第1話
「これで君との契約は終了されたことになる。」
目の前にいる1人の少女に対して俺はふっと口に微笑を浮かべながら彼女が持ってきた金貨を契約紙の上においてしっかり契約がちゃんと履行されたか確認する。
紙に書いてある魔法陣に金貨の山が吸い込まれると同時に彼女の首にかかっている銀色のチョーカーがゴトリと音を立てながら地面に落ちた。
何度見てのこの作業を行ってもなれることのないことを自覚しつつ少女に再度目線をやる。
彼女はチョーカーが外れたことでいつもと違う感覚なのかしきりに首をさすりながらこちらを見ている。
今まで彼女を縛り付けていたものがなくなったのだから当然と言ってしまえばそうなのだがこれからは新しい人生が始まるのだ、この程度で困惑してしまっているようでは困る。
完全に契約を打ち切ったのか隷属の魔法陣が描かれたスクロールは燃え尽きてしまった、さあこれで彼女は俺の手から離れ文字通り‘自由‘の身となったのだ。
「テト、これで晴れて君は自由の身となったわけだが・・・君が旅立つにあたって今回の買い戻しのあまり金だけでは足りないだろう、そこでささやかながら君に祝い金を送りたいと思う、もっていってくれ」
彼女に突き出すようにして俺はお金が入った袋を差し出す。これで俺のすべきことはすべてやあった、あとはもう彼女がすべて選択して行動すべきだ。もう俺が彼女に押し付けることは何もない、この娘にはもっと広い世界を見てほしい。
「さあテト、これから君がどうしようと君自身の自由だ、しかしそれは同時に君がしたことに対して君が責任を負わなければならないことも意味している。そのこと常に念頭においてほしい。私からはこれだけだ、もうさがっていいぞ。」
最後におめでとう、と声をかけて彼女を下がらせる。彼女と過ごした6年という歳月は少女を女性へと変化させた。当時は生きていくこともままならなかったが、今では国有数の冒険者となり生活して幾分のお金など全く問題とならないだろう。さあ、これで今日の仕事はすべて終わってしまったので彼女との思い出を肴にしてお酒でも飲もうか・・・
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ん・・・そうか、俺はあのまま眠ってしまったのか、今日からはテトがいないのか・・みんな寂しがっているだろうから俺が元気にふるまわなければ・・
「おはようございますパパ」
はは・・・なんだかんだ言って俺もやっぱり悲しいんだな。テトの幻聴が聞こえるなんて・・
「パパ起きてください、もう7時ですよ。珍しいですね、パパが寝坊なんて・・」
おいおい、テトが俺を起こす係だったにしてもひどいな、明日から1人で起きることに慣れるようにしないと・・
「パパ何やってるんですか、寝ぼけてないで早くしてください。ほとんどの人が食堂で待ってますよ。」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!なんで!?昨日家を出ていったはずじゃなかったのか?
「どうゆうことなんだテト、君は昨日この家を出ていったのではないのか?」
俺は困惑しながらテトに尋ねる。
「いや、そんなことしませんよ。もしかしてパパまだ寝ぼけてますね。えいっ、えいっ」
娘よ、パパの頬をグニグニするのはやめなさい。
パパは真面目に聞いているんだぞ。
「なんでも何も自分を買い戻した兄さん姉さん達誰もこの家からでていってないじゃないですか。今更私だけ出て行くのも変な話でしょう。」
うぐっ・・ いたいところをつかれてしまったな。しかしこんなことを言われるのは想定済みよ!
「テトよ聞きなさい。それはほんとはいけないことなんだ、君の兄・姉たちにもいつも言っているはずなんだが・・・」
みんないつもは聞き分けがいいはずなのにこの時だけ誰も首を縦に振ってくれないよね!まあいい、ともかく説得を続けよう。
「私は君たちにこんなところで終わってほしくないんだ。君たちにはほかの人にない才能があり、やる気・若さもある。君たちはここでくすぶっていい存在じゃないんだ。テト、君のことを待っている人がこの国には、いやこの世界には大勢いるんだよ。」
「確かに私たちには力があり、多くの夢もあります。またそれを実現する実力も自負してます。ですがパパ、それでも私たちはこの家に残ると決めたんです。その価値がこの家にはある、そう信じてますから。そ、それに・・・」
それに?
「パ、パパを起こす係は他の人に任せられません!他の人たちに任せたらパパと一緒に一日中寝て部屋からでてこなくなっちゃうじゃないですか!」
頬をリンゴみたいに染めながら言わないでくれるかなテトちゃん、こっちが恥ずかしくなっちゃうから。
「う、うっさいです!と、ともかく、私は出て行きませんからね!パパを起こす係も今後とも続けていきますから、あと早く食堂に来てくださいね!」
そう言ってテトはこの部屋を出ていった。
バンと音を立てた扉を見ながら俺はひとり気持ちを解放した。
「結局また旅立たせることができなかったじゃねぇかぁぁぁぁ!!!!」
17人が暮らす屋敷に俺の声が響き渡った。