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EX:ステージ  作者: 天弥 迅
開幕
10/19

No.10.


そうしてジークセナードの肉体を紫の魔力で包む。ひたすら邪悪で暗黒の力が彼女の糧となり、爆発的に強くさせる。

これが魔王の本領。

ゲームのラスボスだ。


「行くぞ? 好敵手?」

「少しは楽しませろよ?」

「ほざけ!」


二人は激突する。

最強と最恐の戦いが始まる。


「ど、どうしよう?」


遠くから眺めるしか出来ない争いを見て改めて感が直して金髪の女性に指示を仰ぐ。

振り回される流れに一旦思考がクリアになりすぎた九条は彼女に頼る他ないのだ。

そもそも並みの人間が対処出来る範囲を軽く超えている。

それでも何とかしないといけない心境を忽ち二転三転させる展開はこれ以上にないくらいのイレギュラー。

頼れるのは自身に味方だと言い張ったテトラしかいないのだ。


「やる事はあまり変わらない。隙を見て僕達はこの絶望した争いから抜け出し、余裕があればさっき吹き飛ばされた二人の何方かを回収。まあ体格的にも織田 ノブナガとやらを拾うのが賢いだろう」


ただし、この場を抜け出せればが条件だ。

恐らくは難しくないだろうと考える少年なのだが。


「此方には勇者がいる。どうやら今の流れから魔王の視界が僕達にも向いてしまって行動が読まれてるみたい。さっきより厳しいかもしれない」

「う………」


視線を向ければジークセナードは対峙するアンノーンと睨み合いをしているのには間違いない。が、彼女の目とは二つの双眸以外にも第三の眼があるのだ。

それは周囲を見渡しながらも確かに彼等を視界に捉えていた。

正確には気絶するリーデン・シュヴァイツを。

彼女を連れてこの場から易々とは逃げれないかもしれない。


「もう少し様子を見よう。最悪、貴方だけでも抜け出して織田 ノブナガを回収して後から合流しよう」

「え………それは………」

「置いて行けない。なんて言わないで。先ずは貴方が助からなければ駄目なんだ」

「だけどーー」


貴女が居てくれないとどうすれば良いのか? それが彼の心配事だ。自身が助かってもテトラが死んでしまえばゲームオーバーに等しい。現状ほぼ一連托生の存在。

そんな意味でも置いて逃げれない。否、逃げたくない。


「こうなれば確実に離脱出来るように分散するのが犠牲が最小限に収まるんだ九条 真司。貴方なら分かる筈」

「ーーッ」


諭されるように言わてしまい、返せなくなる。

それでも不安を隠せないでいる中だった。


とうとうあの二者の戦いが始まる。

決断をする時かもしれない。



「闇の力に呑まれよ」


魔力が弾け、波動の波がラフな黒服の少年目掛けて襲い掛かる。辺りを余波で吹き飛ばしながら宛ら砲弾のごとく迫る破壊の力に対して彼の取った行動は極めてシンプルであった。


「しゃらくせぇ!」


握り締めた拳の裏で叩き飛ばす。所謂裏拳で無慈悲な破壊の塊を跳ね返した。

圧倒的な力に圧倒的な力で対抗する。

まるでファンタジーアニメを見ているような迫力を前に九条 真司は息を呑む。

凄い。純粋な感情だけが支配する。

だがそんな激しい戦いの場に身を置く少年にその凄いが飛び火しない訳がなかった。

何合か衝撃波が飛ばされ、弾かれる展開の中でその一部が彼に牙を剥いた。

そんな不意打ちの攻撃なんて一般人が防ぐことも避けることも出来はしない。精々迫る脅威を認識するだけだ。

え? 嘘でしょ?

口にするのも憚れるくらいの速度の破壊が襲い掛かろうとしていた。


「安心して、貴方への被害は僕がさせない」


金髪の女性が彼の前に立つ。

やった事は簡単だ。ただ右手を翳して魔王の放った衝撃波の残滓のエネルギーを霧散させた。ように見える所業をした。

紫紺の光が散りゆく中に存在するテトラ・アンジェラは何処か見覚えがある風な姿であり、少年の目を釘づけにさせる。

その述べた台詞も相まって。


「僕の持つ力は【エネルギー操作】。エネルギーの動きを読み、消したり、向きを変えたりするもの。欠点は多いけど今みたいに強力な力さえ無効化出来る」

「す、凄い………」


ようやく知れた彼女の扱う力。戦いを繰り広げる二人に劣りを見せないものだ。成る程、それは大概の攻撃からは身を守れるだろう。


「ざっくりな説明だけど、これで今は僕を信じてもらえないだろうか?」

「!」


そうだ。後で教えると言っていた彼女がこのタイミングで説明してくれたのだ。不安に思う九条の為に。


「そうまでしてどうして僕の味方を………こんな奴を助ける意味なんて………」


明らかに付く側を間違えている。彼を助ける程、凄くもなく特別でもない。寧ろ見捨てられてもおかしくない。きっとこのゲームの局面は不利な状態が終始続くだろう。

それくらい彼女なら看破しているだろう。

なのに何故?

再び無数の鎌鼬の斬撃が二人へ流れてくる。

金髪の女性は手を軽く振り抜くだけでそれを無風状態にさせて搔き消す。

その後ろ姿は確固たる意志の証明にすら見えた。

不意に振り向いてくる宇宙人は貫いていた無表情を僅かに崩して少年を安心させるかのように微笑む。


「貴方を助ける意味はあるよ。助ける価値もある」

「!」

「微かにだけど、自分の中に残っている貴方に僕は恩返しをしたい」


全然理解が及ばなかった。恩なんて借した覚えもなければ昔に会っていた記憶すらない。いや、そもそも記憶喪失だったから覚えなんてある筈もない。

だが、宇宙人と交流した過去なんてあり得るのか? ただの人間である彼が恩を借す程の出来事が?

さっぱり判らない。互いにはっきりと認識仕切れていない分余計にだ。

ちらりとだけ浮かぶ彼女の姿。しかも出会ったよりかは知っているだけに近い感覚。

現状、それ以上に先を思い出せそうにはなかった。


「とにかく死んでしまえば元も子もない。今は生き残ることだけを考えて」

「う、………うん」


結局金髪の女性のペースに呑まれて有無を言わざるを得なかった。


「今だよ走って。出来るだけ遠くへ」

「ッ!」


言われた通りに九条は走った。みっともなくともただひたすらに全力で。

その後ろ姿からはわからないが多分悲痛で涙がでそうな弱々しい表情を浮かべているのだろうと彼女は想像する。

臆病で、情けなくて、泣き虫な少年。

だがそれで良い。それが良い。

テトラ・アンジェラは優しい面様で見送る。


「必ず落ち合おう。真司」


揺るがない忠誠心。若しくは大切な人として静かに約束の台詞を言うのだった。


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