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三十路から始める異世界生活  作者: 結城明日嘩
一章 33歳のルーキー
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天使との約束

 俺の隣には綺麗な女性が座り込んでいた。俺の手を取り涙を流している。

 しかし俺にはその涙を拭うことも、艶やかな黒髪を撫でてやることも、震える細い肩を抱きしめてやることもできない。

(俺にできることはないのか……)

「金貨十枚払ってから死んで」


「うわあぁぁ!」

 何か言いようのない恐怖に狩られて目が覚めた。

「起きたかね?」

「うわあぁぁ!」

 そして目を開けると、しわくちゃのじいさんの顔が、キスしそうな距離にあった。

「失礼な奴じゃな、うなされてるから起こしてやろうとしたのに」

 こ、ここは?

 てか、俺に何があったんだっけ?

「あら、ようやくお目覚め?」

 既に見慣れた感がでてきた小柄な女性のローブ姿が、そこにはあった。今も目深にフードを被っている。


 俺はルカから詳しい話を聞いた。どうもあのミリアとかいう女を倒した後、ルカに助けられたらしい。

「寝起きにルカの泣きそうな必死の声を聞かされて、夢かと思うたわ……」

 じいさんが何か言い掛けたが、不自然に黙った。

 血塗れの俺は、元神官の経営する診療所に連れてこられた。そこで治療を受けて、一命を取り留めたらしい。

 ただ潰された左目は視力を失っていた。

 魔法で傷口を塞いでも、失った血液までは戻らず、意識の回復に三日かかったそうだ。

「どうもありがとうございます」

「礼ならルカ嬢ちゃんに言うんだな」

「ルカさん、ありがとう」

「べ、別に、アンタに死なれると、寝覚めが悪くなるから、仕方なくよ」

 そっぽを向いてそんな事を言う。

 こ、これはツンデレというやつか!

「それと感謝料で金貨十枚貰うからね」 

「ふぇ!?」


 金貨は銀貨百枚に相当する。

 それを十枚とか無理である。

「そうね、まずは銃のレシピを買って貰いましょう」

 俺が寝ている間に、色々と考えていたようだ。

 鍛冶屋のボルツさんに銃の製造権を買って貰うことになった。既にルカから話は通っていたようで、金貨十枚で売れる。

 画期的ともいえる技術なので、もっと高く売ることもできたが、初心者パーティーの生存率をあげる事にもなるので、そこは妥協した。

「もちろん共同開発だから、私も五枚貰うわよ」

 貰った金貨の半分が、ルカの手元へ。

 診療所に行くと、治療費として金貨五枚を請求された。絶対口裏を合わされているが、助けて貰った事は間違いないので支払うしかなかった。


「働いて払います」

「うむ」

 久々にやってきたひぐらし亭で、金貨十枚の感謝料を支払う契約書にサインさせられた。

 ヘミナ城跡で一日頑張れば銀貨十枚、百日もあれば返せるさ……いや、その間の宿泊費や食費、装備も必要で……半年はかかるか。

「とりあえずタダナリの快気祝いだ、今日はおごってやるよ」

 イタオさんの好意に涙が出そうになる。

 出された料理は、肉厚のステーキ。思い切り頬張ると、ジューシーな肉汁が……。

「って、辛っ、辛い!?」

 慌てて水を飲むが、いっこうに治まらず、かえってピリピリが酷くなる。

「な、なんれ、これ、からひっ」

「お前、俺との約束破って、マコトの仇をとろうとしただろうが」

 イタオさんも大層ご立腹だったのである。

 心配してくれていたのだろうが、今は辛さで死にそうになってるんですが!


 しばらくそうやって悶絶してたのを堪能して、ポーションを飲まされる。

 何とか舌のピリピリは治まった。

 辛さは舌がダメージを受ける事で感じる味なんだそうな。なので治癒ポーションを飲むと緩和されるらしい。

「これに懲りて、俺の言うことは聞けよ」

「ふぁい、すいまふぇんでした」


 こうして多額の借金を背負うことになったが、俺は命をつなぎ止めた。

 マコトの元へはまだ行けないみたいだ。

 もう少し待っててくれよな。

 土産話を仕入れて置くから、楽しみにしててくれ。

 これは俺とマコトとの約束だ。

前回で賞を終えるつもりでしたが、後日談をまとめて書いてみました。

次は多額の借金を返す展開になっていくはず?

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