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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
いつかのための“着火剤”
82/102

第80話 何だろう?

「あー、もうお腹いっぱい」

そう言いながらつまらなそうに、人々の楽しそうに踊る姿を見る。

(多分、私はこういう“貴族”とかの生活なんかが性に合わないんだよ、うん。

その点、私のお母さんとお父さんは放任主義で良かったぁ)

と思いながら、葡萄ジュースでチャポンチャポンになったお腹をさする。

いつもだったら、これくらいで苦しくなんてならない。

きっと、コルセットで締め付けているから苦しんだろう。

「ドレスなんて、もう着たくないなぁ」

上手く身動きが取れないドレスを、改めて批判した。



ザワ    ザワ

   ザワ    ザワ



アンジェが今更なことを思っているとき。

ふと、辺りの空気が変わったことに気付く。

優雅に流れていた音楽は消え、人々の雑談も、踊っていた足のステップの音も消え。

つい先ほどまで賑やかだったこの会場が、一気に静寂へと姿を変えた。

それも、そのはず。

かすかに聞こえる人々の息をのむ音に交じって、聞こえる一つの足音。

開きっぱなしだった口を閉じ、皆一様に見つめる視線の先。

この会場で一番煌びやかなそこには、



王、アージスの姿があった。


人々の視線を一心に受けながら、彼はゆっくりと王座から立ちあがった。

そして、堂々とした足取りのまま、こちらへと階段を下りてくる。

ゆっくり、ゆっくり。

黄金色に光る階段を一段、一段、踏みしめながら。


あまりにもゆっくりなその足取り。

だが、下りてくる時間が長くても、誰も彼から目を離さない。

否、離せなかった。

彼はいつも通りの彼ではない。


私の知らないアージスだ―――


アンジェは急にハッと気を取り戻す。

気付いた時には、アージスはもう階段を下りきっており、こちらのテーブルの前まで来ていた。

(いけない、いけない!!

私、なんで意識飛ばしてたんだろう?)

気の抜けない舞踏会。

そう意識しているにも関わらず、ここまでアージスに気を取られ、視線を奪われていた原因は・・・・・・やはり、アージスの王としての覇気なのだろうか。



自分の婚約者たちを座らせたテーブルの一歩手前まで来たアージスは、ふいに姿勢を低くした。

また、それに合わせるようにサラがいつの間にか席から立っており、アージスの方へと一歩出る。

そして二人は向きあい、サラが何の躊躇いもなく右手を出した。

黒い髪が美しいサラに似合う青を基調とした落ち着いたドレス。そのドレスに合わせた黒いレースの手袋に、アージスの唇が落ちる。


(確かこれって、男性が女性をダンスへと誘うときの挨拶だよね)

ウィリアムから教えてもらった知識を頭の中で思い返すものの、アンジェは見つめ合うように視線を合わすアージスとサラから目が離せない。

サラの手の甲に軽くキスしながらも、視線を下から覗わすアージスと瞳が合ったとき、サラが少し嬉しそうに笑ったのが気になる。そんなサラの顔を見て、軽く微笑んで見せたアージスのことが気になる。

慣れている足取りで会場の真ん中へと歩いて行った二人。

音楽のリズムに二人が合わせているのか。

はたまた、二人に音楽のリズムが合わせているのか。



呼吸を合わせるように、息ピッタリに踊る二人の姿が


アンジェの瞳いっぱいに映っていた。






(何だろう?

このズキズキする胸の痛みは―――)






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苺なんて、嫌いだー!!←作者のブログです。遊びに来ていただけると、春日は喜びまくります!!
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