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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
これからのための“障害物”
92/102

第90話 私ね・・・・・・

「俺は・・・・・・


俺は、アンジェを助けに行こうと思う」


何かを決意したかのようなアージスの言葉。

三人だけの広い部屋の中、気持ちがいいくらいに響く。

彼の意の決した言葉。

しかし、他の二人はさも当然に彼の言葉にキョトンとしている。


「えっ、アージス、そんなの当たり前じゃないか」

ハルがウィリアムの前でありながら、わざと砕けた普段通りの話し方でアージスに言った。

「そうだよ、王様。

それに、ほら、彼女を取り返さないと僕もヤバいからねぇ」

ウィリアムもそんなハルに便乗し、軽い感じにアージスに答えた。


ギロリ


あぁ、ほらそんな失礼な態度を取ったりするから。

ハルがまともやウィリアムにひと睨み。

どうやら、本気であまり良く思っていないらしい。

睨んだと思ったら、今度はウィリアムの発言に攻撃し始めた。

「そうですね。

ウィリアム様、先の争いで味方のはずのアーリア国の戦士から攻撃を受けていらっしゃいましたしね。」

普段のハルらしくない。

そんな核心をついた言い方。

いつものハルなら決して目上の方にはしない。

(おいおい、ハル。いくらウィリアム王子でも・・・・・・)

少し、ハルの発言にアージスがハラハラする。

しかし、相手は一枚上手・・・・・・っていうか、そんな気にした様子もなく、


「そうだね。

・・・・・・僕はもう、用済みなんだろうね」


ふと、悲しそうに。

夜が明けそうな薄明るい空を、窓越しに見て、そう呟いた―――





朝。

といっても、まだそんなに明るくない明け方。

外は冷たい風がそよそよとふいて、ちょっと肌寒いが心地良い。

「アンジェは、アンジェは本当にイイ子なのよ・・・・・・」

ズズ。

鼻をすする音。腫れぼったい瞳。頬に乾いた雫のあと。

少しかすれ気味な声がでる口もとを持っていたハンカチーフで隠し、彼女は話す。

「うん、それは俺も知ってる。

ラウルは良い奴だ」

彼女は彼と話す。

王宮の中庭。

今は止まっている噴水が目の前にある階段の三段目辺り。

マリアはそこで一晩中泣き続けて、ジルはそんなマリアを一晩中なだめて。

やっと落ち着いたのだ、さっき。

落ち着いた彼女がポツリ、ポツリと話し始めたアンジェのこと。

その呟き、一つ一つにマリアがどれほどアンジェのことを大事にしているのかがよく伝わってくる。

ジルも普段の彼からは想像もつかない真剣な態度で、時に相槌を打ちながら、時に同意し、マリアの話をちゃんと聞いてくれる。

「・・・・・・私ね。

私はザビル家の長女でね。

お父様のお気に入りだったから・・・・・・たくさんいる弟や妹たち、たくさんのお義母様たちからいい目で見られてなかったのよ。

とにかく家の中が息苦しくて。でも、お母様は頑張れと言うだけで。

小さいころから沢山のことを勉強してきて、お父様の期待に応えるためにも・・・・・・色んな陰口にも耐え抜いて。

でも、あの日、きっと私の限界が来てたのよ。

覚えてる。その日は小雨が朝から降り続いていて、私はいつもと違う行動をしてた。

本当ならその時間帯はお勉強の時間。でも私は普段見もしない家の外を、窓からずーと見てた。

多分、今思うとアレが小さかった私なりの反抗だったのかも。

・・・・・・ずっと窓につく雨の雫なんかを数えたりしてて。

だけど、まさかあの子がその窓から入って来るなんて予想してなかったわ。

アンジェとの出会いは突然だった。

当時八歳だった私の部屋へ、知らない近所の子がいきなり窓から訪ねてきたの。

コンコンコン。『ごめんなさい。雨宿りさせて』って。

びっくりしたわ。

びっくりしすぎて、何を思ったのか私は、ずぶ濡れのアンジェをそのまま家へ上げたの。

うん、その選択があってこそかな。今の私とアンジェの関係があるのも。

出会って・・・・・・・私たちはすぐに仲良くなった。

アンジェの持っている外の話と、私の持っている色んな知識。

お互い、知らないことを知ってるから、話すととても楽しかった。

そして、私が家という箱から外へと出たのも時間の問題じゃない。

『楽しいよ』

そのアンジェの一言で、私は外へ出たのよ。

―――アンジェは私を外へと助け出してくれた親友。

もう、今でもその瞬間を私は忘れない。あの解放感は忘れない。

外に出てからというもの、私はアンジェと一緒にいっぱい遊んだわ。

かけっこしたり、イタズラしたり・・・・・・全てお忍びで。

まぁ、一つ大きなイタズラしちゃって、途中、私は一家全員で左遷されるってこともあったけどね」

マリアは少し頬笑みながら、語った。

中には、「えっ、それ笑顔で話していいの?」というものもあったけど、本人は何も気にしておらず。

きっと、全て、彼女にとっては新鮮な体験でとても美しい思い出の分類に属してしまっているのだろう。

まずい思い出も全て良い思い出。

そう思わせるほどに、マリアの中に多大な影響を与えたアンジェ。

あの彼女が攫われた今、マリアを支えているものはこの思い出しかない。


「やっぱり、ラウルは昔っからラウルなんだな。

もう、俺なんて敵いっこねぇーわ」

「フフ、そうね」

「おいおい、マリア。

そこは肯定しちゃダメだろ。

『頑張れば敵う』的な言葉は?」

「ダメね。

ジルじゃきっと、アンジェに一生敵わないと思うわ」

「うわっ、一生かぁー。

ラウル、強すぎだな」

「えぇ、あの子は強いわ。

・・・・・・誰よりも強い。だから、大丈夫」



(良かった。

マリア、やっと落ち着いたみてぇだ)

マリアの話を聞き終わり、軽い冗談を言い合う中、ジルはホッとした。

(でも、ラウルがいない今。

マリアを支えるものは・・・・・・俺が支えなきゃな)

彼もまた、一つの決心を心にそっと思った。






朝。

いくら栄えている城下町も、この時間はシーンと静まり返っているものだ。

それは当たり前のこと。

なのに、彼女は吐き捨てるように言う。

「フンッ。

何じゃ、この静けさは。

我が久しぶりに帰って来たというのに・・・・・・」

無茶苦茶だ。

彼女の世間知らずは、その発言からもにじみ出ている。

「まぁ、よい。

我が王位に就いたのち、すぐにこの街を一日中賑わしてやろうぞ」




フフ、フフフフフフ。

不敵な笑い声。

バサッと広げた金ぴかな素晴らしい扇で口もとを隠すが、全然隠せていないその声。

静かな街と清々しい朝焼けの中、不協和音のように響く。響いた。









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