第88話 ・・・・・・。
会場から移動し、現在は王の書斎。
シーンと静まり返る室内には、アージスを含めたいつものメンバー・・・・・・からアンジェがいない状態。
心なしか部屋の明るさまでもが暗く思えてしまう。
「・・・・・・まずさ、そもそもアンジェリーナ姫さんは、大分前に行方不明になってたんじゃないのかよ?
それをなんだ・・・・・・ラウルを代役をさせてまでもこのパーティーに参加させて?
それじゃぁ、まるで―――」
「―――今夜のことをあらかじめ、予測していたみたいに思えます、僕たちからは」
いつまで黙っていてもらちがあかない。
沈黙を破ったジルは単刀直入に聞き、その核心部分の憶測をハルが答える。
ジルはともかく。
ハルはかなり色々とアージスとウィリアムを疑っているような口調だ。
しかし、疑われるのは仕方がない。
彼らもはじめから、疑われることは解っていたし。はじめから、バレるのも解りきっていた。
それでも。
それでも、大事な人を奪われても。
この計画を遂行させなければ、彼らの国が泣いてしまうことになるから―――
仕方ないのだ。
・・・・・・仕方ない・・・・・・なかったんだ。
「それってほとんど、確信して聞いてるよね。特にハル君のはさ」
何も答えられないアージスに変わり、ウィリアムが乾いた笑い声とともに答えた。
「すみません、失礼しました」
「いいよ、謝らなくても。
どうせ僕は君の主でも何でもないんだ・・・・・・本当のところは今は味方っぽいポジションだけれど、敵国の王子に頭なんて下げたくないんじゃないのかな」
ギロリ
「いえ、そんなこと少しも思っていません」
一瞬、ハルがウィリアムをきつく睨んだ気がした。
「おいおい、王子さん。
今はそんなことより、俺らに話聞かせてくれよなー」
空気が少し悪くなったところで、ジルが仕切りなおす。
これでも案外、空気を読めているのかも。
「アージスも何か、俺達に隠しごとしてるよーだし」
そこで、急にアージスに振る。
しかし、彼はどこか上の空で、「え・・・・・・ああ」と答えるだけで。
「そんな、王様が話されるまでもないでしょ。
僕がはじめっから話してあげるから・・・・・・黙って聞くんだよ?
質問は後でいくらでも、いくらでも聞くから」
悲劇のお話 いつか喜劇になるように 願いながら話します。
昔、ある時に。
ある三人の主人公たちが生まれ、育ちました。
長年争う両国。
一歩先に、緑豊かな国で茶色の髪の男の子が生まれました。
彼は厳しい父に鎖を繋がれ、優しい母を途中で失くし。
孤独の中、一人生きようとしてました。
そんな中、鉄だらけの国で金色の髪の男の子も生まれました。
彼は家族に愛され、愛され、愛され・・・・・・。
甘ったるい中、これから起こる不幸の免疫が剥がれていきました。
最後に遅れて、長年中立を守る。
流れゆく伝統が素晴らしい国で、真っ赤な女の子が生まれました。
彼女は生まれながらに運命を左右します。
大事な、大事な。
この三国の関係を一変してしまえるほどの大きな運命を、彼女の父は与えてしまったのです。
愛ゆえに、父は彼女に過酷な物語を与えてしまったのです。
そんな主人公たちに立ちはだかるのは・・・・・・もちろんいます、大きな敵たち。
ある者は、生まれ持っての差別に抑え込まれてしまった者。
彼は後に、紅い家族を消し、王座を乗っ取ります。
ある者は、ただただ自由に生きたいと願う者。
彼女は、自分の欲望を叶えるために、兄の息子まで利用する計画を。
ある者は、貧しい村を救おうと決心した者。
その純粋の願いが、どんどん汚れて、濁ってしまって・・・・・・。
物語は、進む 進む。 予想を裏切る展開は 起こるかもしれないし。計画通りかも知れないし。
物語を動かせるのは、彼らだけ。
「まずさ、ジル君もハル君も気になってるあの子の話から始めようか。
・・・・・・ぶっちゃけ、君達は“アンジェリーナ姫”の正体以前に、“ラウル”の素情さえも知らないんじゃないの?」
「それぐらい知ってて当然だぜ。
ラウルは第一騎士で、めちゃくちゃ剣術が上手くて、強くて。
とにかく明るくて、いつも笑顔で・・・・・・もやしで・・・・・・俺もハルも、あのセーランドでさえ倒しちゃって・・・・・・えーと」
「ジル。
僕たちはラウルのことは知っている。
でも、僕たちはラウルがどこの出身で、何歳で、家族がいるとか、そんな基本的な情報を一切知らない」
ウィリアムの問いに、胸張って否定し反論したのはいいものの、ジルは結局途中で行き詰ってしまった。
ハルの言うとおりだった。
ジルはラウルのことを良く知らない。
知っているような、そんな気がしていただけで・・・・・・ただ仲間だということがわかっていただけだ。
「ねぇ、じゃあさ。
そんな正体がわからない“ラウル”を何故、王様は雇ったのかな?
君達にも、大臣にも相談せず。
今まで第一騎士だったセーランドを降ろしてまでして、彼は何故、“ラウル”を手元へ置いたのだろうか・・・・・・」
ウィリアムの問い。
―――そんなの、もう答えは一つしかないじゃないか。
決まっている。
「王様はもともと知っていたんだよ、彼女のことを。
そしてタイミングを見計らって、出会ったのにすぎない。
・・・・・・あの出会いはもとから、計画通りな出会いだったんだ。
ね、そうでしょ、アージス様?」
「・・・・・・」
アージスは、なおも無言で。