すべてはハクコの為に
前回、シーン展開が多いから長いかと思ったら
それほどでもなかった様子。
シーンごとの説明が少ないのかな?
自分の頭にあるシーンなので、不足してても気付きにくいという……。
この場面、どうなってたんだ!
ってのがあれば、指摘していただけると嬉しいです。
「でハクコ、何であそこにいたか覚えているか?」
毒素にやられて弱っていたのだ、普段は枯れ森にはいなかったはず。
『おっきなやつ、おうちきた、です』
たどたどしい言葉ではあるが、必死に説明してくれた。
やはりオークが巣穴を襲ったようだ。オークにより、巣穴が壊され、父が相手をするうちに、母親が自分を咥えて逃げたらしい。
普段は入ることを禁じられた枯れ森に入って、オークをまこうとしたのだが、オークは枯れ森の毒素をものともしない。
逃げられないと悟った母親は、木の根元にハクコを隠し、自分が囮となることでオークを引きつけていったらしい。
せっかく助かったハクコだったが、幼い体では枯れ森の毒素に耐えられなかったらしい。更に隠れる際に、キノコの傘に溜まっていた毒素を含む露を浴びてしまっていた。
『でもタダナリ、たすけてくれた、です』
伝わる感謝の念に、暖かくなる。
イタオさんとルカにも一通りハクコの話を伝えた。
「今度はハクコの仇討ちでもする気?」
ルカに釘を刺される。
確かにオークを倒すつもりではあった。しかし、ルカの様子は少し以前とは違う。
「早くしないと痕跡が消えてしまうわね」
そう言いながら自分の銃を取り出し、動作の確認を始める。あれだけマコトの仇討ちには反対したくせに、ハクコの事には親身になっている。
どんだけ獣好きだよと思わないでもなかったが、ルカが手伝ってくれるなら心強い。
「でも今日は遅いから、明日だな」
今日はハクコを見つけて早めに帰ってきたのだが、色々とやってるうちに、既に夜中になっていた。
俺の判断は間違ってないと思うんだが、キッとルカに睨まれる。
「は、ハクコもまだ本調子じゃないし、独りで置いとくわけにもいかないだろ?」
長話での疲れもあったのだろう、敷布の上でうつらうつらしているハクコを見て、ルカも納得する。
「明日の朝六時に城門ね」
それだけ言いおくと、ルカはさっさと帰ってしまった。
翌日、いつもより早起きして待ち合わせの場所へ向かった。あたりにはまだ他の義勇兵の姿はない。
ルカは門の柱にもたれ掛かるようにして、瞳を閉じていた。
近づいても動く気配はない。その目元には、酷いクマができていた。
「おい、ルカ……」
そっと呼びかけると、はっと目を開けてこちらを睨む。
「遅いじゃない!」
いや、約束の時間にはまだ早いはずだ。一瞬、不機嫌そうな顔をしたルカだったが、すぐにニヤけた笑みを浮かべた。
「じゃじゃーん」
そういって取り出したのは、小さな布きれ。ルカが広げて見せるとそれは小さなキャスケット帽とマントのようだった。
「これって……ハクコの?」
「当然!」
結構丁寧な縫製で作られている。昨日帰ってから作ったのか?
戸惑う俺をよそに、ルカはハクコに着せてやる。
マントは首とお腹で紐をくくり、固定できるようになっていた。丈も地面に付かない程度に長く、全身を包む感じだ。
帽子は耳の部分が余裕をもって作られていて、顎下を紐で止めてある。
それに鼻先を覆うような、浄化のバンダナを利用したマスクまで用意されていた。
「うーん、やっぱりマスクは変ね。また何か考えましょう」
「苦しくないか?」
『はい、だいじょうぶ、です』
自分の体を確認するように動かしていたハクコに聞いてみたが、問題ないようだ。
色は明るめの茶色で、探偵を思わせる……なんでだ?
「さあ、オーク退治にいくわよ」
待ち切れないといった様子で、ルカが歩き始める。足下がふらついて見えるが大丈夫だろうか。
じっとしてると寝そうなんじゃないか?
さすがは歴戦の義勇兵といったところか、ルカは移動中も特に問題なく進んだ。
そして枯れ森の入り口につくと、軽く仮眠を取るといって丸くなった。
俺を信用はしてくれてるんだろうが、男とは思われてないなぁと苦笑するしかない。
そんなルカの寝顔を観賞しつつ、ハクコの様子も確認する。
「体は大丈夫か?」
『はい、ひりひりしない、です』
一応マントの中も確認してみるが、火傷していたり、蒸れて汗ばんだりもしていないようだ。
通気性も考えて作られているらしい。
「じゃ、飯にするか」
自分にもパンにベーコンを挟んだだけの簡易サンドイッチを用意して、ハクコには叩いて柔らかくしたウサギの肉を与える。
はしはしと噛む姿に和みつつ、自分もサンドイッチをかじる。
枯れ森は相変わらずの紫色で、周囲にオークの影はない。
「さて、どうやって探すかな」
ルカなら何か方法があるのかも知れない。色々と探知能力を持ってるみたいだし。
『におい、おう、です』
ハクコはキツネだった。
その嗅覚は、犬と同じくらい鋭いはずだ。その臭いを追うこともできるかもしれない。
ただ枯れ森の毒素のモヤの中で、それが行えるか。そこが問題だろう。
などと考えているうちに、十五分ほどが過ぎた。ルカを起こそうかと思ったら、パチリと目が開く。
「ハクコー、おはよー」
ルカの起きた気配に動きを止めたハクコを、その手を伸ばして掴む。
じたばたするハクコに構わず頬ずりして、満足してからようやく放す。
『おどろく、です』
「俺もだよ」
改めて枯れ森に入る。ハクコに苦しくないかを確認しつつ、昨日の場所までたどり着いた。
母が殺された場所を見せるか悩んだが、ハクコは気にした様子もなく歩いていった。
『ははがいた、です』
「ああ、そこだな」
まだうっすらと足跡が残っていた。それを辿ればある程度は追えそうだ。
「とりあえずこっちだな」
足跡の追跡なら狩人の俺の方が専門だ。経験は多いとはいえ魔道師のルカよりも得意なはず。
俺とハクコで先導するように進む。途中で足跡がない枯れ木の上などは、ハクコの嗅覚で補えた。
そして枯れ森を抜けると、オークキャンプの一角へと出てしまった。
「やっぱりね」
「予想はしてたけど……どうするかな」
ここで騒ぎを起こせば、数あるテントの中から次々とオークが出てきそうだ。
「ハクコ、どの辺りかわかる?」
ルカの質問は、直接はハクコに届かない。俺が通訳して聞くと、右手の一角から母の臭いがするそうだ。
「とりあえず三十分で片を付けましょう」
「ど、どうやって?」
「アナタがしょぼいと言った風の魔法でね」
以前思わず呟いてしまった一言をまだ根に持ってるらしい。
「問題はどこでケリをつけるかね。ハクコの親を殺した奴を見つけられたらいいけど……」
「オークの習性を考えると、何か形見になる爪か牙かをもってそうだな」
普段は稼ぎにする首飾りから、ハクコの親の一部が取り返せるかもしれない。
「それの奪還を第一目標ね、あとはそれを持ってる奴の周辺もできるだけ片付ける方向で」
短く方針を決定。
「それじゃ、アンタの銃の音も抑えるわ。効果は三十分、時間を間違えないで」
「お、おう」
ルカに静音の魔法をかけてもらう。一応枯れ森の方に撃って音がしないことを確認。
「やっぱり、これ便利だな」
「時間制限あるから、さっさと終わらせるわよ。ハクコ、案内よろしく」
オークは基本夜行性らしく、キャンプで動く影は少ない。
一応斥候に回るオークもいるが数は少なく、それに見つからないように移動するのはさほど難しくない。
ハクコの後を追って走っていく。
近くのテントではオークが寝ているはずで、緊張感は高まった。
『ここ、です』
一つのテントの前でハクコが止まる。中をそっと覗くと八体くらいのオークが、思い思いの方向で寝ている。
(さてどれが持ってるのか)
足音を忍ばせて中に入るが、その気配を感じたのだろう身じろぎを始めた奴がいる。
「!?」
ルカが俺をテントに押し込みながら、呪文の詠唱を始める。
オークに突っ込みそうになるのを何とか踏ん張り振り返ると、ルカが銃を撃つところだった。
ガァン!
その音は、テントのかなり向こうから聞こえた。一斉に周囲のテントが騒がしくなる。
魔法で音を遠くに飛ばした?
(もうちょっと説明しといてくれよ)
そう思いながら、テント内のオークに向き合う。
ルカが狙ったオークは、肩口に銃弾を受けたがまだ動いている。他のオークは目が覚めたところだ。
俺はルカが撃ったオークの頭をポイント。射撃体勢を整えて、発射。10mもない距離で外しようもなく、その頭を吹き飛ばす。
リロードの終わったルカが、次の目標を狙って撃つ。鎧のない胸元に穴を穿つが、オークは倒れない。
俺は他の個体を狙って、頭数を減らすことにする。
ルカの三発目で、胸を撃たれたオークが崩れ、俺の一撃でさらに一頭。これでようやく半減。
既にオークは立ち上がり、それぞれに武器を持って構えた。
外の喧騒も大きくなっていく。
(これ、逃げれるのか!?)
ルカは半歩下がって、呪文を再詠唱。リロードを済ませた俺はそのままトリガーを引く。喉元に当たるが、それでは倒れない。
四体のオークは互いに何かを言い合おうとして、その声が出てないことに気付く。ルカの魔法で音が消されているらしい。
そのちょっとした混乱のうちに、喉を撃ったオークを更に銃弾を撃ち込み残り三。
仲間を半分以上失っても、戦意は衰えないらしく、オークが向かってくる。
もはや狙っている余裕もない。
ルカが至近から一発、俺も正面に一発。互いに胴体を捉えるが、倒しきれない。
振り下ろされる蛮刀をルカは半身を引くだけで回避。俺はと言うと大きく飛び退いて、テントの柱に背を打ち付けたものの、何とか避けきった。
最早ルカの様子など感じられない。目の前のオークの動きを見定める。下から切り上げる動きを転がって避けて、横なぎに振るわれるのを伏せて回避。
って、もう動けないじゃん。
オークがニヤリと笑みを浮かべつつ刀を振り下ろそうとしたとき、その顔に白い影が噛みついた。
(ハクコッ!)
俺の声も出ていない。オークの手がハクコを掴もうとしている。
俺は伏せた状態から、オークの体にしがみつくようにして、下腹へ銃弾を押し当てる。銃弾に直接魔力を送り込むことで、その場で発動させた。
バゥン!
確かな振動と共に、オークの腹が爆ぜる。それでもオークは倒れない。
顔に噛みつくハクコを振り払いながら、蛮刀の柄でしがみつく俺の頭を強打。
意識が飛びそうになるのを、歯を食いしばって耐えて、二発目の銃弾をオークの傷口へと押し込み発動。
体の内側からの爆発にブルンと体を震わせてから、オークは仰向けに倒れた。
俺は立ち上がろうとするが、頭部への一撃からかふらついて柱に激突。
それにしがみついて立ち上がった時には、オークはみんな倒れていた。
ハクコはそのうちの一体に上ると、その首飾りを咥えて引っ張っている。
「これね、ハクコ」
小刀で首輪の紐を断ち切ると、ハクコに咥えさせた。
「さあ、出るわよ」
頭からはぬるっと流れるものがあったが、気にしてはいられない。
外の様子を確認して抜け出したルカに続いて、枯れ森までどうにかたどり着いた。
一息ついて気が抜けたのか、膝が震えてへたり込む。
「ちょっと見せてみなさい」
俺を座らせると、ルカは頭の怪我を見てくれている。
ハクコも俺の前に来て見上げてきた。見たところ、傷ついた様子もない。
『だいじょうぶ、です?』
「ああ、何とかな……」
小首を傾げるハクコが咥えた牙を一度受け取り、ハクコの首に括り直してやる。オークと同じ感じになるが、そのうちルカが何か作ってくれるだろう。
「そういえばアンタ、銃はどうしたの?」
「へ?」
あの乱戦の中、銃を拾い忘れて逃げていた……。




