第84話 サイコーだな!!
純白なドレス姿のまま片膝をつき、飾り物のアージスの剣を右手で持って、アンジェはイザラの剣を真下から受け止める。
そして、彼女は立ちあがるとともにイザラの剣を力を込めて振り払った。
アンジェは剣の柄を握る。
ありったけの力を込めて、強く、強く、ギュッと、しっかり、柄が食い込む自分の手のひらが血に染まってもいいと思うくらい、思いっきり握った。
その力の中に、恐怖と怒気、そして強い者と対峙する興奮を加えて。
アンジェは立ちあがると、真っ先にイザラを見る。
威嚇にも似た彼女の真っ赤な目。
その目を見てか、イザラは一瞬、怯んだかのように後ろへ一歩後退した。
「おいおい。
俺は姫さんと戦う気なんてないっつーの」
そう言いながら、イザラは構えていた大きな剣を、肩へと担いだ。
戦う気がないという意思表示か。
イザラのこの行動は姫、いや、女であるアンジェでは戦う気さえしないという舐めたものである。
これはアンジェの中の火に油を注ぐ結果となった。
「お、おい、アンジェ・・・・・・」
アージスが後ろから心配そうに声をかける。
しかし、その言葉をアンジェが遮り、止める。
「アージス。
心配なんてしないで・・・・・・というか、するようだったら、私、アージス相手でも怒るよ。
だって・・・・・・だって、私はアージスの護衛役なんだからっ!!」
ついつい、怒りや興奮から語尾が強くなってしまった。
もともと、アージスに向けての発言だったが、どうやらイザラにも聞こえていたようだ。
彼はアンジェの言葉に怪訝な顔をする。
「おい、姫さんや。
あんたはアンジェリーナ姫で、王さまの騎士の“ジル”でも“ハル”でも、ましてや“ラウル”の野郎でもないだろ?
・・・・・・あぁ、それとも今の発言はアレか。
『こんなヘナチョコな王ぐらい、私にだって守れるわ』的な意味か。
それだったら、アンタ、サイコーだな!!」
イザラの笑い声が五月蝿いほど大きく、会場に響き渡った。
会場の中にはもう、貴族などの非戦闘員の脱出に成功したのか、戦う兵士や騎士、敵の黒い装束を身に纏った者たちしかいない。
主の大きな笑い声だ。
黒い敵たちは、戦闘中にも関わらず、イザラの方へと目を向けた。
その行動に、「なんだ?」と気を取られたのか。それとも、少し戦力に余裕が出来ての行動か。
兵士や騎士までもがイザラの方へ視線を移し、そして誰もが現状に困惑した。
自分たちの王が、王の婚約者であるアンジェリーナ姫に守られ、しかもアンジェリーナ姫が剣を持ち、同じく剣を持ついかにも強そうな敵と対峙しているではないか!?
余りにも信じられない現状と、自分たちがその現状にもっと察知出来なかった後悔、今から二人を助けに行くまでに王と姫の身に何かあったらどうするといった不安などが、彼らの中に一気に入り混じった。
困惑する彼らは結局、誰も動けずじまい。
そんな中、反応出来た二人が声を上げる。
「アージスっ!!」
「アンジェリーナ様っ!!」
今回の乱戦で恐らく一番活躍しているであろう、ジルとハルだ。
二人は目の前の敵を薙ぎ払うと、すぐさまアンジェとアージスのもとへと駆け出した。
しかし、その双子が到着するまでの間に、彼女は行動に出る。
アンジェリーナの堪忍袋はもう、限界までに達していた。
自分を甘く見られ、その上アージスをもからかわれたのだ。
その時の怒りの勢いは、誤ってお酒を飲んでしまった時よりも強かったかもしれない。
ブチッ
自分の中の何かが切れた。
そう実感する前に、アンジェは持っていた剣の刃先をイザラの方へ向け、怒鳴る。
「ふざけるのもいい加減にしなさいっっっ!!!!」
彼女の声は辺り一帯の空気を震撼させながら、響き渡った。
誰かが身震いを起こすほどの怒号。
しかし、それが会場いっぱいに響くよりも速く・・・・・・アンジェはもうワンアクション起こす。
彼女は姿勢を低くするや否や、剣を突き出すように構えたまま、一歩足を踏み込むとその勢いでイザラへと迫った。
その行動にイザラはびっくりし、微かに反応が遅れる。
まさか、姫がそんな動きを見せるとは思わなかったのだろう。
アンジェを甘く見過ぎていたイザラの失態。
それにつけ込むようにアンジェは、一瞬、イザラの腹部に剣を刺すふりをし、イザラが腹部をガードするために構えた剣の刃の根元に、思いっきり持っていた剣を叩きこんだ。
「ッつ」
まさかのフェイント攻撃の振動に、イザラは剣をパッと離してしまった。
それを急いで拾おうとしたのか。
イザラの意識は完全に落ちていく剣に集中して、彼女の姿から目を離してしまった。
彼の二つ目の誤り。彼女の二つ目の成功。
アンジェは下を向くイザラの顎に真紅のヒールのつま先を当て、一気に蹴りあげた。
「グッ!!」
アッパーにも似た振動を不意打ちに食らったイザラの意識が一瞬、遠のきそうになる。
視界が揺れ、視点が定まらないイザラの瞳。
彼はその瞳の中に驚愕を交え、必死に今、自分を攻撃してきた者を見た。
見えてきたのは、
真っ赤な透き通る髪を靡かせ、怒気を含んだ真紅の瞳で自分を冷ややかに見下ろす、
純白のドレスを身に纏った、まだ幼さ残る少女の姿―――
完全に、床に背中をつき、仰向け姿になってしまった動けぬイザラ。
アンジェは彼の驚愕する顔近く、イザラの右肩を右足で思いっきり踏みつけた。
これにより、動けないながらも必死に剣を手に取ろうとしていた彼の右手の動きが封じられる。
絶望と苦渋に歪むイザラの顔。
そんなイザラをさらに苦しませるため、アンジェは右足の膝部分に自らの肘をつき、彼女の全体重を右足へと乗せた。
そして、イザラに聞こえるだけの小さな声で、ボソッと呟く。
「あのね、飾り用の剣ってね。
・・・・・・切ることは出来なくても、突くことは出来るんだよ」
アンジェはそう言うと、右手で持っていた剣を左手へと持ち替え、イザラの喉元へと刃を下ろした。
ピッタリとくっついた、刃と皮膚。
剣の冷たさが、イザラの冷や汗とともに、脈々と動く彼の喉元へと伝わる。
アンジェは叫んだ。
先ほどの怒号よりもより大きく、より重く・・・・・・そして、より冷たく叫んだのであった。
「我、王アージスを守る者であり。
ハッシュル国第一騎士ラウル、貴殿は我が主の命を脅かす者として、排除させて頂くっ!!!!」
お久しぶりです、春日まりもです。
今日、3月14日を持ちまして、この「護衛役は女の子っ!」は二年目へと突入いたしました。
パチパチパチ~!!
まぁ、何だかやっと物語も波に乗ってくれてますし(←そう思っているのは作者だけかも知れませんが(汗))・・・・・・これからも頑張ります!!
三年目を目指す前に、もうちょい更新速度を速めたいなぁーと思う。
うん、やっぱり頑張らなくちゃ、ね。
ここまで読んでくれた皆さま・・・・・・これからも、この「護衛役は女の子っ!」を宜しくお願いしますっ!!
では。