そして狩人になる
改めてのスタートとなる三話目。
いろいろと説明が重複してますが、ご容赦ください。
……ってか、もっと吟味してから投稿しろって話ですが、今は勢いで書く癖をつけていきたい感じです。
俺の名はタダナリ、33歳の男だ。
どうやら異世界に紛れ込んだらしい。
お前は何を言ってるんだ?
と言いたくなるが、どうやら事実らしい。また俺だけが特別な訳でもなく、同じように異世界からやってきた人達がいる。
そうした人々は身よりもなく、更には記憶すらその大半を失っていた。俺自身以前にどこに住んでたとか、家族がどうだったかは全く思い出せない。
たまに記憶の片鱗のようなモノは浮かぶが、すぐに消えてしまって意味が分からなくなる事もある。
そんな状態でも、生きるためには行動するしかなかった。
「休憩終わり! 早く構えて」
爽やかな笑みを浮かる青年が、有無を言わせぬ眼差しでこちらを見ている。
弓を構えて弦を引くが、既に腕はパンパンで力が入らない。中途半端な状態から放たれた矢は、ヘロヘロと飛んで3mほど先に刺さった。
「はい、次、次。射てるうちに、力つくからねー」
軽い感じで言われて腹も立つが、反抗は許されない。
そんなことをしようものなら、体をかすめるように矢が飛んでくる。
耳元でビヒュッという風切り音を聞かされたら、言うことを聞かざるを得なくなった。
俺達記憶を失った異世界人は、魔物や妖魔を討伐する義勇兵という組織に、半ば強制的に参加させられる。
そして最初に渡された銀貨十枚のうち、八枚を使って職業訓練を受けることになっていた。
俺は成り行きで仲間がいないので、一人でも活動できそうな狩人ギルドの門戸を叩いた。
一週間という無茶なスケジュールで戦い方やサバイバル術、魔物に対する知識などを詰め込まれた。
そんな過酷な訓練をこなし、一週間ぶりに「ひぐらし亭」を訪れた。
相変わらずの閑古鳥で、今日は客が一人もいなかった。
「お、戻ったな」
俺の入店に顔を上げた店のマスター、イタオさんが声を掛けてくる。
右も左も分からない俺に、一通りの知識を与えてくれた恩人だ。
「死ぬかと思いましたよ」
「最初は誰もがそんなもんだ、ただ身につけたスキルはお前を守ってくれる」
イタオさん自身も元義勇兵で、コツコツとお金を貯めて引退。この酒場を営んでいる。
「くれぐれも無茶はせずに、長く俺を稼がせてくれよ」
などと茶化しているが、義勇兵時代には多くの友を失ったそうだ。
そのために、駆け出しの義勇兵には優しく接してくれる。まあ、立地が悪いので繁盛にはほど遠いが。
最初に渡された銀貨十枚のうち、八枚は訓練で消えた。駆け出しの義勇兵に貸し出される宿舎は、一晩で銅貨十枚。割り勘で安くできるそうだが、俺はぼっちだ。銀貨一枚で、銅貨百枚に相当するので20日は過ごせる計算だ。
しかし、初日にひぐらし亭で銅貨10枚を使っていて、宿舎は素泊まり。食事は別に出費となるので、実質十日ほどしか余裕はない。
俺はギルドで貰った装備を手に、狩りに出かけることにした。
俺達のいる街レクセンは、城壁で囲まれた街だ。出入りには南北の門から行うしかない。
南門は人類最後の王国ヘルムガルドへと続いているが、義勇兵はそこを通ることは許されていない。
逆に北門からの出入りは、身分証となる義勇兵の手形を見せれば、大したチェックもなく通ることができた。
門からでて近くの森を目指した。
歩くこと三十分、目的の森は初心者用の狩り場として、ある程度開拓されている。
ウサギやネズミなどの動物の他、ゴブリンと呼ばれる1mほどの小人を見かけることもある。
このゴブリンもまた、魔王の置き土産である妖魔の一種だ。
知性もほとんどなく、力もさほど強くないため、戦闘力は高くない。その分、繁殖力は高く、狩っても狩ってもきりがないらしい。
何にせよ、駆け出しの義勇兵でも相手にできるそうだ。
俺は葉が生い茂り、薄暗い森の中を探索する。狩人ギルドで教わった動物の痕跡などを探してみるが、びっくりするほど何もない。
この森の生き物は狩り尽くされてしまったんじゃないかと思う程だ。
日が傾き始め、今日はもう諦めるかと思ったとき、ようやく初めての生き物を発見した。
野ネズミだ。
ネズミと言えども30cmほどあり、噛みつかれると病気になる恐れもあるので、厄介な動物でもある。
俺は音を立てないように、慎重に弓矢を準備する。血のにじむ訓練のおかげで、10mは届くようになった。まぁ、普通の人は30mは飛ばすらしいが……俺には圧倒的に筋力がなかった。
その代わり忍び歩きや、気配を消しての潜伏、尾行などにはお墨付きをもらえた。
以前の俺はどんな生活を送っていたのか不安になるが、今はそれらを駆使して獲物に近づいていく。
幸い獲物に気づかれることなく、射程に捉えることができた。
こうなれば命中率も高い、最後まで気を緩めずに、弓を引くとひょうと放つ。
放たれた矢は狙いを外さず、首筋に突き刺さった。ビクッと体を震わせただけで力つきたのか、そのまま倒れて動かなくなる。
「よしっ」
命を奪ったことに対する小さな罪悪感と、狙い通りにやれた満足感。そこに油断がなかったといえば、嘘になるだろう。
ガサッ。
仕留めた獲物の側の草むらから、小さな影が飛び出した。
その影は俺が仕留めた野ネズミを持ち上げ、そのまま口元に運ぼうとした。
「おおぃっ」
俺は思わず隠れていた茂みから、立ち上がって叫んだ。
小さな影と目が合う。
「このっ」
俺は手にしたままの弓を構えて狙う。するとソイツはこっちに向かって走り出した。
小柄で思ったよりも素早い。
慌てて放った矢は、見当違いのところに飛んでいく。次の矢を準備した時には目の前だ。
咄嗟に左手で顔を庇うと、そこにソイツは噛みついた。丸顔でしわくちゃな顔、生臭い息に黄色く濁った瞳。とがった歯が、手袋越しに俺の腕に食い込んだ。
勢いのままに押し倒されて、背中を強打。眼前にあるソイツの口からは、唾液が滴り落ちてくる。
「んんっ」
間違っても唾液を口に入れまいと閉じたまま声はでる。左手を捉えた顎の力は強く、骨がきしむように痛んだ。
俺は右手で腰に差してた鉈を取り出し、ソイツに叩きつける。
丁度首筋に当たり、勢いよく血が噴き出る。しかし、ソイツの噛む力は更に増したようだ。
「んおぉっ」
俺はその痛みに負けぬように、鉈を何度も叩きつけた。狙いもあったもんじゃない。ただただ繰り返して叩きつけ、何とか左手から振り払った時にはソイツは死んでいた。
「はぁはぁはぁ」
仰向けで倒れたまま息を整えて、何とか起きあがる。
改めてソイツを見ると、1mほどしかない小人で、ボロボロの衣服。ゴブリン……か。
最弱の妖魔、しかしギリギリだった。全然余裕なんか無い。
「無茶をする所じゃないな」
ようやく落ち着いてきた俺は、ゴブリンが落とした野ネズミを確保。更にゴブリンが首から下げていた銅貨らしきものも貰っておいた。