漏れている。
前門へとたどり着き、わたしたちは馬車を止めて、ぞろぞろと降り立つ。入門許可を得るため、門の両脇を固める衛兵に会釈をした後、門内部にある料金窓口へと向かった。
ちょっと窓口の位置が高めなので、わたしは背伸びをして窓口前の細い記帳台に手をかけて、窓口のお姉さんを覗きこむ。
「あら、可愛らしいお客さんね。入門したいの?」
鼻から上が辛うじて見える状態のわたしと目が合い、お姉さんはニッコリ微笑んでくれた。話しやすそうな雰囲気を感じ、わたしも微笑み返して「はいっ」と答える。
「ええっと、後ろの方は…………お兄さんかしら? 入門料は一律銅貨30枚ですが、宜しいでしょうか?」
お姉さんが何度か目を細めて背後のお兄さん――つまりタクロウを視認しようとする気持ちはよくわかる。だって気配が気薄……というか皆無だもんね。目の前にいるという事実と、全く人としての気配を感じない矛盾に動揺しつつも、お姉さんは微笑みを絶やさない。さすがプロである。お姉さんのこと全然知らないけど、わたしの中で今、プロ認定された。
あ、そういえば入門料で思い出した。わたしはクラウンだから、記章を見せれば無料で立ち入ることができるのだった。
「あ、あのっ、わたしクラウンなんですけど」
「まぁお嬢ちゃん、クラウンを目指してるの? う~ん、お姉さんとしては可愛い女の子なんだから、素敵な彼氏を見つけて、安全な場所で過ごすのが一番だと思うわよ~?」
「え、えっと……そうじゃなくて、本当にクラウンなんです」
「ふふっ、背伸びしちゃって可愛いなぁ」
はい、最近ここから頭を撫でられるまでがテンプレとなってきました。
いや、確かに現に背伸びしてるけど! それは物理的にこの窓口の背が高い所為だから! でもクラウンについては事実だから、信じて~!
わたしはコートの襟に固定した記章を引っ張り、窓口から見える場所まで持ち上げる。
「ほ、ほら……これ、クラウンの証明ですっ」
「まぁ、お兄さん? 妹さんが可愛いからって、クラウンの記章をあまりホイホイと貸しちゃ駄目ですよ?」
「え? あ、いや……」
わたしの記章は見事に信用皆無でスルーされ、変化球のようにタクロウへと苦言を呈すお姉さん。どうしてだか、タクロウもどう答えたものかといった風に口ごもってしまう始末。いやそこはね? ハッキリとわたしがクラウンだという後押しをしてほしいんですけどね。事実なんだから、言いよどむ必要ないと思うんですよ、わたし。
「むぅ! セラフィエル様の御力は本物ですわよ!」
おぉ、さすがクルルさん!
この形容しがたい微妙な空気の中でも、ラッセル車のごとく突っ込んでくるその気概――わたし、この場に限っては嫌いじゃありませんよ! 言ってやってください! わたしは立派なクラウンの一員であると!
と、思っていたのも束の間。クルルはわたしの両脇に手を差し入れ、窓口のお姉さんにもよく見える位置まで持ち上げる。
……ん? ちょっとわたしの期待している動きと違いが――。
「ほら、見るのです! この神々しくも煌びやかな銀のオーラを! 常人には到底放つことのできない美しさと愛らしさ! これこそがセラフィエル様の荘厳華麗たる証明なのです!」
「親戚のお姉さんかしら? ふふ、セラフィエルちゃんって言うのね。セラフィエルちゃんは家族みんなから愛されているのね~。でも分かるわぁ……私もこんな可愛い妹がいたら、もう構い通しちゃうもの」
ちっが~~う! クルルさん、わたしはクラウンである証明を手伝って欲しいだけで、別にその、美しいとか愛らしいとか言われて嬉しくないわけじゃないけど! 今は違う! ほら、お姉さんがほっこりとした表情を浮かべてる! 間違いなく真実から離れていった表情だよ、これ!
「はぁ……ターク、じゃれ合っている時間は無いと思うのですが」
「わ、分かっている。ただこういうときの対処に慣れていないだけだ。あと某の名はタクロウだ」
「あぁ……また一人称が崩れてる。レジストンにも言われているでしょう? 外では私ですよ、私」
「む、むぅ……心得た」
一向に話が進まないこの状況に――名調整役・メリア様、ご降臨。
腰に手を当て、呆れ顔の彼女はわたしの襟元を指でつまみ、記章の裏側が見えるように捲る。
「ほら、ここに『セラフィエル=バーゲン』がクラウンである証明が刻まれているでしょう。彼女は正真正銘クラウンであり、数日前に史上初として生まれた未成年のクラウンですよ」
淡々と話すメリアの言に促され、受付のお姉さんも思わず身を乗り出して記章の裏を確認する。そして記章と交互にわたしの顔を確認し、少し崩れた笑顔のまま身を引いていく。
「た、確かに……セラフィエルちゃんのお名前を確認いたしました」
「そう、それじゃこの子は入門料は無料ということで良いですね」
「は、はい」
「ではタクロウ。人数分の入門料、お願いします」
「分かった」
メリアによるハキハキとした仕切りで停滞していた流れが滑らかに動き出し、タクロウは言われるがまま、わたしを除いた人数分の入門料を窓口に並べ、窓口のお姉さんもハッと正気に戻って、通常通りの手続きを行い、通行証を人数分用意してくれた。
まさに仕事のできる女性である。素晴らしい。
通行証を用意するところまでは正常起動していたお姉さんだが、一通りの手続きが終わると、譫言のように「え、本当にクラウン? あんな小っちゃい子が? み、未成年……う、うそー……」と呟いき始めた。わたしはそれに応える言葉を持ち合わせていなかったので、苦笑する他なかった。
門を護っていた衛兵の一人に、街が管理している厩舎まで案内してもらい、ブラウンと馬車をそこに預ける。
ところで――全員で歩く最中、宿のことなどの相談の会話が途切れなかったため、自分から言い出すタイミングを逸してしまい、誰かがツッコんでくれると期待して、ここまで我慢していたのだけれど……クルルさんや。
そろそろ降ろしてはもらえんですかね。
いや、抱え直すんじゃなくてね。格好がつかないから、降ろしてもらいたいんだけど……なんだか抱っこみたいな形になって恥ずかしいんですけど!?
おーい……。
おーい………………。
今日泊まる宿を探す最中、虚しい心の叫びを出し続けることに疲れたわたしは、もういっそのこと外見通りの子供のように振る舞ってしまえ――と自棄になり、クルルの胸元に顔をうずめて身を任せることにした。
……。
…………?
いや、ちょっと待って! 外見通りって、わたし10歳児だよ!? こんな年になって抱っことか、色々とおかしいでしょ! やっぱり降ろしてぇ!
そんな声なき声はわたしの胸中で消えていき、結局、宿が決まるまでその姿勢を強いられることとなってしまった。由々しき事態である。クラウンになる前の知り合いも、なった後の知り合いも、誰もが何故か以前よりも過保護な気がしてならない。わたしの何処にそうさせてしまう原因があるのか、時間を見つけて探るしかない、と――ひっそり心に誓った。