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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
いつかのための“着火剤”
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第85話 嘘だろ?

「我、王アージスを守る者であり。

ハッシュル国第一騎士ラウル、貴殿は我が主の命を脅かす者として、排除させて頂くっ!!!!」


アンジェの声が響いた。

どこか服従さえも可能なその重く冷たい叫びは、会場にいた者全ての動きをピタッと止めた。

そう、これはジルやハルも例外ではない。


この言葉を聞いた瞬間、ジルの駆け出していた足はふいに止まってしまっていた。

それは無意識なもの。

頭の中ではアージスとアンジェリーナ姫を助けに行くことが先決なものだとわかっていながらも、彼の脳が勝手に考えようとする。

「今の言葉・・・・・・どういう、意味だ?」

アンジェリーナ姫がラウルだと?

嘘だ、そんなはずはない。

だって今晩、彼は妹の看病のために、ここにはいないのだから。

だったら、姫の言った言葉が嘘なのか?

仮にそうだとして・・・・・・今の姫に何の利益メリットがあるっていうんだ。

それに、姫の一瞬にしてあの男を窮地に追いやった動き。

ただの姫にあんな動きがそうそう出来るとは思わない。

そして、俺はあの動きを知っている。

いつしか、俺とハルがラウルに決闘を申し込んだあの試合で・・・・・・。

クソっ。

あぁ、俺は知っている、知っているとも。


あのずっしりとくる声、あの敵を見る真紅の眼差し。



ジルはふと、ハルの方を見た。

彼もまた同じ結論に至り・・・・・・不思議なものを見るような瞳でアンジェリーナ姫と偽る、ラウルの姿を見ていたのであった。

「チっ、まだ納得はしてねぇけどな」






アンジェは見る。ただ一点を冷たく見つめる。

自分が今持っている剣の刃先と、イザラの喉。

もうすでにイザラを組み倒した今からは、ここからどういう割合でこの剣に力を込めるかに勝敗が完全に決まる。

まだ、油断は出来ない。

きっと自分を甘く見過ぎてしまっていたことによって、イザラを組み伏すことに成功したが・・・・・・多分、そのイザラの過ちがなければ自分はここまで彼を攻めることが出来なかっただろう。

そこまで実際イザラは強いのだと、アンジェの直感は判断していた。

(少し、力を入れてみるか)

アンジェだって、人を殺すまではしたくない。

「排除する」と宣言してしまったが、出来ることならばイザラを“殺す”形ではなく、“降参させる”形で勝ちたいものだ。

そのためにはイザラとの、“命”と“力加減”の駆け引きが必要。

アンジェは何の躊躇いもなく、刃先を押してみた。


プッ

イザラの皮膚が少し裂け、その一点から赤い血が少し溢れ出てくる。

そこでアンジェはチラッとイザラの顔の方へ目を向けてみたが・・・・・・やはり、このくらいで焦るようなざこではないようだ。

アンジェと目が合ったイザラは、まだまだ満更でもない様子。

もうとっくにアンジェの足蹴りによっての脳震盪などは治まっているであろうが・・・・・・動けるはずの体で抵抗するそぶりも見せず、何とも余裕そうだ。

まぁ、抵抗のために身でもよじってしまえば、それこそこの刃先が喉を突き刺してしまうだろうけど。

そんなことを考えながらアンジェがイザラを見ていると、ふと一瞬、イザラの目が笑ったような気がした。

気のせいかも知れない。

だけど、この男には今、細心の配慮が必要だ。

意識を手元からイザラを見る目と耳に移したアンジェに向かって、イザラは口を開く。


「おい、アンタが“ラウル”なんて嘘だろ?」

「・・・・・・」

アンジェはその質問を無視する。

(返事をするな自分。

一言でも答えたら、そのままこの男の話術にかかって・・・・・・負けるぞっ)

彼女は自分自身に言い聞かせた。

もし、イザラが例え、アージスの悪口を言おうと、自分をからかおうと今はそれに一々怒っている余裕はないんだ。

アンジェがイザラの質問に無視しようとも、イザラは言葉を続ける。

「無視でもまぁ、いい。

だけどアンタの正体はちゃんと、俺だって知っておかなくちゃなんねぇーのよ。」

そう言うと、イザラはアンジェと睨みあっていた瞳を、チラッと上へと向けた。

アンジェによって絶体絶命の彼が、よそ見なんておかしい。

用心に用心は重ねておいた方がいいに決まっている。

アンジェはイザラに注意しながら、その目線の先へと目を向けた。

するとそこには、他の貴族たちととっくに避難しているものだと思っていた人がいて―――


「代々カナリア国の王位継承者に受け継がれる、真紅の髪に真紅の瞳・・・・・・。

おい、お前のねぇーちゃんは本当にこいつであってんのか?」

イザラが彼にそう問う。

しかし、当の彼は困惑している様子で、答えにならないことをブツブツと言い始めた。

パッと見たとき、アンジェは一瞬、彼だと気付けなかった。

だって、いつもの彼と髪色が全く異なった赤だったのだから。




「ねぇーさまだ。ねぇーさまに僕・・・・・・ねぇーさまにやっと会えたんだ!!

でも、ねぇーさまは“ラウル”って。ねぇーさまも“ラウル”って・・・・・・。

そして“ラウル”な“ねぇーさま”は、イザラ様の敵で、剣を向けてる。

う、嘘だっ!!

ねぇーさまが“ラウル”なはずないじゃないか・・・・・・でも、“ラウル”も“ねぇーさま”も僕は大好きで・・・・・・」

言っている言葉が全てゴチャゴチャと整理出来ていない。

そうとう困惑しているようだ。

そんな彼に、イザラは悪態をつく。

「たくっ、大好きな“ねぇーさま”なら、十年ぶりの再会でもちゃんと見分けれるくらいにしとけよな」

イザラの言っている言葉は少々、理不尽なような気がする。

いや、そもそもイザラにここまで喋らせておくのは本来、阻止しておくべきだった。

ここにきて、アンジェの過ち。

でも、このことに気を取られてしまったのは不本意ながらも、アンジェにとってはある意味しょうがなかったのかもしれない。




「サキ。

サキは一体・・・・・・何の話をしているの?」


困惑しながらも思ったことを口にするサキの言葉。

それを聞いたアンジェは・・・・・・今、七年間の白紙が思い出せそうなところまで来ていた。








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