枯れ森は紫でした
俺は枯れ森へとやってきた。紫のモヤに包まれた森は、明らかに毒々しい。
今度はちゃんとルカに話を聞いて、準備は行っていた。
浄化のバンダナというある程度の毒素を中和してくれる布で、口元を覆って毒素を吸わないようにする。
立ち枯れした木々が立ち並び、その木々には色とりどりのキノコが生えていた。
(どれもヤバい色してないか?)
蛍光色や鮮血のような赤、紫や青。様々な色に、目がチカチカしてくる。
また足下はぬかるんでいて、湿気が高く、汗がどんどん出てきて気持ち悪い。
(早いところ片付けたいな)
俺は既に帰りたくなりながらも、探索を開始した。
狩人ギルドで習ったサバイバル術の一つに、薬草に関する知識もあったのだが、ここにあるキノコの大半は知らない物だった。
ひとまずどこにどんなのがあるかだけを、記憶しながら進んでいく。
採取中にオークに出会うと、面倒になるからだ。
足下が湿地のようになっているので、足跡は残っている。人よりも大きく、深く残っているのがオークのものだろう。
俺はそれをたどりながら歩いて、ようやく一体のオークを見つけた。
足跡から近くに仲間がいないことは確認済み。
後は一撃で倒せるかどうかだが……。
オークは警戒する様子もなく、腰を屈めてキノコを採取している。
明るい茶色のキクラゲを思わせるキノコは、オークの手の平よりも大きかった。
(あの体型を維持できるんだから、栄養はありそうだな)
銃を構えて一呼吸、『急所狙い』で淡くマーキングが見える場所をめがけてトリガーを引いた。
ただ弾が発射される瞬間、オークが微妙に体をひねった。
こちらに気付いたわけではなく、偶然の動作だろうが狙いは逸れて、肩を抉るに止まった。
ゴブリンならそれだけで吹き飛ぶが、オークは僅かに身じろぎしただけで、こちらへと向き直った。
オークは手にした籠で顔を庇いながら、腰に差してた斧を抜いて走り出した。
重量感のある体をゆさゆさとさせながら、結構な勢いで向かってくる。
1ヶ月の間に体で覚えたリロードを行い、顔を庇う籠を撃ち抜く。
派手に弾けて中のキノコが飛び散ったが、オークのスピードは緩まない。
接近までに撃てて一、二発。
下手に連射するよりも、しっかりと狙って撃つことにする。
穴の開いた籠越しに睨みつけてくる瞳に、突き刺さる俺の放った銃弾。
しかし、オークは止まらず突っ込んできた。
(マジかよ!?)
俺は慌てて横に転がりながら回避する。オークはそのまま俺の側を通り抜け、倒れ込んだ。
そのまま起きあがる事がないのを確認して、ようやく一息つけた。
最後の銃弾を受けた時点で死んではいたのだろうが、腰の据わった電車道のような突進は、銃弾の威力にも止まらなかったのだ。
(いくら倒せても、あの巨体に潰されたらヤバいぞ)
そう思いながら冷や汗を拭う。
そして自分の現状を確認。
形振り構わず転がって避けたため、湿地の泥まみれになっていた。
(なんなんだよ……)
ゴブリンを相手にしてた時とは、勝手が違いすぎる。
(ちゃんと稼げるんだろうなぁ)
オークの死体を漁って、その首飾りをはずす。獣の牙や爪で作られたそれは、素材として売ることができるそうだ。
持ってた斧は、錆が浮いててあまり価値はなさそうだ。何より重くてかさばる。
あとは腰の袋から、黒くて丸い塊がでてきた。携帯食のようだが、とても口にしようとは思えない。
あたりに散らばったキノコは拾って袋に詰める。一応、イタオさんの依頼もこなさないといけない……何か、自分の首を絞めてる気がしないでもないのだが。
それから近くのキノコや、再び見つけたオークを倒しつつ、その日の探索を終えた。
街に帰って首飾りを鑑定してもらうとだいたい銀貨三枚。付けられている牙や爪によって値段が代わるらしい。
全部で四つ手に入れていたので、全部で銀貨12枚。効率よくオークだけを狙えば、ゴブリンよりは稼げそうだ。
俺はそのままひぐらし亭を訪れる。採取したキノコも買いとって貰うためだ。
「おぅ……とりあえず、店の外にでようか」
入ってくる俺を見るなり、店外へと押し出された。
乾いたとはいえ、全身が土にまみれているから仕方ない。
手当たり次第に集めてきたキノコ袋を受け取ると、金貨一枚渡された。
「え!? こんなに?」
「ルカには内緒だぞ、ちょっとずつ上乗せして返済に充てろ」
「そんなっ、悪いですよ」
「マコトの件に関しては、お前に無茶して欲しく無かったから厳しく言ったが、感謝はしてるんだ。
警邏に任せてたら、もっと時間もかかっただろうしな」
「いや、あれは俺が勝手に……」
「俺も勝手に感謝してるたけだ、気にすんな」
それだけ言って俺の肩をポンポンと叩くと、店内に戻っていった。
俺も続いて入ろうとした。
「手前、その格好でウチの店入ったら、清掃料とるからなっ」
再び追い出された。




