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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
いつかのための“着火剤”
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第83話 これこそ

キンッ

     キンッ


イザラは何の躊躇いもなく、アージスに剣を振りおろしてくる。

それに対して、アージスはただただ、受け止めることしか出来なくて・・・・・・。

「そりゃそうか。

だって、ソレ、本来はただのお飾りの剣だろ。

そんな玩具な剣じゃ俺にはかなわねぇって・・・・・・いっそ清々しく切られちゃえよ、アージスさま?」

「いいや、貴殿にはこれで十分だ」

イザラの軽口に対し、アージスも皮肉を込めてそう返す。

だが、その言葉と裏腹にその顔の表情はとても苦しそうに見えるのは気のせいだろうか?

いや、気のせいではない。

(アージス、無茶だ)

もともと剣を扱えるとはいえ、アージスは本来、護衛に守られている王様。

どちらかというと、頭脳派の彼の剣の腕では、実践慣れしたイザラに敵うはずがない。

イザラの攻撃を受ける度に、アージスがジリジリと後退しているのが、アンジェの位置からよくわかった。

「ありゃりゃ、アージスさま、威勢がいいわりに全然反撃がないんですけどぉー」

「クソっ」

アージスの言葉の変化からも、この状況が良くないのがわかる。

アージスがどんどんイザラに押されている。

対して、イザラの方はどうだろう。

ヘラヘラ笑って、軽口を叩き、先ほどからアージスに向ける剣も、何も特別な技を使っているわけでもなく、ただ体重をかけるだけという基本的なもの。

どうやら、本気の「ほ」さえも出していない様子。

(このままじゃ、アージスが押し切られちゃうっ)

「アージス、頑張って!!」

アージスの危機的状況。アンジェは声援を送ることしか出来ない現状。


「ほらほら、後ろのお姫様も頑張れだと、さっ!!」

「うっ」

イザラの言葉が終わるか否かのとき。

アージスへの攻撃にかける威力がグンっと上がった。

それにより今までギリギリだったアージスの防衛が耐えられなくなり・・・・・・一気に崩れる。


ドンッ。

アージスが後ろへ転倒した。


カラン カラン

煌びやかなだけの剣はそのままアンジェの右側の方へと吹っ飛ばされた。


「ほら、俺様の勝ち~」

ゲーム感覚で告げられる結果。

危機的状況を更に追い込んでくる、あっけない結果。

「さっ。

アージスさま、その俺様がわざわざ書いてやった手紙、読んだだろ?」

悔しさで顔を歪め、床に手をつき、敵国の王子に見下ろされている屈辱的なアージスへ、イザラは相変わらずのヘラヘラ口調で問いかける。

「まぁ、盗むもんは盗むととしてだな。

本当はアンタ殺すのもうちょい後のはずなんだけど・・・・・・今、殺しておいて損はしねぇ」

急に語尾辺りでイザラの声のトーンが落ちたような気がする。

ふと、アンジェはアージスから目を離し、イザラの顔を見た。

見た瞬間。


ゾクッとアンジェの背中に何かが通るのを感じた。


あぁ、そうか。

今更になって、アンジェは気付く。

今まで自分が彼を危険視していた本当の意味を。


彼の目を見た瞬間。

黒く染められた冷酷な彼の瞳は、いつしか森の中で見たことのある、飢えた狼の瞳と酷似いていたのだ。


そう。

彼の「殺す」には、本来の残酷さに加え、遊びの意味も含まれている。

これは彼の目的であり、使命であり、責任であり、楽しみであり、遊びであり・・・・・・野生の本能的な自然な欲求。

快楽を目的とした“殺生”の一部。



アンジェはイザラの瞳の色に飲み込まれそうになっていた。

しかし、ここでイザラの言った言葉が思い出される。

『殺しておいて損はしねぇ』

そして、今、彼があの瞳の先で見ている者。

アンジェの中で、アージスに言い放った言葉と次にイザラが起こす行動が合致した。

そのときすでに、彼女は本能的な恐怖を押し切って、もう行動に出ていたのだ。



「じゃ、そういうわけで」

イザラはそう言いながら持っていた剣を大きく振り上げた。

これから自分にされること・・・・・・それはアージスにもわかる。

(くそっ、わかっていて動けない俺は・・・・・・とんだ情けない王様だな)

最悪な状況下、イザラの剣を避けることを頭の中で想定しながらも、アージスは敗北感からか、少し自虐的になっていた。


勢いよく振り下ろされたイザラの剣。

その剣に彼の力と重力がのしかかり、倍以上の勢いがつく。

重い、重いその剣は、切れ味のよさそうな刃をそのままアージスの体へと―――




ガンッ



落ちなかった。

だって、第一騎士の彼女が受け止めたから。



「アージスは私が守る!」


純白なドレス姿のまま片膝をつき、飾り物のアージスの剣を右手で持って


アンジェはイザラの剣を真下から受け止めていた。







(これこそ、私の本来の使命なんだ!)






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