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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
103/228

02 公益所前広間の喧噪

誤字報告、ありがとうございます(*´▽`*)

けっこう恥ずかしい誤字とかあって申し訳ないです(>_<)


いつもお読みいただき、ありがとうございます。



 わたしはフルーダ亭でいつもの朝、いつもの朝食を終え、プラムたちに断りを入れて外に出ていた。


 今日も今日とて賑やかな大通りを進み、わたしはフルーダ亭から公益所への道をたどっている。


 この辺りは3年前、わたしがヒヨヒヨの後を追いかけていった時と同じ道だ。


 いい記憶ではないけど、3年も経てば記憶は思い出へと風化し、懐かしさを抱かせる。


 そういえば後から聞いたのだけど、実はあのヘドロ法衣、まだ生きていたらしい。


 わたしの炎を受けて、さらに言えば苦手属性の魔法をあの密室に受けながらも生きていたとは敵ながら天晴である。


 そんなヘドロ法衣は大分弱っていたらしいんだけど、下水道を通って地上へと姿を見せたらしい。今でも王都民の中で「深夜に下水から這い出る液状の異形」として噂が回ることもあるほど、そこに居合わせた人たちの当時の衝撃はすごかったらしい。


 人的被害が出ていたら、きっとここまで噂にはならず、哀悼から口をつぐむ話になっていたのだろうけど、どうもヘドロ法衣はたまたま城を抜け出していた暴君姫ぼうくんひ――アリエーゼ王女殿下と出くわしたらしく、王都民を襲おうとしていたことと、どう見ても人間ではないスライム然としていたヘドロ法衣を見て、迷わず恩恵能力アビリティを使って文字通り消し去ったそうだ。


 そうして平和になったことから、人々は口を軽くして噂として当時の話が語り継がれているというわけだ。


 同じ銀髪でわたしよりちょっと年上の王女の一人。


 さんざん話題に出るものの、まだ会ったことはないし、王族と面と向かう機会なんてそうあるもんじゃないから、今後も出会うことはないだろう。


 でも、あのヘドロ法衣を消滅させる力を持つ、彼女の恩恵能力アビリティとはいったいどういうものなんだろう、と興味はあった。


 ま、その興味が現実になることはないと思うけど……。


 仮に偶然そういった機会に遭遇したとしても、王族なんて柵だらけの人間とはあまりお近づきになる気はない。絶対に面倒事に繋がる自信がある。


 大通りに面した広間から香しい匂いを放つ屋台に気を取られつつも、道端を陣取る路商が並べた骨董品紛いの品物を見物しつつ、わたしはいつの間にか巨大な建造物の前まで着いていた。


 王都に来てから馴染み深くなった場所――公益所だ。


 多くの人が出ては入るを繰り返し、千差万別の様相を見せる。


 大きな木網籠を背負ってる人もいれば、剣・弓・槍・斧といった武器を装備した人もいる。


 多種多様の目的を抱えながらも、ここに足を運ぶ者全員が共通するのは「お金を稼ぐ」ことだ。


 それぞれが自分にできること、自分が得意とすることを武器に公益所に日雇いの仕事を探しに来る。


 そういった連中をカモにするために、にこやかな笑顔を浮かべながら荷車を引く商人の姿もちらほら見受けられた。


 いつもと同じ風景に見えるが、明らかにここ3年で変わったこともある。


 やはり一番目につく部分は子供が増えたこと。


 以前はヒュージみたいに孤児院暮らしのため、お小遣い稼ぎだったり、他の孤児院の子供たちのために出稼ぎにくる子供はいた。でもその数は圧倒的に少ない。


 わたしが前に来た時、迷子と思われて色々と声をかけられたが、その理由も実は子供が少ない環境が関係していたことは後で知った。


 つまり当時は子供が単身で公益所に来ること自体が珍しく、一人でいること=迷子と認識されたのだ。


 でも今は違う。


 成人前と思しき子供たちが、やけに意気込んで木製の剣などを背負いながら公益所に向かう姿が見られるのだ。周囲の大人たちはその様子に眉を潜めたり、ひそひそと話す素振りは見せるものの、咎める者はいない。


 これはレジストンが強引に改定させた、公益所……いやクラウンの雇用規定の変更が効いているためだろう。


 きっと良識ある大人たちは、身体も出来上がっていない子供たちが、危険なクラウンに夢見て就こうとする子供たちに何とも言えない感情を抱いているのだろう。


 そういった表情が節々に見られた。


 ――でも、まあ彼らが心配しているような事態には繋がらないだろう。


 何故なら、改定後、月に一度、クラウン雇用試験が行われるが、未だに成人前の子供で合格した者はいないからだ。


 これはレジストンが未熟な子供が誤ってクラウンになり、その未来ある命を落としたり、貴族等が絡む面倒事に巻き込まれないよう、ハードルを高く設定させたことが原因だ。


 子供たちもその壁が限りなく高いことは何となく分かっていることだろう。


 けどいつしか、その壁を超えることは子供、特に男の子たちにとって名誉みたいな扱いになっており、今でも気合を入れて公益所に乗り込む子供たちの数は増える一方だった。


 それに加え、やはりクラウン――元討伐隊への憧れも手伝っているのだろう。


 もしくは現実的なことを考える子供なら、宿舎を無期限に借りられることや、金入がいい条件などに釣られていることもあるかもしれない。


 けれども、その夢を叶えた子供の数はいまだゼロ。


 ここまではレジストンの計算通りだと思う。


 ただ彼の計算外があるとしたら――合格率0%に怯みもせずに挑み続ける子供の数は増え続け、しかも王都以外から単身でやってくる子供もいるぐらい、人気が出てしまったことだろうか。


 一応、クラウンでの未成年対象の試験は有料で、子供には大金とも言える「銀貨1枚」を支払わないといけない。


 きっとレジストンは有料にすることで、無駄に子供たちが参入してくることを防ぎたかったのだろう。高いけど、実現不可能ではない額にしたのは、高額……例えば金貨1枚とかにしてしまえば「何のために導入した改定なの? こんなの子供が払えるわけないじゃない」という疑問が逆に生まれてしまうからだろう。


 色々考えた結果、銀貨1枚という塩梅に落ち着いたのだと思う。


 しかし結論として試験を受けようとする子供の数は減ることは無かった。


 わたしが3年前、草刈で銀貨2枚貰ったように、頑張れば手が届かない額ではないし、複数の子供たちが少ないお小遣いを寄せ合えば可能な額でもあるのだ。故にあの手この手で子供たちはこの公益所へとやってくるのだ。


 子供たちのやる気が増えること自体はさほど問題はない。試験に合格しない以上は問題に発展することはないのだから。


 しかし……公益所に訪れる人間の数が一気に増えたこと――これは大きな問題に発展する危険性を孕んでいた。


 夢見てやってくる子供たちはさぞかし興奮して、この場所に訪れることだろう。


 彼らからしてみれば、ここは遥か天上に輝く夢へと繋がる場所。


 浮足立って視野が狭くなる子もいれば、友達と一緒にやってきて円陣を組んで大声で励まし合う子もいる。


 ……でも結局は子供だ。


 孤児院に住まう子であっても、両親が健在である子であっても、試験に不合格したところで今すぐ路頭に迷うことはない。


 今となっては図書館仲間であるグラム伯爵にそれとなく聞いてみたところ、浮浪児みたいな子供は王が許さず、必ずどこかの孤児院に所属することを義務付けているみたいだから、間違いないだろう。


 だから――結局のところ、彼らのほぼ全員が「本気」ではないのだ。


 彼らの中では本気そのものなのだろうが、公益所で生計を立てている大人――その中でも生きるか死ぬかの瀬戸際で戦っている者からすれば、やはり「お遊び」の範疇にしか見えないのも無理はない。


 そして命を懸けてクラウンという職業に従事している者からしても、今の状況というのはあまり面白くないのかもしれない。


 彼らはきっと……クラウンという職業が軽く見られている、そんな屈辱と憤りを少なからず覚えている。その雰囲気をわたしは公益所に来る度に肌で感じていた。


 ……早いところ、合格者を出すべきね。


 わたしはそう考えていた。


 ただでさえ現役のクラウンや、今まで公益所に通っていた大人たちから反感を抱きつつある現状だ。


 合格者のいない今のままだと「何のために設けられた改定か分からない」という不満につながり、やがては「無駄にクラウンの価値を貶めた制度」だの「背伸びした子供たちがあふれかえって仕事を取りづらくなった」だのと、この制度をごり押しした王族への不信感にも繋がってしまうかもしれない。


 まあ現に今の台詞は全部、わたしがこの広間で耳にした愚痴だから、既にそういった流れに傾きつつあるんだろうね。


 このままでは本末転倒だ。


 レジストンの思惑は思わぬ方向へと転がっていき、逆に身動きが取れない鎖となってしまうだろう。


 でも未成年者に合格者が出れば、この制度改定にも意味が出る。


 そしてさらにいえば、その合格者がそれなりに活躍すれば、文句を言う人も公に口を開くことは少なくなり、この制度に対しても「埋もれる人材を早期に発見することができる」というプラス思考に捉えてくれる人も増えるかもしれない。


 だからこそ合格者は必須なのだ。


 わたしは人の流れに邪魔にならない木陰に避難しているものの、やはり邪魔な子供を見るような眼で見られている。中にはわたしの髪の色を見てギョッとする人もいたけど。


 実を言うと、今日は月に一度の試験日である、その日だ。


 だからただでさえごった返している公益所前の大広間だが、さらに子供たちが増え、二割増しぐらいで混雑していた。


 10歳以上15歳未満の未成年者のクラウン試験会場は、建物内の中でも別建てされているので、公益所内での混雑はある程度整理されるだろう。迷子とかなければ。


 開始時刻は午前10時。会場の受付が開始されるのは、その30分前だ。


 広間の中央にある大きな柱時計を見ると、まだ午前8時半を回ったところなので、今会場に向かったところで中に入ることはできない。ちょっと早く出すぎてしまったことは明確だ。


 ……どうやらわたしも気づかない内に、それなりに気負っていたのかも。


 初めての合格者になる。ならなくてはならない。それが10歳になったわたしに課せられた使命――と言うと大袈裟だけど、レジストンの期待しているものはそれだろう。


 その期待が図太いわたしであっても、それなりに感じ入るものがあったようで、自然と緊張へと繋がっていたのかもしれない。


 ……これじゃ他の子供たちのことを言えたものじゃないわ。


 はぁ、と息を吐き、わたしは人間観察がてら何となしに広間の喧噪を眺めていると、少し離れた場所から怒声らしき声が響いてきた。



「アァ!? なに勘違いしてんのか知らねぇが、ここはガキの遊び場じゃねぇぞ! 邪魔なんだよ! さっさとクソガキはママんとこに帰んな!」


「はぁっ? ちょっと体が当たったぐれぇで怒鳴るなよ!」



 ガキ、という表現で、わたしは嫌な予感を察した。


 周囲の人もわたしと同じ想像をしたのだろう。


 ざわざわとするものの、その表情には同情的な色が濃かった。


 おそらく……子供ではなく、怒鳴っている大人の心情を慮ってのものだろう。でも子供相手に怒鳴るのも……という気持ちもあるので、周囲の人たちは怒鳴る男に加勢することも、子供を庇うこともなく、遠巻きにその様子を眺めるだけの野次馬となってしまった光景が目の前に広がった。


「……」


 わたしはちょっと迷った挙句、背中を預けていたそれなりに背の高い木の上へと昇った。


 ……今日はスカートじゃなくて良かった。


 見晴らしのいい広間だから、きっと丈夫そうな枝に登ったわたしの存在は大勢の人から見て丸見えのことだろうから。


 そして、わたしより背の高い大人たちに隠れて見えなかった喧嘩の様子を、木の上から眺めることができた。


 どうやらそれなりに恰幅のいい男――多分クラウンだろうか。腰に斧を携帯している男が、正面の二人の男の子に対して怒鳴っているようだ。


 対する子供の方は――片方は「やめようよぅ」と弱々しく隣の男の子を止めようとしているが、もう一人の男の子は気が強いらしく、喧嘩腰の斧男に対して睨んで言葉を返していた。


「あぁー……いつか起きるだろうと思っていたけど、やっぱりそうなっちゃうかぁ」


 まぁ、もしかしたらわたしの知らないところで、こういったことは多発しているのかもしれないけど……うん、遠くに見える衛兵たちの様子を見るに、それなりに同じような喧嘩は今までにも起こっていそうだ。


 併設された詰所から出てきた衛兵たちが「またか」というような、げんなりした表情で人を掻き分け、騒動の元へと向かってきていた。


 けれど人の数がいかんせん多い。衛兵がたどり着くまで、数分は要しそうだ。


 そんな衛兵たちの様子など知ることなく、眼下の喧嘩は続く。


「ムカつくんだよ……苛々するぜ。こっちぁ生活がかかって本気で仕事取りに来てんだぜぇ? そんな中、テメエらみてーなクソガキが能天気に『クラウンになるんだ』だぁ? ふざけんじゃねぇ! 前から気に食わねぇことだったが、そろそろ我慢ならねぇ!」


「な、なに言ってんだよ! 別にアンタに迷惑なんかかけてねーだろ!」


「迷惑なんだよ! 存在そのものがよぉ! 人が必死こいてる時にチョロチョロとしやがって……さっさとここから消えろや!」


「へ、へっ……アンタみてーのがクラウンだってんなら、随分と質も落ちたもんだよ!」


「な、なにぃ……!?」


 言い合う男の子は、見た目的に15歳近いんだろうか。


 わたしよりは数段大人っぽく見え、それなりに身体も引き締まっていた。言葉も子供にしては引き出しが多く、相対する男を煽る程度に回るようだった。……あの斧男の煽り耐性が低いのも要因だけど。


 一方、なんとかして宥めようとする小さな男の子は、わたしと同年代ぐらいかもしれない。今にも泣きそうになりながら、少年の腕を取っては「もう行こうよぅ」と言い続けている。


 しかし、ちょっと雲行きが怪しくなってきた。


 煽り耐性が脆弱な斧男の右手が、さっきから不穏な動きになっているのだ。


 肩がピクピクッと動き、肘がやや後ろに下がっている。


 ――これはちょっと拙いかもね。


 それ以上、煽らない方がいい。


 そんなわたしの心配は届かず、少年はなお言葉を連ねた。



「仕事ねーのも、必死こいてんのも、全部アンタの力不足だろっ! へっ……自分の不甲斐なさを子供の所為にして当たるなんて、無様にも程があるぜ!」


「ク、クソガキィ!」



 その言葉が彼の何かに抵触したのか、斧男はおそらく無意識に腰の斧の柄を掴んだ。



2019/2/26 追記:文体と一部の表現を変更しました

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