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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
いつかのための“着火剤”
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第87話 ね?

イザラがアンジェのお腹を勢いよく蹴る。

それが決定的な打撃。

「サキ・・・・・・アージスさまっ・・・・・・」

彼女は最後にそう呟くと、朦朧とする瞳を閉じたのであった―――





「「ラウルっ!!」」

ジルとハルがアンジェを見て叫ぶ。

しかし、彼らの前には新たな敵がすでにアンジェを助けに行くのをはばかっている状態。

他の者たちはただただ今起きたこと全てについていけていない状態。

アージスは・・・・・・アージスはただ傍観しているだけで。


ぐったりとしてしまったアンジェ。

綺麗だったドレスは少し破け、綺麗にまとめていた髪は乱れている。

美しく眠る彼女に、もう意識はない。

横たわるそんな彼女をイザラは先ほどと違って丁寧に抱き上げ、誰もアンジェを助けられない状態の中、一言、言った。



「じゃあな」



たった一言。

そう一言言い放ったイザラの瞳の先にはただ一人。

そう彼を―――



「待てよっ!!」

ジルが肩で息をしながらもまた一人、また一人と敵を倒すと叫んだ。

しかし、イザラは待たない。

右側にサキを連れて。

大事そうにアンジェを抱いて。

彼は二人の“紅”を持って、また漆黒の森へと帰っていったのであった。



主が帰ると、黒い奴らも帰っていく。

どうやら、国を攻め滅ぼすために来たようではない。

目的ははじめから、“紅い姫君”の誘拐だったのだ。


戦いが終わると、一気に緊張感が抜けてしまったのか、ヘナヘナとその場に座りこむ兵や騎士が続出した。

無理もない。

楽しかった舞踏会から一変して、急激に緊張感を高め、今まで敵と対峙していたのだから。

本当は、ジルだってその場に座りこみたかった。

相当疲れたし、もともと自分は王直属の騎士だから最後まで立ち続けるというハルみたいな考えもないし。

しかし、今、彼は座りこんではいない。まだ、気も抜いていない。


ジルにはその前に、一つやっておかなければならないことがあったからだ。




パシンッ




乾いた痛そうな音。

手がジンジンと熱くなるのも感じるし、こんなこと、本来はやってはいけないのも分かっている。

でも、今自分がやらなければ、誰がコイツに出来るというのだ。


ジルは平然とイザラが去った窓を見つめるアージスの頬を、力いっぱい叩いたのだった。

「アージス、ラウルが攫われたっていうのに、何だっ!!

お前のキョリなら俺達が無理でもお前ならまだ防げたっていうのに・・・・・・何故、何にも助けようと行動しなかったんだっ!!」

一気にそうまくし立てて言いたいことを全て言い放つと、ジルはやっとその場にドカッと座りこんだ。

だが、まだイライラは解消されていない。


(何が腹立つかって?

そんなの、今、俺が怒って叩いても、キョトンとか茫然とかしないで、まっすぐに俺の目を見てくるアージスの態度が腹立つ!!

どーして、こいつはラウルが攫われたっていうのにこう平然としていられるんだっ)

さすがに心に思うこと全てまでを吐きだそうとは思っていない。

最低限、今言いたいことは言ったのだとジルはイライラする自分に言い聞かせ、アージスの反応を待つ。

だけど、期待していた返答は返ってこず、


「何故だ。

お前、今攫われたのは“ラウル”じゃなくて、“アンジェリーナ姫”だぞ」


なんて、何の表情の変化もなく返してくるものだから、

「ああ``っ!!」

思わず、収めようと努力していたジルのイライラがぶり返した。

「お前っ!

まだそんな見え透いた嘘突き通そうとしているのかよ・・・・・・って、違うっ!!

今、俺が言いたいのはなぁ、“ラウル”でも“姫”でもどっちでもいいけど、お前、この前『俺の国民が・・・・・・』どうちゃらこうちゃらってほざいてたなら、何で今のやつを助けっホム!!!!」

「はいはい、ジル、そこまでだよ。

ジルが怒っているのも無理ないけど、ほら、下の者にも示しがつかないから」

爆発中のジルを、ハルが難なく止める。

ハルにそう言われて、ジルはやっと自分とアージスを包む周りの空気が、今、どんなに冷めてピリピリしているのかに気付いた。

もう、本当に気の弱い兵士なんかは何だか泣きそうになっている。


「うー、だけどよーハル」

「大丈夫だよ、ジル。

もちろん、アージスについては後でじ~くりお話するから・・・・・・ね?」


ヒュ~ン

冷めきっていた会場に、追い打ちをかけるかの吹雪が舞った。

唯一、そんな状態をも読めていない・・・・・・・というかさすがというか、兄のジルだけが平気にハルと話す。

「しゃーねぇなー、ハルがそう言うんだったら」

「まぁ、ジル。

今はそのことの前に、聞かなきゃならないことがあるよ」


そう言いながらハルはジルから視線を外し、正面を向く。

そこには、いつのまにかアージスの横に立つ、何故かボロボロなウィリアムとロゼッタがいて。



「今の侵入者たち、ほとんどが黒ずくめだったのに対し、姫を攫っていった者の胸元だけに貴方様の国の紋章エンブレムが描かれてありました。

失礼を承知で言いますが・・・・・・僕たちにも真実を全て教えてもらえないでしょうか?」


恭しく、ハルはそう言った。



ウィリアムの返答は―――




「いいよ、一から十まで教えてあげる」





もちろん、Yes。








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