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三十路から始める異世界生活  作者: 結城明日嘩
一章 33歳のルーキー
9/22

俺が強くなる為に

 強くならなければならない。

 ひぐらし亭を掃除しながら考える。表にあったオークの死体は、開拓兵が回収していった。

 放置すると伝染病の原因になったりするからだ。郊外にまとめて、火力魔法で焼き清めるらしい。

 そして被害に遭った人々も同じだ。その中にマコトもいるのだろう。

 俺もそれに立ち会うか考えたが、今は少しでも強くなる事を望んだ。

 とはいえ狩人一人。

 街の外で妖魔を狩るのは難しい。それにあまり時間もかけたくないのだ。

 マコトを殺した犯人は、警邏にも追われる事になる。捕まる前にしかチャンスはない。

 武器を刷新するのが一番の近道だと思っている。お金は無いので、自分で何とかしなければならない。その基礎アイデアは既にある。

 掃除を終えて昼過ぎになっても未だに戻ってこないイタオさんは、マコトの火葬も見守っているのかもしれない。しかし俺はやれることを進める。単にマコトが消えてしまう様子を見たくないだけなのかも知れないが……。


 道具屋で風の精霊石を買ってきた。指先程の大きさの精霊石を、10cmほどの箱に山盛り。それが五箱でわずか銅貨四枚。他が石一つで銅貨数枚の価値と考えれば不遇ぶりが伺える。

 発動方法は魔力を込めて念じるか、起動ワードを唱えること。

 俺には魔法の素質はないので、魔力の込め方はわからない。

「ヴァン」

 手のひらに一つ握ってワードを唱え、1m先に放ると顔へとわずかに感じる風が来た。

 それだけで精霊石は、なくなっている。

 次はワードを唱えたあと、空き瓶に入れて水を張ったタライにつけると、ブクブクと泡が噴き出るのを確認した。

「やはり風を、空気を生み出しているのか」

 風の精霊石は空気を動かすのではなく、生み出す。

 俺は予想が当たっていたことにほっとする。

 続けて空き瓶に精霊石を放り込むと、すぐさまコルク栓を押し込む。

 ポンッ。

 するとシャンパンを開ける時のように、勢いよくコルクが飛び出した。

「よし、ココまでは予想通り」

 この押し出す力を利用すれば、物を飛ばすことができるはずだ。そうすれば筋力が低く、射程の短い弓に変わる武器となるはず。

 石を発動して瓶に入れ、発射までは約一秒。さすがにこれじゃ狙えない。

 狙った状態で石を発動しないとダメだ。


 ひぐらし亭で瓶と石を並べて思案していると、一人の客が入ってきた。

「すいません、今日はイタオさんが居なくて休業なんです」

 入ってきたのは杖を持ち、フード付きのローブ姿。魔道師だろう。たまに店内で見かける数少ない常連の一人だ。

「そうか……」

 しかし声を聞くのは初めてだった。落ち着いた雰囲気の女性の声。目深にフードを被ったままなので、性別すらわかってなかった。

 ただ今はそれどころではない。

 狙いをつけたまま精霊石を起動する方法を考えないといけない。

 俺がテーブルで悩んでる姿に、魔道師が興味を持ったのか近づいてくる。

「何をしているの?」

「ちょっと考え事だよ。気にしないでくれ」

 マコトを失い人と話すだけの心の余裕は無い。

 瓶をあらかじめ構えて、石を起動。コルク栓を閉めてから方向を微調整……狙いは以前イタオさんが埋め込んだ天井のコルク。

 ポンッ。

 しかし、狙いはかなり外れて壁に当たる。コルクをまっすぐに詰めないと軌道は歪む。でも時間に余裕もないので、どうしても歪みが生じていた。

「面白そうな事してるわね?」

 まだ帰ってなかったのか。魔道師が話しかけてきたが無視。

 瓶に入れた石を後から起動できればいいんだが……。

「ヴァン」

 瓶越しに発動を試みるがやはり無理だった。

「ガラス瓶じゃ魔力は伝わらないわよ、せめて銀じゃないと」

 銀?

 銀ならば魔力は伝わり、素手で握ってなくてもいいのか。とはいえ、銀なんて身近にないぞ。

「こうやって……ヴァン」

 魔道師は銀貨で精霊石の上に銀貨をおいて、指で押さえながら発動させる。石が発動してコインを跳ね上げた。


「!?」

 銀貨を使って発動させたのもそうだが、銀貨の飛び方の方が驚いた。密閉されてないのにかなり飛んだのだ。

「精霊石に密着してたから、力が伝わりやすかった?」

 それに貨幣を使うというアイデアもいい。

 俺は腰に下げていた小銭入れを取り出す。筒状になった銅貨を重ねて入れていくタイプのものだ。一番下に銀貨を入れ、その上に精霊石、その上に銅貨を一枚。

 底は貨幣の色がわかるように穴が空いているので、そこに指を付けながら発動させる。

「ヴァン」

 パァン!

 筒の先端から飛び出した銅貨は、目にも止まらぬ早さで壁に突き刺さった。

「おいおい、なに人の店壊してんだよ」


「新しい武器……ねぇ」

「ああ、俺が強くなるには、こういうアプローチの方がいいと思ってね」

「……タダナリ、手っ取り早く力を手に入れてもマコトの仇はとれねえぞ」

「!?……わかってるよ」

 図星だがここでやめる訳にもいかない。

 俺は逃げるように店を出る。

 基本はできたのだ、後はさらなる改良を行えばいい。


 森まで行って精霊石を使った筒……ふと浮かんだ銃という名を採用する……を試すと、銅貨が飛ばなくなった。筒の中で銅貨が倒れると、空気が抜けてしまうのだ。

 その辺の丸い石を拾って込める方が都合が良さそうだ。それも土とまとめて固め、筒との隙間を無くした。

 これにより、かなり威力が維持されたまま飛び出すようになった。多少筒の先端を下げても、弾が転がり出さないのもいい。10mほどの距離なら、俺の弓などより早く飛ぶ。

「これは……使えるのか?」

 一発撃つ度に先端から精霊石を入れて、石と土を込めて棒で少し固める。この作業はそれなりに手間だ、戦闘中に行えるとは思えない。

「くそっ、ダメか」

「何本かあらかじめ作っておけば?」

 不意に掛かった声に振り返る。ひぐらし亭にいた魔道師の女が付いてきていた。

 何本か作る……筒の長さは15cmほど、重さも大したことはない。なるほど、十本ほど持ち歩いてもかさばらない。

「ってか、何でいるんだよ」

「あら、私の知恵も入ってるのに独占する気?」

 イタオさんとの会話を聞いて同情でもされたかと思ったが、女はドライだった。

「知恵ってか、知識だろ。それも銀貨が魔力を通すって事だけだ……」

「それで貨幣入れを使うのを思いついたんじゃないの?」

「ぐっ」

 まあ、そもそも独占する気なんかは無かったのだが。

「勝手にしろよ」


「しかし銃ってこんなのだったかなぁ……」

 道具屋でいくつか貨幣入れを買ってきて、石と土を込める。

「じゅう……?」

「ああ、何か名前が浮かんだんだが」

 そう言えばこうした以前の記憶は、思い浮かんでもすぐに消えていたが、銃という言葉は覚えたままだな。目の前にあるからか。

「銃っていったらこうでしょ」

 右手の人差し指を伸ばし、残りは握る。バンと言いながら手首を跳ね上げるような仕草をした。

「うん、それだな……それ……」

 やはり共通の記憶があるようだ。彼女の仕草で、いくつか思い出す事が増える。

 銃の持ち方やそのシルエット。もっと銃身は長くて、弾は先端じゃなく手元で込めれる感じ。

 確かライフル?

 左手で銃身を支えることで姿勢も安定して、狙いやすそうだ。

「この形なら、手間も少なくなるし、戦闘中でも弾を込められそうだ」

「ええ、そんな感じね。でも作れるのかしら?」

 手作りの工作では再現できないだろう。ちゃんとした鍛冶屋に相談したいところだ。

「私はしらないわよ、武器なんて使わないし」

「俺も弓はギルドで貰ったやつで、矢は道具屋で済ませてるしなぁ」

 剣や斧なら定期的に研いでもらったり、歪みを直して貰うために鍛冶にお世話になるんだろうが。

「まあ、イタオさんに聞くしかないな……」

 さっき逃げるように出てきたとこで、気まずさはあるが、それ以上に銃を作りたくなっていた。

何か説明が長くなってしまった……

主人公のチート要素となりそうな武器作成。

新キャラも追加でどうなるかなぁ。

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