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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第一章 操血女王の奴隷生活
11/228

10 道中対話

何件かブックマークいただき、ありがとうございます(*^▽^*)

まだ序盤ですが、ちょっとでも面白いかな? と思っていただけたら幸いです!

今後とも宜しくお願いします。

「よう、目が覚めたようだな」


 思考を巡らせていると、遠くから野太い男の声をかけられた。


 ビクッとわたしを抱える腕が震える。

 頭上を見上げると亜麻色髪の少女が唇を噛んで、瞳に昏い影を落としていた。

 こういった表情はわたしも何度も見た記憶がある。

 焦燥と恐怖、そして諦観が入り混じった悲しい表情だ。


 わたしを気にかけてくれている少女にこんな表情を浮かばせているのは、声のイメージ通りの男、筋肉質な方だった。御者台の背もたれに肘を乗せ、こちらを半身だけ振り返った形で見ている。その口元はまさに「下郎」に相応しい下卑た嗤いを貼りつかせていた。


「なんだ、ビビッて怖がることすらできねってかぁ?」


 わたしが特に反応を見せずにいたことがつまらなかったのか、片方の眉を上げて言葉を吐き捨ててくる。


 こいつは、なんだ。子供であるわたしがピィピィ泣く姿でも見たかったのか?

 ずいぶんと悪趣味な奴だ。

 ……まあ人身売買まで手を染めるハイエナに、悪趣味じゃない奴なんざいないか。


「や、やめてください……」


「アァ?」


 そんなことを考えていると、震えながらも亜麻色髪の子がわたしを庇うように声を絞り出した。


 同時にわたしはちょっとマズイな、と思った。


 庇ってくれること自体は嬉しいのだが、こいつのような手合いは、弱者がかばい合う姿を見下し、その絆を壊すことに快感と優越感を覚えるような輩が多い。


 わたしの予想通り、小さな子供を抱く少女の必死な抵抗に、筋肉男はニタリと笑みを浮かべた。


「へへっ……止めなかったら、どうすんだよ?」


「えっ……」


「おめえが代わりに俺の相手をしてくれるってのか、アァン?」


「っ……!」


 こいつ、テンプレ通りに台詞を吐けって、魂レベルに刷り込まれているんだろうか?


 こーいう奴はこーいうことを言うんだろうなぁ、と思える言葉をそのまま台本でも見ているかのように臆面もなく言いおった。


 くそぅ、操血さえ万全――いや10分の1でもこの体に戻ってきていれば、その腐った嗤いを引き攣ったモノへと変えてやるのに……。


 わたしは力はなくとも場慣れしているせいか、さっきの見たことのない蛭に襲われたりなどの想定外な事態でも起きない限りは、平常心が勝っている。

 しかし、この優しそうな少女はそうもいかないだろう。


 わたしを護るか、自分を護るか。


 そんな不条理な二択で自分を縛り付け、彼女は辛そうに悩んでいた。

 その過程で見上げるわたしと目があったのがいけなかった。少女は意を決したように眉を上げ、男と向き合おうとする仕草を見せた。


 ――これはいけない。


 力の持たない者が正義心だけで強者に立ち向かっていいのは、都合のいいように展開を描ける物語の中だけだ。


 けれども、ここは現実。

 その行為は勇猛ではなく、無謀でしかない。

 最悪、彼女だけでなく、この檻の中にいる全員が不幸な目にあう危険性だってあるのだ。


 わたしは急いで彼女が行動に移す前に、周囲の意識を自分に向けるために口を開いた。


 何を言うのがベストなのかは咄嗟に思いつかないが、とりあえず何でもいい。

 筋肉男……もう脳筋でいっか。

 脳筋と少女が睨み合うような展開から意識を逸らせることができれば、この場は凌げるだろう。


「おじちゃん、こわーい」


「え?」


「ア……?」


 わたしは小さい手をギュッと丸めて口元に持って行き、気弱そうな表情で彼を見つめた。


 張り詰めていた空気の中、場違いなほど高く幼い声が間に入ったため、脳筋も少女も起こそうとしていた意識が削がれたようだ。二人の視線がわたしに向かう。


「怖い声……出さないで?」


 乞うように声を絞り出すと、脳筋は少し呆然とした後、自分のスタイルを思い出したのか「ア、アァ!?」と無理やり声を荒げてきた。


 お前、アアしか言えないのか……。


 もう少し何か言葉があるだろう。

 ほら、うるうるするわたし、可愛いとか。うん、自分で言うと微妙な気持ちになるなぁ。


 そういえば、まだ鏡の前に立っていないから、わたしの顔がどんなものなのか分からないな。


 戦場には鎧だの剣だのと反射できる物はいくらでも落ちていたんだから、そこで確認しておくべきだった。転生後は基本、わたしをベースに作り替えられるから、不細工にはならないと思うけど……自分が子供の頃だった記憶は、一番最初の人生にしかない。なので、全然覚えていない。子供時代は何ともいえない容姿であっても、成熟するにつれて美人顔になる者もいるから、今のわたしが周囲から可愛がられるほど愛らしいかどうか、ちょっと不安なところだ。


 ぶりっ子みたいな素振りを浮かべたものの、わたしがその行為に似合わない顔だったら、ちょっと恥ずかしいな。いや、かなり恥ずかしい。


 でも今更、軌道変更するわけにもいかないから、そんな考えは一度隅に置いて、このまま突き進むことにする。


「おじちゃん……黙っていたら格好いいのに、なんでそんなに怒るの?」


「ええっ!?」


 こら、少女よ……なぜそこで君が驚く。

 

 わたしの台詞に「うっそでしょ?」みたいな顔で、わたしと彼を見比べるのは止めなさい。


 わたしの必死の演技が無駄になるじゃない。

 確かにこの脳筋はぜんっぜんわたしの好みじゃないし、一般的にも好かれるような顔立ちじゃないだろう。むしろ左右の目は不揃いだし、鼻は若干右にひん曲がっている。口を開けば、上前歯の片方は抜けているし、なんか息も臭そう。無駄に盛り上がっている筋肉も、無駄に鍛え上げた部分が多そうで、逆に関節の稼働が制限されて、実直な動きには強くても、反射的な動きには弱そうだ。


 もっとジルクウェッドを見習え。

 あいつは頭は鋼よりも固いが、その鍛え方は芸術とも呼べるほど、理にかなっていたぞ。


「おい……なんか文句あんのか?」


「あ、いえ……」


 ほら、そんなこと考えている間に、脳筋の意識が再び少女に向いてしまった。


「おじちゃん、笑顔、笑顔」


「うっせぇわ、クソガキ! 俺は昔、好きな女から『アンタの笑顔キモイのよ!』ってフラれたことがあんだよ! そんな俺に笑え、ってのかぁ!?」


 ――え、可哀そう。

 思わず同情が表に出てしまって、口元に手を当てそうになる。


 そんな過去があることも、それを思わずみんなの前で暴露する馬鹿さ加減も、どちらも憐れみを誘うものだわ。だからといって、好きにはならないけど。


「ぶふっ!」


 と、突然、御者台の方から噴き出す声が聞こえた。


 その反応に、ギギと壊れた機械のような動きで脳筋は首を動かし、隣の痩躯の男へと視線を向けた。


「おい、ベルスター……何が可笑しい?」


「い、いやっ……ぷ、ちょっと、こっちを見ないでくれ……。私の中で再生された君の脳内笑顔が重なって、見えて……ぐ、っ……ぷぷ!」


「アァァァアアァ!?」


「ちょ、危ない危ない!」


 痩躯の男、ベルスターと呼ばれた男のコートを掴み、脳筋はその体を大きく揺さぶる。


 危うく御者台から落ちそうになり、ベルスターは慌てて「悪かった、悪かったって!」と謝った。脳筋も元々本気で怒っているわけではなかったのだろう。その謝罪を受けて「けっ」と口元を歪めながらも揺さぶる手を止めていた。


 ――ちっ、そのまま仲間割れでもすれば良かったのに。


 そんな悪辣なことを考えつつ、わたしは男たちの意識が逸れたことに安堵した。

 もう少女が立ち向かおうとしたことなど、意識の外に吹っ飛んでいったことだろう。


 あとは……釘を刺しておこうかな。


「お姉ちゃん……」


「え、あ、えっ?」


 まだ事態についてこれていないのか、少女は男たちのほうを唖然として見ていたが、わたしの声にようやく意識が戻ってきたようだ。しかし未だ頭の中はこんがらがっている模様。


「あんまり無茶しちゃ、駄目……だよ?」


「……」


「お姉ちゃんが怪我したら、わたし、嫌……だよ?」


 わたしはすんごく頑張っている。


 慣れない子供のフリをしながら、相手に甘えるように説得するという難易度の高い技をこなそうと頑張っている!


 絶対、後で思い返すと赤面モノだ、これは。


 ――頑張れ、わたし!


 恥ずかしい気持ちは蓋と鍵を閉めて、全力で純粋無垢な子供を演じてみせる!


 わたしの言わんとしていることを理解したのだろうか、少女はハッと目を開き、少し目を潤ませた。


「もぅ……小さい子を護るのは、お姉ちゃんの役目なんだよ」


 と言いながら、少女はわたしを強く抱き寄せて、目を閉じた。


「うん……でも、やっぱり嫌、だから」


 それは本心だ。

 言葉遣いは演技であっても、その言葉に偽りはない。

 

 子供のフリはしていても、彼女やこの檻の中の少女たちを案じる気持ちは本物だ。


 周りの少女はもちろん、今もわたしを抱き寄せる彼女のこともわたしは良く分からない。

 性格だって優しそうなことは分かるも、それが全ての人間なんていないだろう。


 言ってしまえば、全員が完全な他人だ。

 わたしの知らない場所でその命を落としても、わたしの中に生じる感情の揺れはほとんど無いと言ってもいいのかもしれない。それほど関係は薄いのだ。


 ――だけど、彼女が善なのかどうかは分からずとも、悪でないことはわかる。


 だからこんな無法者どもの食い物にされるのは、嫌なのだ。

 天寿を全うし、その命を落とすことに抵抗はなくとも、自分のことしか考えていない屑たちにその命を弄ばれる様子は看過できない。


 我儘な話だ。今こうして考えている事柄もまた――連中と同じ、自分のための思考なのだから。わたしが勝手に見殺しにするのが嫌だから、思いのまま動いているに過ぎない。その本質は善悪は置いておいても、二人の男と変わらないものだと言える。


 しかし、それがわたしでもある。


 今のわたしではできることは、本当に些細なことだけだろう。

 だけど、わたしの目が届く範囲では、可能な限りこの子たちを庇えたら……と思った。



「もぅ……」



 小さな呟きが頭上から聞こえ、わたしを抱く体から震えが消えたことを感じた。


 ……どうやら少しは安心材料になってもらえたようだ。



次回「11 プラム=パトフィリア」となります(^-^)ノ


2019/2/23 追記:文体と多少の表現を変更しました。

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