はじめてのパートナー
風呂でマコトと再会したのをきっかけに、ひぐらし亭での晩ご飯に誘ってみた。
風呂上がりの火照った顔で、すごく喜んでくれた。
だが男だ。
心で唱えていないと、何かに目覚めてしまいそうだ。
ともあれ洗濯した衣服を焚き火で乾かし、二人でひぐらし亭へと向かった。
街中では目深にフードを被ったマコトが、俺の服の袖をちまっと摘まみながら着いてくる。
自分の容姿が目立つことは分かっているようだ。
しかし妙に女子力が高いというか、保護欲をくすぐられる仕草が多すぎる。
これをパーティー内でやってたら、関係がギクシャクしそうである。
いや別にマコトとどうこうしたい訳じゃないんだが………。
「どうかしましたか?」
小首を傾げながら聞いてくる姿までが可憐。
だが男だ。
「いらっし……」
いつもの挨拶の途中で、イタオさんの声が途切れる。
フードを外しながら入ってきたマコトに、驚きの表情を隠せない。
「イタオさん、客を連れて来ましたよ」
「お、おぅ……」
うむ、そうなるよね。面白そうだから、しばらくはマコトが男だと言うことは黙っておこう。
「へぇ、いい店ですね」
お世辞にも程がある感想だが、イタオさんは誇らしげに胸を張る。
ちなみに今日も客はいなかった。
いつも通りカウンターに座ってから、今日は二人だしテーブル席でも良かったかと思う。
いや、マコトと二人でテーブル席は、妙な緊張をしそうだからカウンターで正解だ。
「イタオさん、食事二人前とはちみつ酒。マコトは?」
「えーと、ホットミルクあります?」
「あるよっ」
すこし食い気味に返事するイタオさん。いや、マコトは可愛いかもしれんが、店の主人としてどうよ?
この店にこんな子が来ることは無かったんだろうけど。
食事の準備をしながら、イタオさんが小声で問いかけてくる。
「おい変質者、どこであんな子、騙して来たんだ!」
ちょっ、いろいろ酷過ぎる。
「偶々森で出会っただけですよ!」
「僕が危ないところを助けてくれたんです。かっこよかったなぁ」
カウンターに両肘をついて、両手に顎を乗せた姿で、ほんわかと微笑む。
「「お、おぅ……」」
改めてマコトをイタオさんに紹介した。森でのエピソードも交えつつ、神官で戦闘は苦手なところなど。あとマコトの年齢は13歳とのこと。まだ声変わりもしてないのか、喉仏が目立たないのもそのせいか。
「で、お前等パーティー組むの?」
「「え?」」
イタオさんの何気ない一言に、二人して顔を見合わせる。
そうか、そういう可能性もあるのか。言われるまですっかり忘れていた。
神官の癒しがあれば、安全性は格段にあがる。こちらとしては、願っても無いことだけどマコトは、以前のパーティーに馴染めなかったと聞いたし、どうなんだろうか?
マコトはこちらを上目遣いに見つめながら、もじもじしている。ほんのりと頬が染まって見えるのは気のせいだ。
「俺はかまわないんだけど……」
「ぼ、僕の方こそお願いしたいって思ってます!」
「お、おぅ」
俺の手を両手で包む様にしながらの言葉に、俺は思わずうなずいた。
「よかったぁ、パーティーなら相部屋でもいいですよね。実は僕、お金に余裕がなくて」
そういうメリットもあるのか。寄宿舎の部屋は元々四人部屋で、費用は部屋単位で銅貨十枚を払っていた。二人で使えば半額で済むのだ。
「それこそ、俺の方が助かるよ。着る服にすら困ってるくらいだし……」
「タ~ダ~ナ~リ~く~ん」
イタオさんに肩を掴まれる。元戦士だけあって、握力が半端ない。
更には、頭突きする勢いで髭もじゃの顔を近づけてくる。
「相手は未成年で、お前はおっさんだ。わかってんだろうな?」
ドスのきいた声で、すごい迫力だ。手にはどんどん力が込められて、肩が砕けそうになっている。そういえば、イタオさんにはマコトの性別を誤魔化したままだった。
「い、イタオさん、マコトは男だから、男……」
「お……とこ?」
動きを止めたイタオさんが、ギリギリと首だけマコトに向ける。
マコトはマコトで不思議そうな顔だ。
「僕は男に決まってるじゃないですか」
そういいつつ袖をまくって力こぶを作る。白くなめらかな腕には、まったく筋肉の盛り上がりはなかった。
そんなこんながありながら、俺は念願のパーティーを手に入れた。