No.12
ゲーム。何故その言葉が泉 いづなの口から出てくる? あれを知っているのは九条 真司とテトラ・アンジェラ。そしてあの白の少女だけではないのか?
だとすれば誰から聞いた言葉だ? なんて疑問の解答は直ぐ出てしまう。
嫌な汗が出るのを少年は感じる。答えがわかり、目先の少女の背後が見えてしまったことが何を意味するか。
それでも僅かな希望に縋り、彼は確かめてしまう。
「………これがゲームだなんて何で知っているの?」
「………」
滴る汗を拭いながら尋ねる。果たしてそれが走り尽くした影響によるものか勝手に緊迫して覚えた焦りからかはわからない。
聞かなければ良かったなんて後悔だけが残りながらも質問への解答を待つ。
返答次第では彼女は九条のーー。
「ーー最後って言ったわよね?」
「ッ!?」
少年は吹き飛び、壁に張り付く。まるで磁力に引き寄せられたように背中が壁から離れない。が、負荷が掛かるのを感じることからそれは無理矢理に見えない力で押されているようなものだった。
ただでさえ疲労して弱りきっている身体が更なる衝撃で悲鳴を上げる。
原理は不明。だがやってのけた人物が誰かは明らかであった。
「な、何を………!?」
「言わなかったかしら? 私は超能力者って?」
言っていない。未来人だとしか言わなかった。が、その嘘はついていないが、告げていないスタンスの卑怯さ、ずる賢さが露見したのは間違いないだろう。
「全く。大人しく無知なままにホイホイついてきたら良かったのに」
「それで、ついて行った先で………君は僕を頼まれた奴に………無責任に任せるんだろ?」
「ええ。口約束としては嘘はついていないけど?」
「それは、詐欺紛いってことだよ。………嘘ついているのと変わりない」
「知らなければ幸せって優しさを理解してくれないかしら?」
「詰めが、甘い所はまだ女の子って感じなのはわかったよ。君は悪役………には向かないね」
「悪いけど価値観で議論するつもりはないわよ」
「!」
圧迫感が消えた。と思いきや今度は硬いアスファルトに何らかの力で押さえつけられる九条。言葉にならない悲鳴を漏らしながらも顔を必死に上げようとするが、背中を踏みつけられて抵抗が出来なくなる。
「ま、こうなってしまった以上。あんたを力付くで連れて行くわよ」
「まだ僕は………質問の解答を聞いてないのに君は敵になるのを、公言したよ?」
「顔見たらわかったわ。あんたは私を信じるつもりがなかった。惚けた所で納得したりもしないのがわかってて弁解する言葉がある?」
それにーー。と彼女はわかりきったように口にして述べる。
「どの道あんたを連れて行くのだから今更どっちでも良いわ」
面倒臭そうに溢した次の瞬間。
九条は横腹を思いっ切り蹴り上げられる。
「ーーっ!??」
「ただの人間ってのはもう聞いているわ。だけど抵抗出来ないように少しだけ我慢してね?」
悪魔か? なんて言い返す余裕すら彼にはなかった。どれだけ相手が少女だと言っても綺麗な角度から本気で蹴られて痛くない筈がない。加えて疲労もまだ回復していない所へだ。少年はだらし無く唾液を口から漏らす。
既にノックアウト寸前であるが、それでもまだ泉 いづなは残虐に痛め付ける。
「どうせなら意識がない方が楽なんだけどね」
「ぐぅ………」
再び壁に勢い良く張り付かされ、そのか弱い細腕で首を絞められる。こうなれば視界がシャットアウトするのも時間の問題だ。
非常に最悪な状況である。
しかし足掻こうにもやはり彼女の超能力による力が働いて身動きも取れない。
「サイコキネンシス。念力と言えば伝わるかしら?」
種明かしをするが、九条には聞いて考える余裕すら残されてはいない。息も出来ず、未来人の少女の姿すらボヤけるくらいの猶予しかないのだ。
「(だ、誰か………)」
彼は願う。この状況を助けてくれる誰かを。
その為に出来た精一杯の抵抗を振り絞って行なった。
「助け………て」
弱々しく、風に掻き消されそうな小さな声音。きっと眼前にいる泉 いづなにやっと届くくらいにしかもはや九条の力は残されていない。
が、敵に助けを求めた所で何の意味も持たない。
彼女の行為は助けるとは対極にあるのだから。
「命乞いでもないのね」
白けたような表情の中、首に手を掛ける握力が増す。さっさと終わらせてしまうつもりだ。
「誰も助けになんて来ないわ。そんなピンチに駆け付けることが出来る人なんて世界にはいない」
薄れゆく少年に未来人の少女は残酷にも告げる。断言するかのように。
そうして白目を剥く彼の姿を見届ける。
そんな時だった。