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ちょっ、俺は何もやってないって!

ということで新たにシリーズ開始。


十文字青先生の「灰と幻想のグリムガル」に影響を受けて、自分でも異世界ものを書きたくなりました。


Wiz好き(GBの外伝あたりが一番)な作者による弱者が何とか知恵を絞って生き残ってく感じの話しになる予定です。

 目を開けると真っ暗だった。

 街灯すら見当たらない、少し離れた所からおぼろげな光は入ってきているようだ。

 どうやら堅い床の上で壁を背に、座り込んで眠っていたらしい。

 寝ぼけてぼんやりする頭で、なんでこんなところで寝ていたのか思い出そうとするが、何も浮かばなかった。

 名はタダナリ、33歳。しがないリーマンで……って、リーマンって何だっけ?

 そもそもここはどこで、俺は何をしてたんだ?

 そんな事を考えているうちに、徐々に目が暗さになれてきて、周囲の輪郭ぐらいは分かるようになってきた。

 隣を見ると誰かが俺と同じようにして寝ているのに気づいた。どうやら女の子のようである。

「んん……」

 寝苦しそうな声に思わず肩を揺すって起こそうとしてしまった。

「君、大丈夫か?」

「んっ……ん?」

 ほどなくその子が目を覚ました。しばらく呆然とした様子で、あたりを見渡す。

「え? あ、いやっ、きゃぁぁぁぁ」

 突然の大声に俺は驚いた。それと同時に、周囲で複数の気配が起きあがるのを感じた。

「なんだ? どうした……」

「寝てるところを急にっ!」

「え? えぇ!?」

「てめぇ、痴漢かっ」

 状況の変化についていけないでいると、少し離れた所から誰か近づいてくるのを感じ、次の瞬間には吹き飛ばされていた。

 な、なんだ、どうしたんだ?

 思わす後ずさると、背中が壁にぶつかる。じわじわと頬のあたりが熱くなり、やがてじんじんと痛みはじめた。

 な、殴られたのか?

 親父にも殴られた事はないのに!

 唐突にそんな言葉が頭をよぎる。

 一方で女の子や俺を殴った男、さらに何人かの気配が、こちらから距離を取るように移動するのが感じられた。

 俺の方から近づいたら、また殴られそうだ。いったい、何がどうなって……そもそも、ここはどこなんだ?

 明かりがあるのは、向こうの人達のさらに奥。こちらは行き止まりのようだ。

 彼らが移動しない限り、ここから動けそうになく、向こうの様子を窺うしかなかった。


 彼らはしばらく何事かを話したあと、明かりの方へと移動を開始した。

 程なくキィィと金属のこすれるような音がして人の気配がなくなった。

 俺はそれから少し待って、明かりへと近づいて行く。そこには鉄格子でできた出入り口があった。当然鍵はかかっておらず、押し開けて外に出る。

 壁に一定間隔で蝋燭が並んでいて、中よりは明るい。天然の洞窟だろうか、岩肌がむき出しでゴツゴツしている。右はすぐに行き止まりなので、左へと歩き出した。

 しばらく進むと階段があり、そこを上がると再び鉄格子の扉があった。

 しかし、今度は鍵が掛かっている。ガチャガチャと揺らしてみるが、しっかりと固定されている。

「まだ誰かいたのか? 一度に出てこいよな……」

 文句を言いながら近づいて来たのは、鎧を着て槍を持った男だった。

 それを呆然と見つめていると、男は腰に下げてあった鍵を取り出し鉄格子を開けてくれる。

「まっすぐ進んで突き当たりを右、そのまま進んでいけば建物があるからソコへ急げ」

「え? あの……」

 戸惑う俺に対して、男は手をしっしっと追い払うように振るだけだ。他の事を聞ける雰囲気はなかった。

 仕方なく俺は言われたとおりに進んでいく。少し歩いてT字路に行き当たったので右へ。

 そこには扉があったので、押し開くと眩しい光が差し込んでいた。昼間だったらしい。

 振り返ると今まで居たのが、古びた塔だったのがわかる。少し小高い丘の上にあり、麓の方に木造の建物が見えた。

「あそこに行けってことか……」


 近づくに連れてそれが建物と言うかバラックというか、有り合わせで作られた掘っ建て小屋であることが分かってくる。

 どうも塔から街へ入るための関所のようなものらしい。

 その割に衛兵の姿はなく、簡素な扉が一つ。押し開けて入ってみると、中の作りも至ってシンプルだった。

 空港などの手荷物検査のようなカウンター状のテーブルを挟んで、中年の女性と若者の集団が向かい合っていた。

 しかし、空港って何だ?

 自分の感想で知らない単語が浮かんでくる違和感があった。

「まだいたのかい? しかも、おっさんじゃないか」

 こちらを見て、中年女性が面倒そうな声を上げる。

 まだ俺は33歳で、対する中年女性は四十代に見えるぞ。なかなかに恰幅の良い胸囲と胴囲が同じ様な体型だ。化粧も濃くて、頭など緑に染まっていた。

「面倒だからもう説明はしないよ、この金を受け取って働くか、自分で職を探すか決めな」

 一方的な物言いに、どう対応いたらいいのか分からない。

 若者達に目を向けると、坊主頭の体格の良い、いかにも高校球児といった雰囲気の男が、おかっぱの女の子の前に庇うように移動して、こちらを睨みつけてきた。

 しかし、高校球児って何だっけ?

 色々と混乱して動けない俺に、中年女性が苛立たしげにテーブルをコツコツ叩きながらぼやく。

「早くしとくれよ、アタシは暇じゃないんだ」

 その声に俺は女性を見て、テーブルの上に置かれた袋を見つけた。

 お金を取るか、自分で働き口を見つけるかを選べ?

 正直、ここがどこで、何が起こってるかも分からないのに、判断しようがないじゃないか!

 まごつく俺の様子に痺れをきらしたのか、女性はテーブルの袋に手を置いた。

「即決できないくらいなら、これはいらないね」

「待った、貰います、貰いますから!」

 俺は慌ててテーブルへと駆け寄る。すると若者達は、俺から距離を取るように部屋の奥の扉へと移動していった。

「それにしても、えらく嫌われてるわね」

「ほんと、どうしてだか……」

「寝ているケイの身体をまさぐろうとしたからだろ、変質者が!」

 最後に残ってた坊主頭の男がそう言い置いて出ていった。

 顔を女性に戻すと、女性は身を抱くようにしながら一歩下がる。

「や、やめとくれよ、旦那がいるんだからっ」

「いや、誤解てすって……」

 そもそもオバサンに手は出しませんって……もちろん口に出しては言わないが。

 俺はテーブルに置かれたままの袋を手に持ち、奥の扉をくぐった。

 既に若者達の姿はない。

 そこにはレンガや石を積み上げられた町並みか、広がっていた。地面はむき出しで、建物の高さも二階まで。窓にはガラスも使われてない。漠然と古さというか、技術の低さを感じた。

「とにかく情報がいるな。酒場にいくか」

 情報集め=酒場という謎の論理だったが、俺は深く考える事もなく街を歩き始めた。

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