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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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08 実技試験 前編

ブックマーク、ありがとうございます(*´Д`)


 ガダンの後をついていき、広大な公益所の建物内を進んでいく。


 外から見ても膨大な敷地、奥行きが見えないほどの巨大建造物だと思っていたけど、こうして中を歩くだけで再度実感することができる。


 道中すれ違う人がガダンに頭を下げるあたり、ここは職員専用に近い通路なのだろう。


 この未成年クラウン試験に関しては、大衆の中では賛否両論でもあるので、彼らが大勢ひしめき合う掲示板前などを通らなくて心底良かったと思う。


 ガダンがいるので大事にはならないだろうけど、無遠慮な視線を送ってくる輩はいるだろうからね。


 通り過ぎる別の通路や扉を眺めつつ、歩くこと十数分。


 ようやく実技試験会場に着いた。


 一際大きな両開きの扉をガダンが開き、わたしたちは先から入り込む風を肌で感じながら、会場へと入っていった。


 位置的には公益所の建物内のはずなのに、風を感じる。


 その答えは足を踏み入れて、己の目で確認することで理解できた。


 ――平たく言えば、闘技場、みたいなものだ。


 巨大な建造物の中を円状にくり貫いたような空間で、風の吹き溜まりになっているのかやや風は強く、足元は堅めの土で均されている。


 闘技場の淵にはプレハブ小屋みたいな小さな小屋が幾つかあり、そこを出入りする職員らしき人たちが、そこから模擬剣などを飾った木製の剣立てを二人係で運び出しているあたりから、備品倉庫なのだと見受けられる。


 闘技場を囲うように、何層もの観客席もあった。


 最上階には国の重鎮たちが座するであろう特殊な席も遠目に確認できた。


 なるほど、書物から過去に騎士同士の剣術大会や、各国の要人も観覧する闘牛士による催しなどがあったとされていたけど、外でやるには森林や山が多すぎると思っていたら、こういう場所があったのね。


「はい、整列!」


 腕を組んだガダンが体育教師よろしくそう声を張るので、わたしたちは横二列で彼の前に並んだ。


 一見、人に物を教える――ましてや自制の弱い子供たちに物事を教える人間には到底見えないガダンだが、こうして一喝だけで整列させるほどの胆力を持ち合わせている。恐怖で支配するのではなく、この人の傍にいれば安全と思わせるほどの力強さが、無意識に子供たちを従わせているのだろう。


 先ほど殺気を向けられた時はナニクソと思ったけど、試験監督者として信頼できる人間だということがその行動の端々で捉えることができた。


 倉庫から職員が持ってきた剣立てはガダンのすぐ横に置かれた。


 よく見れば、木製の剣のほかに斧、槍、鎌、盾など――種類と形や長さがバリエーション豊かな模擬武器がかけられていた。


 実技試験ということだけど、一応、実戦形式ではなく体力測定のような形式も想定していたけど、これはやはり……実戦での適性を見る流れで確定になりそうだ。


「さて、お前たちにはこれから実技試験を受けてもらうわけだが……お察しの通り、実戦形式での試験となる」


 想像はついても、ざわめき立つ。


 おそらく子供たちの頭の中では「どんな実技試験なのだろうか」から「この実技試験をどうやって合格するか、どの武器なら有利に戦えるだろうか」といった思考に切り替わったのだろう。


「武器はここに用意した模造武器だけだ」


 ガダンはポンポンと大きな手で横の剣立てを叩き、一本の一番長い剣を取り出す。


「木製だから殺傷能力は低い――なんて軽い気持ちは抱かない方がいいぞぉ。樫を圧縮加工されて作られてる武器だからな……かてぇ上に重量もそれなりだ。お前ら未成年者の未熟な筋力であっても、遠心力が乗った力で叩きこみゃあそれなりに大怪我に繋がるってわけだ。現にそういう例がこの一年間で何度か起こってる」


 わたしはふと受付嬢の言葉を思い返した。


 きっとわたしと同年代の女の子もこの試験の過程で酷い怪我をしてしまったのかもしれない。


 そこでガダンはわたし含めた子供たちの表情から何かを読み取るように視線を滑らせ、ニカッと笑った。


「ま、そーいう事例が出ちまったこともあるし、先月なんかはその話を聞いた奴が浮足だったり防御姿勢が過ぎたりと、試験として成り立たんもんになってしまったからなぁ。今月からは試験内容を変えることにしたんだ」


「……?」


 その発言に全員がキョトンと瞬く。


 話の流れ的に「怪我した事例があるけど、ビビらず頑張れよ」ぐらいの発破があるのかと思っていたら、ガダンの口から出たのは予想外に「試験内容の変更」だった。


「今までは受験者同士で戦い、拮抗した相手とどういう戦略・戦法・立ち回りをするか――っていうのが査定のポイントだったんだが、正直無駄に怪我人ばかり出そうって話がお偉いさんのところで出てな。今回から受験者同士の戦闘行為ではなく、実力の伴った試験官と受験者との立ち合いってことになったんだ」


「つまり、ガダンさんとわたしたちが剣を交える、ということですか?」


 わたしがそう問うと、鷹揚に彼は頷いた。


「おう、その通りだ、お嬢ちゃん!」


 彼は模造剣を片手で遊ばせながら、豪快に笑う。


「手練れの人間と戦うと、敗けても仕方がないっつー心情が生まれちまって、どうしても緊張感が欠けちまったり、死に物狂いになりきれねぇ。だから正直なとこ、実力を出し切れない可能性があるこの試験内容も見直す個所は多いわけなんだが……怪我を恐れて足が止まっちまうよりはマシかなって話になってなぁ」


「となると、ガダンさんは一切反撃をしない、ということですか?」


 受験者の怪我を心配するなら、彼は一切の反撃をしてこない、という意味に繋がる。


 要は臆せず好きに打ってこい、という指向だろう。


「まぁ……そういうことになるわけだが――今言った通り、それだとイマイチ緊張感が欠けるだろう?」


「はあ」


 そんな同意を求めるように言われても、わたしは元来、戦士でも戦闘狂でもないので何とも言えない。


「というわけだから、やる気を出させる方法を用意したんだ。――おいっ!」


 ガダンは含みある笑みを浮かべた後、遠くで待機していた職員に声で合図を送る。


 すると職員は一つ頷き、さらに遠く――一つの出口前で待機していた職員に手招きをした。それを見て、出口前の職員は手元の小さな手押し台車を推し進め、ガダンとわたしたちの近くまでやってきた。


 台車の上には幾つかの液体の入った小瓶が並んでおり、いずれも口部分に丸めた布切れが詰め込まれていた。


「…………?」


 ますます意図が分からず眉を顰める子供たち。


 図らずしてわたしもその一人なわけだが、悪戯を画策する子供のような顔のガダンを横目に、少なくとも良いものではないだろうなぁ、と目を細めた。


「さて、誰もが気になるこの小瓶の中身だが……別に毒とかではない。むしろ身体にはいい飲み物だ」


 ガダンが手を伸ばすと、職員が小瓶の一つを手に取り、彼に手渡す。


「コイツは効き目の高い滋養剤でな。王城の宮廷薬剤師が特別に作り上げた特注品で、本来なら高価でありがてぇ代物なんだが………………これがまた、とんでもなく不味い」


 わざと舌を出して「うぇ~」と顔をしかめるガダン。


 次に口を塞いでいた布を取り、鼻を近づけ、彼はすぐに布を締め直す。


「加えて、マジで臭ぇ」


 まるで肥溜めの間近まで顔を近づけた直後みたいな表情で、彼は半ば楽しそうに告げた。


「とまぁ、こういうモンだから、不味い遠征用の携帯食に慣れてる兵士ですら飲みたがらないわけだ。逆に身体にはいい成分が詰まってるからな。罰ゲームとかによく使われるわけだ。無駄に在庫余ってる上に、保管期限も長いしな」


「……」


 受験者全員が察した。


 その様子に満足したようにガダンはその察した内容を言葉にする。


「てなわけで、今回の試験で明らかに全力を出そうとしなかった奴には、合否に関係なく、コイツを飲んでもらう。臭い・不味いに加え、後味が半日は残るというおまけ付きだ。何を食ってもこの滋養剤と同じ味がするような一日を送りたくなけりゃ、持てる力を全て出せ! 分かったな!」


『はいっ!』


 ガダンの叱咤に、子供たちは反射的に勢いのいい返事をした。


 かくいうわたしも自分で言うのもアレだけど、珍しく元気の良い返事をした。


 だって……ガダンが一瞬だけ小瓶の布を抜いた時――<身体強化テイラー>で強化されていたわたしの鼻は自然とその匂いを嗅ぎ分けてしまったんだもの。


 アンモニア臭だの、酸っぱい臭いだの、臭さを表現する言葉は色々とあるけど――あの小瓶の匂いはどれにも該当しない混沌としたものだった。


 一言、形容しがたい悪臭、というべきか。


 ガダンまで少し距離があるというのに、嗅いだ瞬間、頭痛と眩暈が生じ、思わず目尻に涙が滲んでしまうほどだ。


 ――絶対に飲みたくない……!


 その決意を胸に、わたしはいよいよ幕開ける実技試験に挑むのであった。



2019/2/26 追記:文体と一部の表現を変更しました

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