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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
136/228

35 コルド地方への旅路~小休憩~

ブックマーク+ご評価、ありがとうございます(*´▽`*)

久しぶりの連日投稿です♪


いつも読んでくださる皆様に感謝!(*''▽'')

 天気は晴天。雲もまばらで、日光が直接大地を照らしてくれる、やや暑いぐらいの気候だ。しかし流れる景色と共に頬を撫でる風は心地よく、日差しの温かさと程よいバランスを保っており、非常に気持ちの良い馬車日和となっていた。


 ブラウンの嘶きを耳に、わたしたちは心地よい気候の中、平野を道なりに進んでいた。多くの馬車や人が行き来することで自然と出来上がった道を、辿るように馬車は走っていく。


 王都を出ること早くも5時間が経過した。


 ふとブラウンは足を止め、御者台で手綱を握るわたしに向かって、長い首を捻りながら見上げてきた。そのつぶらな瞳を受けて、わたしは手を伸ばして鬣を撫でながら頷いた。


 ――どうやら休憩をご所望のようだ。


「ブラウン、疲れちゃった? 少し休憩しよっか」


「ブルルゥ」


 初日から賢い賢いと思っていたが、厩舎で数日おきに世話をしている内に、わたしはブラウンは人の言葉を正確に理解しているんじゃないかと思い始めていた。そう思わせるほど、本当にこの馬は賢い。


 本来のブラウンならまだ歩ける体力は残っているはずだ。なのにここで休憩を求めるということは、この旅路の終着地――コルド地方までの距離がどれほど長いかを理解していることに他ならない。確かにブラウンの前で一週間を超える道のりになることは言ったけど……言っただけなのだ。人の言葉で。だというのに、ブラウンは正確に所要時間から体力配分を考え、こうして自らペースを決めてわたしに休憩のタイミングを教えてくれるのだ。


 ……うん、ハクアより賢いね、間違いなく。


「あいたたたたっ!?」


「グァァー!」


「ちょ、ちょっとハクア!? 急にわたしの髪を引っ張らないで! コラァ、噛むなぁ!」


「グァッ、グァ!」


 ――ぐぅ、賢いかどうかは置いておいて、勘だけは鋭いかもっ!


 わたしはどうにかしてハクアを引き剥がし、膝の上に寝かしつけた。眠気が無いハクアは人の膝の上でゴロゴロと転がっては、わたしの頬を舐めたり、身体に背部のフサフサの毛を擦りつけてくる。


 ……わたしはマーキング対象の木か何かかい。


 そんなことを考えていると、飛んできたハクアを追って、クルルも御者台に顔を出してきた。


「セラフィエル様、ハクア様が急に目つきを変えて飛んでいきましたが、大丈夫でしたか?」


「……クルルさん、ハクアにまで敬称をつけなくてもいいんですよ? もちろん、わたしにも付けなくていいですからねっ?」


「そ、そんな恐れ多い! セラフィエル様の魔力をその身に受けたハクア様を呼び捨てにするなどっ! 私にはできませんわっ! 見てください、このご立派な毛並みと体躯を! セラフィエル様の髪の輝きを模したかのような白き精霊……きっと祖先は名の知れた御方だったに違いありませんわ」


 いや、この子、もう少しでこんがり焼かれて食べられる寸前だったゲェードだからね?


「グァ!」


「こら、同調しないの」


 まるで「そうだそうだ」と言わんばかりのハクアの様子に、わたしは躾け代わりにデコピンを喰らわせる。怪我をさせるつもりはないので、当然手加減した威力だが、ハクアはちょっと痛かったらしく、抗議するように「グァ、グァ」と短く鳴きながら、わたしの腹部に頭を擦りつけてくる。


 うーん、背中の毛が至る所を擦って、くすぐったい……。


 出発と同時にクルルとハクアは顔合わせすることになったわけだが、ハクアの姿を一目見て精霊だと勘付いたクルルは「こんな綺麗な精霊、見たことがありませんわっ!」と大興奮。馬車に揺られていくうちに少しは落ち着いたものの、精霊上位種とあろう者が恭しくハクアを扱うものだから、ハクアも助長してきてちょっと困り気味だ。


 ――これは飼い主としてのわたしの力量を試されてるね!


 落ち着く時間が出来たら、一度、ハクアをきちんと躾けよう。そう意気込むわたしの心を読んだハクアは、爬虫類のような顔立ちだというのにハッキリと嫌そうな表情だと分かる顔で、駄々をこねるように全身をくねらせた。


「もうハクア! 暴れないの!」


「グァグァ!」


「ふふ、甘えてらっしゃるのですね」


「えぇ……どう見ても癇癪を起こした子供のようにしか」


 クルルが優しい目でそんなことを言ってくるが、その内容に納得できないわたしはハクアを抑え込みながら口を尖らせる。


「ブルルゥ」


「あ、ごめんブラウンっ。休憩だよね」


 忘れないで、と一鳴きするブラウンに謝り、わたしは荷台の中にいる四人に休憩の旨を伝えた。了承の返事をもらったので、わたしはブラウンに道から外れた平原に馬車を向かわせるようお願いし、その言葉通りに馬車を移動してもらった。


 見晴らしのいい平原で、少し進んだ場所には葉を生い茂らせた木々たちが並んでいる。あまり見栄のいい花々が咲いているわけでもないし、背の低い雑草ばかりが一帯に生えているだけの場所だが、ちょっとしたピクニックにでも来たような気分になり、少しだけ頬が緩む。


 ここで一時間ほど休憩を取ろう。まだ日も高いので、ブラウンの身体がある程度回復し次第、すぐに再出発する予定だ。


 エルヴィやケトの母親の容体を考えると、一秒たりとも休めない――という焦りも覚えるが、焦って馬を故障させ、結果的に想定以上の遅れを出してしまっては元も子もない。元々クラッツェードには旅の行程について話しているし、彼はそれに対して「急ぐ必要は無い。こっちは俺が見ているから安心して自分のペースで行ってこい」と言ってくれたので、ここは彼を信頼し、無理をしない旅をしようと決めていた。

 

 クラッツェードのことを思い出すと同時に、王都を出る際にレジストンやディオネ、ヒュージたち教会メンバーと挨拶できなかったことを思い出した。


 旅は無難に進めるとはいえ、出発の日を遅らせるというわけにも行かなかったからなぁ。クーデ教会の皆には何かお土産を買って行って、それで挨拶ナシで出て行ったことを許してもらうことにしよう。レジストンやディオネと挨拶できなかったのはちょっと寂しいけど、今生の別れというわけでもない。うん、この僅かに胸の内に疼く寂しさは、戻って旅の話をたくさんすることで埋めることとしよう。忙しいと思うけど、ちょっとぐらいなら時間を貰えるよね?


「よっと」


 ブラウンが完全に足を止めたのを確認して、わたしは御者台から飛び降りた。


 後を追うようにしてハクアとクルルも降り、荷台の後ろからタクロウ、メリア、ヒヨちゃん、マクラーズの四人が順々に姿を見せていった。


 会社帰りのくたびれたオジサンの雰囲気を漂わせるマクラーズは、腰を何度か叩いた後、グゥーッと両腕を空に向かって伸ばし、固まった身体を解していた。仕草が完璧にその辺のどこにでもいそうなオジサンである。


 隣のヒヨヒヨも肩を回したり首を鳴らしたりと、やはり狭い荷台の中で同じ姿勢でいたのはそれなりに疲れを溜めさせていたようだ。


 わたしとプラムの子供二人の時は広々と感じた馬車の中も、大人4~5人+爬虫類で埋め尽くすと……やはり手狭な感は否めない。


「…………」


 わたしは顎に指を当てながら、少し考える。


 やっぱりもう少し大きな馬車か、連結式の荷台をどこかで調達すべきだろうか。馬車をもう一台借りるのも手かもしれない。男女混合を考えると、うん、2台馬車があった方が寝るときとか楽だよね。道中、別の領地に足を踏み入れることがあれば、その辺りも考慮してみよう。


 さて、五時間も移動を続けると、やはり小腹というものは空くもので――。


「それじゃ休憩がてら、軽く食事でもとりましょうか」


 と提案すると、ヒヨちゃんが手を挙げて「さんせーい!」と答えてくれた。


 あ、ヒヨちゃんなんだけどね。王都を出る前に恥ずかしながら「ヒヨちゃん」と呼んでいいかどうか確認をしたら、なんとOKしてくれたんだよ! その代わり「それじゃ私はセラっちって呼ぶわー」と言われ、何故かマクラーズも便乗してきて、二人のわたしの呼び名は「セラっち」に確定されてしまったけど……うん、まあ距離が近くなった感じがするから、悪くないかな?


 子供扱いというより、どちらかというと友達感覚な呼び名なので、わたしとしても受け入れ易い呼び名である。


 いやぁ、本人にはとても言えないけど、タクロウ・メリアのペアだけだと、会話に困りそうだったから、こういう明るいテンションの人がいてくれると本当に助かる。クルルは別の意味で明るいけど、わたし関連の話だとすぐ暴走気味になるので、彼女は特別枠として別に考えることにしている。ハクアは論外。……い、痛っ……だからわたしの心を読んで髪を噛まないでっ!


 わたしの言葉を受けて、真面目なタクロウはすぐに食材の箱を馬車から降ろしてくれた。メリアは土鍋やおたまなどの調理器具をその横に既に用意してくれているという仕事の速さっぷりを見せつけてくれる。トマトの入った箱に頭を突っ込もうとするハクアをクルルが「まあまあ」と宥め、ヒヨちゃんとマクラーズは何故か草原の上に大の字を描いて寝転がっていた。……最後の二人は本当に自由だな。


 野外だから立派な料理なんて作ることはできないけど……なんだか、こうして皆で一緒に何かをやるのは楽しい。精神年齢的に年甲斐もなく……と思ってしまうけれど、元々殺伐とした世界を200年近く渡ってきたわたしにとっては、こうして和やかな空気の中でワイワイやる経験そのものが無い。遥か昔……科学世界の学生時代にはあったのかもしれないけど、さすがに記憶には残っていない。


 だからこそわたしは胸中に広がる昂揚感に思わず口元を綻ばせてしまい、木箱の周りに集まる皆の元へ駆けて行った。子供っぽい仕草になってしまったけど、それが今のわたしなのだから仕方がない。楽しいものは楽しいのだから、それを無理に理性で蓋してしまっても勿体ない。


「おー、随分と立派な野菜だなぁ。コレ、丸齧りしてもいーのか?」


「ふふん、わたし自慢の菜園野菜ですよ。あ、どーせなら切り分けて食べましょう」


 別にワイルドに丸齧りでもいいけど、今はサラダ風に食べたい気分だ。ヒヨちゃんやマクラーズはまだわたしの野菜を口にしていないので、出来ればきちんとした食事の形式で食べてもらいたいという気持ちもある。


 わたしは手に取ったトマトを魔法の水で洗い、風刃で等分に切り分け、用意した皿の上に並べていく。


「うわぉ、便利~」


 わたしの肩の上から魔法による所作を覗き見たヒヨちゃんが素直な称賛を送ってくれる。ググっと天狗の鼻が伸びそうになるのを何とか押し留め、わたしは塩の入った瓶を軽くトマトに振り、次に大量に持ってきたジャガイモを手に取る。


「よっ」


 わたしの魔力を操作し、足元の土で小さな壺を作り、その中に水を溜める。次に壺の中に三重の穴のあいた底を作り、一番上の底に幾つかの芽を取ったジャガイモを置く。最後に壺の口を変形させて閉じ、わたしは中の水が沸騰するよう壺の底辺に掌を当てて熱し始めた。


「それ、なにしてんの?」


 ヒヨちゃんがわたしの一つ一つの作業に興味を持って聞いてくれるのが何処となく嬉しく、わたしは悪戯をしかける子供のような笑みで「蒸かし芋です。美味しいですよ」と言った。


「ふかし?」


「ふふ、食べてみればわかりますよ~」


 単純な調理方法だが、調味料が塩しかない現状では、この食べ方がわたしの中で人気を誇っている。もちろん同じ食べ方を続ければ飽きるので、時には焼いたり、油で揚げたり、トマトを煮込んだスープに角切りにして一緒に入れたりと色々試しているところだ。トマト煮込みはもう少し塩の分量や煮込み時間、熱の調整が上手く行って味に深みが出れば、わたしの中の料理ランキングのトップに躍り出るかもしれない。酒飲みたちにはフライドポテトが大人気なんだけどね。


 今日の献立は、トマトサラダ(といってもトマトだけだけど)と蒸かし芋。まあ昼前に取る軽食としては丁度いい手軽さなんじゃないかと思う。


 壺の上部に小さな穴を開けると、隙間から蒸気が漏れ出て、ジャガイモのいい匂いが共に周囲に広がっていった。


『…………』


 思わず誰もがその匂いを嗅いで、無言のまま芋が蒸かし終えるのを待つ姿に、わたしは思わずクスリと笑ってしまい、ただ待っているだけの時間も退屈せずに過ごしていくのであった。



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