初日の精算はもちろん赤字
ゴブリンにやられた左手は、狩人ギルドで教わった、薬草を使った応急処置で止血した。ズクズクと脈に合わせるような痛みはあるが、そこは我慢するしかない。
初日の戦果を街で換金すると、野ネズミの肉が銅貨五枚、ゴブリンの銅貨は一枚では街の銅貨には及ばないらしく、換金したければもっと数を集めてこいとのこと。
宿泊費が銅貨十枚であることを考えると、赤字である。食費も切り詰めないといけないが、ひぐらし亭には報告に行くべきだろう。
マスターのイタオさんは、俺を歓迎してくれる。
「義勇兵での最初の試練は、最初の戦闘だ。ここで相手を殺せるか、ダメージを受けないかで生存率は大きく変わる。タダナリは、合格できたようだな」
「きっちり、手をかじられましたけど……」
包帯を巻いた腕をさすりながら答える。
「そんなもん神官に治して貰えば一瞬だ。運が悪けりゃ、腕一本、足一本失う事もあるんだ。ソロだと生きて帰ってくるのも至難になる」
改めてそう聞かされると、いかに薄氷の生還だったかを実感する。
「本当ならパーティーを組むのを勧めるんだが……」
今日も相変わらずの閑古鳥。
まあ、正直なところ飯が旨いわけでも、酒が旨い訳でもない。可愛い看板娘がいるわけでもない。立地は悪くて、街を探索する気がないと見つけられないし、建物もオンボロだ。
物好きかあぶれものくらいしか来ないのだろう。
「というわけでタダナリ、早くパーティー組んで客を増やしてくれっ」
髭もじゃの顔でウィンクしながら、親指を立てた拳を突きだしてきた。
客引きが客頼みってダメ過ぎじゃね?
とはいえ、この親父が客引きに立っても誰も来ないかもとは思うが。元前衛戦士だったイタオさんは、2m近い長身で、肩幅も広く、まさに熊を連想させる体型だ。間近にすると威圧感が半端ないのである。
かといってパーティーか。
俺としても自らの生存率を上げるためにも仲間は欲しい。
本来、新たに義勇兵になった者達は、同期でパーティーとなるのが普通だ。
しかし俺は痴漢容疑で総すかんを受けた。
ならば欠員の出たパーティーに加えて貰おうとすると、年齢がネックになっていた。
一般的に義勇兵として現れる者は十代らしい。二十代すら稀なところで、俺は三十路を迎えたおっさんだ。
技量や経験もない先々の成長も見込みづらい……逆の立場なら、選ぶはずもない人材。それが今の俺だ。
何らかの特技なり、知識なり、パーティーにして得になる要素を身につけないとなぁ。
そう思いながらも宿に戻ると、疲れが一気に出て泥のように眠ってしまった。