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EX:ステージ  作者: 天弥 迅
開幕
8/19

No.8


「貴様も武将か?」

「武将? 知らんな。余は主如きが魔王の名を扱うのが気に食わないだけだ」

「それは私が第六天魔王と呼ばれるに相応しくないと申すか?」

「魔王はただ一人、余だけで良い」

「そうだな。二人もいらん。貴様を倒せば良いだけだ」


殺気が膨れ上がる。両者は世界は違えど、同じ異名を持つ者として何方が本物かを証明する為に戦い出す。


「ハアッ!」


先に動いたのは赤髪の女性。瞬く間にジークセナードの懐まで接近して刀を振り下ろす。鬼の金棒とすら斬り合える業物に加えて彼女の剣士としての技術があれば簡単に両断出来るであろう。

が、涼しい顔で魔王は半身になって最小限の動きと距離で一閃を避ける。流石にわかりやすい太刀筋だったのか難なくと言った感じだ。

しかし一撃で仕留められると思わない織田 ノブナガは続けて下から斬り上げる。

とにかく彼女の動きは速い。持つは刀の筈なのに身体の一部のように軽やかに振り回す。太刀筋は単調だが隙なんて全く見せない。

再び迫る刃に上体を逸らして避ける魔王。そちらもまた反応速度は伊達じゃなかった。更にはごく僅か程度の斬り終わりに合わせて反撃の手を入れるなんて芸当すらみせた。

ただそれを紙一重に躱す戦国武将もまた異質である。

そこで互いは一旦距離を置く。

今の数合のやり取りは一般人が一呼吸するくらいの時間。当然目で追えない九条からしたらそんな攻防があったなんてわかりはしなかった。


「どうした? 欠伸が出るぞ?」

「ふん。お手並み拝見しただけだ。そんなに興奮するでない」


互いにまだまだ余裕の笑みを貼り付ける。これでは何方が優勢かも把握出来ない。


「ノブナガ。儂との戦いそっちのけとは良い度胸しとるのう」

「酒呑童子。貴様は後回しだ。今はこの阿呆を斬り捨てる」

「それが良い度胸と言うんじゃ」


不意に振るわれた金棒が戦国武将を襲う。だが威嚇程度に過ぎないものであり、彼女は割って入る攻撃を後ろに飛んで避ける。


「魔王さんとやら。邪魔せんでほしいのう」

「主こそ邪魔をするな。今なら同じ角を持つよしみとして見逃してやろう」

「其方も良い度胸をしとるようじゃのう」


今度は鬼と魔王の間で空間が歪みそうな重圧が形成される。ある意味同族的な近しい身であるのに何の因果か敵対し合う。

そしてそれを眺めている程、織田 ノブナガも気は長くない。


「面倒臭い。何方も斬ってやるからそこに直れ」

「ハッ。面白い。なんなら儂が其方達を同時に相手してやろうかのう?」

「主ら余を見くびり過ぎのようだな」


睨み合う三者。

もはやこれだけで戦争みたいな規模にすら見える光景である。

そんな中、一番苛立ちを見せたのはジークセナードだった。


「誰が上か教えてやろう」


言いながら彼女の肉体は闇の魔力を帯び始める。

異世界ならではの他者には扱えない唯一の力である魔法の行使の準備を図る。


「あ、あれはーー!」


いち早く気付くは当然同じ世界から顕現した勇者リーデン・シュヴァイツ。あれが何をするかは彼女にしか理解出来ない。故に止めなくてはと無理矢理少年の拘束を振りほどいて駆け出す。


「貴女は駄目」

「キャウン!」


そんな青髪の女性を非情にもテトラは後頭部に手刀を入れてあっさりと意識を刈り取る。

ーーナンダイマノコエ。

まあ、おかげでこれ以上ややこしくならずに済んだのは良かった。

だがもう既に十分ややこしくてあまり変わらない些細なことだったのかもしれないが。


「仕方ない。こうなれば僕達が割り込んでもどうしようもないだろう」

「………」


金髪の女性に意見は的確な判断だ。

もはや手出し無用な場になっている彼等を放って離脱するしかないと思われる。

ただ、あの面々が敵に回るかもしれないと考えると何か良い策はないか? と割り切れずにいる九条 真司。

それも次の展開を見てしまえば諦める他なかった。


「消えよ」


練られた魔力が膨張して頭上に紫紺の六芒星が光り輝く。

次元が歪み、この世界ではない別の場所から彼女はある怪物をここへと呼び出す。


ーー混沌の表し 闇が示す深淵なる盤石の僕よ 来たれり 紅と漆黒の牙ーー。


「出でよサラマンダー!」


次元の歪みから赤黒い火が漏れる。徐々にその姿は此方側の世界に踏み込み、ベールを見せた。

異界の地での力の象徴。知を司る怪物。堅牢な鱗と壮大な翼を持ちし畏怖なる生命体。世界は一様にそれに恐怖、またはひれ伏すであろう。

人々はこう呼ぶ。


ドラゴンと。


「物の怪か?」

「違うじゃろう? 竜………にしてはちと形が変わっておるが」


刀と金棒を構える双方。敵同士でありながらも同じ世代を過ごして来ただけあって連携をしているみたいに息を合わせる。

何より臆する素振りを一切感じさせない。


「焼き尽くせ」


都心部。その上空で停滞するサラマンダーは使役者の命令に従う。

漏れ出す火炎が増幅。眼下に放つ態勢で溜めを作る姿は災厄そのものだ。

この火炎が落ちれば街は火の渦に呑まれて崩れ去るだろう。

辺り一面は危険地帯だ。

彼女が手を振り下げる。

そうしてドラゴンの業火は遥か下にいる織田 ノブナガと酒呑童子をに襲い掛かる。


「火の玉程度、斬ってしまいだ」

「!」


腰を落とした構えに入る赤髪の女性。その佇まいに一瞬ではあるが、ジークセナードは魔王と称されるだけの潜在力を身に秘めているのを感じた。熱量が増していく空間で揺らめく刀身を鞘に収める。

敢えて矛を仕舞うことに意味を見出せない魔王は彼女の一挙一動を見逃さずに凝視する。

これは特殊な技法であり、剣術。真なる力を発揮するに至ったもの。

この世界に置いては居合と呼ぶだろうが、彼女の時代に置いては別の名が用いられた、


天大一閃(てんだい いっせん)


魅せるような太刀筋の一撃。

鞘から抜かれたのは極小の時間。だがそれだけで十分過ぎる余力があった。

光が一閃を描き、炎塊をあろうことか真っ二つにしてしまう。そのままサラマンダーも巻き込んで斬り落とし、別れた一部が鬼の元へと向かうが金棒をひと薙ぎすることで破散させる。取るに足らない程度の正に火の玉扱いで終わってしまったのだ。

目を見張る所業。何方もが魔王からしたら魔力も使わずに地力を持ってして防いだものであるが故に余計にだ。


「ふむ。主らはどうにも奇怪な力を持っておるな。見事よ」

「あまり儂等を甘くみない事じゃな。織田 ノブナガにこの酒呑童子を前にして生きて帰りたいのならば刺激はせんことじゃ」


金棒と刀が向けられる。誰もが名高い強者達。改めてその三者の空間を見る九条は止められる術なんてないのだと痛感してしまう。


「………行こう」

「う、うん」


あれだけ此方を蚊帳の外にしていれば離脱するのは容易い。次に彼等が動き出した瞬間がチャンスだ。

そう二人は決めて膠着している者達の行末を見守る。

ただ、色々な意味でもこの状況を軽視はしていないだろうが、考えが甘かった。

よくよく考えて、思い出そう。

こんなに激化している中、あのド派手な戦いを繰り広げてからのこの静けさ。確かに周囲は何らかの力が介入して時を止めたような空間にはなっているが、適用されない者達だっている。

ならばだ。

これ以上の乱入者は現れないだなんてどう言い切れるのだろうか?

そう。


「ーー!」


一度あることがまたないなんて有り得ない。


ドォンッ! と隕石のようにそれは落下して来た。あの三者の中心に。

彼等は後ろに飛んで衝撃から逃れる。ただ突然な出来事に呆気に取られるような表情はしていなかった。

それは少年の隣にいるテトラも同様。

警戒心を最大に跳ね上げるくらいな険しく、力みの入った佇まい。


「気をつけて。アレはまずい」


あの白の少女を相手にした時でさえ変化を見せなかった彼女が相当に焦りを覚えていた。

こうまで注意喚起をすると言うことはもしかしたら自身では守り切れる自信がないのを意味する。

まさか?

しかし、鬼や武将、魔王の様子ですら先程よりも厄介な存在を相手にする気配を出している。

一体何者なのだ?


「分からない。だからこそ一番危険な存在………」


金髪の女性はその中心に現れた謎の乱入者を指してこう言った。


「アンノーンだ」


勇者、リーデン・シュヴァイツ。

宇宙人、テトラ・アンジェラ。

魔王、ジークセナード。

戦国武将、織田 ノブナガ。

鬼、酒呑童子。


そしてーー。


「あぁ? 何だテメェら?」


アンノーン。

彼は乱暴な口調で周囲を一瞥した。

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