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三十路から始める異世界生活  作者: 結城明日嘩
ローンガンナー
20/22

オーダーミッションの発令

 オーダーミッション。

 それは開拓軍が義勇兵に注文オーダーする作戦ミッションという事らしい。

 正規の任務となるため、その報酬は多く、参加するだけで金貨一枚。

 名のある敵を倒せばボーナスも出るという。

 そして今回のオーダーミッションの内容は、オークキャンプにある砦の攻略だった。


 ひぐらし亭でルカにオーダーミッションに参加する事を告げた。

 危険は承知である。

 ただこのところあまり稼げていないので、報酬が魅力的だったのだ。

 戦場で混戦となることも予想されるので、オーダーミッションには参加しないというルカにハクコを預けておいた。

 寂しそうにするハクコには悪いが、敵味方が入り乱れる状況は、それこそ誰かに踏まれるとかしょうもない事故すら起こりうるのだ。


 オーダーミッションの発動は三日後。それまでは今まで通り枯れ森で、オークを狩りつつキノコ採取で過ごした。


 オーダーミッション当日。早朝に北門前へと集められた義勇兵は、数百に上る。

 塔から出てきた時にいた四十くらいのオバサンが、隊のリーダーらしい。

 オークの砦は正方形で、南にある正面を開拓軍が、左右から義勇兵が撹乱するという作戦が取られる。

 パーティー単位で配属が決めていかれ、最後にソロやタッグといったあぶれ者達が集められ、一つのグループとして、西側の軍に編成された。

「アンタ歳食ってそうだからリーダーね」

「ふぁ!?」

 初めての大規模作戦にオドオドしていた俺は、急な指名に驚いたが、反論する前にオバサンは去っていた。


 仕方ないので作戦開始の一時間で、できる事をする。まずは人員の把握だ。

 あぶれ者は全部で十人。男女比が偏っていて、男は俺ともう一人だけ。残り八人が女の子だ。

「えー、仮のリーダーにされたタダナリです。ジョブは狩人。ひとまず俺らでチームとして行動する事になるんで、まずは自己紹介して貰おうかな?」

 ひとまず目に付いたもう一人の男性に振る。精悍な顔立ちに、無精髭、簡素な服を着ているだけで、鎧はない。腰に差した武器はロングソードなので、近接だとは思うのだが……。

「では、君から」

「拙者は、侍のサダノブと申す者でゴザル」

 いきなり濃い人キター!

 侍というジョブは無いので、多分戦士あたりなのだろう。騎士は盾がないと駄目だろうし。

「ウチはガンマンのレナで、こっちはアクアビュートのミナ」

 ショートカットの快活そうな女の子と、水色のローブを着た女の子が続いた。

「あ、アクアビュートって?」

「すすす、すいません。水の魔道師てす。レナが勝手に呼んでるだけで……」

「ええっ!? アクアビュートの方がかわいいやんなぁ?」

 ミナと呼ばれた女の子が、真っ赤になりながら説明してくれた。

 色々とつっこみたいけど、あまり時間もかけれない。

「君は?」

「サナエ」

 黒っぽい服装の女の子は、それだけ言って黙る。ジョブは弓を背負ってるから狩人なんだろう。

 もう話しかけんなオーラがすごい。

 他の女の子も似たような雰囲気で、ジョブと名前だけ告げていく。

「盗賊のミズハ」

「土の魔道師のタエ」

「水の魔道師のアイ」

「狩人のジュンコ」

「火の魔道師のユリカ」

 何ともやりにくい。それと後衛職が多いのも気になった。

「作戦開始は約一時間後だから、みんな準備しといて……」

 それだけを言って解散とする。


 チーム内の事は、オークキャンプへの移動中に話していくしかなさそうだ。

 俺はリーダーが集められる作戦会議に出席する。

 オークキャンプへの出発は七時。三時間かけて移動してから、開拓軍の狼煙を合図に侵攻が開始される。

 まずは周囲のテントにいるオークの排除。砦の城壁に、梯子をかけて乗り込む事になるそうだ。

 西側を率いるのは赤毛でビキニアーマーという派手そうな女戦士、名前はカグツチと名乗った。

 褐色に焼けた肌は、引き締まった筋肉質で、いくつもの戦傷が見て取れた。

「アタイ達が道を造るから、その間に梯子をかけな。梯子を最初に上るのも、アタイ達が引き受けるから」

 最も危険な先頭を買って出る。

「おいおい、手柄を独り占めしようってかい?」

 スキンヘッドに厳ついジャケットを羽織った男が絡んでいく。

「別に梯子は一本じゃないんだ、好きにしな」

 カグツチも挑発的な笑みを浮かべて、睨み返している。

 どうやら共同作戦というより、互いを競争相手とした手柄の奪い合いの要素が強いみたいだ。

 ただそうやって張り合ってるのは、トップチームだけなのだろう。その場に居合わせた他のリーダー達は戸惑って、互いに目配せしあっている。

 その中には俺と同期の坊主頭の球児っぽかった奴もいた。今ではすっかり戦士の装いではある。

 既に俺のことは忘れているのか、目が合っても特に反応する様子はなかった。

「とりあえず、お前とお前とお前とお前。それぞれ梯子係な」

 カグツチは明らかに適当な感じて梯子を運ぶ役を決めた。その中には、坊主頭も含まれている。

「他の奴は梯子係を守れ、以上!」

 作戦というほどの内容も聞かされないまま会議は終わる。

 義勇兵というのは、個々のパーティーで活動するので、共闘という概念が育ちにくいのだろう。

 俺としてはパーティー内ですら、バラバラで共闘できそうにないんだが……。


 自分の隊に戻るとやっぱりバラバラのままだった。話しているのはレナとミナの二人だけ。

 他はそれぞれに本を読んでたり、装備を確認していたり、壁によりかかって目を閉じていたり。

 とりあえず会話できそうなレナに話しかける。

「準備はできた?」

「お、隊長はん。ウチラはバッチシやで。携帯食に予備の銃弾まで怠りなしや!」

 元気一杯に報告してくれる。

「そういえば隊長はんも、ガンマンやね。おっさんの割に流行もんに敏感やな」

 独特の口調と物怖じしない態度に、主導権を奪われている。まあ、独り独りで孤立されてるよりはいいけど。

「彼女達とはどうかな?」

「あの子等なあ。ウチラもそうやけど、全滅組やろうからな」

 全滅組。

 かつてはパーティーを組んでいたが、一人、二人で生き残った者達だ。ルカもその一人だった。

 全滅の危機になった場合、敵と対する前衛よりも後衛の方が生き残りやすい。

 あと男が女の子を守ろうとする為に、女の子の方が生き残りやすいらしい。

「仲良うなって、失うんが怖いんや」

 さすがのレナも少ししょんぼりした雰囲気になる。

 かといって一人では稼ぎも知れている。こういった機会で、蓄えを作っておきたいらしい。

「せやから身を守るんは上手いし、準備の怠りもないと思うで、隊長はん」

 もしかしたら、レナの明るさもミナを不安にさせないためなのかも知れない。


 七時になり義勇兵が一斉に動き始める。俺達の隊は、最後方からついて行くことにした。

「サダノブは、オークを倒したことがあるの?」

「ももも、もちろんでゴザル」

 倒したことは無さそうだ。

「無理はしないでよ。俺達は後衛職が多いから、君に守って貰うことになる。隊から離れず側にいてくれ」

「心得たでゴザル」

 一応釘を刺しておいた。手柄を焦って一人で突っ込まれても困るのだ。

 性格的には、慎重派っぽいから大丈夫だとは思うけど。

 他のメンバーにも声をかけて回ったが、こちらの言うことに頷く程度で、会話は成立しなかった。


 そして俺達はオークキャンプにつく。基本的に夜行性のオークは、この時間は寝ているはずだが、大規模な侵攻を察知してテントの外へと出てきていた。

 ただレクセンへ侵攻してきたときの整然とした様子はなく、それぞれのテントごとに集まるだけだ。

 カグツチとスキンヘッド、あと二人の騎士が率いる四つのパーティーが並ぶ。

 その背後にそれぞれの梯子隊と、それを守るパーティーが集まっていた。

 カグツチの一方的な決定のあとで、それぞれのリーダーが役割を決めたらしい。

 俺達はぐれ組は、最後方にて支援射撃に徹する事になる。

 整列が終わってしばらく過ぎた頃、正門前の開拓軍から狼煙があがる。

 その直後、雷鳴を思わせる爆音が響きわたった。ボルツの用意した数百の銃による一斉射。

「いくぞ、野郎ども!」

 いち早くカグツチが飛び出す。

 その格好は、会議の時のビキニアーマーのままだ。その両手には大きな戦斧が握られている。

 身近なテントに近寄ったかと思うと、思いっきり振り回す。それだけで何匹ものオークが吹き飛ばされた。

 わずかに遅れて続いたスキンヘッドは、両手に一本ずつの剣を持ち、見た目とは違った器用な太刀筋で、防御を許さずオークを切り刻んでいる。

 盾持ちの騎士と両手剣を持った騎士も、それぞれのパーティーを率いて、オークキャンプを突っ切っていく。

 梯子パーティーとその護衛も遅れまいと進発。最後尾から俺達も続こうとした。しかし、左右にいるオーク達が、包囲網を築こうとしているのを見て、左右からの接近を阻止する為に行動を開始した。

「サナエ、タエ、アイ、ジュンコ、ユリカは左側のオークを牽制。倒さなくてもいいから、近づかせないようにして。残りは俺と一緒に右側を守る」

「おっしゃ、任せとき!」

「無理する必要は無いから、危なくなったら梯子付近のパーティーと合流」

 目のあったサナエに向かって言うと、コクンと一つ頷いた。


 はぐれ組に指示を出しつつ、すんなりとそんな事をやってる自分に驚く。

 失われた記憶に、その様な経験があったのだろうか……。

 オークの姿が近づいてきて、その疑問は再び記憶の中に埋もれていった。

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