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三十路から始める異世界生活  作者: 結城明日嘩
一章 33歳のルーキー
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成長とアイデアとオーク

 マコトとパーティーは組んだものの、やれることはあまり変わらない。

 前衛はいないし、マコトは戦闘が苦手だ。今まで通り小動物を狩るのが主体だ。

 となると忍び足や気配を消して隠れるなどのスニーキングスキルのない神官とは、離れて行動せざるを得ない。

 ただ万一の際に、声が届く範囲に人がいるという事が、思っていた以上の安心感を与えてくれた。

 マコトも薬草や木の実の採取を続けることに、不満はないようすだった。二人とも義勇兵にはなったが、危険を冒したい訳じゃないのだ。

 一つ大きく変わったとすれば、ゴブリンも二匹までなら倒せるという自信が付いたことか。

 あの日、三匹目は危なかったが、二匹目までは思ったよりもスムーズに倒せた。

 それとゴブリンが持っている貨幣だ。たまに銀貨も持っていて、自分たちで加工してアクセサリーとして身につけていた。銀貨としてそのまま使うことはできないが、銅貨三十枚の価値にはなったのだ。

 あの時のゴブリンも一枚持っていて、道具屋で買い取って貰った。

 宿代が半分になり、そうした稼ぎも加わったおかげで、1ヶ月経った頃には、かなりの余裕ができていた。


 そんなある日、ゴブリンの持ってた貨幣を換金しに道具屋に行ったときの事だった。

 軒先に置いてあるカラフルな石が目に留まった。赤や青、緑や黄色で指の先ほどの大きさだ。

「これって何だっけ?」

「それは精霊石ですね、ちょっとした魔法が使えるんです」

 マコトの説明を聞きながら確認すると、他の石は一つあたり銅貨二、三枚とそれなりの値段だが、緑の石だけ一山で銅貨一枚と捨て値になっていた。

「なんでこれだけ安いんだ?」

「赤は火種として便利で、青はきれいな水が出てきて水筒の代わりに。黄色は30cmほどの硬い石に変わるので、投げて攻撃に使えます。ただ緑はちょっと風がでるだけで……」

 あまり使い道がないそうだ。

「抱えるくらいの大きさがあれば、木をなぎ倒すくらいの風になるんですけどね」

 こういう物を利用できれば、稼ぎに繋がりそうなんだけどな。うちわで扇ぐ代わりとか……。

「ふわっとした風が出るだけなんで、普通に扇いだ方が涼しいでしょうね」

 まあ今までも多くの人が考えただろうし、ぽっと思いつくものではないだろう。ただ少し何かが引っかかる感じは残った。


「お前等もう少し何とかならんか?」

「何とかって?」

「活動範囲を広げて稼ぐとか」

「それには戦力がね」

 俺自身この1ヶ月で成長はしている。射程は当初の1.5倍になっていた(それでも普通の半分だが)

 次の矢を射る連射スピードも上がっている。狩人ギルドで新たなスキル『鷹の目』を拾得して、遠視と動態視力共に成長しているのだ。

 マコトも上位の回復スキルを取得し、神官の武器であるメイスを使う練習もしている。

 とはいえ二人とも後衛職で無理はできない。

「だったらパーティーメンバー増やせよ、戦士とか。そしてうちの稼ぎに貢献しろ」

「普通は酒場が出会いの場で、意気投合したら仲間になるとかじゃないですか?」

「うぐっ」

 本来客に客を探してこいという店長がおかしいのだ。

「それに二人の方が落ち着くっていうか、楽しいっていうか……」

 マコトがこちらを見ながらつぶやく。互いにやりたいこと、やれることが分かるから楽って意味だよな。無理はしたくないって事で意見は一致してるし。

 ソコに他意はないはずだ。

 マコトの笑顔は増えてて、それを見るのは癒しになるけどさ。

 ちょっと見つめ合って硬直する俺達にイタオさんはいぶかしむ。

「お前等やっぱり……」

 そんな時、店の扉が開いてパーティーが入ってきた。

「お、空いてるじゃん。マスター、食事とシャンパンをくれ」

 三人組らしいその一団は、テーブル席に腰を下ろして注文する。何か上機嫌な様子だ。

「あいよ」

 イタオさんは店主の顔になって食事の準備を始めた。

 おかしな空気が晴れて良かった。マコトの様子がどこか残念そうに見えるのも気のせいだ。

 イタオさんは、一本の瓶を手にテーブルへと近づく。そしてコルク栓を少し弛め、指で押し出すようにしながら構える。

 ポンッ!

 勢いよく飛び出したコルクは天井に当たって……めり込んだ。さすがボロ店舗だ。

 イタオさんや三人組は気にした様子もなく、グラスに注がれたシャンパンを掲げる。

「初めてのオーク討伐成功に!」

「「かんぱーい!!」」

 盛り上がる一団を眺めながら、俺の中では閃きが形に成りつつあった。

「ちょっと先に帰るわ」

「え?」

 マコトの返答を待たずに走り出した。今二人きりになると、何かが始まりそうで一人になりたかった訳ではない。


「閉まってるか……」

 閃いたアイデアを確認するために、一山いくらの風の精霊石を求めて道具屋まできたが、既に閉店していた。

「まあ当然か」

 ひぐらし亭で晩ご飯を食べてくつろいでいたのだ。既に日が落ちて、夜中になっている。

 風の精霊石が『風を起こす』のではなく『風を生み出す』ものだったら。

 シャンパンの栓を飛ばすように、弾を打ち出せるんじゃないか。

「明日の朝一にでも来るか……」

 その時だった。

 カンカンカンカン!

 街にある鐘楼からけたたましい音が鳴り始めた。

 普段は時報替わりに鳴らされるそれが、警報として鳴っていた。途端に街中がざわめきだす。

 完全武装した義勇兵は北へ、街の住人達はその逆へ。道具屋の前の通りは一気に人で溢れかえる。

「オークだ、オークの襲撃だ!」

 衛士が叫ぶのが聞こえてきた。


 俺達が暮らす寄宿舎は北門側にあった。普段は狩りに出るのに近いので良いのだが、今はオークの軍勢がなだれ込んで来ている。

 マコトが寄宿舎に戻っていたなら、戻ろうとしている途中なら。そう思うと俺はオークのくる方へ向かわざるを得なかった。

 オークとは、上を向いた鼻と横に広い体型から豚人間とも言われる妖魔だ。しかし、ゴブリンよりもかなり強い。今の俺では傷を付けることすらできないと思う。

 レクセンの街は元々オークの領土を切り取って作られていた。そのめ、定期的にオークが襲撃してくるらしい。

 俺にとっては初めてだが、街の人達により対応はされている。

 俺が寄宿舎を目指して移動をはじめると、程なくオークの軍勢と出くわした。慌てて横道へと逃れると、オーク達は大通りをそのまま南進していく。

 近くの木箱を踏み台に屋根の上に上ると、オークの川が流れていくように感じられた。

 細い路地では義勇兵だろう人々が、川に向かって槍や弓で攻撃しているのが見える。攻撃を受けたオークは、路地の方へ向かうが、大半は街の中心めがけて押し寄せていく。

 そんな路地の義勇兵の奥に神官服の小さな人影を見つけた。『鷹の目』により視力の上がった俺はその姿を間違えない。

「マコト!」

 しかし様々な音が混ざり合う戦場だ。とても声は通らない。俺は布切れに木炭で『ひぐらし亭へ』とだけ書くと、矢へと結びつける。

 オークの川越しに放った矢は、マコトの足下へと届いた。

 マコトは突然の矢に驚いたようだが、飛んできた方を見上げて俺の姿を確認。俺はもう一本矢を取り出して指さす。

 最初は首を傾げたマコトだが、手にした矢を足下においてやると気づいたようだ。

 矢文の一文を見て、こちらを振り返り大きくうなずいて、ひぐらし亭のある方に向かった。

 俺もそれを確認して、移動を開始した。

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