そして一週間が経過して
あれから一週間ほどが経過し、彼女には会っていない。一人でヘミナ城跡へと通っている。
心の乱れは発射のブレに繋がる。魔力をスムーズにトリガーへ送り込めるように、身体に覚え込ませていく。
稼いだお金は精霊石の貯蓄に使ったりしている。微妙に値段が上がり始めたのは、俺が定期的に買ってるからだろう。
警邏によるマコト殺害犯の捜査は進展していない。元々情報が少ないのだ。
オークの襲撃で街は喧騒に包まれていた。人の目もオークに集中する。
多少の悲鳴もかき消される。
それだけにオーク襲来時に、事件を起こすのは重罪となるのだ。発覚しにくい、捕まりにくい。そんな時に事件が多発すると、防衛戦自体も危うくなるからだ。
それでも犯行を犯した者がいる。
何としてでも捕まえて、裁きたかった。
一週間のうちに新たなスキルも手に入れた。『暗視』『急所狙い』
これで夜でも狙いやすく、的確に弱点を突きやすくなった。
他にも弓に関する速射や連射、乱れ撃ちなどもあったが、銃でもできるか不明だったので、保留にしてある。
ときかく後は見つけるだけだ。
素人が捜査といっても聞き込みくらいしかない。酒場を巡り、オーク襲来の日に怪しい奴を見なかったか聞いて回る。
オーク襲来時は、オークに向かうか、オークから逃げるか。それに二分される。それ以外の行動をとれば目立つはずだ。
ただそんな簡単に見つかるなら、警邏が見つけてるだろう。
あと一つだけ手掛かりはある。
マコトに買ってやったブレスレット。イミテーションで金銭的な価値はない。でも見た目には綺麗で持ち去られていた。
夜目に価値があると思って持って行ったが、価値がないとわかれば処分したかもしれない。
「そういやミリアがそんなブレスレットしてたなぁ」
酒場の一件で、話が聞けた。
ある酒場のウェイトレスが、最近になってブレスレットを付けるようになったらしい。
そのデザインが、俺の探しているモノに近いそうだ。
俺は早速その酒場に向かう。
下町にある少しいかがわしさのある酒場。露出の高い制服を着たウェイトレスの中に、探しているブレスレットをした女がいた。
「そのブレスレット、綺麗だな」
「これ? イミテーションで安物なんだけどね、見た目は悪くないから普段使いにいいのよね」
「へぇ、どこで買ったの?」
「ん? 貰い物だからね、分からないわ」
「誰から貰ったんだ?」
「誰だっていいだろ、アタシに貢いでくれる客はそれなりにいるんだよ」
「すまない、ちょっと女房にプレゼントしたくてね。売ってるところを知りたかったんだ」
「生憎誰に貰ったかも覚えてないんだよ、ゴメンなさいね」
そういって去っていった。
ただ俺の鷹の目、暗視のスキルは、薄暗い店内で確認していた。
ブレスレットに血痕が付着していたのを。
明け方近く、店が閉まりあの女が出てきた。まだ辺りは薄暗く、周囲に人影はない。
裏通りのバラックやテントが目立つ街を女は進んでいく。
その中の一つ、小さなテントへと入っていった。
忍び足と潜伏スキルで気配を消して、様子を伺う。中では女が独り言だろうか、呟いてた。
「うーん、コレ気に入ってたけど目立つのかしら。
やだ、まだ血が残ってるじゃない。
あいつ、これを奪われるのだけはやけに抵抗したのよね。てっきり、値打ちモンだと思ったら安物だし……捨てとくのがいいのかしら?」
「だったら俺に返してくれ」
俺はテントへと入っていく。女はこちらに背を向けたままだ。俺は銃を構えながら続ける。
「それはマコトのだろ、返して貰うぞ」
「何、アンタあの子の男?」
女が振り返る。その手には鈍く光るものが。
俺は咄嗟にトリガーを引くが、女も手にした物を投げていた。
銃弾が左肩を抉り、短刀が左目に突き立つ。
凄まじい衝撃に立っていられない。女もダメージはあるはずなのに、こちらに向かってきた。
押し倒されて、馬乗りにされる。見下ろす女は、勝ち誇った笑みを浮かべながら、もう一本の短刀を取り出す。
「痛いじゃないのさっ!」
そういいながら俺の左肩に短刀を振り下ろす。
「うぐっ」
「何よアレ、一発でここまでされるとか」
「ガァァァ」
女は短刀を捻るように動かしてくる。激痛に身をよじりたくなるが、抑えつけられた身体は動けない。
「アレは貰うとして……」
銃の方を一瞥してから、俺の身体をまさぐって、財布を抜き取り中身を確認。
「しけてるわね。まあ、あの子の男なら仕方ないか」
つまらなそうにしている。
散り散りになりそうな意識をつなぎ止める。ルカに教わったことを一つずつ、確実に。
「あんまりうるさくされても面倒だし、死んじゃってね」
女は肩口に刺した短刀を抜いて、大きく振りかぶって喉元へと振り下ろす。
ガァン!
女の身体が吹き飛び転がる。
俺の手から放たれた銃弾が、女のわき腹を抉っていた。
銃弾に直接魔力を込めれば、弾は出る。銃身がないと方向は定まらないが、至近距離なら問題なかった。
マコト……仇はとったからな……。
俺の意識は闇に落ちた。
「あのバカ!」
街中に張り巡らしておいた風の結界が、銃声を検知する。
浅い眠りの中でそれを感じた私は跳ね起きて、現場へと向かう。
二度目の銃声が鳴り響き、私はそのテントへと入った。
肩とわき腹から血を流して呻く女と、顔と左肩から血を流すタダナリ。
「ちょっと、大丈夫なの!?」
駆け寄って声をかけるが返事はない。短刀を左目から生やし、左肩の傷もかなり酷い。
自分が神官でないのが悔やまれる。
ルカは風の魔法で、知り合いの神官へと言葉を届け、すぐに来て貰えるように手配。
ローブの裾を近くに落ちてた短刀で切り裂き、左肩の付け根を縛る。左目の短刀は痛々しいが、下手に抜くとかえって傷を広げてしまいそうだ。
手当はそこまでできりあげ、もう一人の女の方を見る。
左肩とわき腹、共に銃弾を受けた傷だ。つまりは、こいつがマコトの仇だったのだろう。
まだ息はある。
殺してしまうのは楽だが、それだけで罪が終わっていいのか?
マコトとは話さぬままだった。
たまにひぐらし亭ですれ違ってただけの間柄。それでもタダナリと楽しそうに話しているのは聞いていた。
「そうね、貴方の罪は死では片付けない」
女は警邏に引き渡された。
「ねぇ、止めて! この声を止めてよ!」
わめく女に警邏たちは首を傾げる。彼らには何も聞こえない。
ただ女にはずっと聞こえるのだ。
マコトの楽しそうな声、嬉しそうな声、悲しそうな声、辛そうな声。
延々と耳の中て再生される声は、彼女が極刑に処されるまで続いた。
マコトを巡っての話はココでおしまい。
寝ても覚めてもずっと声が聞こえる状態って、結構辛いと思うのですがどうでしょうか。
それも自分が殺した相手の声……。
多分、処刑を待たずして発狂してそうです。




