オークキャンプでの攻防戦
カグツチ達は城壁へと到達。
梯子隊も必死に追いかけているが、もう少しかかるだろう。
彼等が通った後は、今のところオークの死体のみが残されているが、左右から他のオークが迫っていた。
「ヴァン!」
左右から近づいてくるオークに対して、レナが発砲した。
まだ距離は遠く、威嚇にはなるが致命傷にはならない……と思ったが、レナの弾丸は逸れることなく、オークの頭部を吹き飛ばした。
レナの様子から、それがラッキーヒットでは無いことが分かる。
「ヴァン!」
再びの銃声に、もう一体倒される。『鷹の目』『急所狙い』は取得済みなのだろう、的確に頭部を撃ち抜いている。
何らかの方法で射程をのばしている?
それを眺めているうちに、ようやく俺の銃の有効射程にオークがやってきた。
ガァン!
俺の放った銃弾も、走ってくるオークの頭部を吹き飛ばした。
「ミズハはもう少し引きつけてから。サダノブ、オークは直線的にくるから、横移動を意識して」
臨時パーティーのメンバーに指示を与えながら、自分は射撃の手は止めない。
リロードも無意識に行えている。
「ミナ、あと少しでオークの足下に水を。ぬかるませて」
「りょ、了解」
「ヴァン!」
レナの射撃は正確で、確実に敵の頭数を減らせている。
「ミナ、今だ」
ミナの放った水弾がオークの足下に着弾、直接のダメージは無いがその歩みを遅くする。
先頭が遅くなっても、後ろはそのまま突っ込んできて、押し合いに。バランスを失って転倒する者も出ている。
「ミズハも射撃。下手に狙わず、確実に当てて」
「は、はい」
ボルツにリボルバーの前金代わりに貰ってきた、サブのハンドガンはミズハに渡していた。
「サダノブ、回り込んで横からアタック。起きあがりそうなら、すぐ逃げて」
「心得てゴザル」
「ヴァン!」
レナの銃弾が、転倒した仲間を起こそうとしているオークの頭を撃ち抜く。
引っ張られて立ち上がりかけてたオークも、再び尻餅をついていた。そこへミズハの銃弾が撃ち込まれる。
サダノブのロングソードも振り下ろされた。
そこを回り込もうとしてくる奴の頭を狙って打ち倒す。渋滞を起こしたり、倒れたオークが障害となって次のオークが中々前へと出られない。
接近戦しかできないオーク相手に、銃による火力で圧倒していく。
一方的に倒せている間は、オークに包囲されることはない。
カグツチ達先頭組は、城壁の側でオークを蹴散らしている。
梯子隊も何とか城壁に到達。梯子を立てかけて、簡単に固定する。
そこを斧を担いで、手は使わずに駆け上がっていく。何というバランス感覚なのか。
そのまま5mほどの城壁を登り切り、上で構えていたオークへと切りかかっていた。
スキンヘッドの方も同じように参戦している。
流石に異常なのはその二人だけのようで、他の面子は両手を使って登っていた。
『鷹の目』で戦況を確認して、作戦を次の段階へ進める。
「サダノブ、ミズハは下がって。梯子隊の方に合流する」
「は、はい」
「心得たでゴザル」
視界の隅に彼等の移動を捉えつつ、近づこうとするオークを射撃。
オークも一方的にやられる状況に、少し考えはじめて少し離れたところで隊列を組み始めている。
梯子隊に合流すると、半数ぐらいが既に城壁を登っていた。
残りは梯子を守るように、オークと戦っている。その防衛ラインの内側に入って一息つけた。
「とりあえず銃弾を準備するから、休憩してて」
パーティーの仲間に告げて、粘土と鉄の玉を取り出す。
そういえばと思いだし、レナに聞いてみた。
「レナの銃、射程長いよね?」
「ん、これかぁ?」
ニヤァと笑みを浮かべる。同じ銃使いとして、優位性を持ってることが嬉しいのだろう。俺としては悔しい。
「実はこれやねん」
レナが取り出したのは銃弾。その先端には、鏃が付いていた。
「さきっぽ尖らせたらな、よう飛ぶようになったんよ」
聞いてみると単純な事。でもそこに至れるかが、重大な差になるのだ。
「すごいなレナ、天才か!」
「そ、そうかなぁ、てへへ」
「俺にも使わせてくれるか?」
「しゃあないなぁ……」
そう言いながらも、嬉しそうに尖った先端を分けてくれた。矢に使う物よりは小ぶりに作られている。
「それより隊長はん、ヴァンって言うてないよね?」
「ああ、それはちょっとコツがあって……すぐには教えにくいから、ミッションが終わってから教えるよ」
「ホンマァ? 約束やで」
そうこうするうちに、使用した銃弾に精霊石を詰め直して、補給を終えた。
状況的には四つの梯子がかかり、それを守るようにパーティーが展開している。
当初より人数が減っているのは、城壁の上に上がったからだろう。
それぞれの梯子に残っているのは三パーティーずつくらいだ。
対するオークは隊列を組み始め、包囲を築こうとしていた。
「このままじゃまずい。梯子を一つに絞って防衛しよう。俺は向こうの梯子からパーティーを連れて来るから、レナとミナとで向こうに話を伝えてくれる?」
「おっしゃ、わかったで」
「うん」
「サダノブとミズハは、ここで他の人を援護してて」
そう言いおいて、隣の梯子へと向かった。
壁に向かって右端にあたる梯子は、さっきの梯子よりも多くのオークに襲われていた。
その分、疲弊も大きい。交代しようにも、パーティーの大半は既に城壁の上。進退窮まっていた。
「中央の梯子にパーティーを集めます、気をつけながら後退して下さい」
「わかった!」
安堵の表情を浮かべた盾持ちの騎士が、パーティーにそれを伝える。俺はその間に、オークを撃っていく。
「何か壁を作る手段とかありますか?」
「はい、土の壁なら」
女性の魔道師が返事してくれた。
「壁際から何枚か建てて、追いかけ難くしてみて……」
言ってる間にも、目の前に壁が建っていく。オークはすぐに向こう側から叩き始めているが、簡単には崩れないみたいだ。
「よし、退きましょう」
念のため、逃走時にも何枚か壁を作ってもらいながら、中央へと移動した。
最初の梯子でパーティーを合流させると、俺は逆サイドへも走る。
ほどなく隣の梯子のパーティーとすれ違う。レナ達は上手く話を伝えてくれていた。
俺はそのまま左端の梯子へと向かう。
すると既にオークに囲まれた状態になっていた。隣の梯子隊がいなくなったことで、包囲が狭まったようだ。
端から順に集めるべきだった。
まだ城壁付近の方がオークの壁は薄い。オーク達の背後から、銃弾を浴びせていく。
「城壁側はまだ薄い、土の壁なんかを建てつつ後退して!」
声を張り上げるが、届くだろうか。オーク達は俺の存在に気づいて振り返る。
ヤバい。
「ヴァン!」
俺は腰に下げていた拳ほどの大きさの精霊石をオークの群れに投げ込む。銀貨十枚の価値がある。しかし、殺傷能力は無く、足下の土を巻き上げる程度だ。
続けて三つを投げて、オークが怯んだところを射撃。
「土壁建てつつこっちへ!」
短く叫ぶ。
「わかったでー」
レナの声にほっとしつつ、俺は周囲のオークを撃ちまくる。精霊石で怯んだオークもすぐに立ち直って向かってきている。
ヤバい。
もはやリロードしてる余裕はなくなった。腰の鉈を引き抜くが、銃のおかげですっかり使うことは無くなっていた。
間近にしたオークの迫力はすごい。肉厚の体がのしかかってくるようだ。
左右にもいる。
後ろに下がる。
オークが詰め寄る。
俺は更にさが……ろくに確認せぬままに下がろうとして躓いた。そのまま尻餅をつく。
目の前のオークは、手にした蛮刀を大きく振りかぶり……。
俺は目を閉じた。
中々やってこない衝撃、痛みに俺は再び目を開ける。
目の前には矢の刺さったオークの死体。
「何してんねん、隊長はん。はよ逃げんで!」
目の前を駆け抜けるレナに促され、俺は慌てて立ち上がる。肩に銃があることを確認して、レナの後を追った。同じ失敗はできない。
しかし、鉈が無いことに気づいたのは、梯子を守る一団に合流してからだった。




