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EX:ステージ  作者: 天弥 迅
開幕
5/19

No.5


目を閉じ、何もかもを諦めて後悔の念を抱いた。


「そうはいかない」


誰かが言った。

聞き覚えのない知らない誰か。だけどその声を聞いた瞬間に彼の身体は縛りから解放された。

手は動く、その気になれば直ぐに立ち上がれる。

だが、一番始めにした行動はゆっくりと諦めた世界を見る事であった。


「僕がいる世界で貴女の好きにはさせない。例え彼が今は殻にこもってしまったとしても」


ローブのような衣装を着た背中が見える。

一人称を僕としているが、後ろ姿だけでも目の前の人物が女性であるのが判る。

述べる彼女は多分少年を守ってくれたのだろう。誰一人味方のいないようなこの世界で。

その金色の女性は確かに守ってくれたのだ。


「僕はこの命を尽くして道を作る」


一瞬だけ振り向いてそう言った。

やはり女性であった。

童顔で、優しい柔和な笑顔を振りまく存在は彼を安心させるには十分過ぎた。

またもやついていけない状況ではある。

が、こうして助けてくれる人がいるといないでは心の持ちようが全然違った。


「テトラ・アンジェラはこの身に違うよ」


名を名乗り、完全に目先にいる白の少女と決別する。それに向こうは目を細めて睨むだけだった。

場に沈黙の間が訪れるが、ややあって崩していた不気味な笑みを取り戻した彼女は発言する。


「そうか。君は彼の側に付くんだね?」

「元よりそのつもりなのは貴女も承知な筈。良かったね? ゲームが盛り上がって」

「私としてはどちらでも良いんだけどね」


険悪な会話が成される。どうやら2人は知り合いなのだろうか? その割には敵対視が強過ぎるが。

そんな中、九条 真司は立ち上がる。まだまだ驚きや恐怖は残るが先程のきっかけを皮切りに何とか持ち直した。

そして尋ねる。

金髪の女性に。


「君はどうして僕の味方を………?」


問うが中々返事が返って来ない。

後ろ姿を見ている分には表情も読み取れない。


「今は答えられない。だけど僕は貴方の味方。これだけは信じて欲しい」


レスポンスの遅い解答は彼の知りたい真実はなかった。

しかし自身の味方だと明確に伝えてくれた。

それだけでも十分なのかもしれない。


「わかった。信じるよ。テトラ・アンジェラさん」

「ありがとう。僕のことは気軽にテトラと呼んで欲しい」

「う、うん。テトラ………さん」

「テトラ」

「………テトラ」


彼女の肩が上機嫌に揺れたのが見て取れた。凄い互いの距離が近くさせられて主導権を握られた気分で納得のいかない少年だが、とりあえずはそれで落ち着く。

にしても、よくテトラはあの白の少女の攻撃を防いだと彼は感心した。何せビル一つ綺麗に倒壊してのけた規格外な力だ。単純な物理的な防御で守ってくれたようには見えない場が残っている。

どんな力を持っているのか? もしかしたらこのゲームと称された世界で一番重要な人物を味方にしたのだろうか?

と、思っているとーー。


「改めて自己紹介。僕はテトラ・アンジェラ。宇宙から来た宇宙人」

「ーーは?」


目眩がした。いやいやいや、と彼は首をブンブン一人でおかしく振ってそこは信じようとはしない姿勢を示す。

でも待てよ? 勇者が現れた次が宇宙人ならば大した問題でもないのか?

既に役者は現代世界に置いてあり得ない者ばかりになって来ている中、この程度で驚いていたら次は卒倒してしまいそうだと半ば意識した少年は少しだけ譲歩して宇宙人なのだと割り切った。

内心順応力高過ぎだろ。と溜息を付きながら。


「やれやれ。そんなやり取りを見ていると興が削がれてしまったじゃないか」

「どういうつもり?」

「ここは一旦退かせてもらう。と言う事さ。その方が後々のゲームとしては面白くなりそうだからね」


手をヒラヒラさせながらやる気無さげに語る彼女からは悪意も敵意も感じれない。恐らくは嘘ではないのだろう。

ただ、この宇宙人を相手に勝ち目がないからではないか? と疑問が浮かび、もしかしたら千載一遇のチャンスを見逃すところかも。と考える。

だがどうやらこれは見逃されただけの意味だと次の会話から理解する。


「此方としても貴女を相手にするにはまだ力が足りない。今回は素直に助かるよ」

「ふふ。かのエントロピーを超越した宇宙人がよく言う」

「残念ながら僕は未完の存在。完全な個となった神に匹敵する力すら獲得した貴女を相手には荷が重い」


天井人の会話だ。

何にせよわからない内容を詰めていくのは今ではないのだろうと見守る少年は思う。

が、始まってしまったゲームの行く末を意識すると現状不利な立ち位置にいる可能性が高いのは言うまでもない。金髪の女性が言ったようにまだ力が足りないなら足すしかない。ならば今やる事は一つしかないだろう。


「勇者さん………」


未だ遠くからでも感じる異質な気配。禍々しくて強大なそれはここからでも伝わり、身体に負荷を掛けられている気がした。

現在把握出来る中で味方になってくれるやもしれない存在。であれば、大変心強い限りだ。

ただもし彼処にいるのが勇者と魔王なら、当然敵に回るのも決まって来る。

だけど手を拱いていても仕方ないだろう。

加えて白の少女の気分が変わらない内に。


「テトラ………」

「ええ、行きましょう。私の手を握って下さい」


意志が伝わってくれたのは助かるが、いきなりの言葉に僅かに怯む。流石に年頃の男子が童顔とは言え、綺麗な容貌をした女性の手を握って下さいなんて言われたら思わず照れてしまうだろう。

そこでそう言えば彼女は宇宙人だったな、と頭の中で一般的なエイリアンの姿を想像してしまいそんな考えが吹き飛んでしまった。

九条はテトラの手を握る。

すると二人は何も器具も必要としないで重力を無くしたかのように宙へと浮かぶ。


「こ、これは?」

「心配しないで。私の力」

「一体どんな能力なの?」

「それは説明するには長いから後で」


そんなやり取りをしながら二人は数十メートルも浮かび上がった所で次は一直線に向かって突き進んでいく。

そして眼下にいる彼女を気に掛けつついると。


「また会おうではないか。定めの者達よ」


意味深な言葉を聞き取りながらこの場を後にして白の少女は視界から離れていった。

きっと次はーー。


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