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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
124/228

23 気付けば埋まっていく外堀

ブックマーク、幾つかのご評価、本当にありがとうございますっ(*'ω'*)

まさか700Ptを超える日が来るとは思っておりませんでした(*´▽`*)

いつも読んでくださる、皆様に感謝です♪


しかし、セラフィエル……一体いつ出立になるのか(´・ω・`)

もうそろそろで王都を出る話になりますが、あと1~2話ぐらいクルルさんのお話にお付き合いくださいm( _ _ )m


 軌道修正しようとすればするほど捻じれていく現状に、思わず頭を抱えたくなる気持ちになる。


 放っておくと床にめり込む勢いで頭を下げ続けそうなクルルを何とか説得して、元いた椅子へと座らせる。


 その過程でわたしの手を握っては「光栄です!」と叫んだり、震える肩を宥めれば「これが加護ですか!?」などと意味不明なことを言い出したりと……たった椅子に座らせるだけの作業が大変だった。


 おーい、さっきまでのクルルさんや、頼むから帰ってきておいでー。


 いっそのこと両頬をビンタするなどの荒療治でもした方がいいだろうか?


 ……いや、それすらも良く分からない恩恵に価値変換されて喜ばれそうな気がする。そう思わせるほどの圧力を彼女から感じる……。


 猪突猛進を信条にしているかのような突進ぶりを発揮する先までのクルルも大変だけど、今のように謎の畏怖を抱きながら反応されるよりは圧倒的にマシである。


 まず、非常に話しづらい。


 なんか何を言っても肯定されるかのような宗教的強制力を見ているようで、ちょっとした恐怖さえ覚える。


 しかもさっき気になることを言ってたよね?


 ――女王の血?


 彼女がわたしの前世を知り、世界の終わりと共に流れ落ちた血のことを――そして転生のことを知っているとは……正直思えない。


 そう思える一番大きいところは直感と経験だが、理論的に言えば、前世の女王生活の時にわたしをこんな風に敬う輩は一人としていなかったからだ。


 前世の王国では三人の女王が座しており、一人は治世を、一人は制圧を、一人は研究を司っていた。純粋にその国の王家の血筋を引いているのは、治世を担当する正女王一人のみ。他二人は単純にその能力を他国に渡さず、加えて自国の強化に利用されている身であり、女王という座に縛り付けられた存在であった。


 ちなみにわたしは表向き研究を司っていた女王である。


 本当はインテリっぽい渾名をつけられるべきポジションだったのに「鮮血の女王」なんて禍々しい渾名が定着したのは、研究者扱いなのに何故か戦場にしょっちゅう駆り出され、そこで「わたしのみ使える魔法なのだ」と適当な理由をつけて操血そうけつも駆使して生き延び続けた姿が兵士たちの口々に上がってしまったからだ。


 使えるものは何でも使う――本当にあの正女王はいい性格していたわ。


 まあそんなわけで正当な血筋でもない外部の者が、その実力を囲うためだけに女王の座についていた背景があったため、女王として敬われたりされることはなく、どちらかというと面倒だけど重要な客人という形で腫物はれもののように扱われていた記憶が強い。


 だから眼前のクルルのように、明らかな陶酔を見せるような人物はいるはずもないのだ。


 だから彼女が口にした「女王の血」は別の意味を表し、それが彼女の態度の鍵にもなるのだろう――と困惑する思考の中でもなんとか一つの解に辿り着くことができた。



「――ごほん」



 わざとらしく咳ばらいをし、対面に座るクルルを見る。


 わたしの第一の目的は、彼女が強引に推し進めたい依頼を一度断ること。それはエルヴィとケトの依頼をきちんと受領するという意味も込められている。そこだけはブレてはいけないと、強く芯として意識する。


「あの……」


「はい!」


 うっ……室内だというのに、彼女から発せられる不可視の威風がわたしを思わず仰け反らせる。


 負けてはいけない……頑張るのだと我が身を奮い立たせ、わたしは続けた。


「まず……その変わり様と言いますか……、急に敬われるようなことはしてませんので、出来れば……先ほどまでと同じ態度に戻していただけると嬉しいのですが」


「ご要望とあらば!」


 うん、絶対に伝わってないね、これ。


 今にも敬礼しちゃいそうな勢いの返事だよ……あぁもう! 居辛いし、話し辛いし、キラッキラした紫の目は直視し辛いし……辛い辛い尽くしだよ。


 誰か助けてー……こういう時は天然のプラムパワーがあると空気も和むのに、今日に限って彼女はディオネと山を散策中だ。


 のらりくらりと躱すイメージではレジストンでも全然いいのだけれど、彼も多忙のため訪れる日は少ない。


 ……仕方がない。


 ここは肚を括って、彼女の態度は元々そういうものだったと決め込んで、必要な情報を確認し、目的を果たすことだけに努力することにしよう。


「クルルさんは精霊種、ですよね?」


「はい!」


 凄くいい返事。


 ここが学舎なら、返事部門で優等生を取れている。でもここフルーダ亭ではもう少し声量と勢いを抑えてくれると助かる。


「上位の精霊種……ということで宜しかったですか?」


「仰る通りですわ!」


 ピコピコと、尖耳せんじが上下に動く。


 え、なにあの耳。感情と連動してるの? そういえばディオネも感情が上がると、少しだけ耳が反応していたような。


 だ、駄目だ……気になる新情報が多すぎて、どうしてもわたしの血的好奇心が目移りしてしまう……。集中しなきゃ、とわたしは一度目頭を指で押さえてから話を続けた。


「なるほど……。その、先ほどわたしのことを『女王の血を引く』と言ってましたが、アレはどういう意味でしょうか?」


「あ、あの……その前に」


「はい?」


 必死に情報をかき集めては瞬時に脳内で整理作業を行うという、目に見えない部分で多忙を極めているわたしは、内心「これ以上変なことは言わないで」と祈りながらも、訝しむようにクルルを見た。


「貴女様のことを『セラフィエル様』……とお呼びしても――」


「――敬称略でお願いします」


「そんなぁ!?」


 速攻で拒否すると、彼女は衝撃を受けて項垂れてしまった。


 駄目だ……精霊種の文化形態が読めない。


 文献じゃ大まかな外見や歴史の上辺だけしか見れなかったので、実際の精霊種がどういう文化圏での生活をし、趣味趣向、性格がどう偏っているかまでは掴めていないのだ。


 民の人心とは文化の在り方に染まるものだ。


 彼女が例外的な性格でないのだとしたら――おそらく種族内の統制は絶対王政か絶対君主制に近く、加えて地位の高い者に崇拝に近い感情を持ち合わせる傾向にあるのかもしれない。


 でもだとしたら、人間種であるわたしを敬う理由がサッパリ分からない。


 分からないことは掘り下げないと出てこないので、わたしは嘆く彼女に口を開いた。


「クルルさん、わたしは人間ですよ?」


「そう、みたいですわね」


「その人間種であるわたしを、精霊種である貴女が敬う理由が分かりません。さっきまで普通にしていたのに、一体どうしたっていうんですか?」


「……」


 クルルの表情に僅かに迷いが生じた。


 言うか言うまいか――そこに迷いが出るということは、その答えに精霊種の存在に浅からず関与する何かがある証明なのかもしれない、と読み取った。


 端正な顔立ちは悩む際も小皺さえ作らないのか、少し俯きながら静かに考え込むクルルの様子はそれはもう、この世のものと思えぬ美貌が映えていた。


 やがてクルルは顎を上げ、こちらを見据えた。


「セラフィエル様。貴女は……魔法を使えるのではないでしょうか?」


「……」


 ぐっ……だから敬称はいりません! と釘を刺したいけど、この流れに水を差すのは流石に難しい……。


 しかし、魔法――ときましたか。


 似た技法がある可能性が精霊種にあることは感じていたけど、まさか呼称も同じだったとは。


 彼女はおそらく先ほどのわたしが放った風のことを言っているのだろう。


 ジッと見つめる視線を受けながら、わたしは魔法と正直に話すべきか、恩恵能力アビリティと嘘をついてこの場を逃れるか逡巡する。しかし更なる先手はクルルから持ち出してきた。


「先ほどの風が……人間種独自の力である恩恵能力アビリティとやら、でないことは魔法に長く近くにいた我々には何となく理解できます。そして……先ほど貴女に触れた際に魔導具らしきものを装備していないことも分かっております」


 魔導具……何度かクルルの口から出てきた単語で、こちらも気になるものだ。


 でもまずはこの問いかけにどう答えるかが先決だ。


 わたしの行動は最悪、レジストンたち国の中枢にも影響が出る場合がある。


 この世界に渡って得た暖かさは、同時に自由を縛る鎖にもなりうる。自分が派手に動いたことで、その鎖に繋がれた先にいる誰かに悪影響が及ばないか――そこも考慮して動かなくてはいけないのだ。


 本当であれば――せめてレジストンに判断を確認する過程が必要なのだけれども……今後も今のようにその場で判断を求められることも増えてくるだろう。その時に自身で進むべき道を決められない様では、逆に動かないことが悪影響にもなりかねない。


 わたしはクルルの視線を正面から受け、判断した。


 掌を差し出し、その上に魔力を流し、魔法を顕現させる。


 ――小さな小さな炎。


 けれども、そんな矮小な炎の姿に、クルルは改めて驚嘆の意を示した。


「やはり……」


 わたしが手を閉じ、炎がその中に消えていくと、クルルは姿勢を整えてから言った。


「私が貴女様を女王の血を引くと言ったのは――こうして、魔法を使えるのが我らが王――精霊王だけだからなのです」


「精霊、王…………」


 クルルはローブの下に隠れていた右手を上げ、そこに装備されている小手を見せた。


 斧男ベルポを吹っ飛ばした際に見えた時と同様に、小手には幾つかの宝玉が埋め込まれていた。


「これは風の魔力を封じ込めた魔石をはめた魔導具ですわ。私を含めた精霊上位種であっても、道具を頼らなければ魔法は放てませんの。唯一、魔石なくとも魔法を操れるのが、精霊王……ピレイルカ女王。そして同時に魔石に魔力を込められるのも、女王だけですわ」


「……でも、わたしは人間で――」


 困ったように同じことを繰り返すわたしに、初めて彼女は彼女らしいと思える笑顔を浮かべた。


「ふふ、先ほどは感情が先走ってしまい、痴態を見せてしまいましたわ。ええ、女王の血というのは――言葉の綾ですが、あながち嘘というわけでもないですの。精霊種は魔法が全て。魔力を自在に操り、この世に魔法として具現する者を崇めますのよ。無論、ピレイルカ女王の人柄もこうべを垂れる理由の一つではありますが、人柄だけならば女王の座には居座ることはできませんわ」


 ……つまり要約すると、わたしは人間種だけど、女王並みに崇められる存在ってこと? 精霊種にとって上に立つ者の判断基準がそれでいいのだろうか。――それでいいほど、この世界での魔法という存在は特異な存在……ということなのだろうか。


 そういえば……出来損ない、と呼ばれていたゲェードも、わたしの魔力を含んだ水を飲んだことで、ハクアのような健康体へと成った。


 あまり深く考えてなかったけれど、確かに俯瞰的に見れば、それはそれで異常な出来事だと理解できる。


 きっと……そういったことが可能なのが、女王なのだろう。


 ん? でもそうなると、なんでゲェードみたいに投げ出される個体の数が後を絶えないのだろう。全部、女王の力で元気にしてあげればいいと思うのだけれど。


 どうにもまだまだ精霊種に関しても未知の情報が多く埋まっているようだ。


 あと危うく見逃すところだったけど、クルルさん。


 貴女、落ち着いた喋りをすることができるんじゃないですか! なんでいつもその澄んだ湖のような清涼感溢れる話し方をしないのか、わたしとしてはそっちの方も気になります! さては感情昂ぶると連動して言動も大きくなるタイプのお人ですね!


「セラフィエル様」


「あぁ~……はい」


 様付けは止めて! 前世を想起してしまって何か嫌だ! と言いたい気持ちをぐっと飲み込み、わたしは何とか返事をした。



「初めは駄目元でクラウンなる存在に依頼を出そうと考えておりましたが、今はセラフィエル様。貴女という素晴らしき御方に出会うことができました。人間種でもクラウンでもなく、セラフィエル様――貴女様に改めてお願い申し上げます――どうか、ピレイルカ女王と同じくして魔法を支配するそのお力。我々精霊種のためにお貸しいただけませんでしょうか」



 慎ましく淑やかに、クルルは頭を下げた。


 ――言い回しが、重い。


 わたしの依頼をお断りしたい気持ちを蓋するかのように、クルルの言動は巨大な重しとなって圧し掛かってくる。


 まだ内容は聞いてないけど…………あぁ、この雰囲気からして、軽い話じゃないんだろうなぁ、と思う。そして今更ながら話を聞かないという選択肢もないだろう。


 願わくば……妥協点、落としどころを作れる話であることを祈るばかりであった。


2019/2/26 追記:文体と一部の表現を変更しました

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