No.13
「そうはさせねえ」
「!?」
「………!」
追い込まれ、危機的な状況の少年の助けを求める声は届いた。
ハッと未来人の少女は何処からか聞こえるその野太い声の主を探す。いかに超能力を持っていようと見えない相手の不意打ちなんてくればどうしようもない。
どこまでいっても彼女も超能力が無ければただの少女なのだからーー。
「ちっ………姿を現しなさいよ」
苦し紛れに漏らす言葉が何よりの証拠。がそこで、ならば九条を人質に取れば良いのでは? に考えが至り、彼に視線を向ける。中々少女の割に悪党である。
しかしーー。
「!? いない!?」
あくまで今のは気を他に向けさせる為のもの。わざわざただの登場パフォーマンスをするのが狙いではない。少年を何より一番に助けるのが声の主の狙いなのだ。
駆け引きにまんまと引っかかった訳である。
「こっちだ。お嬢ちゃん」
「くっ!」
出し抜かれ、屈辱な上にそこで逃げるでもなく、居場所を告げられる。
ようやく声の主の姿を捉えたのは少年の身柄を取られてから約10秒後の事であった。もし直接狙われていれば死んでいてもおかしくなかっただろう。
「心配するな。俺は正々堂々と相手になるぜ?」
超能力者は目を見開く。
その人物ーー彼は一言で表すなら変人だった。裸にもみえそうな、もはや肉体の筋肉が綺麗にラインを見せるピチピチの青いタイツスーツを着た成人男性がそこにいる。どう考えても変態にしか思えないが、そこへ彼の羽織る真紅のマント、黄色のグローブとブーツ。それらが追加される事で彼は変態とは程遠い存在だと気付く。
何故なら未来から来た彼女でさえそのありようの姿は認知のある全世界の人気者であったから。
「まさか………」
少年も思わずボロボロな状態の中で言葉を漏らす。対して彼を抱き抱える真紅のマントを纏った逆髪の男性はニコッと笑みを見せて言う。
「そうさ。俺は世界を守るヒーローだ。名はそうだな、Sとでも呼んでくれ」
ある意味九条だけの本物の英雄が助けてくれた瞬間であった。色々と予想を超える豪傑達ばかりの場所にまさかこんな人物まで出て来るとは。
でもよくよく考えればあり得ないこともないだろう。
勇者、魔王、武将、鬼、そして宇宙人に超能力者。そんか面々の中に相応しいし、このゲームでテトラを除いて唯一全面的に味方の存在が一人くらいはいてくれる程にはまだ希望があっても良いだろう。
つられて少年も笑みをこぼしながら気が抜けてしまう。
もう限界なのだ。本当の意味で。
そして彼の意識は強制的にシャットアウトする。
「すまなかった。来るのが遅れて」
頑張ったであろう証拠の傷だらけの姿を見て心底申し訳なさそうに謝罪するヒーロー。
確かに危機に現れはしたが、僅かに遅れを取ってしまった。仕方ないかもしれないが、それを悔やむのがヒーローである。
「あまり腹いせみたいな感じになるのは宜しくないが」
エスは少年を壁に優しく預け、真っ直ぐと槍のような鋭い眼光で泉 いづなを射抜く。
「罪のない彼を虐めたお嬢ちゃんには少しばかり反省して貰おうか?」
「フン。私はまだ死にたくないから私の行動を反省する必要はない。正しい行いよ」
「これの何処が正しい?」
「あんたの立場なんか知らないわよ。弱い者は死ぬ。それがこのゲームでしょ?」
彼女は既にあの白の少女の側に付きし者。全て知ってしまった彼女に今ここで裏切ったり寝返る理由はない。否、そんな恐ろしい事等出来ない。
例えヒーローが目の前にいようと。
「相入れない訳か」
「ええ。私はあんたみたいに心の強いヒーローじゃない」
だけど、と区切って平行線の会話を切り上げる。
「あんたに負けるかは別よ」
決別だ。
その少女が使うには恐ろしい超能力が真紅のマントの男性に牙を剥く。
「サイコキネンシスか」
飛んでくるは目に見えぬ力で操られた電柱。銃弾のような速度で迫る脅威だが、彼にとっては拳一つで事足りた。
単純に下から力を与え、上方に逸らし受け流す。
その力はアンノーンに類似したようであり、また別のもの。
人々を守る為に鍛えた常人を超える肉体が成す離れ業だ。
「力自慢じゃ私には勝てないわよ」
いやらしく笑みを見せる彼女。何か策があるのか? と怪訝な表情で待ち構えるエス。
登場して早速だが、彼には心のあり様に比例して身体も強い。だが、故に真っ向からの戦い以外の戦法には弱点がある。
特にーー。
「私は手段は選ばない」
「!?」
あさっての方向に行く電柱はUターンしてくる。
しかも狙いはヒーローではなく、意識のない少年に。
「ぬぅんッ!!」
力強い発声を上げながら彼は電柱をその身一つで受け止める。ダメージはないが、九条を守ることによりスキを作った所へ更なる追撃を泉 いづなは与える。