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三十路から始める異世界生活  作者: 結城明日嘩
一章 33歳のルーキー
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新たなる力

 イタオさんに頭を下げて鍛冶屋を紹介して貰った。イタオさん自身も『銃』という言葉に思い当たる節があったらしい。

 マコトの仇をとろうと無茶をするのはいただけないが、強くなろうとする事は止められない。あくまでもマコトを殺した犯人は追わないと、約束した上での紹介だ。

「それにしてもルカ。お前が他人に世話を焼くとか、どういう風の吹き回しだ?」

「……まあ、ほっとけなかっただけね」

 のちに聞いた話で、魔道師のルカは仲間を失い、パーティーを組むことをやめたらしい。

「仲間を失う辛さは知ってるから……」

 ルカも一人になって街をさまよい、ひぐらし亭に行き着いたらしい。


 鍛冶屋のボルツは王国の人間だが、義勇兵を相手に商売していた。

「義勇兵って発想が面白いんだよね、剣を柄の部分から逆に生やせとか、棘の付いた手袋のようなボクシンググローブというのを作れとか……」

 そして俺がイメージを書き記した図面を見ている。

「今回は更に変だな、どこが武器なんだか。ベースとしてはクロスボウなんだろうが、弦は無いようだし」

「作れそう……ですか?」

「ああ、仕組み自体は簡単そうだ。筒とその後端に蓋になる機構、後は引き金のところに銀を使うと……やってみるよ」

 もう一つ精霊石を入れる弾の方も何とかなりそうだった。

「二、三日でできると思うから、ひぐらし亭に連絡するわ」

「はい、お願いします」

 ちなみに手間賃として、1ヶ月の間に蓄えた貯金が、全てなくなった。


 その日の宿泊費を稼ぐために狩りに出る。

 近くの森で小動物を狩っていると、どうしてもマコトの影が目に浮かんでしまう。

 銃ができたら狩り場を変えるか。

 そして三日目の夜、ひぐらし亭に行ってみるとそれが届いていた。

 50cm程の銃身に、木製のストック。中折れ式になっていて、そこから弾を込めるようになっていた。

 もう一種類、小さな筒が十本ほど。そちらが精霊石を入れる銃弾の方になる。

 結局、鉄の玉を粘土で詰める事にした。薬莢部分は手元に残るので、何度も再利用できるはずだ。

 イタオさんに空き瓶を貰って外に出る。俺の弓の射程である15mから射撃してみる。スキル『鷹の目』の効果もあって、この距離なら外すことはないはず。

 右肩にストックを当てて、脇を締める。左手で銃身を支えつつ、引き金に指をかける。

「ヴァン!」

 約一秒のラグの後、弾が飛び出した。狙いは外れず、瓶を粉々に打ち砕いた。

 その威力は森で試していた時以上だ。弾の軌道もほぼ真っ直ぐで、矢の様に山なりにはならなかった。射程はもう少し長いだろう。

「おい、うるさいぞ」

 店から出てきたイタオさんが文句を言ってきた。思った以上の発砲音だ。

 一発撃つと近くの動物は逃げてしまうだろうな……。


 翌日、俺は改めて試射を兼ねて、ヘミナ城跡に来ていた。人がまだ世界を支配していた頃の名残であり、今ではゴブリン達の住処でもある。

 長い年月で城壁の多くは崩れ、残っているものもヒビが目立つ。

 敷地はそれなりの広さがあって、奥に進むにつれて強くなっていくらしい。

 もちろん俺はそんな奥に行くことはなく、手前の方でウロウロしているゴブリンを狙う。

 二人組で巡回してるのか、一定区間を往復している。

 そのうちの一匹に狙いを定めて精霊石を起動させる。

「ヴァン」

 小声でもいいが発声しないとダメらしい。あとどうしても発動までにラグが出るのは気になった。

 ガアン!

 そして銃声が響きわたる。20m程の距離をほぼブレがないままに着弾。ゴブリンの頭が吹っ飛んだ。

 その威力に愕然とする。

 もう一匹のゴブリンは、何が起こったか分からず、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

 もしかしたら雷に打たれたとでも思ったのかもしれない。

 そんなゴブリンを可哀想に思いながらも、次弾を装填。狙いを付けて撃ち抜いた。

 頭を抱えてしゃがんでいるので、背中を撃ったのだが一撃で起きあがる様子はなかった。

 空になった薬莢に精霊石を詰め、粘土の中に鉄玉を入れて丸めた粘土弾で蓋をする。

 この作業も思っていたよりスムーズに終えられるので、後衛なら戦闘中でも可能な気がした。

 この発明というか、記憶からの再生は、義勇兵の戦いを一変させるかも知れない。

 ただもうしばらくは自分だけの物として、マコトの為に使用したいと思った。


 結果として、ヘミナ城跡でゴブリンを三十匹ほど撃破し、銅貨350枚ほどの稼ぎを一日で果たした。

 銃弾も消耗品だが、矢に比べれば安価で、風の精霊石もただ同然。使い果たした貯金を取り戻すのもすぐだと思われた。

火薬を使わないから薬莢というのはおかしいかもしれませんが、タダナリの失われた記憶から導かれた言葉としてどうか一つ……。

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