新たなる力
イタオさんに頭を下げて鍛冶屋を紹介して貰った。イタオさん自身も『銃』という言葉に思い当たる節があったらしい。
マコトの仇をとろうと無茶をするのはいただけないが、強くなろうとする事は止められない。あくまでもマコトを殺した犯人は追わないと、約束した上での紹介だ。
「それにしてもルカ。お前が他人に世話を焼くとか、どういう風の吹き回しだ?」
「……まあ、ほっとけなかっただけね」
のちに聞いた話で、魔道師のルカは仲間を失い、パーティーを組むことをやめたらしい。
「仲間を失う辛さは知ってるから……」
ルカも一人になって街をさまよい、ひぐらし亭に行き着いたらしい。
鍛冶屋のボルツは王国の人間だが、義勇兵を相手に商売していた。
「義勇兵って発想が面白いんだよね、剣を柄の部分から逆に生やせとか、棘の付いた手袋のようなボクシンググローブというのを作れとか……」
そして俺がイメージを書き記した図面を見ている。
「今回は更に変だな、どこが武器なんだか。ベースとしてはクロスボウなんだろうが、弦は無いようだし」
「作れそう……ですか?」
「ああ、仕組み自体は簡単そうだ。筒とその後端に蓋になる機構、後は引き金のところに銀を使うと……やってみるよ」
もう一つ精霊石を入れる弾の方も何とかなりそうだった。
「二、三日でできると思うから、ひぐらし亭に連絡するわ」
「はい、お願いします」
ちなみに手間賃として、1ヶ月の間に蓄えた貯金が、全てなくなった。
その日の宿泊費を稼ぐために狩りに出る。
近くの森で小動物を狩っていると、どうしてもマコトの影が目に浮かんでしまう。
銃ができたら狩り場を変えるか。
そして三日目の夜、ひぐらし亭に行ってみるとそれが届いていた。
50cm程の銃身に、木製のストック。中折れ式になっていて、そこから弾を込めるようになっていた。
もう一種類、小さな筒が十本ほど。そちらが精霊石を入れる銃弾の方になる。
結局、鉄の玉を粘土で詰める事にした。薬莢部分は手元に残るので、何度も再利用できるはずだ。
イタオさんに空き瓶を貰って外に出る。俺の弓の射程である15mから射撃してみる。スキル『鷹の目』の効果もあって、この距離なら外すことはないはず。
右肩にストックを当てて、脇を締める。左手で銃身を支えつつ、引き金に指をかける。
「ヴァン!」
約一秒のラグの後、弾が飛び出した。狙いは外れず、瓶を粉々に打ち砕いた。
その威力は森で試していた時以上だ。弾の軌道もほぼ真っ直ぐで、矢の様に山なりにはならなかった。射程はもう少し長いだろう。
「おい、うるさいぞ」
店から出てきたイタオさんが文句を言ってきた。思った以上の発砲音だ。
一発撃つと近くの動物は逃げてしまうだろうな……。
翌日、俺は改めて試射を兼ねて、ヘミナ城跡に来ていた。人がまだ世界を支配していた頃の名残であり、今ではゴブリン達の住処でもある。
長い年月で城壁の多くは崩れ、残っているものもヒビが目立つ。
敷地はそれなりの広さがあって、奥に進むにつれて強くなっていくらしい。
もちろん俺はそんな奥に行くことはなく、手前の方でウロウロしているゴブリンを狙う。
二人組で巡回してるのか、一定区間を往復している。
そのうちの一匹に狙いを定めて精霊石を起動させる。
「ヴァン」
小声でもいいが発声しないとダメらしい。あとどうしても発動までにラグが出るのは気になった。
ガアン!
そして銃声が響きわたる。20m程の距離をほぼブレがないままに着弾。ゴブリンの頭が吹っ飛んだ。
その威力に愕然とする。
もう一匹のゴブリンは、何が起こったか分からず、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
もしかしたら雷に打たれたとでも思ったのかもしれない。
そんなゴブリンを可哀想に思いながらも、次弾を装填。狙いを付けて撃ち抜いた。
頭を抱えてしゃがんでいるので、背中を撃ったのだが一撃で起きあがる様子はなかった。
空になった薬莢に精霊石を詰め、粘土の中に鉄玉を入れて丸めた粘土弾で蓋をする。
この作業も思っていたよりスムーズに終えられるので、後衛なら戦闘中でも可能な気がした。
この発明というか、記憶からの再生は、義勇兵の戦いを一変させるかも知れない。
ただもうしばらくは自分だけの物として、マコトの為に使用したいと思った。
結果として、ヘミナ城跡でゴブリンを三十匹ほど撃破し、銅貨350枚ほどの稼ぎを一日で果たした。
銃弾も消耗品だが、矢に比べれば安価で、風の精霊石もただ同然。使い果たした貯金を取り戻すのもすぐだと思われた。
火薬を使わないから薬莢というのはおかしいかもしれませんが、タダナリの失われた記憶から導かれた言葉としてどうか一つ……。




