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護衛役は女の子っ!  作者: 春日陽一
いつかのための“着火剤”
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第73話 忘れてたなぁ

「1、2、3、1、2、ハイ・・・・・・」

 音楽はなく、静かな部屋の中に響き渡るのは、ウィリアムの手拍子と声、そして・・・・・・そして時々、アンジェの転ぶ音が聞こえました。

 ドンッ

「うっ、うぅ・・・・・・(泣)」

 転んでしまったアンジェ。

少し半泣きになりながら、一体何回転んだのだろうか?と考えてやめた。

だって、数えていた指の数が足りなくなってしまったから。

「姫。

あなたは一体、何度教えたら転ばずに踊れるようになるのですか?」

 教え始めはまだ優しかったウィリアムも、今では少し怒り口調だ。

まぁ、それも仕方ないだろう。こうも、踊るたびにこけられ続ければ・・・・・・。

 しかも、はじめこそはウィリアムもアンジェとともに一緒に踊って、直接教えていたが、余りにも足を踏まれるため、今ではアンジェ一人が(踊る相手がいると想定して)踊っている。

「はぁ、姫に今夜着てもらうドレスを、練習時に着せなかったのは良い判断だったね。

だけど、姫。

練習用のドレスでそんな苦しそうにしてどうするの。

言っとくけど、本物のドレスはもっと重くて、今の姫じゃ普通に歩くのもままならないよ?」

 ウィリアムはこけてしまったアンジェにそっと手を伸ばし、そのまま立ち上がらせながら言う。

 何でウィリアムがそんなに女性のドレスについて詳しいかのはさておき、アンジェはウィリアムのその言葉に絶望を感じた。

「えぇー!!

これよりも着るのしんどいなんて・・・・・・」

「というよりも、姫が今しんどいって言ってるのは、実際、コルセットぐらいだよ。

まぁ、その歳で、ドレス以前にコルセットも付けたことがない姫には、正直、僕も驚いたけど」

 「はぁー」という溜息とともに、首を振るウィリアム。

それにアンジェは、仕方がないじゃないか!と思う。

 今までドレスを着ること自体なかったアンジェは、もちろんのことコルセットをつける必要がなかった。

ドレスのことでも、まず舞踏会にアンジェは行ったことがないし、両親も年頃の娘なのにアンジェに舞踏会という存在自体を教えてはくれなかった。

(舞踏会のことを教えてくれたのは、近所の子だったしなぁ。

あっ、そういえば・・・・・・)

 アンジェは色々考えている内に、あることを思い出した。

 そういえば、アンジェは一度だけ、舞踏会に行きたいと言ったことがあったのだった。

「あー、忘れてたなぁ。そんなこともあったなぁ」

 そう言いながら、アンジェは一人脳内を過去に遡らせてみる。 

 それは、アンジェが十一歳の頃の話だった。


「アンジェ。

私たち、今日、舞踏会に行くの・・・・・・いいでしょ?」

 遊びから家に帰る途中。

 当時、女の子とよりも男の子と遊ぶ方がまだ多かったアンジェは、滅多に話をしない近所の女の子たちに珍しくも話しかけられた。

「舞踏会?

何、それ?楽しいの?」

 “舞踏会”という、初めて聞いた言葉に?になるアンジェ。

何故か綺麗なドレスに着飾って、よそいきの雰囲気を醸し出している女の子たちに聞き返してみる。

 しかし、アンジェの返答に女の子たちは、「ほらね、やっぱり」と口ぐちをそろえて笑うだけで、肝心の“舞踏会”についてはなかなか教えてくれない。

「ねぇ、舞踏会ってなに?

私も舞踏会に行けるの?」

 アンジェが笑う女の子たちにしつこく聞き続けてみると、やっと、一人の少女が口を開いた。

「舞踏会はね、とっても楽しいところなのよ。

もちろん、アンジェも行けるわ。

でもね、行くにはこれが要るのよ」

 そう言って女の子が見せてきたのは、綺麗な招待状であった。

高級そうな少し厚い白い紙の周りを、赤色で縁取った、いたってシンプルな招待状。

 その物珍しいさに、アンジェは手で触れようとする。

だけど、アンジェの手が触れるよりも早くに、女の子は急いでそれを引っ込めてしまった。

「あっ・・・・・・いいな。

私も欲しいな」

 引っ込められたことで行き場の失った手で、アンジェは招待状を指差しながら言う。

「アンジェも貰えるわよ。

あぁ、でもダメね、アンジェは男の子たちと遊んでた方が楽しいもんね」

 招待状を見せていた子がそう言った。

すると、さっきまで笑っていただけだった女の子たちも、より一層笑いながら、アンジェに向かって言ってくる。

 ある者は、自分が着ている煌びやかなドレスをヒラヒラさせてこう言った。

「どうせ、アンジェにはこんな綺麗なドレスよりも、泥だらけの殿方の服の方が似合うのよ」

 ある者は、綺麗に結いあげた自分の髪と比較しながらこう言った。

「アンジェの髪はボサボサのままでも、珍しい赤色だから注目されるしね」

 そしてある者は、ローズのいい香りを身に纏い、アンジェに背を向け、こう言った。

「さぁ、みんな。

こんなガキ臭い女なんてほっといて、私たちは楽しい、楽しい舞踏会へと行きましょう」と。

 どこかアンジェを下に見るような、そんな嫌な感じ。 

 さすがのアンジェもその言葉に気付かされる。

あぁ、自分はただ、からかわれてただけなんだって。

 この時、十一歳のアンジェの中に、「舞踏会=嫌な感じ」というイメージが出来たのは、言うまでもない・・・・・・


「・・・・・・って、だから私、今まで舞踏会に良いイメージがなかったんだ」

 すっかり忘れていたことを思い出した。

そんなこともあったとシミジミしながら独り言を言うアンジェに、ウィリアムが止めに入る。

「はい、姫。

独り言はそこまでにして、練習に戻るよ」

「えぇー」

「えぇーじゃありません。

もう、本当に時間がないんだから、さっさと上手く踊れるようにならないと・・・・・・恥をかくのは姫だよ?」

 ウィリアムの言っていることは、本当のことだ。

「うぅー」

 アンジェは文句を言いながらでも、仕方がないとダンスの練習を再開したのであった。





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