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三十路から始める異世界生活  作者: 結城明日嘩
一章 33歳のルーキー
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銃と彼女と過去

 俺が予想外の稼ぎにほくほくとひぐらし亭に行くと、見知らぬ女性が座っていた。

 歳は二十代の半ばだろうか。濡れたような黒髪に、一重の切れ長な瞳はやや紫ががって見える黒。白目の部分が多めで、こちらを見る雰囲気には近寄りがたいモノを感じる。肌の色は白く、厚みのない唇の朱が引き立っている。

 全体的に整ってはいるが、目つきの悪さとやや病的に見える白さは、好みが分かれるところだろう。

 ただ俺にとってはど真ん中のストライクだった。

「付き合ってくれませんか!?」

 思わずそんな事を口走る俺に対して彼女は、少し眉をひそめながらも頷く。

「それは構わないけど?」

 その声に固まる。

 それは一緒に銃を開発したあの魔道師のもの。

「どこへ行くのかしら」

「と、とりあえず、ヘミナ城跡?」

 そういう意味で言った訳じゃ無かったが、うまくごまかせた……はずた。

「そう、明日でいいの?」

「あ、ああ」

「タダナリ、先に注文しろや」

 イタオさんのその声に助けられる形でカウンターに移動した。


 翌日、約束通りヘミナ城跡へと付き合ってくれた。並んで歩くと女性としても小柄で、150cmほどの身長しかない。

 いつものローブ姿で、目深にフードをかぶると子供のようにしか見えない。凹凸の少ない体型もあって。

 実際のところ、聞きたいことはあったので、彼女が魔道師で丁度良かった。

 魔法に素養のあるものは、発動ワード無しでも精霊石を起動できるらしいのだ。

 そして訓練さえすれば、誰もがそれを行うことができるようになるとのこと。そのコツを教えて欲しかったのだ。

 その前に魔道師のプロフィールを聞いた。別に下心はない……。

 名前はルカ、風の魔道師で義勇兵歴は十年に近いそうだ。

 ただ五年ほど前に仲間を失ってから、ほとんどをソロで活動しているらしい。

「風の魔法って、どんな事ができるんだ?」

「色々とできるわよ、いわば空気を操作する魔術だから。足音を消したり、遠くの人の話を盗み聞きしたり……」

「しょぼっ」

 思わず呟いた俺に、銃を構えた。

「ひっ」

 その威力は昨日ゴブリンで確認している。冗談でも銃口を向けられると冷や汗が出てしまう。

 彼女の持つ銃は、片手で扱えるハンドガンタイプだった。

 それを近くの木に向けて構える。

 パシュッ!

 わずかな音をたてて、木の幹に突然穴が開く。

「え、なんで?」

 発動ワードがいらないのは、魔法が使えるからだろうが、発射音もしなかった。

「しょぼくてゴメンナサイね?」

「すいません、俺が悪かったから、説明してください」

 説明されるとなんて事はない、足音を消す要領で銃声も消せるのだそうだ。

 風の魔道師に、銃という組み合わせは凶悪だ。それこそ相手に気付かれずに倒し続けられらる。

「でも一流の義勇兵や高位の魔物には通じないわ。貴方も銃の力を過信しないこと」


 そんな彼女に俺は指導を受けて、何とか発動ワード無しで射撃できるようになった。

 魔力を精霊石に送り込む事で、発射までの約一秒ほどあったラグもなくなるというおまけ付き。

 後は銃声さえ小さくできれば言うことないんだが。

 あまり贅沢は言っていられない。

 初心者義勇兵としては、破格の強さを手に入れているのだ。

 彼女と一緒にヘミナ城跡のゴブリンを倒していく。

 昨日は外周の巡回ゴブリンしか倒してなかったが、もっと内部の武装が強化された個体や、一回り身体の大きなホブゴブリンなども一撃で倒せてしまう。

 その日の稼ぎは昨日の四倍にもなったが、そのうち七割が『授業料』としてルカに奪われてしまった。

「後はパーティーとして折半よね?」

「え?」

 結局、手元に残ったのは銅貨150枚分。いや、それでも今までを考えれば十分な稼ぎなんだが、不条理は感じた。


「で、どうするの?」

「何が?」

 ヘミナ城跡からの帰り道、唐突に切り出された。

「あの子の仇を討ちたいんでしょ?」

「そ、それは……」

 ルカの瞳がこちらを見透かすように、細められる。イタオさんに釘を刺すように言われたのか?

「も、もう、警邏の人たちに任せますよ」

「ふぅん……」

 全然納得はしてないな。

「私達が全滅したとき、生き残ったのは二人なの」


 彼女は話し始める。

 六人でパーティーを組んでいたが、不死族という魔物の中でも上位の存在に壊滅させられた。

 その戦闘で四人が殺され、パーティーリーダーの戦士とルカだけは何とか逃げ延びた。

 義勇兵となって五年近く一緒に戦ってきた仲間を失った心の傷は深かった。

 力をつけて、いつか仇をとろうとその戦士と約束した。

 しかし、戦士の方はリーダーとして、より仲間に対する責任感が強かったのだろう。

 他のパーティーに混ぜて貰って、すぐに討伐に向かった。目的の不死族は、そのパーティーによって見事に討伐された。

「でもリーダーの戦士は帰ってこなかった。私は唯一の仲間と仇を失って、目標がなくなってこの様。結局のところ、復讐ってのは人生の目標にはならないのよ」

「そうか……」

 ルカにとって、それは辛く忘れたい過去だろう。それを俺に教えるというのは、かなりの覚悟が必要だったはずた。

 でも俺はマコトを守れなかった自分が許せない。

「気遣ってくれてありがとう」

 それだけを返して、後は無言のまま街へ戻った。

亡国と違って感想がつかないのは、凡百になってるんだろうなぁ……。

もっと冒険主体の方が楽しいかな?

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