06 学術試験 後編
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15問目までたどり着き、意外と時間が過ぎていることにちょっと焦りを覚える。
くっ、正直ちょっと舐めてたわ。
この世界自体ではまだまだ3年という短い人生であっても、わたしの人生全体で言えば200年というアドバンテージがある。
しかも階級制度は前世やその前の人生とそう変わるものでないし、貴族社会や王族などへの認識も身を以って経験している。
けれども、この世界の勢力や常識を前提に応用した考え方を答えに求められる問題が多く、王立図書館で知識を詰め込んだばかりのわたしにとっても中々に歯ごたえがあり、一問一問に時間を取られてしまう。
おっかしいなぁ……わたし記憶喪失設定だっていうのに、レジストンさんや……ちょっと問題が厳しくないですか? 今月試験を受けることを言ったら「君なら楽勝な試験だよ」と気軽に笑ってたくせに!
ただ一問一問を暗記ではなくじっくりと思考しながら答えを模索していったおかげで、出題の傾向は見えてきた。ここまで設問を見てきた中で一つの結論が出たのだ。
この学術試験は学力を測るものではなく「適性」を測るものだと。
ジャンルに一貫性のないように見える設問の数々だが、通じて一点。
これはクラウンとして国内の色々な場所へと赴く際に、余計な諍いを生まないための知識であることが共通していた。
特に貴族に関する事項なんて、大きな依頼を受ければ必ず当たる問題だ。
俺は依頼を受けたクラウンだから、なんてデカい態度で依頼を受け、領地に赴いて好き勝手に動けば、間違いなく裁きを受けるだろう。
そんな過ちを犯さないように、この20問という限られた設問には、ヴァルファラン王国における人間種の社会においての必要不可欠な知識が盛り込まれていた。
そして同時に気付く。
もしこれが適性試験を兼ねているならば、月一回開かれるこの対未成年のクラウン試験で毎度、別の問題が出されるだろうか?
答えは、否、だと思う。
クラウンとしての適性を測るならば、出題内容を変えることは意味が無い、というか本末転倒だからだ。
測りたい適性事項は全てこの20問に含まれている。
いや……すべてというには少ないだろうから、おそらく大きな問題を起こさない程度の知識、という位置づけがこの問題に込められているのではないかと思う。この20問は他の内容に変えることのできない重要なものであることは間違いないだろう。
次の試験内容では階級制度の確認などを省く、なんて展開は考えられない。
となれば、この試験内容は毎回、同じものではないかと推測される。
……平民では身に着けられない難易度の高い試験、月1回の日程、銀貨1枚の参加料……そして、同一人物でも問題さえ起こさなければ何度でも受けることが可能な制度。
もしかして、この試験は……クラウンという餌に模した――簡易的な教育の場も想定している?
銀貨1枚は、10歳ぐらいの子でも公益所で毎日地道に働けば、一月に稼げない額でもない。
運が良ければ御釣りがくることだって多々あるだろう。
仮に同じ問題が出題されているなら、二度試験を受けた子ならすぐに分かることだし、別々の月に受けた子たちが情報を寄せ集めても判明することだ。制定後すでに1年たっている現在、交友関係の広い子なら既に出題内容を把握していてもおかしくない。
そうなってくると、いかに難しい問題であろうと、調べるモノさえ分かっていれば、平民の子であっても正解を手にする可能性はグンと上がってくるだろう。
もし本当にそうなのであれば――これは試験問題としては、問題アリだと思う。
でも本質がただ学術を測るのではなく、適性を「育てる」ためのものだったら?
クラウンになりたがる子供が多いことは、公益所の混雑と諍いの様子を見ても明らかだ。それらの子が試験に落ちても、諦めずに何度もチャレンジしていると仮定したら――自ずと彼らは同じ問題が出題されている事実を受けて、自分の足で調べる可能性が高い。
その過程で大人や他の子たちに頼ることがあっても、自分で調べようと自発的に動いて覚えたモノというのは、ただ暗記するよりも記憶に残るものだ。
大きな目標があるなら猶更だろう。
ふむ、とわたしは次の問題に目を通しながら考える。
この未成年クラウンの制度については、提案者であるレジストンの意向が強く反映されているのは間違いがない。
彼のことだから、おそらく遠く未来まで見通して、多岐にわたる事柄に布石を打っていることだろう。
これもその一環だろうか。
もしかしたらレジストンは、試験に合格できずとも、ヴァルファラン王国の国勢を子供のころから学ばせる目的があるのかもしれない。今は制定後一年ということでお試し期間の20問だろうけど、そのうち効果が見られたら、徐々にその幅を同じ手法で広げるつもりなのかもしれない。
知識を手にする年代層を底上げする理由はなんだろうか。
近未来的に子供ですら相応の知識が求められる時代がくることを危惧しての対応? それとも単純に国力を高めるための施策だろうか。
うーん、考えすぎかな?
そもそも同じ問題が出題されているかどうかも、わたしの想像の話だしね。
これが終わったら彼に確認してみるのもいいかもしれない。
はい、18問目も終了っと。
カリカリと鉛筆を走らせ、わたしは19問目へと目を移す。
どうやら最後の2問は、状況判断能力を試す問題のようだ。
『あなたはとある貴族の護衛を依頼され、馬車で三日、早馬で一日の距離にある領地まで同行することになった。護衛対象の貴族は一人、護衛はあなたを含め三人、御者が一人の五名での一行となる。ちょうど中間地点までたどり着いたとき、あなたたち一行は10名からなる夜盗に襲われる。時間は夕刻。近くに集落や兵士の駐屯地は無いものとする。一行全員が恩恵能力を使えないものとする。護衛は一人で3人の夜盗を相手取ることが可能だが、倒し切るには時間がかかるものとする。こういった事態にあなたはどう対応するのが最適だと判断するか』
「……」
ちょっと……残り時間も少ないのに、こういう問題を入れてくる?
ちらりと20問目も見ると、同様に提示された条件の中でどう判断するかを求める問題だった。
小さく嘆息しながら、わたしは状況に自分の姿を置いて考える。
まあ、冷酷な判断を下せば、依頼達成を優先するなら――護衛二人を夜盗の対応に当たらせ、馬車の退路を切り開き、残りの一人が貴族の乗る馬車を逃げさせる……ぐらいが妥当かな。夜盗が10人いるとしても、退路を切り開くだけならこの例題の護衛二人でも可能だろう。
もたもたしていれば馬車の車輪などを破壊され、逃亡も難しくなるから、すぐにその判断を下すのがクラウンとして正しい選択だろう。
たとえ……残された護衛二人の安否を無視したとしても。
「……」
でも――きっとわたしがその場にいれば、仮に恩恵能力が使えなくとも、別の手を模索することだろう。
――不正解、と判断されるかもだけど……。
わたしは先ほどの模範解答を記入したうえで、その後ろに付け加えた。
『――ただしそれはそういった事態を想定していなかった時の話であり、仮にわたしが恩恵能力を使えず、対多における戦闘手段が乏しければ、それを補う手段を予め用意しておくだろう。煙幕、散弾銃などの装備が望ましい。そういった装備があれば、夜盗の目を眩まし、最小限の被害だけでその場を切り抜けられると判断する』
これが本当に適性試験ならば、その事態を想定しての答えは勿論だけど、そうならないための対策も書いておいた方が無難だろうと思っての答えだった。
採点者がそれをどう捉えるかまでは分からないけど、わたしだったらそうする、という答えを記載し、後の判断は出題側にお任せすることにしよう。
わたしは同様に20問目も何とか書ききり、鉛筆を回答用紙の横に置いた。
その数分後にガダンが「それまで!」と声を張った。
どうやら書き終わったのは本当にギリギリな時間だったようだ。
わたしは名前を書き忘れるなんてドジをやらかしてないか最後に確認した後、回答用紙を回収しに回るガダンにそれを手渡した。
2019/2/26 追記:文体と一部の表現を変更しました