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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
これからのための“障害物”
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第91話 また、なんで?

「はー、なんかジルに話してたら、落ち着いてきたわ」

「そりゃ、良かった」

アハハハと二人で笑ってみる。

(おっ、これって結構いい雰囲気じゃねーの?)

ジルがそう思うほどに二人の周りには温かな空気がほわほわと流れる。


しかし、一変。

背後から現れた慌ただしい雰囲気にそのほわほわは飲み込まれてしまった。


「ちょっと、マリア!

あなたこんな時に、なにしてるの!!」

それはマリアの同僚、マルセの声だった。

そのピリリとした口調にマリアは振り向く。

「マルセ、どうしたの?何かあったの?」

「まぁ、『何かあったの?』って、あなた知らないのね。

今さっき、急にルドゥカ様がお帰りになってきて、大騒ぎになっているっていうのに!!」

そう言いながらマルセはマリアの手を引っ張り、連れていこうとする。

「ルドゥカさま?」

(“ルドゥカさま”って誰?)

訳もわからずマリアは無理やり立ちあがらされると、そのままマルセに引っ張られるがまま連れて行かれる。


良い雰囲気はお終い。

入れ替わりに訪れたのは、台風のような訪問者。

「・・・・・・ルドゥカ様!?

また、なんであの人が?」

驚きと疑問混じりの一言。

ジルはマリアとマルセが去って行った方向を見ながら、茫然と呟いた。





「そう言えば、ウィリアム様。

貴方様が来た最初あたりは、口調などを偽ってましたよね。

何故ですか?」

トゲトゲしい口調での質問。

アージスが決断し、ウィリアムが哀愁漂ったあと。

ハルはずっと疑問だったことを聞いてみた。まぁ、少しは見当がつくけれど。

「あぁ、アレ。

姫がこっちで働いてるって聞いてただけで、一度も会ったことのない婚約者を探すには、僕の性格じゃ無理だと思ってね。

そこで女性に近づきやすいためにも『女好き』。気さくに人と話すためにも『少し礼儀知らずな青年』。

その点で、イザラの性格を利用させてもらったんだ。

つまり、僕はあの頃、イザラを演じてた。

ほら、僕ってこんなにもうぶで人見知りする気弱なタイプの人間でしょ?」

「・・・・・・はぁー、やはりそうでしたか」

最後のウィリアムの言葉はともかく。

思っていた通り。

あの“女好きで無礼な王子様”は偽物だったわけだ。納得。

「でもさぁ。

僕が必死でイザラの真似してたのに・・・・・・アージス様ったら姫を男装させて側に仕えさせてたんだもん。

ほぼ宮中全員の女性と接触したのに、紅髪の人も情報も何一つ得れなかったからすごく困ったよ。

あのとき、王様と第一騎士の例の噂を聞かなかったら、僕は今も姫を見つけられないまま、窮地に立たされてたかもねー」

愚痴にも似たその言葉を、やれやれとアージスに向かって言う。

「あぁ、例のあの噂か。

そう言えば一時期女官たちの間なんかで流れてたな。

・・・・・・俺とラウルがデキてるって」

思い出した。

そんなこともあった、アンジェとの思い出の中。

今はあのときの口喧嘩でさえ、名残惜しい。


しんみり しんみり

彼女の存在 明るさが

今、明々と示される

手放してから気付く

彼女の 彼女としての 大きさ

空いた空白 大きな穴

埋めることが出来ないんだ 彼女しか。



コソリ

「ウィリアム様。

今は出来るだけアージスの前ではラウルの話題は出さないでください」

「ああ、ゴメンね。

・・・・・・にしても、アージス様があそこまでしょんぼりするなんて・・・・・・僕は悪いことをしてしまったのかも。

まっ、今更悔いても意味ないし。あれしか最善の方法はなかったから」

チラリ。

(ハッシュル国の王様。

ここであなたに立ち止まってもらっちゃ困る。

そりゃあ、婚約者を攫われたのは悲しいだろう。僕だって・・・・・・悔しいし、手惜しい。

しかし、あなたにはその悲しみを乗り越えて彼女を助けてもらわなければいけない。

・・・・・・僕のためにも、ね。)





朝はとっくにやって来ている。

早朝。

昨晩の出来事から数時間後のこと。

王宮内はずーとバタバタと忙しかったのは知っている。

しかし、何だろう。

先ほどまでとは違う慌ただしさがドアの向こうから伝わってくる。

その予感はやがて気配に、音に、声に・・・・・・。


明確な声となって急な来訪者を告げたのは、アージスの妹、王の書斎付近に滅多に来ることのないジョセフィーヌの嬉々とした声だった。


『叔母さま、叔母さま。

めずらしいね、叔母さまがこっちに来てくれるなんて!!』

『そうかのぅ。

まぁ我も忙しい身であるからのぅ』

『今度、ジョセフィーヌに異国のお話を聞かせてっ。

叔母さま、どうせまたお仕事で色んなところ行ってたんでしょ?』

『良いぞ。

まぁ、まずはそちの兄との用事を終わらせてからじゃ』



廊下からの、ドア越しに聞こえるくぐもった会話。

それにいち早く反応したハルは、目を見開き、驚く。

「!?

まさか・・・・・・アージス!!」

ハルの反応と聞こえてくる声にもちろんアージスも驚いている。

「あぁ・・・・・・だが・・・・・・」

しかし、小首を傾げている暇もなく。


コンコン

ノックされたドア。来客者の声。


『アージス。

我が来てやったぞ。

・・・・・・すぐにドアを開けい』





例えば、昨晩のイザラが嵐のようにやって来た狼ならば、


・・・・・・彼女は、台風のように荒らしに来た雌狐なのかもしれない。






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