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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
いつかのための“着火剤”
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第78話 あーやっぱり

その日は雨が降っていた。

つい先ほどまで荒れ狂うように降っていた雨は、その時にはましになっていた。

しかし、辺りは暗いまま。地面はぬかるんだまま。

ボロボロの黒ずんだ服を着て、足かせをつけられて、手錠をされて・・・・・・。周りには、黒いマントで顔から膝辺りまですっぽり隠した大人が数人、皆一様に口を開かず、黙々と歩くだけ。

僕がいくら泣き叫ぼうとも、暴れようとも、右側の大人が僕の体にムチを打ち付けるだけで、誰も何も言わない。

不安でパニックに陥る幼かった僕を、引きつれて歩く、無言の黒い集団。

僕はただただ怖くて、自分が置かれている状況もわからなくて、さびしくて、悲しくて・・・・・・口から出る悲痛の叫びは、これぐらいしか出なくて・・・・・・。


『ねぇーさま、ねぇーさま、怖いよぅ!!』


もうたった一人しかいなくなった家族に、声が枯れてしまうまで、必死に助けを求めていたことを今でも僕は覚えている。



“天使のように可愛いいねぇーさま”


今も、あなたは無事に生き延びていますか?





音楽のリズムは高低をつけながら、大小の聞き心地の良い音量で絶え間なく流れていた。

舞踏会開演後、はじめに流れてきた曲は、とてもテンポの軽い曲だった。

しかし、会場に入る人々の順番が進む度に、流れてくる曲が段々と優雅なものへと変わっていく。テンポも段々とゆっくりに、低音よりも高音のところが多くなってきた。

ダメだ。

この音楽の曲調のように自分の心を落ち着かせなくてはならない。

緊張のあまり、背筋は今までにないくらいピンと張っており、手足はガクガク震えている。

ドレスから露出している肌は冷たい汗をかき、動くたびに空気に触れている感じが伝わってくるほど、神経は逆立っている。

ダメだ。

緊張してはダメだ。

緊張を和らげようと、一度、深呼吸することにしてみた。

だけど、口は何とか動かせても、ギッチリ噛み合った歯はなかなか開いてはくれず、深呼吸も上手いこと出来なかった。

(うわぁー。私、いくらなんでも緊張しすぎだよっ)

ふと、他の人はどうなのかとアンジェは、ぎこちない動きの頭を出来る限りで動かし、周囲の様子を見てみた。

何列か前にいるマリアは、舞踏会慣れしているだけあって、もう余裕な振る舞いで隣のお嬢様と軽く談笑中。

(さすが、マリアちゃん。

っと、ならあの二人はどうかな?)

探すまでもなかった。

マリアのちょうど前列が、騎士の列の最後尾となっており、ジルとハルはそこにいた。

ハルは思ってた通り、紳士のオーラを振りまき、後ろに並んでいる(高貴な)女官の視線を集めている。

そして、その隣にいるジルもまた、普段からは想像もつかないほどにビシッと服装から髪型まで決めており、紳士・・・・・・っぽい。

しかし、惜しいことに、何故か先ほどから後ろにいるマリアにチラチラと視線を向けては、ハルに注意されて前を向き、またマリアを見るといった世話しない行動を繰り返しているため、ハルほどの女性からの視線を集めてはいない。

(あーやっぱり、ハルはハル、ジルはジルだねー)

何だか少し和み、緊張もちょっとはほぐれたような気がしてきた。

やはり、いつもの顔なじみを確認すると緊張が和らぐようだ。

左側の方からは、振り向かなくてもヒシヒシと視線が感じ取られているので(ジョセフィーヌがアンジェを睨んでいる状態)、アンジェは次に、右側に視線を向けてみた。

すると、その視線に気がついたのか、ウィリアムもこちらを見て、小声で「なに?」と聞いてきた。

「い、いや、べつに」

「そう、ならいいけど・・・・・・姫、いくら緊張してても、人前で転んでしまったりしないでね。

僕、姫が無事にダンスを踊れるか以前に、それが心配で心配で・・・・・・はぁー」

ウィリアムは芝居がかった心配顔で、小さくため息を吐いた。

「な!!・・・・・・いくら私でも、こんなに大勢の前では転ばないよっ」

一瞬、大声を張り上げそうになったアンジェは、急いで声をひそめ反論する。

「へぇー、そんな自信、一体どっからでてくるの。

ねぇ、アージス様、貴方はどう思います?」

ウィリアムは首だけを後ろに向け、アージスに聞いた。

するとアージスは片眉を上げ、少し間をあけたと思ったら、ニヤニヤした顔で、

「・・・・・・俺は、アンジェが転ぶ方に明日の夕飯でもかけようか」

と言ってきた。

それを聞いて、ウィリアムはアンジェに「ほら」とでも言うように、

「と、いうわけです。

姫、くれぐれも足元にはお気をつけて、しっかりと歩いてくださいね」

とにっこり言った。

「くれぐれも」の部分がやたらと強調されていたような気がする。

ウィリアムとアージス、二人によるアンジェへのからかいが、見事にアンジェの中の何かに火をつけた。


「じゃぁ、アージスの明日の晩ご飯はなしだね!!」

そう言って前を向いたアンジェの中には、もう“緊張”という二文字の「き」ですら存在していなかった。






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